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「ありがとね、アルベート」

※ 誤字を発見したので修正しました。

  一部文章に違和感を感じた箇所を加筆・修正しました。

 鑪が急襲をしかけたという広間に向かう為、晶子は中枢からの道を全力で駆けていた。

(まさかエレベーターが緊急停止してるなんて……急いで上に行かないとなのに!!)

 鑪が激しい攻撃を繰り返しているせいか、現在の研究度は頻繁に揺れに襲われている。その振動故にエレベーターが安全装置を作動させ、一切動かなくなっていたのだ。

「肝心な時に動かないとかマジで最悪。ファンタジー世界なんだから、魔法とかでちょいちょいっと何とか出来たでしょうに! 変な所で元の世界と似通ってるんだから!!」

 ひたすらに文句を口にしつつ、晶子はようやくたどり着いた階段を使って上階へと突き進んでいく。

「……うっげぇ」

 が、眼前に広がるのは階下と瓜二つな景色。よく見れば色々と違う所は当然あるのだが、ただでさえ瓦礫と苔生した外壁が続いているせいで、今自分がどこにいるのかすら曖昧になりそうだ。

 後方は壁によって隙間なく埋め立てられており、どうあっても前へ進むしかなさそうだった。

(うわぁ……なんか既視感あるなって思ったらここ、WtRsの中でも特に時間制限が厳しいタイムリミット系イベントがあった所だわ……)

 その名の通り、タイムリミット系のイベントは制限時間内に特定の目的を達成する事を条件としたものである。

 WtRsの他シナリオにも時折登場するが、それらの中でもこの元研究所編のタイムリミット系が最難関だと言われていた。

 その理由は、目的地に到達するまでにある分岐の多さと妨害関連である。

(壊滅ルートプレイ時だったから、施設内の全防衛システムが起動してる設定だったっけ? 横の道から矢が飛んでくるわ、床から槍が飛び出てくるわ、挙句の果てに奥の壁から岩が転がって来るとか……防衛設備アナログすぎぃ!! って叫んだ記憶があるわ)

 某アクション映画もびっくりする程の古臭さに、「なんでやねん!!」とツッコミが止まらなかった瞬間だったと遠い目をした。

 もちろん、それだけでは高難易度であるなどと言われえる事は無い。一番の問題は一向に変わらない景色にあった。

(この道、タイムリミットイベントの時だけ無限ループ式になって、普段だとマップ切り替わる所が延々とスクロールする仕様になってたんだよね……途中で止まったりせずにまじでずっと進んで行けるから、当たりの階段だとか、入らないといけない部屋を自分で見極めないといけないっていうね……)

 普段はきちんとエリア移動のロードが挟まる研究所マップであるが、タイムリミットイベントが始まった瞬間、何故か横スクロール系になるのだ。

 エンドレスループする背景と廊下マップの中で、上階へと上がれる階段を見つけ、時に必要な道具がある部屋を最短で探り、目的地へと向かわねばならなのいが高難易度と言われる所以である。

(まあ、ここはゲームと違ってループするとかは無いと思う……し、マップは大体頭の中に入ってる。よっぽど焦って見逃さなければ最短で上に行けるはず……)

 重度のWtRsオタクである晶子は頭の中にゲームのマップがしっかりと叩きこまれてはいるが、この世界でどれだけその記憶が役に立つかは分からない。

 ゲームの仕様で設定されていた廊下のループも、そのまま機能しているのかはたまた別の形で作用しているのか未知数だ。

(そもそも、あのタイムリミットイベは壊滅ルートでのみ起こる事。あれはクリアしないと主人公もお陀仏の即ゲームオーバー前提だったから、全力でルートも覚えたなぁ。けど、今は鑪さんが急に来て何でか知らないけど魔道具達と戦ってる。ゲームの時とはここを通る理由も、状況も、タイミングすら違う)

