「だいっきらい!!」
「大丈夫?」
「pi-pi pipi pipi- pi-pi-pipi-pi pipi pipipi- pi-pi-pipi pipi pi-pi pipi pi-pi- pipi-pipi-pipi- pi-pi-pipi-pi- pi-pi-pi pipi-pipi pipi pipipi-pipi pipipi-」
(これは……モールス信号、かな? 流石にこれは解読できない……と思いきや、普通に頭の中で変換できてるわ……これが、召喚特典……!?)
なんて馬鹿な事を考えながら、晶子は上体を起こそうとする通信兵のような身なりをした魔道具を止めた。
鑪とハーミーズに近づいていく際、床に倒れている魔道具達を気にかける事を忘れなかった晶子は一体一体に声をかけ、幾つかの質問をしては相手の状態を適宜確認していく。
幸いな事に誰一人として深刻な状態に陥った者はいないようで、不幸中の幸いだと胸を撫でおろした。
「無理はしないで。後はあたしが何とかするから、今は休んでて」
「pi-pipi- pipi-pipi pi-pi pipi-pipipi pi-pi-pipi- pipi-pipi pipi pipi-」
そう言うと、素直にもう一度寝転がった魔道具に思わず苦笑する。その頭を軽く撫ででから、晶子は再び足を進め始めた。
そうしてたくさんの魔道具達を励まし、時には慰めながら鑪達に近づいていた晶子は、二人の英雄がぶつかり合うのにほど近い場所で良く見知った魔道具を見つけた。
「シュトゥルム卿!」
「ややっ! こっれは晶子様!! いやはや、なっさけな↑ーい所を見せてしまい、申し訳ありませ↓ーん……」
そう言って頭をかく動作をするシュトゥルム卿は、どこからどうみてもボロボロだった。
高貴さを醸し出していた金色の甲冑はあちこち凹み、板金の巻き毛の幾つかは歪んでしまっている。右目を縦に切るようにして走る刀傷は口髭も歪に斬り落としており、彼が鑪と真正面から対峙していた事をありありと物語っている。
(鎧のメッキも剥がれてるし、右目は……完全に潰れちゃってるか。それにあっちもこっちも凹んだり傷がついてるし……あまりにも痛々しい……)
「うぅ~……護衛として、まっこと面目な↑~いのでありま~す↓……」
「いやいや、シュトゥルム卿は他の子を守りながら戦ったんでしょ? 十分やってくれたと思うよ」
晶子の言う通り、周囲で倒れている魔道具達とシュトゥルム卿との距離や範囲を考えれば、状況的に彼が他の者達を庇いながら戦っていた事は明白だ。
恐らく彼の体の状態が他よりもかなり悪い原因はこれにあるのだろう。
「護衛騎士として出来る限りを尽くしてくれたんでしょ? しかも相手はあの英雄鑪だよ? もっと自分を誇りなって」
「……はははっ、そう言っていただけると、大変ありがた↑~いのでありま↑~す」
晶子の励ましに少し元気を取り戻したのか、シュトゥルム卿は照れ臭そうにしながらも力なくはにかんだ。
「皆にも言ってるけど、シュトゥルム卿も休んでて。こっからはあたしの出番ってね」
「わかったのでありま~す」
「よろしい」
「……晶子様っ」
歩き出そうとした晶子の腕を引き、シュトゥルム卿が引き留めてくる。どうしたのかと振り返れば、彼はバツの悪そうな何とも言えない表情を浮かべていた。
「どうしたの?」
「その……あの方をお責めにならないでいただきたいのであ~る」
「え?」
まさかそんな事を言われると思わず、晶子は目を大きく見開いて黙り込む。そんな晶子の様子に気付いていないのか、シュトゥルム卿は更に言葉を続けた。
「鑪様は、ここに到着された直後からずっと『晶子はどこだ』とばかり言っておられたので↑~ございます。何度も何度も、晶子様の事をそ↑~れはそれは心配しておられた御様子。心配するあまり、我々の言葉も届かないようで……」
「そう……そっか」
アルベートと同じ事を言うシュトゥルム卿に、晶子は苦笑を零す。ふと周囲を見渡せば、これまで声をかけて来た魔道具や、未だに倒れ伏している魔道具達も、皆心の底から心配そうに鑪を見つめていた。
(多少なりと彼らに責任があるとは言え、ほとんど一方的な八つ当たりに近い鑪さんの行為を受けてもなお、こうして他者を慮る事が出来る……ほんと、みんな優しいんだから)
人に奉仕する事こそが魔道具達の本望である——いつかに読んだ古い文献に書かれていた一節を思い出す。
(基本的な行動こそ確かにその通りなのかもしれないけど、でも彼らは誰かの痛みや悲しみと言った負の感情に寄り添える優しさを持ってる。それは決してプログラムされたものなんかじゃない)
