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「嘘でしょ鑪さんなにやってんの!?」

※ 一部文章を訂正しました。

(『MY DEAR MEMORY』……『私の愛しき記憶』? いや、この場合のMEMORYは思い出って方が正しいのか? いやいや、今重要なのはそこじゃなくて、なんでゼファーちゃんの項にこんな言葉が刻まれてるの?)

 製造番号でも識別番号でもなく、何かしらの意味を持っていそうな単語の並び。それが意味するところが何なのか分からず、晶子は困惑する。

(え、ゼファーちゃんにこんなのがあるって誰も知らないよね? WtRsで見た事無いはず……まじでこれどう意味? てか、誰がこの言葉をわざわざゼファーちゃんに刻んだの?)

 心当たりのある人物で真っ先に思い浮かんだのは、ゲームで研究所編の実質的なダンジョンボスだったヴィクターだ。十三代目アクラニャー所長の為に歪んだ思想を掲げる彼は詩編的な言い回しを好んでいた部分があるので、可能性はあるかもしれない。

 だが、それも彼がこの研究所で暗躍しているのであればの話である。既に一ヶ月近いの時間を過ごしてきたが、ヴィクターからの接触は未だ一切ない。

 それどころか、やはり探せど探れど『ヴィクター』と名のついた魔道具など存在しないと結論付けられる情報しかでてこないのだ。

 確実に敵対する事になるだろうと踏んでいた晶子からすれば、黒幕が姿を現さないどころか、居たという情報すら見つからず気味の悪さしか感じられない。

 突然現れては場を乱して退場していく可能性も無きにしも非ず、最近ではありもしない視線や気配に敏感になっているような気がしていた。

(こんだけ姿が見えないって、もしかしてマジで存在自体が抹消されてる? 淀みの精霊の介入で、精霊側に不利益な情報が意図的に隠されてたとかはあったけど、こんなにも重要な人物の存在が丸ごとなくなるなんてことありえる??)

 帝国や神樹での戦いでは、確かに晶子の記憶にない情報が多く出て来た。しかし、それらは元々あったものが無くなったのではなく、意図的に隠されていたと言うだけ。

 対してヴィクターに関しては、話の一つどころか彼がいたであろう痕跡すらも見当たらないという異様さ。

 黒幕不在というあまりに異色すぎる状況に、晶子の背中を嫌な汗が伝い落ちていった。

(どうして彼はいないの? 淀みの精霊に消された? いや、世界に混乱や淀みを広めるのが目的なら、ちょっと唆すだけで人間と魔道具をいい感じに煽ってくれるあの狂信者を使わない手はないはず。じゃあハーミーズ?)

 WtRs公式が出している設定からしても、十三代目の研究を邪魔し施設を破壊したハーミーズと狂信者ヴィクターは対立関係にある。

 ハーミーズがゲストキャラとして参戦するルートの戦闘では、互いが互いを口汚く罵る台詞パートが用意されており、その仲の悪さが良く分かるようになっている。

(便宜上壊滅ルートって呼称してるあのルートの場合、ヴィクターが戦闘中に呼び出す手下がこの研究所にいる魔道具達になって、ハーミーズがゲストキャラとして参戦してくれる。ハーミーズのおかげでこっちの戦力は十二分すぎるくらいなんだけど……魔道具達が倒される度に、最期の一言を残していくのがまあ……辛すぎた)

 台詞は各魔道具達に用意されており、それぞれ人間と対立してしまった現実を嘆き悲しんでいるものばかり。

 そのなかに人間達を責める言葉が一切含まれていない事が更なる悲壮感を醸し出しており、一週目に和解ルートを選んだプレイヤー達の情緒を軒並み地獄に叩き落したのだった。

(攻略サイトのコメ欄、ゾンビが大量に沸いててゆか……んん、酷かったなぁ……。まあ、あたしも同じだったけど……)

 初見時の事を思い出し、晶子はついフッと乾いた笑みを浮かべてしまった。

(そのくせ、この戦闘ってイベント戦に分類されてたから、ある程度ヴィクターの体力削ったら暴走した魔道具の流れ弾でやられるっていうね)