 なぜ鑪がここにいるのか、そもそもどうやって来たのかも分からない晶子には、はたしてこの廊下を無事に抜ける事が出来るのか不安で仕方なかった。

 施設内の全てを見て回れている訳でも無い分、頭の中にある地図との比較が完全でない事も要因の一つだ。心の中に不安が募っていくが、時折揺れる施設全体の事を考えればそう悠長な事は言っていられない。

「……えぇい、不安やなんや言うてる場合か! こうなりゃ直感で進むだけや!!」

 あれこれ考えていても答えは出ないと、晶子は意を決して一歩前に踏み出した。その瞬間、階段周りにあった瓦礫の山が、意思を持っているかのようにひとりでに動き出す。

 それらはあれよあれよという間に階下へ続く階段を塞いでしまい、後には長く続く廊下だけが残っていた。

「え、えぇ……一瞬で階段無くなったんですけど……え? これ下降りれない……」

 嫌な予感に冷や汗が止まらない晶子だったが、更に追い打ちをかけるような出来事が起きる。


 ——ジャキンッ


 背筋を凍らせるような音が響いた後、後方の壁を見ればそこには一面を埋め尽くす鋭利な刃の山。それがなんであるかを理解するよりも早く、壁はゆっくりと、しかし確実な速度で晶子の方へと迫り始めたのだ。

「ちょ!? こんなギミック無かったよね!?」

 身の危険を感じてすぐさま逃げ出した晶子。だが壁は徐々に迫る速度を上げているようで、その距離をだんだんと詰めて来ていた。

(こっんな即死級のトラップあるとか聞いて無い!! しかも速くなってきてるよね!? 次見つけないとマジで死ぬ!!)

 本気で命の危機を感じながら、晶子は次の階への階段を見つけようと目を凝らす。すると、さほど遠くないところに目的のものを発見し、パッと表情が明るくなる。

「みーっけ!!」

 晶子はマナを足の裏に溜めるイメージをすると、次いでそれを爆発させた。爆発したマナはジェット噴射のように晶子の体を前方へと押し出し、一瞬にして壁との距離が開く。

「うおっとと、意外とバランスがムズイな」

 そう言いつつも、転移特典で強化された体幹は瞬時にその速度に対応し、晶子は滑るようにして階段に辿り着いた。

 そのまま上階へと駆け上がれば廊下中に響いていた壁の迫る音は消えたものの、当然それで終わる訳も無く。

 再び塞がれた階段に口元を引き攣らせた晶子を嘲笑うように、今度は奥の廊下から三つ、横壁から一つの巨大な丸形チェーンソーが姿を見せ、耳障りな音を立てて回転しだした。

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 先程の単調な仕掛けであった壁とは比べ物にならない速度と動きで向かって来る凶器に、晶子は絶叫しながら走り出した。

「しぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬぢぬっ!!」

 時折煽るような動きで迫って来る壁のチェーンソーを躱し、血反吐を吐く勢いで叫びながら上層への階段を駆け上がる。が、またしても階段を上り切った瞬間に罠が作動し、今度は上下左右の廊下全体の壁が順にせり出し圧し潰そうとしてきた。

「圧死もイヤーーーーーー!!」

 思わずぺちゃんこになった自分の姿を想像してしまい、晶子は再度絶叫しながら全力で駆け出す。

「こんな即死スチルてんこ盛りな感じのマップじゃなかったっしょここ!? なんでこんな見た事ないトラップばっか作動してんだふざけんな!! ああああああああ次の階段はよぉ!!」

