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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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19.あの子達のために


食事が喉を通らない。

半ば義務のように、味のしない食事を無理やり口に運ぶ。


不安と後悔が波のようにとめどなく押し寄せ、何も手につかなくなっていた。元々痩せていた体躯が更に小さくなっていく。


セラの精神は極限まで追い込まれていた。


(あの子達は無事なのだろうか…連れ去ったのは公爵家という見立てだけど、酷い目にあってないだろうか。でもここに連れ帰ってたとして…)


毎晩同じことを考えては答えが出ず、堂々巡りをして眠れぬ夜を過ごしていた。


二人の状況が分からず不安に呑まれそうになる中、セラはメロウナの自室に呼ばれていた。



「誘拐事件として王宮に被害届を出して来なさい。」


メロウナが有無を言わせぬ口調で命令する。



「ですが、誘拐されたと公表されてしまってはお二人の名誉に傷が…」


「関係ありません。犯人はあの公爵家、被害を訴えれば多額の賠償金が手に入る。その後取り戻した二人を闇市で売ればそれなりの額になるでしょう。」


冷淡なメロウナの頭には金のことしかなかった。

どうすれば大金が手に入るか考えるだけで、娘達の身を案じる様子は一つもない。


(なんてひどい言い草をっ…………)


セラが唇を噛む。


貴族社会では、誘拐された者はその真偽に関わらず一律傷物として扱われる。そのため誘拐されても被害を公にせず、秘密裏に取り戻そうとするのが一般的だ。


セラも二人の名誉を汚さぬよう、毎日必死に公にせず解決する方法を模索していたのだ。



「セラは長年領主代行の仕事に励んでくれましたね。とても感謝しているのですよ。」


急に猫撫で声を出したメロウナ。

セラは込み上げる吐き気を堪えて無表情を貫く。



「だから、まとまった金が手に入った暁にはいくらか融通してあげましょう。セラ、頼りにしていますよ。」


(クソ女がっ………)


頭が沸騰しそうなほどの激しい怒りを飲み込んで、恭しく頭を下げたセラ。



「お心遣い感謝致します。」


エリーナ達のため、血反吐を飲み込み最後まで従順な使用人の仮面を被り続けた。



自分の部屋に戻ったセラは、クローゼットに直行する。


(私があの子達を守らないと…今は亡き奥様のためにも、あんな女のせいで不幸にさせるわけにはいかない。そのために出来ることは全部やってやる。)


そこから一張羅の外出着を取り出すと、お仕着せから着替えた。やや時代遅れのデザインだったが、年季の入った仕事着よりは幾分マシだ。


軽く化粧をした後、髪を結い直して頭のやや後ろでまとめ上げると部屋を出た。



「メロウナ様のご用事でしばらく留守にします。何かあればメロウナ様にご指示を仰いでください。」


玄関に向かう途中、使用人の休憩室に立ち寄って声を掛けるが返事はない。セラはため息をつくと、自分の役目を果たすため邸を後にした。



***



公爵家に来てから数日が経ち、マリエッタは家庭教師を付けてもらい、行儀見習いとして日々勉強に励んでいた。



「一旦休憩にしましょうか。」


「いえ、大丈夫です。続きをお願いします。」


時計を見て教科書を閉じた教師に、マリエッタは継続を求めた。


(お姉様はこんなものじゃなかった。毎日毎日身体に痛みを受けながら頑張ってた。だから私ももっともっと頑張らなきゃ。立派に成長して、お姉様の助けになるんだから。)


ペンを握る力が強くなる。

その様子を見た教師が眉を下げ、困った顔をしている。



教師の名はガブリエラ。フェルローズ公爵家の分家に当たる伯爵家の夫人だ。今年50歳になる。長きに渡ってフィニアスと関わりがあり、今回マリエッタの家庭教師役に適任だと白羽の矢が立ったのだ。


そのフィニアスから、「我慢強い性格だから無理をしないよう良く見てやってほしい」と直々に言われていたため、どうやって休憩を取らせようかと頭を悩ませている。



「マリエッタ、お茶にしよう。」


部屋のドアを開けて軽快に声をかけて来たのはシュヴァルツだった。マリエッタに見えるよう片手でケーキの箱を掲げている。



「なんでここにいるの!今勉強中なんだから邪魔しないでよ!」


「まぁ、シュヴァルツ様。丁度良い所にいらして下さいましたわ。今から休憩にしようと思っていましたのよ。マリエッタさんの気分転換に付き合って下さる?」


「もちろんです、マダム・ガブリエラ。愛しのマリエッタのためですから。」


ガブリエラの援護射撃を受けたシュヴァルツが気障ったらしく胸に手を当て、恭しく頭を下げる。



「先生っ…私勉強がしたいです…!!」


机に両手を付いて立ち上がったマリエッタがガブリエラに助けを求める。だが、返ってきたのは意味深なウインクだった。



「恋も淑女の嗜みですのよ。今この時を十分に楽しみなさい。私も休憩を頂くことにするわ。フェルローズ家の茶葉はどれも一級品なのよ。」


「そんなあああああっ!!」


マリエッタの叫びが拾われることはなく、澄ました顔のガブリエラは、本音を垂れ流しながら教室から出て行ってしまった。



「さぁ、僕たちもガゼボでお茶を…んぐっ」


飄々と立っているシュヴァルツに、突進して来たマリエッタが腰を落とし、俊敏な動きでボディーブローをお見舞いする。



「そのケーキ、私が一人で全部食べてやる!」


飛び跳ねてシュヴァルツの手から強引にケーキの箱を奪い取り、俊足で教室を出ていくマリエッタ。


腹を抑えた彼は、嬉しそうな顔でその跡を追うのだった。



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