高校生編
春になって、真帆羅も同じ高校に進学した。クラスは別れた。
俺は、男がモテる要素に気が付いた。
その1 姿勢を良くすること
その2 太らない
その3 小ぎれいにする
プラス、背が高ければなお良し。
この3つさえクリアすれば、多少馬鹿でもモテることが分かった。
真帆羅はとても姿勢がいい。俺は隣にいて、恥ずかしくないようにマネをしていた。背を少しでも高く見せたかったのもある。そのせいか、半年で背がぐっと伸びて、モテるようになった。真帆羅と交際しているのを、秘密にしていたせいもある。
そして俺は、高校に入学した最初の学力テストで、かぎりなく底辺に近かった。進学校でもあるので、俺の順位はまた下がった涙。
真帆羅は相変わらず、モテることはなかった。それは、煩わしいことを避けるための、天女のチート能力のおかげだった。
また半袖の季節になった。休み時間の教室、さわやかな風が、窓から入ってくる。
「お前って、イケメンになったよな」
小学校からの友達の磯崎が、恨めしそうに言ってきた。本人は、中学の時と変わらずもっさい感じ。
磯崎は、進学はせずに専門学校に行くつもりだったが、親から、高校を出た方がいいと言われてどこでもよかったから、俺と同じ高校を受けた。いい奴だ、神。ラッキーなことに同じクラスになれた。
「顔も変わった?」自分では分からないので、聞いてみた。
「うん」
まさか、これもチート?
家に帰ってから、母さんにも聞いてみる。
「母さん、俺、顔が別人になった?」
「うん?」
母さんは、目を細めて俺の顔を観察した。
「う~ん、雰囲気は変わったかもね。成長期なんだから、顔は変わるわよ。大人になっても変わるし」
なんだ、びっくりした。そりゃそうだよな。子供の頃の磯崎と自分を思い出した。骨格も変わるし。でも、いい方に成長したのは、真帆羅のおかげかもしれない。
しかし、俺の最近の悩みは、たとえイケメンに近づいたとしても、真帆羅以外とは付き合えないことだ。おしい…
あれからも、天女について真帆羅から話を聞いていた。
仙は、神様のお世話や、神仙界の手入れなどの役割のために生まれてきたので、感情に乏しい。寿命もないから、男女は一時的な関係はあっても、続くようなことはほぼなく、自然消滅の関係らしい。
時折、雲の合間から、人間界を覗き、
「長い時間を持て余して、人のように恋をしてみたいと思うのよ」
「それが、羽衣伝説?」
「そう、思い思いの方法で、人に近づくの。集団で行って、盗まれた着物の人がチャレンジするとか」
盗ませるのはわざとなのか!?。俺は何も盗んでないから、急に願いを叶えると言ったことに、怪しいと思ったんだな。
子供の俺に声をかけたのは、真帆羅のやり方だったようだ。俺を選んだのは、
「…、たまたま?」 答えに困っていた。
(なんだ、ガッカリ)
「でも、天女チャレンジに成功した人は、誰もいないの」真帆羅は物思いにふけるように、静かに言った。
「え?」
「人の気持ちは変わってしまうから」
その言葉に、ふと不安がよぎる。
その時は分からなかったが、今の俺は、悩みのせいでなんとなく思い当たった。
学校の休み時間。友達はトイレに行っているので、俺は一人で席に座っていた。
俺はモテてもルール上、二股はできない。モテる特権を味わうことはできないのだ。まさか俺がこんな悩みを持つことになるとは、1年前の俺には想像もつかないだろう。
「多可良君ちょっといいかな」
お、呼び出しか?
まあまあ、かわいいクラスの女の子だ。小さめのシャツがきつそうで、ムチムチした体つきが際立っている。名前は知らない。相変わらず男同士でつるんでいるので、いまだに女子の名前を覚えていなかった。
「うん」
俺は何も考えずに、ただ付いて行った。
人気のない資料室に入る。彼女は、前を向いたままごそごそしていた。
「私、多可良君のこと好きなの」
振り返った彼女は、下着まで見えるぐらいにシャツのボタンを開けていた。
「ここで、してもいいよ」
両腕を俺の腕に絡めて、胸に押し当ててくる。
え!!
俺は顔が真っ赤になる。こんな積極的な子は、今までいなかった。
「いや、あの…」
他の女子とここまで密着したことがない!。服の中から彼女の匂いが湧き上がってきて、真帆羅とは違う匂いだと思うと、余計に焦って頭がくらくらする。
少しならいいのか? 黙っていればバレないよな。理性が働かなくなってきた!
俺は彼女の肩に手を置いて、向き合った。彼女は目を細める。
でも、本当にバレないのか?
「ごめん、俺好きな子がいるんだ」
精一杯、声を振り絞って、横を向いた。理性がなんとか勝った!涙。
それに対して、彼女の態度が急変した。
「はあ? ただのヤリ〇ンじゃん!」
彼女は、怒って出ていった。
ヒドイ… とどめを刺された。返す言葉もない。
俺は、廊下をとぼとぼと歩いた。疲れた…
よく考えたら、俺は彼女に完全に流されていたから、怒って当然だよな。トホホ…
教室に戻って彼女を見ると、こっちに気が付いて、ツーンとした顔をして横を向いた。
午後の授業には、身が入らなかった。
俺は、調子をこいていたと思う。付き合えないから、告白されるのを楽しんでいた。自分が浅はかだった。危うく1年で、天女チャレンジに失敗するところだった。
しかも、代償が何かも分からないし、恐ろしい…。真帆羅も代償は、その時にならないと分からないと言っていた。
このことがあって、より一層女子と関わる事を避けて、勉強に邁進した。
後でふと気になったのだが、彼女はわざと小さいシャツを着ているのでは?、と思った…