 この戦闘において、ヴィクターにトドメを刺すのは主人公ではない。主人公達のいる付近で人間と交戦していた魔道具が放った流れ弾が、寸分の違いなくヴィクターの心臓部を打ち抜き、それによって彼は物言わぬ存在へと成り果てるのだ。

(てっきり自分の手でヴィクターを終わらせると思ってたから、まさかの結末というか、顛末に唖然としたよね……ちょーぜつモヤった……)

 呆然としているうちに自動で会話イベントへと進んだかと思えば、そのままボス戦へと突撃する壊滅ルート。いくらハーミーズの加入条件になっているとはいえ、各周回においてこのルートを選ぶプレイヤーはほとんどいなかった。

(まあ、あたしはプレイアブルNPCみんな仲間にしたい派だったから、毎回発狂しながらこのシナリオやってたけどね……)

 各魔道具達の死亡台詞や人間達の罵詈雑言、話しが進むにつれてより悲惨に、凄惨になっていく研究所内に奇声を上げながらプレイしていたのを思い出して、晶子は白目をむいた。

(あんなにも精神ガリガリ削られる壊滅ルートの反面、和解ルートは超絶平和だったなぁ。ヴィクターとは確かに戦うんだけど、ボス戦っていうか、まさにイベント戦って感じのちょっと耐久力がある雑魚モンスター相手にしてるやつ)

 晶子の言うように、ヴィクターとの戦いは戦闘の一切起こらない和解ルートでも発生する。だが、彼自身の能力はそれほど高くなく、どちらのルートであっても大した脅威ではない事もあってプレイヤー間からの評価は正しく『ちょっと固い雑魚』程度であった。

 実際、ゲーム内で戦うヴィクターのモデルは、ラストダンジョンに突入できる少し前から出現するプロトロボットという名称のモンスターに、若干の装飾と能力値の改変を行ったもの。

 元のプロトロボットよりも戦闘性能は良かったが、如何せんAIがあまり賢いとは言えず、よほどレベル上げや装備の更新などをサボっていなければ十分もかからず倒せる程度の強さしかない。

(そのくせ、こっちのルートでも最後は自分で投身して終わるってオチだから、こいつ関連ってなんとも後味が悪いと言うか、歯切れが良くないと言うか)

 彼の終わり方については、現実でも賛否両論が飛び交う程だった。

 そんな色々な意味で物議を醸しだした敵であるヴィクターが、どういう訳かこの世界では姿形も見当たらない。

(……これをヴィクターが仕込んだとして、これって十三代目との思い出の事を言ってるのかな? それとももっと別の何か? あ゛ぁ゛~この間ハーミーズと会った時に、彼にもヴィクターの事聞いとけば良かった。なんで忘れてんだあたし!)

 重要な所をいつも忘れている自分に苛立ち、晶子は頭を掻き毟る。

(女神とも未だに連絡つかないし、マジでどうなってんの研究所編。いや、どうもこうもこの世界とゲームは違うんだから当然なのかもしれないけどさぁ……神樹の時と比べても元のシナリオから想定を超えた改変、というか相違が出てて困惑と言うか混乱しかしないんだけど??)

「あの、晶子様?」

 WtRsのシナリオとあまりにも乖離している現実に手を拱いていると、沈黙したままの晶子を訝しんだゼファーが声をかけて来た。

「……え!? あ、なに!?」

「ずっと黙り込んだままだったので、どうしたのかと」

「あ! ううん、何もないよ!」

 咄嗟に何もないと首を振った晶子に対して、顔を上げたゼファーは首を傾げながらも一先ずは納得したようだ。

「それで、どうでした? 私の製造番号は」

「あーうん、ちゃんと書かれてたよ」

 詳細を伝えても良いのか分からず、適当に誤魔化してしまった晶子。だがゼファーは特に気にした様子も見せず、晶子の言葉に笑みを浮かべた。

「あ、もう体起こしても良いよ。同じ体勢は辛いだろうし」

「? 分かりました」

 晶子の言った意味をきちんと理解していないようだが、指示に従って素直に状態を起こす。

(なんか反応が……あ、そっか。ゼファーちゃんは魔道具だから、同じ体勢を長時間続けて疲れるとか無いんだった)

