「じゃあ、今ここで貴方に誓うわ」
ハーミーズの頭をひとしきり撫でまわして満足した晶子は、ひとまず鑪にも伝えている範囲の情報を伝えた。
(何事も一歩ずつ、順番にやっていこう)
「——てな感じで、実は女神はこの世界の為に動いていたの。で、あたしは世界を滅亡させようとする淀みの精霊の企みを阻止するために、再編者として選ばれたって訳」
「世界が、そんな事になっていたなんて……私、全然知りませんでした」
世界の危機に微塵も気付けなかった事にショックを受けて落ち込むゼファー。この天空研究所のコアとして生み出され、長い年月を過ごしてきたことを考えれば外の世界を知らなくても致し方ない。
(と言うか、外には他の魔道具達が御役目の為に出ていってるはずなんだし、誰もゼファーちゃんに外界の話とかしてあげなかったのかな? 別に魔道具達とゼファーちゃんの中が悪い訳では無さそうだし、外の事を全く知らないってのも変だよね)
この二週間、晶子は魔道具達の指導をする傍ら彼らの事を注意深く観察していた。
どの魔道具とどの人間の仲が良いのか、魔道具同士に軋轢が無いかなど、この研究所にいる全ての関係を見極めていたのだ。
その結果分かった事の一つが、魔道具達とゼファーの仲はかなり良好であるという事だ。時折ふらっと中枢に遊びにやってくる者もおり、晶子の訪問中にも何体かが遊びに来た事があった。
(どういった所でどんな人を連れ帰って来たって話はするけど、それだけなんよね……ゼファーちゃんも特別気にした様子が無いし)
魔道具達にはそれぞれにある程度の役割が振り分けられているらしく、その中でも主に救助対象を連れてくる役目を担った者達と何度か話をした。
すると、彼らは全くというほどに外界の地理や情勢を知らず、またそれに対して特別なんとも思っていないようだった。
(なんというか、元から備え付けられた知識で完結しちゃってるから、それ以上に学ぼうとか調べようって考えが起きないんだわなアレ。まあ、彼らを作った人達が不要だと思ってそうしたのかも知れないけど)
知らないという事に対して、ゼファーを含む魔道具達はあまりにも無関心だ。知識欲がある様子は見受けられるものの、その割に人間の習慣や常識、世界地理といった部分を把握していなかったのがその証拠である。
教えれば素直に学び、そこから生まれた疑問に対してはきちんと質疑をしてくるので、それだけはまだ救いと言えるのかも知れない。
(魔道具達、救う対象を探しに行くことにはやる気十分なんだけど、その相手自体とか周りの場所・地理に全くもって興味がないみたいなんだよね。そう考えたら、ゼファーちゃんに外の話をあんまり聞かせたりしないのも、ある意味仕方ない、のか……?)
今回、晶子という指導者が現れた事で魔道具達は無知を自覚し、学び、覚えようとしている。だが、そこに自主性があるかと問われれば否という他無い。
(魔道具達の行動は、あくまでも彼らの中に組み込まれた『人間の為に行動する』ってプログラムをなぞっているにすぎないんだろうな。あとあたしが女神の使いって部分。……なんか複雑だなぁ)
恵まれない人々の為に作られた魔道具達にとって、この研究所に集められた人間達は庇護の対象だ。しかし、その庇護も結局は創造者から指示された事を忠実に遂行しているに過ぎない。
そこに魔道具達の自主性や自我はないのだ。
(こんなにも感情豊かに見えるのに……ううん、きっと彼女達にもきちんとした心はあるはず。だってそうじゃなきゃ、あんな風に笑うなんて出来ないはずなんだもん)
晶子の脳裏に、今日までを共に過ごした魔道具達の顔が浮かぶ。表情の分かり易い者から全く変化の無い顔面パーツを持つ者まで様々であるが、皆一様に人から褒められると心底嬉しそうな反応を見せたのだ。
心のないただの道具であるのならば、頭部を撫でられてはにかんだり、無邪気な反応をするわけがない。彼らに人間的な成長が見込める何よりの証拠だろう。
「ゼファーちゃんはここでこの場所を維持する役目を遂行していたんだから、知らなくても仕方ないよ。あたしももっと気を配ればよかったね、これからはもっと色々な事を知っていこう?」
肩を落とすゼファーを宥めつつ、晶子はちらりとハーミーズを見やる。彼は晶子の話について何かを言うでも無く、ただただ沈黙して何かを考えているようだ。
