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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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15/29

15.迎えた朝


エリーナ達が案内された広々とした客室にはリビングと寝室があり、寝室には二人で寝ても余裕のある大きさのベッドが2台並んでいる。


その内の一つに、用意してもらった寝巻きに着替えたエリーナとマリエッタがくっついて横になっていた。



「お姉様と同じ部屋で眠れるなんて夢みたい。サンドイッチとお菓子も美味しかったな。」


顔を綻ばせたマリエッタが夢見心地で言いながら、触り心地の良いシルク素材の枕に頬を寄せた。だが、エリーナの表情は冴えない。



「でも本当にいいのかしら。こんなに良くして頂いて…お義母様のことも気がかりだわ。」


「向こうから助けてくれるって言うんだから良いんだよ。お姉様は気にし過ぎだって。これまでの分も幸せにならなくちゃ。」


「私にそんな資格はないわ。何もしてないもの…何かこのお邸でお役に立てることを探さないと。」


眉間に皺を寄せ、真剣な顔で考え込むエリーナ。


マリエッタは起き上がって手を伸ばし、ベッドサイドの明かりを消した。



「悩むのおしまい!今日はもう寝よう。こんなに寝心地が良いベッドなんだから一秒でもながく…」


ベッドに潜り込んだマリエッタは、話している途中で寝息を立て、気持ち良さそうに眠ってしまった。


妹の子どもらしい様子に笑みをこぼすと、エリーナも瞳を閉じた。




『なぜそんなことも出来ないのです?貴女はそれでも由緒正しいケルフェン伯爵家の令嬢ですか?』

「………っ!!」


微睡む意識の中、メロウナの声がした。

エリーナが慌てて起き上がり部屋を見渡すが、隣で眠っているマリエッタ以外に人はいない。



(お義母様、今頃怒っているかしら…何も言わずに出て来てしまったもの。もし戻って来るように言われたら…)


想像しただけで身体が震え出した。

部屋の中は温かいのに、寒気が止まらない。エリーナは落ち着かせよっと、両手で自分の二の腕をさすった。


不安が押し寄せ、深い闇に飲み込まれそうになる中、すぐ隣から規則正しい呼吸音が聞こえてきた。



(マリエッタ、貴女の幸せは私が守るわ。)


優しくマリエッタの髪を撫でると、眠ったままふにゃっと笑いかけられた。その顔を見て、エリーナの震えが和らぐ。


マリエッタに寄り添うようにしてベッドに入り、エリーナは再び瞼を閉じた。



翌朝、いつものように日の出と共に目を覚ましたエリーナ。まだ暗いが、ベッドから出て身支度を整える。


昨日用意してもらったタライの水で顔を洗うと、自由に使って良いと言われたクローゼットから一番シンプルなワンピースに着替えた。髪は手櫛で整え、ドレッサーにあった髪留めを借りてハーフアップにする。


自分の用意が終わるとマリエッタを起こしてベッドメイキングを行い、彼女の身支度を手伝った。


太陽の位置が高くなって室内が明るくなってきた頃、丁寧にドアをノックする音が聞こえた。



「エリーナ様、マリエッタ様、お目覚めでしょうか。」


「ええ。どうぞお入りになって。」


エリーナが答えると、年若い使用人が湯気の立つタライとティーセットをワゴンに乗せて部屋に入って来た。



「おはようございます。エリーナ様、マリエッタ様、使用人のネルと申します。これから身支度のご用意を手伝わせて…」


言葉が途切れた。

エリーナ達の姿と綺麗に整えられたベッドを見て驚きの表情をしている。



「まさか、ご自身でお着替えを…」


わなわなと震えるネルを前に、エリーナとマリエッタの二人はキョトンとした顔を見合わせている。



「どこかお見苦しい点があったかしら?」


「いえ、大変素敵でいらっしゃいます。ただ貴族のご令嬢がご自身で何かするなど…え゛っ」


二人の足元に置いてあったタライに気付き、ネルが目玉をひん剥いた。



「ま、ままま、まさかと思いますが…こちらで洗顔などされてませんよね…?」


「ごめんなさい。顔を洗うのに少しだけお水を頂いてしまったわ。使った分を井戸でくんで来たら良いかしら?」


エリーナがしゃがんでタライに手を伸ばすと、血相を変えたネルが彼女の足元に滑り込んできた。奪い取るかのように両腕でタライを抱え込んで立ち上がる。



「これは私たちの仕事ですので!エリーナ様が重いもの待つなどなりません!!怪我でもしたら大変です!」


「私、ネルの仕事を取ってしまっていたのね。気が回らず本当にごめんなさい。次から気をつけるわ。」


申し訳なさそうな顔をしたエリーナが美しい所作で頭を下げる。それは使用人に向けるには些か丁寧過ぎた。



「あ、あああ、頭をお上げ下さいませえええ!謝るようなことは何一つなく、どうかどんな些細なことでも使用人を頼って頂けたらとても嬉しいという話なのです!」


主人に謝られてしまい、罪悪感と焦りで動悸が激しくなるネル。声を張り過ぎて肩で息をしていた。



「では、さっそくで申し訳ないのだけど、ひとつお願いをしても良いかしら?」


「はい、何なりと!」


遠慮がちなエリーナの言葉に、ネルの瞳が輝く。全身から喜びが溢れ出ていた。



「あの、ネルが今つけているようなエプロンを貸して頂けないかしら?」


「はい?」


予想外のお願いに、ネルの目がパチパチと瞬きを繰り返す。エリーナの言っている意味が分からない。



「お掃除をするのに借りたお洋服が汚れてしまうといけないでしょう?あと箒や雑巾もお借りしたいわ。」


「エリーナ様ああああああああっ!!」


なぜか掃除をする気満々の主人に、ネルはもう叫ぶしかなかった。



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