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令和の大和撫子  作者: 和和和和
許嫁は大和撫子
12/14

当たり前コンプレックス



「そんなことが……」


 日幸と天平のやり取りや、話の流れを弥生からかいつまんで聞いた花純は、思案げに呟く。


「ま。あんた達って関係が関係だし、色々思うところはあるんじゃない?」


 弥生の指摘に、そのことを承知している花純は、わずかに目を伏せる。


「そうですね。許嫁も、私からお願いしているだけですし、日幸さんが不安に思うのも当然です」


「ま。棚ぼたとも思ってるだろうけど」


 互いに好意をもっての交際ではなく、好意を育むための許嫁という関係に不安を持つのは当然だ。

 そこに、いつでも互いの意思でこの関係を解消できてしまう状態が拍車をかけている。


 とはいえ、花純がそういう性格だったからこそ、許嫁になれたのは、日幸にとって幸運なことだったのだろう。

 少なくとも弥生には、日幸がそう思っていたように思えていた。


「どうするの?」


「自分で考えると日幸さんも言ってましたし、しばらくは様子をみようかと思います。

 一応さりげなくフォローはするつもりですけど……」


「いいんじゃない。花純らしくて」


 まずは日幸の意見を尊重しようとする辺り、陰となり日向となる古風な女性像を良しとする花純らしい。


「ただ、日幸さんの不安を煽るようなこと言わないでください。面白がってるでしょう?」


「悪気はないって」


 窘めるような花純の言葉に弁解した弥生は、一拍分の間を置いて尋ねる。


「でもさ。山本君って性格もいいし、モテるじゃない? あんた的にはどうなのよ?」


「……私が彼をそういう目で見ていたら、日幸さんとお見合いしてませんよ」


 弥生に尋ねられた花純は、わずかな間を置いてから言葉を選ぶようにして答える。


「そりゃそうか。私には分かんないけどな」


 何か意味ありげな一瞬の空白にどんな意図があるのかは分かりかねるが、花純の答えに嘘が無いことを長年の付き合いから確信している弥生は、納得私室も腑に落ちない様子で言う。


「弥生ちゃんは、山本君のこと好きなんですか?」


「もうちょっと言葉選んでくれる? そんなふうに見える?」


 それを聞いた花純がおもむろに口にした疑問に、弥生は辟易した表情で問い返す。

 そんなことを率直に聞くことができるのも、花純と弥生の信頼関係の賜物だった。


「いえ。そんな様子を感じたことがなかったからきいてるんですけど」


 渋い表情を浮かべた弥生は、花純の言葉に小さく息を吐く。


「私だったら、彼と山本くんなら山本君を選ぶってだけ」


 友人が将来の結婚相手として選んだ相手に対してこんなことを言うのは少々気が引けるが、もし日幸と天平、どちらかとしか付き合えないとなれば後者を選ぶ。

 気の置けない友人だからこその弥生の忌憚のない意見に、花純は目を伏せて小さく笑みを零す。


「……そうかもしれませんね」


 しかしその横顔を見た弥生は、花純が「自分はそう思っていない」と言っていることを分かっていた。



※※※



「なあ、智宏(トモ)。山本天平君って知ってる?」


 ホームルームを終えた日幸は、一限目の授業までのわずかな間に、隣の席の飛鳥井智弘に声をかける。


「まあ一応は。中学の時同じクラスだったこともあるから」


「どんな人?」


「なんでそんなこと聞くんだ?」


「まぁ、ちょっと色々あって……」


 日幸を一瞥した智宏は、その表情になにかを感じたのか、ゆっくりと口を開く。


「普通に良いやつだよ。イケメンで運動も勉強もできるけど、それを鼻にかけたりしないし、思いやりがあってリーダーシップもある。

 実家が料理屋で、あいつ自身も料理できて、それもかなり美味い。

 苦手なことや欠点もあるんだろうけど、それも人間味になるみたいな――ま、米澤さんの男バージョンみたいな感じかもな」


「へぇ」


 智宏の話に耳を傾けていた日幸は、思わず唸るように言う。


「高校じゃ同じクラスにはなってないけど、生徒会にも入ってるし、変わらずいい奴なんじゃないかな」


「そっか。ありがとな」


 智宏に感謝を述べた日幸は、深く息を吐いて空を仰ぐ。


 これまでに聞いた話を総合すれば、山本天平という人物はかなりの好青年であるように思われる。


(山本君がどのくらいすごいのかは分からないけど、少なくともイケメンだったな。

 あれは努力じゃどうにもならないし、佐藤さんや智宏(トモ)が言ってた通りなら、モテるのは当然だ。

 それに比べて、俺は普通だし、山本君の方が将来もずっと有望だろうな)


 生まれ持ったものも確かにあるだろうが、後天的な努力があればこそ、天平は評価されているのだろう。

 そんな人物であれば、花純が心移り――その言い方が適切かはわからないが――してしまうこともあるかもしれない。


「……!」


 その時、スマホが着信音を鳴らす。

 そこには、花純からのメッセージが届いていた。


「お? その反応は彼女からか?」


 からかうような智宏に一瞥を向けた日幸は、その視線から画面を隠すように身をひねる。


『弥生ちゃんの言ったことは気にしないでください。よければ今日も一緒に帰りませんか?』


 そこに書かれていたメッセージを見た日幸は、思わず目を細める。


(気を遣ってくれてるなぁ)


『OK』


 花純に返信した日幸は、軽く椅子に体重を預けて息を吐く。


(こういうところがダメなんだろうな。ちょっと周りに自分よりいい男がいるだけでこんなに気にして……)


 花純のことを信じていないわけではないが、良くない想像ばかりが脳裏に浮かんでは消える。

 そしてそれは、おそらく自分自身に対する自信のなさからくるものであると、日幸はおぼろげに理解していた。


(もっと自分に自信があればよかったんだろうけど、俺には特に取り柄もないし、せめて花純さんにダサいところ見せないようにするくらいしかないか)


 自分にできることはただ花純を信じ、ありのままに起きたことを受け入れるしかない。


「……? どうした?」


 何かを考えこむように顔をしかめたかと思えば、諦観したような表情を浮かべて深く息を吐く日幸に、智宏は怪訝な視線を向ける。


「いや、何でもない。ちょっと考えごと」


 智宏に答えた日幸は、椅子に背を預けて空を仰ぐ。


(潔くなりゆきに任せるしかないか……)


 不安を抱えながら見上げた頭上には、当然のことながら校舎の天井がある。

 閉塞感と自分の限界の象徴のように存在する無機質な天井を見た日幸は、諦観と共に自嘲めいた笑みを零すのだった。



※※※



「米澤さん」


 その日の放課後、ホームルームを終えて待ち合わせた日幸の元へと行こうとしていた花純は、自分を呼ぶ声に視線を向ける。


 そこにいたのは、件の人物――山本天平だった。


 毒気のない爽やかな笑みを浮かべた天平は、花純の元へと歩み寄るとおもむろに口を開く。


「少し、話をしていいかな?」


「はい。手短にお願いします」


 天平の言葉に、一瞬待ってくれている日幸へと意識を馳せた花純は、落ち着いた声音で応じるのだった。


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