 きょとんとしたゼファーの様子を疑問に思った晶子も、彼女が人間ではない事を思い出し、すぐにその表情の理由を察した。

(見た目が人に近い分、つい普通の人間と同じような対応しちゃうな……まあ、そんな事関係無く、あたしは普通に人扱いしてるけど)

 推しを愛するオタクにとって、人間であるか無いかなどの種族の違いは些細な問題である。そのため、例えゼファーが人であったとしても晶子は今と同じように愛を捧げるだろうし、魔道具である目の前の彼女の全ても愛していると断言出来た。

(人間だろうがそうじゃ無かろうが、推しが推しである事にかわりないし。それに人間的な部分のあるこの子達に人みたいに接して何が悪いのか?? なんか文句でもあんのか??  おぉん??)

 不意に、自身と主義志向の合わないユーザーの事を思い出して気分が下がる。どちらかと言えば、晶子は他人の好みについてとやかく言わない、寧ろ『みんな違ってみんな良いよね』タイプだ。

 例えアンチだろうが「うんうん、そう言う考え方もあるよねぇ~わかるぅ~」と受け流してしまえる方なのだが、数年前に攻略サイトの掲示板で鉢合わせる事になったあるユーザーだけはダメだった。

 そのユーザーはいわゆる、人間以外は底辺種族でぞんざいに扱ってもいいという思考をしており、かつその思想を他者にまで強要するややこしいタイプだったのだ。

(なぁーにが「人類最強! やっぱ人間以外の種族はメンタルクソ雑魚でどうしようもないキャラしかいねぇw なんでこんなに異種族ヒロインとかが人気なのか意味不明だわwww」よ! なぁ~にが「お前、鑪好きなの? ちょ、うけるwww あんなんただの見た目派手な虫じゃん」じゃ!! うるせぇ!! お前の意見なんか誰もきいとらんのじゃボケが!!)

 尚、あまりにも各キャラクター達を貶す発言を繰り返すので、攻略サイトは当然出禁。おまけにSNSにまで悪口を書き込んでいたので、特定した一部のプレイヤー達から総攻撃を受けて炎上し、いつの間にかユーザーは姿を消していた。閑話休題。

「……何か、不都合な事でも書かれていましたか?」

 不愉快な相手を思い出して顔を顰めている晶子に何を思ったのか、ゼファーが不安げな面持ちで尋ねてくる。

「私の項を確認してから、晶子様の様子がずっと変ですし……何か、良からぬ呪文でもあったのかと……」

「いやいやいや!! そんな事無いから!! 単にちょっと昔遭遇した嫌な奴の事を突然思い出しちゃってこう、腹の中がモヤモヤしたと言うかなんというか」

 胸の前で両手をぎゅっと握りしめるゼファーに怖がらせてしまったと罪悪感が沸き上がった晶子は、大袈裟な身振り手振りを交えて言い訳をした。

「とにかく!! ほんっとうに、ゼファーちゃんの項に何かあったとかじゃないから!!」

「では、何が書かれていたのですか?」

 揺れ動く瞳でこちらを見るゼファーに、ここで変に誤魔化せば彼女との仲がこじれてしまうかも知れないと考えた晶子。頭を掻きながら小さく溜息を吐くと、晶子は今しがた目にした文字列と、自身の考察をハーミーズの部分を除いてゼファーにも分かるように説明した。

「なるほど……その、ヴィクターと言う魔道具が、私達と人間達の仲を引き裂ことしてると」

「と、思っとるんやが……今言ったみたいに、当の人物の影も形もないんよ。知ってそうな古参の魔道具達に聞いても「そんな魔道具はいない」って言うし、人間側にも念のため確認はしたんだけど、だーれも知らないって」

 書斎の本も手あたり次第探したが、そこにすらヴィクターの名前は無かった。

(あんだけ十三代目に心酔してたし、実験台に成れって言われたら喜んで魔道具になりそうよね。もし魔道具になった事で名前が変わった、て変えられたかもってなると『ヴィクター』って名前が本名なのか後から付けられたもんなのかも分かんないし、これ以上探しようが無いのよね……)

