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(……は? いや、待ってくれ。どう言う事?)

 無邪気な子供のようにはしゃぐラニアに連れられてやって来たのは、二階部分にあるとある一室だった。

「ここが、私のアトリエですわ」

「わぁ……!!」

 招き入れられて足を踏み入れた部屋の中にあった光景に、晶子は思わず感嘆の声を漏らした。

 書斎のように壁一面を覆う本棚と、歯抜けながらもそこに収められた無数の本もさることながら、一番に目を引かれるのは部屋の中心に聳える一本の巨木だろう。

 金色の葉とも花とも形容できるものを枝先に咲かせた巨木は、天井に空いている穴から差し込んでいる光によって神秘的な輝きを放っている。

 その光のおかげか室内は照明など無くても十分な程に明るく、読書をするにも絵を描くにも快適な空間となっているようだ。

「この木……もしかしてシャニ―ツリー!?」

「まあ、よくご存じで。この木の苗をお譲り頂いた方から珍しい樹木だと聞いていたのですが、流石晶子様といった所ですわね」

 いわく、誕生祝いとして贈られた苗木だったと言うが、晶子はその話を聞いてドン引きしてしまった。

「いやこれめっちゃ貴重な木だからね!? マナが比較的枯れてる土地にしか芽吹かないのに、潤沢なマナを樹内で生成するっていう凄い奴だから!! 且つ金色の葉を茂らせるっていう珍しさから乱獲されまくって、今では地上の何処にもないって話だから!!」

 そう、このシャニ―ツリーという木。すでにWtRsでは絶滅して存在しないものとされているのだ。

 今晶子が説明したように枯れた土地でしか育たないにも関わらず、木自らが溢れんばかりのマナを自己生成するという特異性を持っている。

 そのため、この木の能力に目を付けた者達がこぞって乱獲し、ゲーム本編時には絶滅種として名前が挙がるだけになっていたのだ。

 かく言う晶子も、シャニ―ツリーの事はWtRsを遊ぶ中で読んだ書籍の中にあったのを偶然見ただけであり、当時は「こんな木もあったんだ~」程度の認識しかしていなかった。

(現代で既に絶滅してる種を誕生日のプレゼントで渡してくる相手って、マジ何者?? しかも贈られたラニア自身がその価値を知らないってかなり危険な事なんですが!? え、てか待ってプレゼントって言った?? 数百年は昔に絶滅してる木を贈られるって、ラニアいつ製造されたの??)

「……そ、そんなに、ですか?」

 冷や汗を流して引いている晶子の様子を見て流石に事の重大さを自覚したのか、ラニアがおずおずと問いかけてくる。

「ここの事とか木の事とか、誰にも言ってないよね??」

「え、えぇ……ここは私の自室も兼ねているので、ゼファー以外には伝えていませんが……」

(ゼファーちゃんかぁ……)

 途端、急激な不安に襲われる晶子。ゼファーを悪くいう訳では無いが、なまじ純粋無垢すぎる彼女の事だ、聞かれたらなんでもかんでも素直に答えかねない。

(これは、後で会いに行って確認するしかないか)

「……うん、とりあえず、ゼファーちゃんに教えてて他の人が来た事は無いんだよね?」

「ありませんわ」

 こくんと頷くラニアに不思議と幼さを感じてしまい、晶子は無意識にその頭を撫でてしまう。

「うんうん、ちゃんと危機管理出来てるみたいで良かった。今後も、信頼できる相手以外はここに入れないようにね」

「うぇ、あ、はぃ……」

 挙動不審になりながらもされるがままになっているラニアに首を傾げつつ、晶子は部屋の奥の方へと入り込んでいく。

 入り口からは見えなかったが、室内の一番奥まった場所にはこれまた書斎に置かれている物と似通った机と椅子が設置されており、比較的綺麗な事からラニアが良く使っているのだろうと推測出来た。

 そのすぐ横の壁にはもう一つ小部屋が併設されていて、中に魔道具用の休息装置がある事からラニアの寝室だと合点を付ける。

「良い場所じゃん。静かだし、陽の光もあって明るくて本も読み放題」

「時折、上空の穴から子供達の笑い声が響いて来ますが、然程気にもならない程度なので居心地は良いですよ」

(子供達……あ! あの穴、居住区の奥にある穴か!!)