(一番怖いのは、この人がどんな反応してくるか分からない事よね……果たして、ハーミーズがどんな行動を起こしてくるやら)
英雄達の中でも特に女神を毛嫌いするハーミーズには、女神が世界の秩序を守る為に人間を管理していた等という話は受け入れがたいのではないかと不安になる。
ゲームの時でさえ、会話イベントの選択肢において女神を擁護するものを選ぶと即戦闘になる程にかの存在を嫌っていたのだ。
(理性的には見えるし、ここにはゼファーちゃんも居るからそうそう戦闘には……いや、ある意味覚悟ガンギマリの人だからゼファーちゃんを理由に戦わないとはならないか……)
提供した情報を彼が否定し、あわやそのまま敵対してしまうのではとヒヤヒヤしていた晶子だったが、予想に反して返ってきた反応は随分とあっさりとしたものだった。
「淀みの精霊……なるほどね♭ 道理で最近、地上に可笑しな気配が満ちてる訳だ♯」
ハーミーズの話しぶりからするに、何かしらの異変自体は感じていたらしい。納得したような表情で何度も頷く姿に、晶子が恐る恐る問いかける。
「……信じてくれるの?」
「おや、君は嘘を言ったのかい?」
「え、いや、全部本当の事だけど……」
「なら良いじゃないか♭ なにより——」
ハーミーズは一度そこで言葉を切ると、これまでとは比べ物にならない程に穏やかな表情で笑った。
「なんでかは分からないけど、君は僕を……僕達を裏切らないって、そんな確信があるんだ」
「いやいや確信って……それって結局はただの勘でしょ?」
「そ♭ でも僕の勘って、結構当たるんだよ♪」
(あうん、それは良く存じ上げております)
ゲーム内のハーミーズも時折同様の事を呟いていたが、実際にその勘が生かされていたかは不明だ。
(まああれはゲームだし、ストーリーやらなんやらは端から全て決められてるからね。この世界でハーミーズの勘が効果を出してくれるのかが重要よ。でもまあ)
「……そっか、うん。そう言ってくれるならちょっと安心」
彼の言葉の全てが本当か真意の程がどうかは分からなかったが、それでも自身を信じてくれると言うハーミーズの言葉に嬉しさが込み上げてくる。
「あたしも、貴方に信用して貰えて嬉しい。なにより、とっても心強いよ」
「!」
喜びから自然とほころんだ表情を浮かべた晶子に、ハーミーズが一瞬息を呑んだ。
「ハーミーズ? どうし」
「っキ、ミこそ、僕が女神を嫌っているって分かっているのに、そう易々と心を預けてしまってよかったのかい♭」
それに目敏く気が付いた晶子がどうしたのかと問いかけるよりも早く、彼は少し意地悪く質問を投げかけてくる。
少しぎこちない笑みを浮かべた口元は若干引き攣っていて、無理やり感情を繕っているのが丸わかりだった。
なぜそんな顔で、そんな事を聞いてくるのか疑問に思いはしたが、晶子は自身の気持ちを素直に口にした。
「何言ってんの。あたしは最初からハーミーズの事、信頼しかしてないよ」
「え」
はっきりと言い切った一言に、ハーミーズが石のように固まった。
「あたしの話を聞く時、ハーミーズは真っ直ぐにあたしを見てくれていたでしょ? 嘘だでまかせだって話を遮る事もなく、真剣に耳を傾けてくれた。それだけで十分でしょ」
「そ、れだけの事で? 僕が本当は心の中で、君の事を散々に扱き下ろしていたとしても?」
「扱き下ろすって、酷い言われようだなおい……」
明け透けにものを言うハーミーズに晶子は呆れた目を向ける。しかし、神秘的でひ弱そうな外見とは裏腹に口が悪い事を知っている身からすれば、かなりオブラートに包んだ物言いをしたものだと苦笑した。
「まあ所詮心の中、見えないものにあれこれ文句言ったって意味ないじゃん」
晶子は確かに女神の力が扱えるが、それは再編が出来るだけで相手の心を読むものではない。
故に晶子には相手が真に何を考えているかなど、爪の先程も分からないのだ。
「女神の力はあるけど、それも万能って訳じゃ無いんだよ? あたしが出来るのは、あくまでも再編——今在る物、残された物、失われた物、そう言ったそれそれを編み直して新しく生まれ変わらせるってだけ。それ以外だと……女神から全体的な身体能力を向上してもらったってくらいかな?」