 半狂乱になりながら走り続ける晶子が、片面の壁が無く外が丸見えになっている外郭部に来た時だった。

「晶子! こっちだ!!」

 罠の作動する騒音に慣れ始めていた晶子の耳に、今一番聞きたいと思っていた声が届いた。

「アルベート!! ってえ!? アルベートが飛んでる!? 羽ついてる!? ナンデ!? あんた、あたしがいない間に体改造しちゃったの!? 何してんの!?」

 喜色に染まった顔を上げてみれば、そこには空を飛ぶアルベートの姿。背中には体よりも大きな翼が生え、赤銅の体とあまりにもミスマッチだった。

「ちっげぇよ落ち着け!! 空飛べる魔道具に協力してもらってんだよ!!」

 アルベートはそう言うなり、器用に背中を見せるように体を捩る。確かに彼の背中には、継ぎ接ぎに縫われた衣服を身に纏う天使のような魔道具がおり、アルベートの事を抱きかかえる形になっていた。

「あ、ホントだ。良かった~、知らない間にアルベートが体弄ったのかと思ってマジ焦ったわ……」

「そんな事しなくても、俺様はかっこいいからな!! って、それより速くこっち来い!! 上上がるぞ!」

「え、でもこの先にある階段使えばいいから」

「その階段は鑪が暴れに暴れたせいで崩れちまって、廊下そのものが潰れちまってるから使えねぇんだよ!!」

「ファッ!?」

 まさかの発言に、晶子はぎょっとした。慌てて前方を確認すれば、アルベートの言うように階段があったと思わしき所どころかその先にも瓦礫の山しか無く、完全に塞がれている状態だった。

「まーじで鑪さん何しとんの!? あの人一体全体どうした訳!?」

「そらおめぇ、晶子が攫われて気が気じゃなかったんだよ! 良いから早くしろって!」

 アルベートが手を差し伸べて来たのとタイミングを同じくして、背後から何かを盛大に破壊するような音と、ゴトゴトと何かが転がるような音が聞こえてくる。

 思わず後ろを振り返ってしまった晶子は、迫りくる壁を壊しながら転がって来た鉄塊の姿を目にしてしまい、見るんじゃなかったと後悔した。

(あれは本気で無理!!)

「晶子!!」

「ちゃん、と、受け止めてよ、ね!!」

 晶子は血の気の引いた顔でアルベートを見ると、マナを使ったジェット噴射を使って勢いよく外郭の外へと飛び出した。

 次の瞬間、晶子のいた廊下を勢いよく転がっていった鉄塊が瓦礫の山にぶつかり、派手な音を立てて土埃が舞う。ぶつかった衝撃で大破した廊下は崩れ落ち、鉄塊諸共外界へ次々に落下していった。

「ふぅー……危なかったな」

「ほんとにね……」

 止まる事無く動き続ける廊下のトラップを見て、晶子は大きく息を吐き出した。

「ありがとね、アルベート」

「どうってことねーよ」

「君も、アルベートに協力してくれてありがと」

「♪」

 天使にも礼を告げれば、嬉しそうにハミングをする。どうやら言葉の喋れないタイプだったようだ。

「君とはあんまり話した事無かったね。また落ち着いた時にでも、御礼させてね」

「!! ♪♪♪」

 晶子の言葉に、天使はご機嫌な様子でふわふわと舞い上がる。

「おわぁ!? おいおい、嬉しいのは分かったから、ちょっと落ち着けって! こんな空の上でフラフラすんな!」

「! ……♪」

「ふぅ、わかりゃ良いんだよ。ほら、暴れん坊殿を落ち着かせなきゃいけねぇから、俺様達を上の部屋に連れてってくれ」

 謝罪するように旋律を奏でた天使はアルベートの指示に素直に頷くと、晶子達の負担にならない程度の速さで上昇し、外壁に空いている穴から演説を行った部屋のある階層へと向かって行く。