 くすくすと穏やかに笑うラニアの言葉に、居住区の誰も住んでいないエリアに立ち入り禁止区域があったのを思い出し、そこと繋がっているのかと納得した。

(木の板と棒で作られた簡素な柵で入れないようになってから詳しくないけど、よくよく思い返したら確かに穴が空いてたかもしんない。全貌が見えてる訳じゃ無いから確信はないけど)

 施設内に残っている廃材を使って組み上げたのだろう質素な柵だったが、ここの古さと脆さを知っている住人達からすれば十分なのだろう。

 実際、子供達は誰もそこへ近づこうとはせず、晶子にこの先は危険だと教えてくれるくらいなのだ。大人達も言葉にはしないが、誰一人としてそこへ近づこうとしない。

(危機管理がしっかりしてるのは良い事ね。夜の間は発光が弱まるらしいから気付く人もいないだろうし、バレて無いのは良い事だよね)

 昔読んだ書籍によれば、シャニ―ツリーは太陽光を浴びる事で光合成を行いマナの自己生成をしているという。日光が無い夜間は日中に溜め込んだエネルギーを変換し、それを使って自己光合成なるものをするのだとか。

 葉が金色に輝くのはマナ生成の副産物であり、夜間はこれがエネルギー消費の関係で穏やかになると言われている。

「夜間も人目を気にする事無く読書に集中できるので、とても重宝しています」

「そっか。これからも大事にお世話してあげてよ、貴重な植物であるのには変わりないし、それを抜きにしても大切な人からの贈り物……なんだよね」

「ふふ、えぇ、そうですね。大切にお世話していきます」

 晶子からの言葉に、ラニアは即答した。それだけ、彼女にとってこの木は替えの効かない宝物なのだろう。

「さて、じゃあ早速ラニアの絵を見せて貰おうかな」

「そこまでのものでは無いのですが……」

 そう言ってはにかみながら、ラニアは机の引き出しから幾つものスケッチブックを取り出すと、全てを晶子に差し出した。



 ♢ ♢ ♢ 



「——ってなわけで、ラニアの絵を見せてもらった訳なんだけどさ……あの人、上手過ぎん??」

「でしょ!?」

 数時間後、ゼファーの所へ向かった晶子。そこでラニアの絵を絶賛すれば、ゼファーは全力で同意した。

「タッチもさることながら、ラニアの絵は今にも動き出しそうなくらいに躍動感があるんです! あとこう、なんて言えばいいか……あ、そう! 感情豊かなんです!!」

「その使い方はちょっと間違ってる気がするよ」

 全身を使って興奮を表すゼファーに苦笑しつつ、晶子も概ね同じ事を感じていたので気持ちは分かると頷き返す。

「描いてるところも目の前で見せてもらったけど、一つ一つの道具も大事に使ってるみたいだったからなおさら好感が持てたわ。そういえば、ゼファーちゃんも書いてもらってたね」

「えへへ、何度もお願いして描いてもらったんです! いいでしょ~!!」

 と、自身はあくまでも被写体になっただけなのに、何故か胸を張ってドヤ顔をするゼファー。まるで嬉しい事があった子供が喜びはしゃぐような姿にほっこりしながら、晶子は内心この数週間の事をしみじみと振り返っていた。

(ゼファーちゃんの口調、だいぶ見た目と釣り合うようになってきたなぁ。目覚めてすぐ面会した時は言葉を覚えたばかりの幼子みたいに感じたけど、ハーミーズと対面の時にはもう別人みたいになってたもんね。……ハーミーズにラニアの事共有した時に彼から指摘されて初めて気付いたけど、ゼファーちゃんと色々話すのに夢中になってたから全然気付いてなかったわ)

 晶子が初めてゼファーと顔を合わせた際、彼女の口調は幼さと拙さを含んでいた。話慣れしていないような様子などを見て、晶子は長年まともに言語や会話を教える相手がいなかったからだと考えた。

(実際、ゼファーちゃんと面と向かって話をしてくれるのってラニアと三銃士どもくらいみたいだし、その四人もどちらかと言えば日常の報告とかがメインみたいだしなぁ。言語の学習や言葉遣い、話し方なんかについてはあんまり期待できないよね)