この『転移特典』のおかげで、典型的な運動不足現代人の晶子でも武器を持って戦う事が出来要る。そうでなければ戦うどころか、武器を持つ事すら叶わなかっただろう。
「……それらをくらいって言えるあたり、君って物の価値を正確に理解出来ていないんだね♯」
「おぉん!? 喧嘩なら買うぞ!? あたしとやろうってのかえぇ!?」
「ちょ、やめて!! 武器をしまって、というかそのハンマーどこから出したんだい!?」
呆れたような馬鹿にしたような声色でそう言ったハーミーズに、反射的にその辺に落ちていた小石を再編して作ったピコピコハンマーのような物を振り被る。
突然暴力に訴えかけてくる晶子に驚き頭を抱え込んで守ろうとしたハーミーズだったが、瞬きをするよりも速く生成されたそれに驚きを隠せないようだ。
「あ、これ? 今さっと拾った石再編して作ったピコピコハンマー」
「ひろったいしをさいへんしてつくったぴこぴこはんまー??」
(おぉう、この宇宙を背負ったような衝撃顔久々に見たな)
再編の力を使いこなせるようになっていっている晶子からすれば、特段変わったものでもない使い方。
だが、そもそも再編の力について詳しくないハーミーズからすれば、女神から授かった力をこうも気軽に使うだなんて想像もしていなかったのだろう。
「女神様の力をそのように使いこなすだなんて、流石は直々に御役目を託された御方!! 凄いです晶子様!!」
思考停止して呆けているハーミーズを心配する事もなく、晶子が女神の力を使った所を目の当たりにしたゼファーは興奮を抑えられないようだ。凄いすごいと囃し立てるような黄色い声に、晶子も悪い気はしない。
「い、いやぁ~それほどでも……あるかな!!」
「うわぁ……」
「おいこらそこ引くんじゃない!!」
なんの裏もなく純粋に褒めてくれるゼファーに気を良くしてつい調子付いた事を言ってしまったが、ドン引きしましたと言いたげなハーミーズの声に正気に戻る。
「とにかく、あたしはこんな感じの事は出来るけど、人の心に干渉して感情を弄るとか、好意を向けさせるとかは出来ないから」
「ふーん……まあ、正直そんな力があったとしても、君は使わなさそうだよね」
人の精神を操る事はしないだろうと、謎の確信があるらしいハーミーズが問いかけとも断言ともとれる発言をした。
「あたりまえじゃん」
「どうして?」
(……ん? どうして、とは??)
急に疑問を返して来たハーミーズを見れば、彼自身もなぜこんな質問をしたのか良く分かっていないらしい。
「あ、その、ごめん。なんか口が滑っちゃったみたい」
「ハーミーズったら、口が滑っていったら喋れなくなるでしょ?」
(こっちは口が滑るの意味を分かってないし、中々カオスな会話になってんな)
見当違いな事を言っているゼファーは一旦置いておくとして、晶子は少し不安そうになっているハーミーズに改めて向き直る。
「自分に都合の良い感情を作ってその人に愛を向けて貰っても、何も意味ないじゃない」
相手の心を手に入れたいからと強制的に好意を抱かせたとして、それは果たして本当に愛してもらえたと言えるのか。
「好きって感情を無理矢理上から重ねて塗った所で、それは本当の気持ちじゃないでしょ。人の気持ちを変えるのに、そんな洗脳紛いな事したってただ関係を悪化させるだけ。それならあたしは、真正面からぶつかっていきたい」
「……それで、大切な人達に嫌われてしまっても後悔はしないのかい?」
ハーミーズの言葉に思い浮かぶのは、アルベートやダリル、そして鑪の顔。
もしも彼らに嫌われてしまったら、嫌悪と猜疑の目を向けられて、歩む道を別ってしまったら。
「……たぶん、凄く苦しいし、悲しい。嫌われた相手があたしの大切な人達で、なによりも大事にしたいって思ってたならなおさら」
「……」
晶子の答えに、ハーミーズは静かに目を伏せた。その表情は、彼に似た経験がある事を物語っているようで、とたんに胸が締め付けられる。
(英雄の中でもハーミーズはかなり特殊な過去を持ってる。きっと、沢山の大切を取りこぼして来たんだろうな……)
WtRsのゲーム内で、ハーミーズは過去を振り返るような発言を一切しない。ある意味割り切っているとも捉えられる彼の行動だが、考察界隈では『過去を直視しないように逃げている』ともとられており、解釈が分かれている話題であった。