「はぁ~……ヘリオさんの私室から抜け出す時にもこうやって空飛んだけど、あの時と比べても雲泥の差だわ」

「いや、あれは飛んだって言うより落ちたって方が正しいだろ」

「シャラーップ!!」

「♪♪♪」

 ちゃちゃを入れてくるアルベートをあしらう晶子の様子を見て、魔道具は二人が遊んでいるようにみえるらしく合いの手のようにハミングをする。

 そんな暢気な姿に毒気を抜かれてしまい、晶子は言い返そうとしていた言葉を飲み込んで、大きく溜息を吐き出した。

「で、あたしが攫われたから暴れまわってるらしいけど、なんでそんな事になってんのよ?」

「冗談だろ?? ここまで来てその反応は流石にねぇよ」

(うっ……いや、うん……言いたい事は分かってんのよ、うん)

 訝し気な目でじぃーっと見つめられてしまい、晶子は気まずそうに口籠る。彼の言う鑪が暴走している理由が本気で分からない程、晶子は馬鹿ではない。

 しかし、そう言った類の感情を彼から向けられる理由には、全くもって心当たりがないのだ。

「だ、だってぇ……あたしとしては、鑪さんはあくまでも最推しであって、ガチ恋は違うと言うか……」

 魔道具が見つけた比較的に損壊具合がマシな床に降ろしてもらった晶子は、駆け足で広前と向かいながら並走するアルベートに言い訳を並べ立てる。

「そもそも、鑪さんとあたしは本来敵対する者同士な訳であって、そんな相手に対して恋心だのなんだのを抱いたりなんてあるはずないって思ってて……」

「だが現に、あいつがお前に向けてる矢印には特別な色が混じってるぜ?」

「なんでそんなに断定的なのよ……なにか根拠でもあるの??」

 はっきりと言い切るアルベートに眉根を顰めて問えば、彼はやれやれと肩を竦めながら首を振った。

「はぁ~あ。あのなぁ、あいつは基本無口で表情も変わらねぇから何考えてんのか分かりにくいがよ、大抵の場合は態度に出てんだよ。三人で行動してる時なんかは、決まって晶子の方に視線が向いてるし、その辺を歩いてる時だって常に晶子の隣をキープしてたじゃねぇか」

(……あれ……言われてみれば、確かに、そうか、も……?)

 思い返せば、心当たりがある。鑪に話しかけようと彼の名を呼べば、ほぼ即答で返事が返ってきた。また、帝国への道中や神樹への道のりなど、徒歩と乗馬と言う違いこそあれ、鑪は必ず晶子の真横に並んでいた。

「あと、お前は気付いてねぇみたいだけどよ、あいつ事あるごとに俺様のとこに来ては『晶子は宝石は好きか』とか『嫌いなものは何か』とか聞いてくんだぜ? こないだなんか、『女子は花を贈られると喜ぶと聞くが、晶子は花は好きだろうか』って言ってやがったから、神樹での療養が明けたら渡すつもりにしてたんだろうよ」

「えぇ……ガチガチのガチじゃない……??」

 あまりにも本格的な質問に、晶子はそこまで好かれるような事をしたかと慄く。とは言いつつ、自身の今までの発言を思い返して見れば、結構な割合でダイレクトな告白をかましているのだからさもありなんといった所だろうか。

「それとこれもお前気付いて無いだろうから教えてやるけど、鑪の触覚がめっちゃくちゃ動き回んのは晶子と会話してる時だけだからな」

「あれそうなの!?」

 まさかの事実に雷に打たれたような衝撃が走った。

「て、てっきり鑪さんみたいな種族の人達の標準なんだと思ってたんだけど!? え、でもアルベートと話してる時もめっちゃ動いてなかった!?」

「そりゃお前と俺様とあいつの三人で会話してる時だろ? あいつと二人っきりの時なんか、触覚のしょの字も動かねぇよ」

「まじかよ」

 生真面目で正義感が強く、義理人情に厚くて道理を通す主義の堅物。それが晶子の知る鑪という人物だ。

 ゲーム中でも頭が固く融通が利かないと揶揄され、一部のNPCからは戦闘狂のように扱われる事も多かったが、決して己の信念を曲げず義理人情を貫き通す高潔な武人。

 そんな鑪が晶子の言動で一喜一憂し、今回に限っては一方的な蹂躙と言っても差し支えない暴挙に出ている。

 内心、最推しにここまで想われている事に喜びを感じていた晶子。しかし、それ以上に困惑の感情が強く、素直に嬉しいと思えずにいた。

「いや、でもさ。やっぱ可笑しいって! 鑪さんみたいな人、他の人とかにも色々ちやほやされてると思うし、そんなあたしの発言一つで好きになるとか有り得ないって。第一、あたしにとって鑪さんは最推しなだけであって」