 何度目かの訪問の際、ゼファーにこの部屋の事についてあれこれと聞いていた晶子は、ここには施設中の様々な情報が流れ込んで来るという話をされて興味を引かれた。

 未だ姿を現さないアクラニャー所長について何か分かる事があるかもしれないと、それとなく情報を聞き出そうとしたものの、返ってきたのは否の言葉。

 やはり重要な機密部分を知るにはそれなりの階級を持った者が許可を出さなければいけないらしく、いくら晶子が女神の御使いだからとは言え、流石のゼファーも詳細なデータの保管場所については答えてくれなかった。

 晶子は致し方なく、ゼファーがスリープモード中を狙って部屋の中に忍び込んだのだ。

(マナの力を制御して、即席で透明化魔法モドキを作って使ってみたけど……心臓に悪すぎるし、信用にも関わるからもう今後二度としたくないかな……今回だけ。ほんっとうに今回だけだから、まじで許して……)

 誰に言うでもなく心の中で何度も謝罪を繰り返し、罪悪感に苛まれながらもなんとか室内を物色した晶子は、そこで一冊の古ぼけた日誌を発見した。

 中には十三代目所長が書いたと思われる日記と、関わった実験の数々が詳細に記されていた。

(あの内容からしても、十三代目は人間を魔道具へと変換する実験を主導していたのは間違いないみたい。でも、『AF-RA27』って識別してた子供の実験を行うって文言を最後に日誌は途切れてた。恐らく、この途切れてる日付の後にハーミーズがケジメを付けに来たんだろうけど……)

 残念ながら、日誌以外に目ぼしいものは見つからなかった。データ媒体を漁ろうかとも考えたが、それらの重要な物はゼファーが繋がっている台座を操作しなければならず、これ以上の危険は冒せないと泣く泣く諦めたのである。

(次の日からさり気なく魔道具達の体を確認したけど、まさか居住区にいる魔道具の八割に『AF』の識別番号が刻まれてるとは思わんて……)

 書斎内の資料等を読みふけって分かった事だが、魔道具達にはそれぞれ製造番号のようなものが刻印されているらしい。

 初代から十二代目までの所長達主導の元作られた魔道具達には、『A-Orphanage No.01』のように孤児院の名を冠した文字が刻まれていた。

 一方、十三代目が関わった実験の被害者達であり、人間から改造された魔道具達には皆『AF-RA13』、またはそれと酷似した文字列のものが刻印されていた。

(前者の魔道具は文字通り製造順にナンバーが割り振られてるのは分かるんだけど、後者はアルファベットの並びも数字も不規則過ぎて意味わからん……どういう法則で割り振られてんのあれ)

 初めてその文字列を確認した時の晶子は、番号の若さが実験体にされた順を表しているのかと思っていた。だが、魔道具達から色々と話を聞いていくにつれて、それが間違った推測であると気付く。

 人間の頃の記憶が知識として残っていた『AF-ZE42』と刻印された魔道具は、元の人間が生きていた当時に何が流行っていたかを教えてくれた。

(宝石を砕いて作った絵具で絵画を描く……大体百年くらい前に流行った手法だったっけ)

 また身に覚えが無いのにも関わらず、頭の片隅にこびりついて離れない記録があると告げた『AF-PD11』と記された魔道具は、とある事件について語ってくれた。

(帝国の辺境にある鉱山街で沢山の死傷者を出した爆破事故……うん、両方とも帝都城内の図書室にフレーバーテキスト程度の文字量であったやつに違いない。でも、だったら可笑しい)

 『AF-ZE42』と『AF-PD11』の話の内容は確かにこの世界で起きた出来事に違いなかった。しかし問題は、それを語ってくれた二体の語り部についてである。

 帝都で流行した宝石絵具と鉱山街の事故、これらの間には凡そ六十年程の間があり、二体の体に刻まれた数字が製造番号なのであれば明らかに時系列が可笑しいのだ。

(アルファベットも製造番号として振ってるなら、順番的にZEのあとにPDが来るのは変だし、二桁の数字的にもそんな人数を実験に使っていたようには思えない。ここにいる魔道具達の数からして、実験体にされたのはせいぜい二十人弱……まーじでどう言う事? それともあたしが数字に弱くてこんがらがってるだけ??)