シュトゥルム卿や魔道具達の表情を思い返せば、ひどく柔らかで慈愛に満ちていたように感じる。それこそ、晶子がこの研究所に来た当初とは比べ物にならない程に。
(この数週間に及ぶ学びが彼らを変えたのか、それとも魔道具の心に人間性が芽生えたのか……後者であってくれたら、嬉しいけどなぁ)
そう思いながら、晶子は未だ不安そうにこちらを見上げているシュトゥルム卿の手をとる。血の通っていない金属製の手は、しかし不思議と温かく感じ、晶子はその熱を少しも逃がしたくないと握り込んだ。
「分かってるよ。鑪さんがあたしを心配してくれてた事、さっき別の仲間と会って、彼に聞いたからさ」
ありがとうと感謝を述べれば、シュトゥルム卿は礼を言われる程の事では無いと苦笑いした。
「でも、このまま暴れられたら、いつかこの研究所が崩れちゃうかも知れない。それにハーミーズもいらん事言って煽っちゃってるから、余計に力が籠ってるみたいだし」
現にこうしている間にも、鑪とハーミーズの攻撃がぶつかり合う度に広間のあらゆるところが崩れてきている。
「だからいい加減止めてくるよ。あたしなら、あの二人の間に入っても何とかなるだろうし」
「ですが……」
「だーいじょーぶ!」
不安そうな顔で何か言いかけるシュトゥルム卿を遮り、晶子は笑って見せた。
「あたし信じて待っててね」
「……わっかりま~した。どうか、お~気を付けて」
自信満々な晶子に何を言っても止められないと悟ったのか、シュトゥルム卿は座り込んだまま敬礼する。
それに頷き返すと、晶子は激しくぶつかり合う英雄達の元へと歩いていく。
(このくらい近づいたら声も届くっしょ)
そうして戦い続ける二人の攻撃にギリギリ巻き込まれない範囲まで近づいた所で、声をかけようと口を開いた。
「鑪さ——」
「んも~! いい加減に人の話を聞いたらどうなのさ!?」
が、それを上回る声量を張り上げたハーミーズが、しかめっ面を浮かべながら鑪を睨んだ。
「君の大事な人を攫ったのは確かに悪かっただろうけどさぁ、彼らは別に悪意があってそういう行動をしたんじゃ無いんだよ! なのにあんたは一方的に攻撃なんて仕掛けて……話し合おうとした彼等の言葉に耳を傾けるくらい、大した労力もかからないだろ!?」
ハーミーズは己の苛立ちを最大限に表す為か、巨大な風の刃を形成して鑪へと発射する。
「ふん、下手人の戯言を聞いて何になる」
鑪が手にした刀を一薙ぎすればカマイタチは一瞬でかき消され、お返しとばかりに黄金色に輝く斬撃がハーミーズへと飛んでいく。
「罪の意識が有ろうと無かろうと、悪事を働いていたことに変わりなし。それも百年近く……これの何処に悪意が無いというのだ」
「だからさぁ! さっきから何度も言ってるけど、元々は身寄りのない人や孤児を救う為の行動で、それが長い年月の末に変質しちゃって今に至ってるだけなんだって!!」
「良かれと思っての行動ゆえに、これらの悪事に目を瞑れと?」
淡々と述べる鑪に対し、ハーミーズはいい加減、彼の頭の固さにやきもきしているようだ。
「そうじゃなくて、もうちょっと対話をしようって言ってるんだよ!! 近づいてきた魔道具達の話を遮っては一方的に攻撃して、これじゃただの八つ当たりじゃん!」
そう言ってハーミーズは空中に指で魔法陣を描くと、そこから激しい暴風が吹き出した。風は鑪を巻き込みながら部屋の四分の一ほどの範囲を飲み込み荒れ狂うが、思ったよりもダメージは与えられていないらしい。
「ぬぅ……ふん!!」
刀二対を前方で交差させて魔法を受け止めた鑪が腕を振り上げると、たちまち暴風が霧散した。
「げぇ! マナを纏っても無い刀で僕の魔法ぶった切るとか、どんだけ脳筋なんだよ!! ほんっと信じられないんだけど」
「お主は何時まで経っても変わらず喧しいな……」
自身の魔法を掻き消された事に納得がいかないのか、ハーミーズが地団駄を踏みながら文句を言う。まるで子供のように駄々を捏ねるハーミーズを見て、鑪は心底呆れたと言わんばかりに大きな溜息を吐いた。
「そーいうお前は昔と変わらず頭ガチガチの偏屈じじぃじゃん!!」
「そうやって痛い所を突かれると噛み付くところが未熟だと再三常々言って来たであろうが。それすらも覚えておらんとは、いやはや恐れ入った」
「はぁー!? あんた自分が最強の剣豪だのなんだのって言われて調子に乗ってるだろ!? そうやってすぐ上から目線で自称アドバイスを考え無しに言うから周りから距離置かれてるのわっかんないかなぁー!?」
(子供の喧嘩かな??)
