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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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16.秘密の話し合い


その日の夜遅く、シュヴァルツと共に王宮から戻って来たフィニアスは執務室に直行していた。エリーナ達のことについて話し合うためだ。


呼び出しを受けたロナウドとネルの二人もこの場に同席している。



「シュヴァルツ」

「はっ。」


視線を向けられたシュヴァルツがロナウドとネルに紙を渡した。エリーナを救出した時の状況を纏めた報告書だ。


受け取った二人の顔が途端に険しくなる。



「これを踏まえた上で、今日一日何か気になることはあったか?どんな些細なことでも構わない。」


フィニアスがネルに尋ねた。



「エリーナ様はタライの水で湯浴みを行い、翌日はその残りで洗顔をしていたようです。どうやらお二人にとってそれが普通のことのようでして…」


「は?」


眉を顰めたフィニアスの隣でシュヴァルツが声を出した。

信じられないという表情でネルのことを見るが、目を伏せた彼女は小さく首を横に振るだけだ。


それを見てシュヴァルツの中にふつふつと怒りが込み上げてくる。



「フィニアス様、何でも良いから罪状を突き付けて流刑にしましょう。あの継母がこのまま貴族としてのうのうと生きているなんて、腑が煮えくりかえりそうですよ。」


いつも飄々としているシュヴァルツが忌避感を露わにした。憎悪で顔を歪ませている。


話を振られたフィニアスだが、彼はネルに視線を向けたままだ。



「ネル、他にもあるか?」


「えっと…はい。」


心を見透かしてくる金眼に、ネルは逡巡した後観念したように重い口を開いた。



「消え掛かっていましたが、エリーナ様のお背中と腰にムチで打たれたような傷跡がいくつか…同様に、マリエッタ様のお身体にも傷跡が見られました。」

「クソッ……」


予想していたことだが、聞きたくなかった言葉に拳を握りしめたシュヴァルツが顔を背ける。物に当たりたい衝動を抑え込み、代わりに唇を強く噛み締めた。口内に鉄の味が広がる。


言い終えたネルは我慢できずに、両手で顔を覆って泣き出してしまった。声を押し殺して肩を震わせている。


執務室に激しい怒りと悲しみが広がり、室内は重苦しい空気に包まれた。



「報告感謝する。」


やけに落ち着き払ったフィニアスの声音に、シュヴァルツとルネの二人が顔を上げた。ロナウドは黙って後ろに控えている。



「エリーナはメロウナへの報復など望まないだろう。」


「それはそうかもしれませんが、こんなこと許されるわけないじゃないですか!僕だって許せな…」


「無論、俺も許すつもりはない。」


フィニアスの怒りを抑えた声は一段と低く、普段聞き慣れている者にさえ、ただならぬ緊張感を与える。


彼の放つオーラも凄まじく、顔を上げた二人はまた下を向いた。とてもじゃないが、フィニアスの顔を直視出来る状況ではない。緊張で汗ばむ手を握りしめ、耐えながら言葉の続きを待った。



「だが、最も大切なことはエリーナ自身の幸福だ。この邸に迎えたからには、俺は全力で彼女の心を守り、一つでも多くの幸せを与えてやりたいと思う。」


「ああもうっ!」


いきなり声を上げたシュヴァルツが猫っ毛の茶髪を両手で掻きむしる。あっという間に鳥の巣が出来上がった。



「そんな格好いいことをサラッと言わないでください!復讐って騒いでいた僕が醜く見えるじゃないですか!僕だってマリエッタには誰よりも幸せであってほしい。その気持ちは同じです。」


「わ、私もっ、あんなに素敵なお二人にはいつだって笑顔でいて欲しいです。そのためならどんなことだってお手伝いさせて頂きます!」


シュヴァルツに続いてメルも声を上げて賛同した。その瞳にもう涙はない、あるのは燃えるような決意だけだ。


フィニアスは二人に向かって深く頷くと、今度は、ずっと黙って話を聞いていたロナウドに視線を向ける。



「ロナウド、ひとつ提案なんだが…エリーナとその妹をお前の養子にしてくれないだろうか?爵位持ちで手頃なのがお前しか思いつかん。」


「ほっほっほ。旦那様は何もかもお見通しでいらっしゃる。うちは男ばかりで、孫娘に憧れていたのをご存知でしたか。亡き妻も喜びましょう。」


「よろしく頼む。」


この一瞬でエリーナ達の養子入りが決まってしまった。


本来ならその進め方が気になる所だが、ここではそんな野暮なことは誰も聞かない。何事にも戦略を持って対応するフィニアスに絶大なる信頼を置いているのだ。


前向きな感情が混ざって部屋の雰囲気が明るくなる中、シュヴァルツだけが驚愕の表情でフィニアスのことを見ていた。



「な…なんで勝手に話を進めてるんですかっ!マリエッタは僕の婚約者ですよ!養子入りなんて不要です。」


「あれ本気だったのか…」 


珍しく、何事にも動じないフィニアスが目を見開いて軽く引いている。



「フィアンセなんて冗談で言うわけないでしょう!僕は運命の相手に出会ったのですよ。」


「…まだ14歳だぞ。犯罪だろ。」


「もうすぐ15になります!ギリギリセーフ!というか恋愛に年齢なんて関係ありませんから!!」


「個人の自由だが、話は相手に了承を貰ってからだ。」


「……んぐっ」


フィニアスの指摘は正論でしかなく、ぐうの音も出なかったシュヴァルツ。そんな彼の肩をロナウドが後ろから叩く。



「まだ娘はやりませんぞ。ほっほっほ。」


ロナウドの愉快な笑い声が部屋に響いた。


彼のひどく楽しげな姿を見たシュヴァルツは、何がなんでもマリエッタと結婚するぞと静かに対抗心を燃やしていたのだった。



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