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(……この二人、こんなに仲良かったっけ?)

「そんなに緊張しないでくれよ♪ ほら、リラックス、リラックスだよ♯」

「ひ、ひぇえ~……」

 にこにことした表情とは裏腹にハーミーズから真っ黒なオーラが立ち昇っているような気がして、晶子は思わず小さな悲鳴を零した。

 結局逃げる事は叶わず中枢部屋に引きずり込まれてしまった晶子は今、何故かハーミーズと並んでゼファーと向き合っている。

(この並び……まるで学生の時の三者面談みたいだなぁ。懐かしいなぁ~……)

 なんて場違いな事を考えていたが、心の準備も出来ていない状態で対面する事になったハーミーズに対して緊張から吐いてしまいそうだった。

「御使い、じゃなくて晶子様。こちらはハーミーズ。ちゃらんぽらんでテキトーで、他人に対して一切興味も無さそうな軽薄男に見えますけど、これでも風の英雄として名を馳せていた凄い人なんですよ!」

「ゼファー??」

「いや言い方よ」

 が、そんな緊張もゼファーの一言によって霧散してしまう。言われた当人たるハーミーズもまさかそんな紹介をされるとは思っていなかったようで、飄々とした笑顔を崩し困惑した表情を浮かべていた。

「あの、あたしが言う事じゃないけどさ、その紹介はどうかと思うよ?」

「え? でも彼が他者に関して感心が無いのは事実ですよ? だってここにいる人間達にも一切会おうとしないですし、困っているのを見ても『さっき○○が困ってそうだったよ~♪』とか言って、自分は高みの見物をしてるんですもの」

「おぉう……」

 晶子はハーミーズの過去を知っているのもあって、彼が他人と距離をとる理由に見当がついている。そのためそこまで可笑しな事では無いと思っていたが、そんな事情を知らないゼファーからすれば、ハーミーズはかなりの変人に見えているようだ。

「前から思ってたけど、なんでそんなに人と距離をとりたがるの?」

「ふっ、僕は流浪の吟遊詩人だからね♭ 僕みたいな存在は、親しい間柄を作らず各地を転々とするものなのさ♪」

「ただたんに人付き合いがへたっぴで、人見知りしてるとかじゃなくて?」

 気を取り直して歌うように孤高の身分を語ろうとしたハーミーズだったが、間髪入れぬゼファーの問いかけに思わずといった様子で口を閉ざしてしまう。

「だってそうでしょ? 前に魔道具達が噂してたのをオラージュ経緯で聞いたけど、ハーミーズって挨拶されても会釈するだけとか、やぁとか言ってさっさとどっか行っちゃうって」

「そ、それは……」

「目も合わせてくれない、嫌われてるかもってその子達落ち込んでたらしいよ? 誰かと関わるのが苦手なのかもしれないけど、せめて挨拶くらいはちゃんとしようよ。貴方大人でしょ?」

「はい……」

 いつの間にか正座でゼファーの前に座り込むハーミーズと、彼に対してつらつらと苦情を連ねるゼファーという光景に、晶子は一人置いてけぼりで困惑する。

「大人なんだから、最低限のマナーと常識は弁えようよ。そんな事も分からないの? 貴方、仮にも英雄って呼ばれてる凄い人なんでしょ? だったら他の人の見本になるべきなんじゃないの? それなりの行動を取らないと、『英雄って所詮この程度の人間性なんだ』って思われるよ? それで良いの??」

「はい、あの、はい……あまりよろしくは無いです……」

「そうよね? じゃあなんで分かってるのに、行動しないの??」

 淡々と変わらぬ声色で問い詰めるゼファーに、ハーミーズは時折言葉を濁しながらもなんとか返事を返していた。

 そんなやり取りを見て、晶子の中にある疑問が湧いてくる。

(……この二人、こんなに仲良かったっけ?)

 記憶を遡れど、WtRsの中でゼファーとハーミーズが親しそうに掛け合う場面は出てこない。あるのは、魔道具との敵対ルート終盤でボス化したゼファーにトドメを刺す際に姿を見せたハーミーズが一言、「おやすみ」と言った場面のみだ。

(あの場面、背中を向けて俯くハーミーズが泣いてるように見えて、切なさ天元突破だったんよなぁ~。あそこも大概号泣した……って、そうじゃなくて。まあ、この研究所自体ハーミーズの御目こぼしで存続できてるようなもんだし、もしかしたら何度か顔を合わせてはいたのかもしれない。ゲームでは描かれてなかったってだけで……)

 施設の外を囲む巨大竜巻の影響を抑えているのも、他ならぬハーミーズである。そう考えれば、ゼファーとハーミーズの接点が全くの零である訳がない。

 ゲームでは知り得ない彼女達の関係性が見えたのだろうと、晶子は一人納得する。

「それにしても、君も言うようになったね♯ 前まではここまではっきりと物事を言わなかったじゃないか♭」

「話を逸らさない! まあでも折角だから教えてあげる。これも晶子様のご指導の賜物なのよ! この方のおかげで、私達が今までどんなに非常識で考えの足りない存在だったか思い知ったの。今は魔道具一同で意識改革に力を入れてるのよ!」

(なんやこの天使ぐぅかわじゃない??)