攻撃の手を止めたかと思えば、今度は互いに口汚く罵り合う始末。幼い子供の口喧嘩を見ているような気分になり、晶子は何とも言えない気持ちだった。
「全く、お主と話していると無駄に疲れる」
「は? それは僕の台詞なんだけど?? 人の話もちゃんと聞けないお爺ちゃん」
「……いい加減その無駄に喋りの達者な口を縫い付けるぞ」
「上等じゃん、やれるもんならやって見なよ」
(しかも、二人共あたしと話してる時より口調も荒々しい……え、鑪さんのちょっと乱暴な喋り方、良き寄りの善きなのだが?? ハーミーズも普段のお茶らけ具合とは全く違うし最高に耳が潤うのですが??)
そんな事を言っている場合では無いと頭では分かっているものの、元の世界で推しに推していた人達の新たな一面を見る事ができ、内心興奮が抑えきれ無い晶子。
(あ゛ぁ゛~、手元に携帯あったら間違いなく録画してたのにぃ~……いや待てよ、無いなら作ればいいじゃん!! あたし天才!! 後で再編してみよ♪)
なんて場違いな考え事をしていた晶子だったが、吸い込まれるようなマナの流れと、空間を圧倒するような威圧に気付いてハッと顔を上げる。
「いい加減我慢の限界だよ……しょうがないから、ここでケリをつけてあげるよ♪」
「小童が抜かしよる。良かろう、骨の無い置物共相手に退屈していた所だ」
笑顔を浮かべているのに目が笑っていないハーミーズと、構えていた刀を一度鞘に納めた鑪。会話の流れから、互いがとんでもない大技を繰り出そうとしているのだと瞬時に悟った晶子だったが、それよりも引っ掛かる言葉があって顔を顰めていた。
(置物、共……?)
荒々しい言葉遣いで放たれる鑪の発言は、明らかに魔道具達を見下している。晶子を攫った罪人だと断じているが故なのだろうが、あまりにもらしくない。
なにより、魔道具達の苦労や葛藤を知ってどうにも嫌いになれなかった晶子にとって、鑪のこの言葉は不愉快以外の何物でも無かった。
(鑪さんも、あんなひどい事言っちゃうのか……きっと、普段の冷静な鑪さんならあんな事言わなかった。鑪さんに言わせてるのは、あたしが不注意で誘拐されたから。そうだ、あたしがあの時、うっかり窓なんか開けなきゃこうはなってなかった)
落ち着いているようで、実際は怒りに我を忘れているような状態の鑪にほんの少しの幻滅を感じながら、彼にそんな言動をさせた一番の原因は自分だと唇を噛みしめる。
「鑪さん」
意を決して鑪の名を呼ぶ晶子だったが、その声は存外にか細く小さかった。その為か鑪どころかハーミーズの耳にも届いていないらしく、二人は大技を打つ動作を止めようとしない。
それどころかハーミーズの周りに集まるマナはどんどん濃くなり、鑪も今にも刀を抜きそうだ。
(!? あかん、これはマジでアカン!!)