当初の晶子はどちらかと言えば前者の意味だと思っていたが、当人を目の前にしてまた違った印象を受ける。
(……本人が自覚しているかはわからないけど、ハーミーズは今も過去に縛られてるんだ。多くを失った過去を憂いて、悔いて、憎んで……そうしなければ、自分の心が壊れてしまうから)
遠い昔に存在した愛する家族も、苦楽を共にした仲間も今はいない。例えどれだけ願おうと、彼ら彼女らがハーミーズの元へ戻って来る日は来ない。
至高の存在に立ち向かった同志達ですらも、今はバラバラになってそれぞれの道を歩んでいる。
(何だかんだ賑やかなのが好きなハーミーズからしたら、今は英雄になる前よりも孤独で寂しのかも)
「でもだからって、それを理由にして心を思い通りにしようだなんて間違ってる」
例えどんな理由や事情があったにせよ、それを言い訳にして他者を自在に操ってしまうだなんて事が許される訳がない。
「あたしの力は、壊れかけた世界を編み直すための力。決して誰かを蹴落としたり、貶めたりするものじゃない」
「口では何とでも言えるよね♭」
(うーん? 裏切らないって確信を持ってるわりに、めっちゃ確認してくる——)
言動のちぐはぐさに首を傾げた晶子がハーミーズを見た時、彼の瞳の中にある色が浮かんでいるのに気が付いた。
(……あぁ、これあれか。試し行動)
愛に飢えた子供が親の気を引く為に悪戯をするように、何度も何度もくどく尋ね返してくるその真意。それは長年にわたって、幾度も裏切りと喪失を繰り返して来たが故のものだろうと推測する。
(ハーミーズは今も怖いんだ。大切な、大事な関係の誰かを失う事が。そして、今回のそれはきっと……)
この場において、ハーミーズの大切な誰かとは恐らくゼファー以外にいないだろう。否、彼女だけでなく、この研究所に暮らす魔道具達に関しても大切である事に違いは無いはず。
(人間達に関しては……ちょっといまいちつかめないけど、少なくとも悪くは思ってないと思いたい。やっぱそう考えたら、ハーミーズは少しでも危険分子を排除しときたいんだわ。じゃないと、女神の力をあたしが悪い事に使ったら、真っ先に危険が及ぶのはここにいるみんなだもんね)
飄々として掴みどころがなく、どこか軽薄な印象を受ける風の英雄。その実、彼は誰よりも人の命を尊び、無辜の犠牲が生まれる事を何よりも嫌うのだ。
「じゃあ、今ここで貴方に誓うわ」
だからこそ、晶子はそんなハーミーズを安心させる為に誓いを立てると言った。
「あたし、藍山晶子は、この力で人々に幸せを、世界に救済を齎すと誓う。もし、この誓いが違われた時は——この首、審判者・風の英雄ハーミーズに快く差し出そう」
「え!?」
「っはぁ!?」
堂々とした晶子の宣誓に、一番驚いていたのはハーミーズだった。
「君馬鹿なの!? そんな簡単に命を預けるような真似をして!!」
「これが今、あたしが貴方に渡せる誠意だからね」
まだ文句を言い足りない様子のハーミーズだったが、晶子がさらりと言ってのけた事に黙り込んでしまう。
「それだけ本気なのよ。あたしは力を悪用しないって決めてるけど、こうした誓いを渡せるだけ、ハーミーズの事を信頼してるの。貴方なら、あたしが間違った事をした時に容赦なく止めてくれるって」
「なんで……そこまで僕を信頼できるんだい」
「そんなの、あたしが貴方を好きだからに決まってる」
告げられた言葉にゼファーが歓声を上げ、ハーミーズは固まった。
「だってハーミーズは凄いんだもん。飄々としててお調子者かと思えば、意外とキレ者で周りの状況をよく見てる。場の空気を読むのもうまいから、争いが起きそうなら治めに行くし、泣く子供がいるなら元気の出る物語を語る。そうして誰かの事を常に考えれるのって、誰にでも出来る事じゃないんだよ? あたしも、正直ちゃんと出来てるかって言われたら微妙だし……」
「……す、きって」
「あ、もちろん英雄達はみんな好きだよ? 一人ひとり個性があって、それぞれの信念をもって行動してるし。めっちゃ尊敬してるんだから!」
(でも何だかんだあたしの最推しは鑪さんなんだよなぁ)