 何を考えて十三代目がこの製造番号を割り振っていたのか分からず、晶子は内心頭を掻き毟りたい心地だった。

(これ以上の事を調べるなら、やっぱり中枢のデータベース覗かないとどうにもならないっぽいけど……確実にバレるよなぁ……うーん、どっかに隠し部屋みたいなの無いかね。それこそ、十三代目が使ってた秘密部屋みたいな……てか十三代目、日誌とかは見つかるけど、内容全部が業務的な報告とか、どの検体にどんな薬品をどれだけ使ったみたいな走り書きしかないんよな。個人の事書いとるもんなんも見つからんから、マジで謎の人物に成っとるんやが……)

「——さま、晶子様?」

 己の名を呼ぶゼファーの声に、晶子ははっと思考の海から意識を引き上げる。俯いていた顔を上げれば、こちらを心配そうにのぞき込もうとしているゼファーと目が合った。

「何度もお名前を呼んだのですが……お疲れですか?」

「あ、ううん、違うの。なんか、ゼファーちゃんの口調とか話し方とか、成長したなーって感慨深くなっちゃって」

 十三代目に関する事を抜きにしてそう告げれば、ゼファーは一瞬キョトンとした顔で瞬きを数度繰り返したかと思うと、頬をほんのりと染めて恥ずかしそうに身を捩る。

「ぇへへ、そう言っていただけて嬉しいです。これも晶子様の教えの賜物ですね」

「いやいや、あたしはただお喋りしに来てるだけだからさ。全てはゼファーちゃんの努力の成果だよ!」

 晶子の言葉が余程嬉しかったらしく、ゼファーは更に顔を赤くして桜色の髪を何度も撫でた。もじもじと喜びを隠しきれ無い彼女の様子に、晶子は深く息を吐き出すと、流れるような動きで両手を合わせた。

「はいかわいいもうかわいいほんっとかわいい一生あたしが幸せにする! ていうかまじでもう君かわいすぎるからね? 魔道具とか関係なくゼファーちゃんはこの世でオンリーワンでナンバーワンだからていうかその照れてもじもじしながら髪触る仕草めっちゃ可愛いんですが何してくれてんの?? もうホントまじでかわいい君を生み出してくれた創造者に御礼で貢ぎたいくらいにはあたし感謝してるんよわかる? 溢れんばかりいや溢れすぎて溺れちゃいそうなこのあたしのパッション走り出したら止められない情熱誰が何と言おうとゼファーちゃんはかわいいし愛おしいんだからはぁー……拝んどこ」

 ここまでをノンブレスで言い切った晶子は、ただ何時ものノリでゼファーへの愛を連ねたつもりだった。

 しかし、何時とは違う部分がある。それは、普段なら心の中であらぶっているだけだった言葉が、一言一句漏らさず口から出ていた事である。

「あ、ぁぅぁぅ……」

「? ……あ」

 ぷしゅーと頭から煙を出して固まってしまったゼファーにどうしたのかと首を傾げかけ、すぐに原因に思い至った晶子は口元を手で覆う。

(しまった……感極まって思ってた事全部出ちゃったわ。ありゃりゃ……ゼファーちゃんのお顔まっかっかじゃん……かわよ)

 本来なら大丈夫かと心配の声をかけるべきなのだろうが、生憎と今の晶子はゼファーの可愛いを摂取するのに忙しくそれどころでは無かった。

 初心で可愛らしい少女のような反応に意図せず口元が緩んでしまい、それを見たゼファーが「か、からかいましたね!?」と怒る様にもまた愛おしさが募っていく。

「別にからかってないよ。全部あたしの本心、ゼファーちゃんの事は本当の家族みたいに愛しく思ってるんだから」

「本当の、家族」

 何気なく言った一言に、ゼファーの表情が陰りを見せる。

「どうしたの?」

「ママは……私の母親(創造者)はどこに行ってしまったのでしょう……」

 弱弱しく呟いたゼファーの目には、寂しさと切なさ、そしてどうしようもない遣る瀬無さに満ちていた。

「ママはいつも白衣を着て沢山の大人達に囲まれていて、厳しい口調で辛辣な事とか難しい事を沢山を言っていたような気もします。当時の私はまだ自我がはっきりとしていた訳では無いので、会話内容の詳細までは分からないのですが……」

(!! それって、歴代所長の誰かだよね?)