「ちょっと鑪さん!! ハーミーズ!! いい加減に止まって!!」
なんとかして気を引こうと二人の名を叫ぶも、互いに意識が集中しているせいで彼らの耳には少しも届かない。
【逆巻く風の旋律は、美しき世界の調べ】
【明鏡に沈む煌々たる輝き、藍の帳の向こうにある一条の夢】
遂にはそれぞれが固有魔法と固有秘技の詠唱を始めてしまった。
「ねー!! ふたりとも!! ほんとにきこえてないわけ!?」
晶子がそう何度も何度も呼びかけども、鑪達がこちらに反応する気配は無く。そんな彼らの様子に、晶子は段々と苛立ちを感じ始め。
「だぁー!! あんたらえぇ加減にせぇ!!」
手にしていた杖の石突を強く床に叩きつけると、鑪とハーミーズの足元に緑色の魔法陣が展開された。
「な!?」
「え!? な、なに!?」
突然現れた魔法陣に動揺する二人を置き去りに、晶子が杖を振り上げる。すると、魔法陣の中から木の幹でできた太い触手のようなものがうねりながら現れた。
「人の話きかんやアホには……こうや!!」
そしてそのまま杖を振り下ろせば、触手は意思を持った生き物のように動き出し、鑪とハーミーズの臀部を勢いよく打った。
「ぬ!?」
「あいたっ!!」
慌てて距離をとろうとする鑪達だったが、そんな動きを予測していた晶子が再び杖を振り上げれば、魔法陣の中から先程よりもやや細めの蔦が出現して彼らを拘束する。
「ぐっ、なんという力……!!」
「そら、あんたにも抜け出せんよう強化魔法もついでに流し込んどるからなぁ」
引き千切ろうとするもビクともしない蔦に舌打ちを零しそうな鑪に、晶子が乱雑に答えた。
正直な所、晶子は力だけで言うならハーミーズには負けないと自負している。なぜならゲーム中の彼は、ワーストスリーに入るくらいに物理ステータスが育たないキャラだった
かったからだ。
先頭で通常攻撃をさせても基本的にダメージは一桁したあたえられず、それはレベルが上がっても装備を新調しても変わらない。
一種のネタと化しており、コアなファンが『物理ステワーストキャラズでクリアする』などといった縛りプレイをして、クリアまでに半年もかけていたほど。
そういった背景もあって、晶子は純粋な力勝負であれば自分も勝機があるだろうと考えていたのだ。
今回、ハーミーズ達に向かって発動した魔法は、『ウッドウィップ』という拘束効果の付いた木属性魔法。
この魔法は相手を一定ターンの間スタン状態にし、行動出来なくしたうえで複数回のダメージを与えるというものだ。
(セイクリッドチェインを使ってみるって手もあったけど、こっちは確実にダメージが出る魔法だかんね。お馬鹿どものケツ叩くには調度良い)
「む!? その声は晶子か!?」
「え!? あ! 晶子!? ちょ、何時からそこに!?」
「さっきからずっと、ずぅーっと!! おたくらが口汚くお互い罵り合っとる時から声掛けとったけど??」
ニッコリと、それはそれは満面の笑みでそう告げれば、心なしか二人の顔色が悪くなったように見える。
「え、えーっとその、あのね!! これは違うんだ♭」
「ほぉ? 鑪さん止めるつもりが売り言葉に買い言葉で止められんなってんのに??」
笑って誤魔化そうとするハーミーズに問いかけると、図星を突かれたからか口を噤んでそっと顔を逸らした。
「しょ、晶子、我は」
「えぇ、えぇ。アルベートから聞いとるよ? あたしの事、心配しとったって。でもそれ、この子らをこんなボロボロにする必要はあったん??」
親指を立てて後方に倒れている魔道具達を指さすように聞けば、流石の鑪もバツが悪そうに黙り込む。
「黙っとったら分からんやろ。あたしは理由になるんかって聞いとるんやから、ちゃんと答えてや」
が、そんな逃げを晶子が許すはずもなく、スンッと表情を落して再度問いかけた。
「っ………………ならん」
「せやんな? この子らがあかん事したのは事実やろうけど、ここまでしてええ理由にはならんよな?」
淡々と説教するように告げる晶子に、鑪はやや不満気に触手を動かした。
「し、かし、こやつらは其方を攫った罪人で」