 晶子の知るヴィクターは人型魔道具だ。ゲーム内で彼の過去が語られる事は皆無に近く、あるのは古い経歴書という書籍アイテムに書かれた大雑把な経歴と、十三代目に心酔する狂人であるという情報のみ。

(この経歴もマジでざっくりどのへんで生まれて、色々あってここに辿り着いた~みたいにしか書かれてなかったもんなぁ。あの人も大概謎な人物だけど、びっくりするくらい掘り下げが無いからなぁ……)

 WtRsはそのキャラ毎の様々な情報をゲーム内各所に鏤めている。

 帝国編で立ち寄る事が出来る帝都内図書館では、英雄と異界の巫女が解決した事件のまとめ本のようなものが置かれており、過去英雄達が行って来た善行や偉業の数々が収められている。

 また神樹編敵対ルートで入れる常世には、なぜか水の英雄が愛した楽曲の楽譜が落ちており、後のサブイベントで使うと特殊演出を見る事が出来る様になったりする。

(収集要素の中にキャラ達の出自の秘密やら、嗜好好物情報までのせてるから集めるのに躍起になってたっけなぁ)

「で、念のためもっかい確認するけど、ゼファーちゃんはヴィクターって奴に心当たりは」

「無いですね……今ちょっと施設内に保管されてる記録を検索してみたんですけど、そこにも該当する人物、もしくは個体は存在していませんね」

(一瞬目が光ったと思ったら、施設内にあるデータを漁ってくれてたのか)

 しかし、これでますます分からなくなってしまった。施設内全ての実権を担っているに等しいゼファーが調べても検索にヒットしないという事は、ヴィクターなる人物は初めから存在していない事が裏付けされたも同然。

 いない者をいくら探した所で、何も出てこないのは当然だ。

「……」

「晶子様?」

「わざわざ不安にさせる事ないって思って言わなかったんだけど、率直な感想を聞かせて欲しいからこの考えも話しておくね」

 改まったように話し出す晶子の言葉を聞き、ゼファーの体が強張る。

「あたし、ハーミーズがヴィクターを始末したんじゃってちょっと思ってる部分があるの。彼、実はこの施設と色々と因縁がある人だから、もしかしたらって」

「は、ハーミーズはそんな事しません!!」

 出会った中で一番大きな声を出したゼファーに、晶子は驚いて固まってしまった。

「た、たしかにハーミーズはちゃらんぽらんで、不真面目で面倒臭がりで人付き合いも苦手ですし、誰かと長く交流しているのとか見た事も聞いた事も無いですけど! でも、そんな誰彼構わず命を奪うような事は絶対しないです!!」

「え、あ、お、おぉ……そ、そうだよね。うん、うん……」

 あまりの剣幕に、晶子は困惑したまま相槌を返す以外出来なかった。それほどゼファーの勢いは凄まじく、こちらの口を挟ませまいとする意図すら透けて見えるほどだ。

「だから、だから! その、えっとぉ……!!」

(あまずい)

「うん、ごめん、ごめんね。あたしが悪かったから、落ち着いてゼファーちゃん」

 ゼファーの頭部からぎゅるぎゅると軋んだような音が高速で鳴っているのに気付いた晶子は、明らかな異常音にこれは不味いと声をかける。

 出来るだけ穏やかに柔らかな声色を心がけて何度も大丈夫だと言い続けていれば、ゼファーから聞こえていた異音は徐々に小さくなっていき、やがて平時と同様の静かな駆動音が響くだけになっていった。

「す、すみません……」

「ううん、あたしもいらんこと聞いちゃってごめんね」

「いえ……あの、私やっぱり、ハーミーズがそんなことしたって思えないんです。あの人、ああ見えて優しいから……」

 未だ不安を隠しきれ無いように俯くゼファーの口から紡がれる言葉はか細いながらも、決して揺るぎがない。

 それだけハーミーズの事を信頼し、彼が例え因縁のある相手だとしても軽率に命を奪ったりしないと信じているのだろう。

「本当に、あの人は飄々としてて一線を引きがちですけど、私の事も心配してくれてよく顔を見せに来てくれるんです」

「へぇ、それって外の話を色々話してくれるんだよね?」

「はい!」

 問いかけに笑顔で返すゼファーに、晶子は少しホッとした。

(明らかに鳴っちゃいけない音してたからどうなるかと思ったけど、元の明るいゼファーちゃんに戻ったみたいで何より……でも、そっか……あたしはまだ、皆の事を頭の何処かでゲームのキャラってしか思えて無いのかも)

