私小説「峠:その三」
私は小学校六年生から急にドッジボールクラブに入ることになった。
理由は覚えていない。
「入らない?」
「入る!」
みたいな単純なきっかけだったと思う。
その時私は気になる子がいた。子供特有のものである。
小さい学校なので、イベントも全校生徒で行われるし、そのドッジボールクラブも四年生から上の生徒はほぼ全員所属するというなんとも微笑ましいものだった。
毎週土曜日だったかの練習や、隣の学区の小学校まで合同練習、八つのチームが集まって開かれる大会などで急に私の生活は忙しくなった。
まぁ五年生までは無視されていたので、その存在を知らなかったのだが。
人並みには運動ができた私は、初めてのチームプレイというものがとても楽しく、そこそこハマり、気になる子にいい姿を見せたくてひたすら頑張った。
「オー! ハイ!」みたいな掛け声だったと思う。
しかし、
夏だったか秋だったかくらいに気になる子とは別の、眼鏡の子の顔に練習中ボールを当ててしまいその眼鏡を壊してしまったのだ。
今の私は、「球技をする時は眼鏡を外そう!」と心高らかに言うことができるが、いかんせん子供にとってそれは、非常に罪なことなのだ。
仲良くなりかけていた関係性が今度は加害者になってしまった。
その子の家に、母と謝りに行って眼鏡を弁償し、家では父が怒っていたため、私はその時家に帰りたくなかったことを覚えている。
その子の母親は太っていて、「ハウルの動く城」に出てくる荒地の魔女みたいな見た目をしており、子供にはその目が蛇のようにみえ、非常に怖かったことも覚えている。
車の後部座席で縮こまり、関係がメガネのように壊れてしまわないかとただ不安だった私は、そこで初めてラジオから流れてくる音楽、ロックと言うものを聞いた。
衝撃を受けた。
激しいリフが私の心の不安を解消して流れ込んできたのだ。
そこから私は音楽を聞き始めるようになる。
ちなみに、気になっていた子とはうまくいかなかった。
私の方が歳が上であり、私が中学生へと進学すると関係は消滅してしまった。
そして、ドッジボールにうつつを抜かしていた私は、母がおかしくなっていたことには気が付かなかったのである。