「それは分かっとる。だからそこに関しては一切の擁護はせえへんよ。罰をあたえる云々はいずれ考えなあかん。でも、それをやんのはあんたじゃないし、私情で八つ当たりすんのもちがうやろ」
「なっ!? 八つ当たりでは!! 我はお主の身を案じ、かどわかし犯を粛正しようと!!」
「攫われた事に関してはあたしにも悪いとこがあった!! それはごめんやん!! でもだからって、一方的に暴力を振るって良い訳じゃ無いやん!!」
鑪からしてみれば、本当に晶子の身を心配していただけなのだろう。だが、例えそうだとしても限度があるというもの。
研究所の緊急システムが稼働する程の大立ち回りをした鑪は、晶子の良く知る彼とはまるで違う。
「ハーミーズから戯言でも吹き込まれたのか? こやつは平気で嘘を吐く。冗談だなんだのとのたまって、ある事ない事でっち上げるのが殊更上手いのだ。此度の騒動も、どうせこやつが裏でよからぬ事をしているのであろう」
「はぁ!? ちょっと聞き捨てならないんだけど!?」
いつも冷静沈着で物事の本質を見極める目を持つ鑪が、今回に限ってはまるで周りが見えていない。
挙句、ハーミーズを貶すような事まで言い出す始末。
「……鑪さん」
一瞬で真顔になった晶子に気付き、鑪が口を閉ざした。
「あたし、あんたの事を過大評価しとったみたいやわ」
「しょ、うこ?」
ぐっと血が滲むのではないかという程に左手を握り閉めた晶子は、深い失望感に唇をかむ。
「あんたは、絶対にそんな事言わん思ってた。何があっても、高潔で、真っすぐで、誰よりも冷静に物事を判断できる人やと思っとった。……でも、そうやなかったんやな」
「ま、まて晶子! 今のは——」
自分が良くない発言をした事に今更気が付いたのだろう、鑪は慌てた様子で晶子に駆け寄ろうとするも、体を拘束している蔦が解ける事は無かった。
「魔道具達の事も、ハーミーズの事もわるぅ言って満足かいな。あたしを心配しとったとか、罪人がどうとか……あんたの憂さ晴らしの理由にあたしらを使わんとってよ」
「ち、違う! 決してそのような意味で言ったのでは」
「じゃあどんな意味で言ったんや!!」
張り上げた声は、自分でも分かる程に震えていた。
「鑪さんがこの子らの事情を知らんのは分かってる。せやから、鑪さんから見たら魔道具達は悪い事をしとるだけにしか見えんのもしゃーない。でも……あたしの知る鑪さんは、話しも聞かずにこの子らを傷付けたりなんかせえへんかったはずやっ」
晶子が知っているのは、あくまでもWtRsというゲームの中にいるキャラクターの鑪だけ。しかし、それを抜きにしても彼の男が義理人情を大事にし、決して他人を疎かにしない人物なのだと疑わなかった。
(……は、はは。結局あたしも、ゲームの中の情報だけで知ったかしてるだけだった、って事かな)
この世界は断じてゲームの中などではない。命が芽吹き、花開き、そして枯れていく循環を持っている。正しく命ある世界なのだ。
「わ、れは……病み上がりの其方の体を案じて……なにより、そこな物達はもうすでに何人もの人間を攫っている誘拐犯であるぞ。そんな悪辣極まりない悪党どもに、晶子が肩入れする必要など……」
「っ~~~!!」
いくら言葉を尽くしても、今の鑪には晶子の言葉を素直に呑み込む余裕が無いのかも知れない。それでも、魔道具達の事情を知る晶子にとって、鑪のその一言は地雷にも等しいものだった。
「そう言うはなから決め付けて話も聞かん頭の固い所——」
鑪を説得できない自身の情けなさか、はたまた話を碌に聞いてくれない鑪への怒りか。じわじわと湧き出してくる涙を堪えながら、晶子は叫ぶ。
「だいっきらい!!」
半分程抜かれていた刀の柄に置かれていた鑪の手が、ゆっくりと離れ落ちた。晶子は呆然とする鑪に気付かず杖をもう一度振り上げると、涙目のままキッと二人を睨みつけ。
「……え、あ、ちょ!? 待って!!」
「問・答・無・用、じゃああああああああああ!!」
「僕ほぼとばっちりじゃないんぎゃあ!?」
ハーミーズの叫びと共に、力いっぱい杖を振り下ろした。嫌な静寂に包まれた広間には、触手が打ち付けられる乾いた音と、情けない悲鳴だけが木霊していくのだった。
次回更新は、4/3(金)予定です。