 白衣を着た大人の女性——元研究所にいる事を鑑みても、研究員であったのは間違いないだろう。さらに大勢の大人に囲まれていたとなれば、何かしらの研究を主導している立場なのは明白。

 これらの情報から、ゼファーの母親は歴代所長の誰かだと晶子は当たりを付けた。

「大人達と話をする時、ママはいつも怖い顔をしていました。けれど……私とお話をしてくれる時だけは、優しく微笑んでくれていたんです。笑って、私を撫でてくれて……私はママの、ふんわりとした笑顔が大好きでした。柔らかくていい香りのする掌が、大好きでした。………………ままに、あいたい」

「ゼファーちゃん……」

 それは、ゲームでも聞けなかったゼファーの本音だった。

(……そう言えば、ゼファーちゃんの創造者について、WtRsでも言及が無かったよね? てっきり初代が作ったのかとも思ったけど……)

 初代を含むまともな所長達が生み出した魔道具達は、人間で言う右耳の下辺りに製造番号が刻印されている。しかし、今の話を聞いて晶子がさり気なく確認した限りでは、ゼファーのそこに文字などが刻印されてはいない。

(まさか、ね)

「ゼファーちゃん、悪いんだけど、(うなじ)を見せてもらっても良い?」

「項、ですか? どうしてです?」

「え」

 純粋に疑問に思ったから聞き返しただけなのだろうが、ゼファーなら即許可してくれると疑わなかった晶子は間抜けな声を出してしまった。

「? 急に項をと言われたので、どうしたのかと」

(そ、そーだよね!? いきなり話の流れぶった切ってそんな事を聞かれたら、なんでってなるよね!!)

 恐らく、初めて出会った頃のゼファーであれば、理由も問わず快く許可を出しただろう。しかし、今のゼファーはあの時のようなただ無知で心の機敏に疎い機械ではない。

 晶子との交流を重ねる中で成長し、より明確な自我と意思を確立させつつある少女なのだ。

(う、うーん……誤魔化してあれこれ言っても良いけど、ここは流れにのっからせてもらお。まあ、強ち間違いでも無いっしょ)

「えっと、実はラニアに案内してもらった部屋に本が数えきれないくらいあってさ。そこにゼファーちゃんのお母さんに繋がりそうな事が書いてあったから」

「それは本当ですか!?」

 晶子の言葉に、ゼファーは身を乗り出すようにして上半身を寄せてくる。

「あの! ママの事は何て書いてありましたか? どこに行ったとか、どういう暮らしをしたのかとか!?」

「お、おぉう。落ち着いてゼファーちゃん……」

(と言っても、分かってる事はほぼ無いけど……)

 あまりの勢いにタジタジになりつつも、晶子はなんとかゼファーに納得してもらえる言い訳を考えた。

「その……期待させて悪いけど、そこまで詳しく書かれてる訳じゃ無かったの。あくまでここで暮らしてた研究員の人がいて、何かしらの研究をしていたってくらいでさ」

「そう、でしたか」

 がっくりと肩を落とすゼファーに罪悪感を募らせながらも、晶子は首筋を見たい理由をそれっぽく言い連ねる。

「で、でね! その書かれてる事の中に、魔道具達にはそれぞれ番号ってのが割り振られてるってあって! 気になって他の子達のは見て来たんだけど、ゼファーちゃんのも見せてもらいたいなって思って!! 右耳の下にある子と項にある子がいるけど、ゼファーちゃんは耳下には無いみたいだし……」

「なるほど、それで項と言ったんですね? そう言う事でしたら、どうぞご覧くださいな! あ、このままだと見えませんよね? 見やすいように体を倒しますので、確認して貰ってもよろしいですか? 」

 何とか納得してもらえたようで、ゼファーは項を隠している髪を手慣れた様子でかき分けながら上半身を前に倒し、晶子の目線よりしたに項が来るようにしてくれた。。

(素直過ぎるのもやっぱ問題だわね……急所だから誰彼構わず曝け出しちゃダメよって後で言おう)

「ありがとう! じゃあ失礼して」

 自分の事は棚に上げて、あまりにもあっさり急所を見せるゼファーに注意をしようと思いながら、許可の出た項を確認する為に覗き見る。

 だが、覗き込んだ先にあった文字を見て、晶子は困惑する事になる。

(……は? いや、待ってくれ。どう言う事?)

 ゼファーのそこに刻まれていたのは人体実験によって作られた魔道具達にあるような識別番号では無く、『MY DEAR MEMORY』という僅か十二文字の言葉だった。

次回更新は、2/20(金)予定です。

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