「あのよ」

 必死に言い訳を並べる晶子を、アルベートが遮った。

「それ前も言ってたけどよ、最推しだったら異性として意識しちゃいけねぇのか?」

「それ、は……」

 その問いかけに、晶子はすぐに答えられなかった。

「別にそんな決まりなんてないだろ? なら、お前があいつを好きって思ってても何も問題ねぇじゃねーかよ」

 アルベートが何か言う度に、段々と晶子の歩みが遅くなっていく。ずんずん進んで行くアルベートとの距離は必然的に開いていき、追い付こうと意識するも足は鉛のように重く上手く動いてくれない。

 そんな晶子の様子にアルベートはすぐ気が付いたようで、彼は少し離れた位置で立ち止ると、くるりとこちらを振り返った。

「……っ」

 真っ直ぐに見つめてくる黄色い双眸と目を合わせる事が出来ず、咄嗟に俯いてしまった晶子にアルベートが続ける。

「それに晶子の世界にあったゲームでも、英雄達との好感度の有無でちょっとした追加ストーリーみたいなのもあったじゃねぇか」

 実はWtRsのストーリーには後日談のようなものがあった。ラスボスを倒したあとのムービー後、スタッフロールが流れている後ろで、主人公が関わって来た人々のその後が流れるのだ。

 当然各シナリオをどのルートでクリアしたかによって流れるムービーが変わるのだが、中でも多種多様なのが、主人公と英雄達の関係にまつわるものである。

 ゲーム中で発生する英雄達に関わるサブイベントや会話で好感度が上がるような選択をし続けていると、内部データで処理されている隠れ好感度が上がっていき、最終的に最も高い英雄と主人公のペアエンドが見れるようになっていた。

「晶子は結構な頻度で鑪とのペアエンドを見てたと思うがよ、お前があいつに対して抱いてるその感情は、本当にただ推しがどうとかいうだけのもんなのか?」

「……そ、れは……」

 その問いかけに、晶子の足が完全に止まってしまう。

 正直な所、晶子にも分からなくなっていた。現実世界では確かに好きだと豪語できる程に押していたし、堂々と宣言していた。

 だが、今はどうか。この場に現実世界でのオタク仲間がいて、彼ら彼女らに鑪が好きかと問われた時、果たして己が答えるのは推しとしての好意なのか、それとも——。

「あたしは——」

 俯いたままアルベートの問いかけに答えようとした時、これまでで一番大きな揺れと共に、凄まじい轟音がフロア全体に響き渡った。

「ぬあ!? こ、こりゃ一体……まさか、鑪とハーミーズか!?」

「!!」

「あ、おい待て、晶子!!」

 焦るアルベートを置き去りに、晶子は一目散に戦闘が起きているであろう広間へと駆け出した。

 瓦礫の山を飛び越え、崩れた廊下を進み、そうして到着した目的地の惨状に目を見開いて硬直する。

「……ひ、ひどい……」

 人間の事を学ぶ為の教室代わりとして使われていた広間は、散々に暴れまわった鑪と彼の攻撃を防衛する魔道具達によって見るも無残に荒れ果てていた。床のタイルは抉れて天井も一部崩落、更には数体の魔道具達が力なく転がっていて晶子は背筋が凍る。