 ゲームのキャラであれば、プログラムされた通りに動くのは至極当然の事だ。しかしここに、この世界に、彼らは正真正銘『生きている』。

 そこには感情があり、思惑があり、それらは決して一筋縄ではいかないものだ。

(現実でだって、衝動的に行動して罪を犯す人もいれば、憎い相手に手を差し伸べて救いあげようとする人もいる。……簡単じゃないもんね、心って)

 ハーミーズも元を辿れば一人の人間である。彼だって苦悩もするし、葛藤する事もあるだろう。

(なのに、あたしったらハーミーズは問答無用でヴィクターを始末してるってはなから疑っちゃって……ほんと、気を付けないと)

 思い込みで先走りし過ぎた事を密かに反省していた晶子だったが、次にゼファーが呟いた言葉に思考が引き戻される事になった。

「それに、ハーミーズの話は黒さんと違って、明るくて思わず笑っちゃうものばかりなので、実は密かな楽しみなんです。」

「……黒さん?」

 これまで、一度も話題に出た事の無い新たな人物・黒。ゼファーの性格上、恐らく見た目のイメージでそのままあだ名をつけたのだろうと思ったが、それだけにしては妙に引っ掛かりを覚えて仕方が無い。

「あ、黒さんはですね! ハーミーズと同じように不定期にやってきては、私に外の世界の事を教えてくれるんです! 晶子様が神樹という所に捕らわれていると教えて下さったのも、黒さんなんですよ!」

(神樹での事を知っている……?)

 途端、頭の中に警鐘が鳴り響く。背筋を冷たいものが流れ落ちる感覚がして、口の中が急速に乾いていくようにすら感じていた。

「そういえば、晶子様がこちらに来られてから全く来られなくなりましたね。何かあったんでしょうか? 黒さん、時々様子が可笑しいと言うか、遠回しに言い残していくから結局何が言いたいのか分からなくて」

(いや、いやいやいや——まだそうと決まった訳じゃ無い)

「そ、の黒さんって、どんな人なの?」

 嫌な予感に胃の中が重くなりつつも、晶子は吐き出そうとした溜息を飲み込んで、『黒さん』なる人物について問いかける。

「黒さんですか? 黒さんはですね——」

 覚悟を決めて唾を飲み込んだ晶子がゼファーの言葉を待った、次の瞬間。


 ——ドォオオオオオオオオオオンッ


「どわあ!?」

「きゃあ!?」

 地響きにも似た轟音と共に、施設が大きく揺れた。飛び上がる程に驚いた晶子が何事かとゼファーを見ると、彼女は既に施設の異変を受けて緊急対応モードへと移行しており、データの海に思考を潜らせている最中だった。

「現状把握中……現状把握中……警告……警告……外部からの侵入者あり。施設外壁の破壊を確認。場所、施設上層。人間居住区用広間」

「居住区用広間……? あ、もしかしてあの演説した部屋の事?」

 晶子がそう尋ねるも、未だ情報を精査しているゼファーからは明確な返事はなかった。

「侵入者、一名と一体。個体識別……識別完了。侵入者は土の英雄・鑪であると断定。なお、ミニゴーレムについては名称・製造者未登録の為、早急な情報収集を行う事を推奨」

「鑪さん!?」

 まさかの名前に懐かしさやら嬉しさを感じるよりも早く、晶子はなぜこんな暴挙に出たのかと混乱した。

「侵入者・鑪、現在現場に駆け付けた魔道具と交戦中。なお、戦況は悪く、魔道具側が圧されている模様。至急……至急……。戦える者は速やかに現場に急行せよ。繰り返す——」

「嘘でしょ鑪さんなにやってんの!?」

 ゼファーの口から告げられた最悪の事態にすぐさま部屋を飛び出して、晶子は急ぎ騒ぎになっている広間へ向かうのだった。

次回更新は、3/6(金)予定です。

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