なんて事を思いながらも返した晶子に対して、ハーミーズは深く溜息を吐くとその場にしゃがみ込んでしまった。
「え、どしたの?」
「あぁ……カワイソウなハーミーズ……」
何かを察したのか、ゼファーも囃し立てるような様子から一変、ハーミーズを労うような視線を向けている。
「……その憐れんだ目は止めてゼファー……。はぁ、いや……晶子ってホント罪な女なんだなって思っただけだよ♭」
「なぜに?? 今の会話でどうしてそう言う結果になったの??」
なんだなんだと首を傾げる晶子を見て、ハーミーズは呆れたように苦笑した。
(えぇ、マジでどしたのよ……あ、でもちょっと顔色は良くなったかも)
納得いかなかったものの、どこか晴れやかになった彼の表情にホッとする。ゼファーも様子が可笑しかったのを分かっていたのか、肩を竦めて笑うハーミーズの姿に安心したようだ。
(ちょっとは蟠りが溶けてると良いな)
「で、どう? あたしの誓いは受け取ってもらえる?」
茶目っ気たっぷりにウィンクを付けて問えば、ハーミーズは一瞬きょとんとしたのち、ふっと吹き出した。
「全く、君みたいな人は初めてだよ。……宣誓、確かに受け取ったから」
そう言って差し出された手に、晶子は己の物を重ねる。すると、周囲のマナが柔らかな光を伴って二人の手を包み込み、双方の手の甲に風と蒲公英を模った紋様が刻まれた。
「これって」
「誓約の証。急ごしらえだけど、中々様になってるだろ♪ 僕からの、信頼の印さ」
淡い水色の輝きを放つそれに見惚れていると、ハーミーズが照れたようにそう言った。それはつまり、ハーミーズが晶子に対して完全に心を開いてくれたという事で——。
「……っ! 貴方に信頼してもらえて、これほど心強いものはないよ。世界を救う為、そして沢山のハッピーエンドを迎える為に、あたしに力を貸して」
「もちろん。よろこんで♪」
「わ、私も! 私もぜひお手伝いさせてください!!」
一人疎外感を感じたのか、ゼファーが慌てたように両手を上げてアピールし始める。それが何だか可笑しくなった晶子は、思わず顔を見合わせたハーミーズと共に笑ってしまった。
「ちょ、ちょっと二人共!!」
「あっははは、ご、ごめんごめん。ゼファーちゃんの事も頼りにしてるからね」
「くふふ、うんうん。期待してるよ♪」
「もぉ~!!」
ばたばたと両腕を振り回して比較的近くにいるハーミーズに向けて振り下ろすゼファーと、少し距離を開けている為に直接当たってはいないものの、「どうして僕だけ!?」と八つ当たりの対象にされて文句を言っているハーミーズ。
(この感じ、昔なんかの漫画で見た兄妹のやり取りみたいだなぁ~、あ~かわよ)
まるで兄妹のようなやりとりを微笑ましく思いながら、今後の事を話そうと口を開きかけた。
(……ん?)
不意に、部屋の外に誰かの気配を感じて入口を振り返る。扉が閉じているせいではっきりとは分からなかったが、極僅かに漂って来る淀みの気配から相手の正体はすぐに分かった。
「……ラニア?」
囁くような呟きが届いたのかは定かではないが、扉の向こうにいる気配は晶子の声に呼応するようにして何処かへと去って行った。
(なんでラニアが? てか今の話、どこからどこまで聞かれてた?)
「晶子様? どうされました?」
音も無く立ち去ったラニアの様子に何だか胸騒ぎを覚えた晶子だったが、そんな事とは知らないゼファーがどうしたのかと尋ねてくる。
はっとして二人の顔を見るも、ゼファーどころかハーミーズすらもラニアの来訪に気が付いていないようだった
(……ゼファーちゃんに言うのは、あんまり得策じゃないかも。あとでハーミーズの耳には入れておこう)
ラニアと良好な関係を築いているらしいゼファーに不安を抱かせたくないと考えた晶子は、ひっそりとハーミーズに視線を送る。
それだけで察しの良い彼は晶子が何を言いたいか理解したようで、笑みを深めると小さく頷き返して来た。
(おぉ、ちゃんと分かってくれた。ちょっぴり……いや嘘、だいぶうれし~!!)
「何でもないよ。それよりじゃれるのはその辺にして、ちょっと色々と相談させてちょーだいな」
ハーミーズの返答に内心歓喜しているのを上手く隠しながら、晶子は二人に今後の予定について共有するのだった。
次回更新は、1/23(金)予定です。