 屍とも見間違えそうな程にピクリとも動かない事に焦り、晶子は慌ててマナを使って彼らの様子を確認する。

(……良かった、誰も壊れて無い)

 幸いな事に、誰一人として機能停止している者はおらず、人知れず胸を撫でおろした。

「全く、相変わらずのダイアモンド頭だね。ちょっとはこっちの話を聞いたらどうなんだい?」

「悪事を働く者の話に何の価値がある。言い訳無用、己が罪に大人しく罰せられるのが定めであろう」

(……ハーミーズと、鑪さん)

 そうして顔を上げた先、広間の一番奥まった所では、複数の魔道具に囲まれた鑪と、そんな彼と対峙し煽るように牽制するハーミーズの姿があった。

 そんな時、ちょうど鑪の死角から誰かが飛び出し、攻撃を仕掛けようとする。しかし、そんな事はお見通しだったようで、鑪は一瞬で相手が手にしていた物を太刀で振り払うと、その腕を掴んでこちらに向かって放り投げて来た。

「っ!」

 反射的に受け止めた晶子は、自身の腕の中に収まったそれが装飾も装甲も破損してボロボロになったミスオラージュだと知り酷く驚愕する。

「オラージュ!? ボロボロじゃないの!!」

「しょうこ、さま……?」

 弱弱しく名を呼ぶミスオラージュにあまり良くない状態だと直ぐに察した晶子は、彼女をその場に座らせると回復魔法をかけようと手を翳す。

(……いや、あたしの場合は再編の力を応用して、損傷個所を修復する方が確実なはず!)

 そう思うなり、晶子は損傷部位の再編を始めた。元々、そこまで大きな破損は無かった為、ものの数秒程度で再編は完了。だがあくまでも表面的なものを直しただけであり、専門的な知識のない晶子では内部機構の損傷を正しく再編出来る自信がなかった。

「……ぁ、きずが」

「あくまで応急処置だから。後はあたしが何とかするから、君はここで休んでて」

 晶子はそう言って、ミスオラージュの頭部を撫でる。それに安心したのか、ミスオラージュが一瞬ふわりと微笑むと、そのまま強制的にスリープモードに入ってしまった。

「おい晶子! 俺様を置いてくなよ!!」

「ごめん、お説教なら後で聞くから。今は彼女をお願い」

「お、おう。分かった」

 天使型の魔道具に抱えられて追い付いてきたアルベートにミスオラージュを預けると晶子は立ち上がるり、演説したあの日からずっと胸元に付けていたブローチから杖を再編する。

「晶子、さっきも言ったがよ」

「鑪さんがあたしの事を心配してくれてたって事は、アルベートの話を聞いて良く分かってるつもり」

 不安そうな声色で言いかけたアルベートに、晶子は素早くそう返す。

「魔道具達がやった事は誘拐だし、それを擁護する訳じゃないよ? でも、やっぱりこんなやり方は間違ってる。それに、鑪さんらしくないよ」

 普段の鑪なら、例え悪事を働いていた相手だったとしても、有無を言わさぬ粛正をしたりはしないはず。それを分かっているからこそ、晶子は彼を止めなくてはいけないと思うのだ。

「今のこの場にいる中で、鑪さんを止められるのはあたしとハーミーズくらい。だったら、心配かけた責任を取らないと」

「そうか……気を付けろ、相手はあの英雄一の武勇を誇る鑪だからな。好意のある相手だからって、手加減してくれるとは思えねぇからな」

「うん。それも承知の上だよ」

 杖を強く握りしめて、晶子は一歩ずつ歩みを進めていく。

(こんな形で、鑪さんと戦うかも知れないなんて……あまりいい気分はしない、けどそうも言ってられない。でも……)

 出来れば会話で解決出来れば良いと淡い考えを抱きながら、晶子は一進一退の攻防を繰り広げている鑪とハーミーズの元へと近づいていくのだった。

次回更新は、3/20(金)予定です。

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