 輝かんばかりの笑顔を浮かべるゼファーに、晶子は思わず彼女の頭を撫でた。人間とは全く異なる質感をしたピンク色の髪を密かに堪能していれば、ゼファーは擽ったそうに身を捩る。

「えへへ、晶子様の掌は暖かくて大好きです」

「んぐぅ……」

「すっごい顔になってるね♭」

 推しの愛らしさに悶える晶子の顔が相当な事になっているようで、表情を見たハーミーズが引いたように呟いた。

 その声にハッとして誤魔化すように咳払いをすると、同じくハーミーズの呟きが聞こえたゼファーが彼にジトッとした目を向ける。

「ハーミーズ、晶子様を困らせないで」

「えぇ?? 僕はちょっと女性として見られない顔をしていたから、それを彼女に教えてあげただけだよ♭」

「いつも一言余計なのよ! そんなんだから貴方、魔道具達の間で『口だけ英雄』って呼ばれてるのよ!!」

「待ってナニソレ僕知らないんだけど!?」

(お、おぅ……あれ、あたしまた置いてけぼりでは??)

 始まってしまった言い合い——実際にはゼファーによる一方的な文句の列挙であったが——に、晶子は口を挟む事も出来ず成り行きを見守る事になってしまった。

(……ゲームのハーミーズしか知らないから断言はできないけど、案外ゼファーちゃんの言う通りなのかもしれない。え、もしかしてこの人マジのマジで人見知りとか色々拗らせてらっしゃる?? まさか陽キャの皮被った陰キャだったって事??)

 己よりも明らかに格下の少女に言い負かされてタジタジになっている姿に、不意にそんな事を考える。

「だいたい、ハーミーズは神出鬼没すぎよ。肝心な時には来ないのに、自分は『暇だったから♭』って急に来てはべらべらお喋りしてさっさと帰っていくし。この間なんか、人間の子供が風邪をひいて大変だって大騒ぎしてる時に遊びに来て、何か助言でもくれるのかと思ったら騒がしいのを見て『お大事に~♪』って即どっか行っちゃうんだもん!」

「うっ……それは、ほら……僕は吟遊詩人だから、風邪をうつされると詠うのに支障が出るかもだし♭」

「そうは言うけど、私達の前でまともに詠った事なんて片手で数える程度しかないじゃない。貴方、本当に自分で言う程の詩人なの??」

「嘘じゃないよ! なんなら今詠っても良いけど♪」

 言うなり、ハーミーズは首元からマントのように伸びているヨモギの葉を変形させると、糸状にしたマナを張って竪琴にしてみせた。

 そうして意気揚々と詠いだそうとしたのだったが……。

「別にいらな~い」

「ぇ、あ、そう……」

 詩人の歌に興味が無いのか、それともハーミーズだからこその塩対応なのかは不明だが、ゼファーにバッサリと斬り捨てられて彼は落ち込んだ様子でマナの糸を消した。

(え、マジ? ちょっとこの反応は意外だわ。ロマンチストなゼファーちゃんの事だから、こういうの好きそうなのに)

「えっと、ゼファーちゃんはハーミーズの詩に興味ないの?」

 かなりあっさりした対応に驚いた晶子がそう尋ねれば、ゼファーはきょとんとした表情で目を瞬かせた。

「え? ううん、そんな事ないですよ! どのお話もドキドキわくわくしてとっても素敵だと思ってますよ!」

「あ、そうなの? その割にはえらくあっさりいらないって」

「だってこういう時のハーミーズが詠う詩、自慢話ばっかりなんだもん」

「うぐっ」

「あ、まともってそういう……」

 首を傾げた晶子に言い切ったゼファーの一言に、ハーミーズが呻き声を上げる。

「大昔に悪党が支配している砦からいかにカッコよくスマートに脱出した~とか、かつて出会った仲間達は自分を中心にして成り立っていた~とか。どこまでが本当でどこまでが誇張表現なのかわからない事しか詠わないんだから、だんだんうんざりしてくるんです」

(うわぁ……)

 訂正してくる相手がいない分、相当話を誇張して語っているようだ。ゼファーが元の話を知っているわけがないはずだが、彼女の呆れた様子を見るに素人でも分かるくらいにはかなり無茶苦茶な盛り方をしているのだろう。

「僕は本当の事しか言ってないのに♭ 信じてもらえなくて悲しいよ……#」

「いや絶対貴方はリーダーって質じゃない無いでしょ。むしろ周りの人に絡み過ぎて常に誰かしらから説教されてるタイプ」

(う~ん、的確に大正解叩き出してるゼファーちゃんワロス)

 ハーミーズの性格をよく理解しているゼファーの一言一言に、晶子は時折笑いが漏れ出そうになるのを必死に堪えていた。

 そんな晶子に気付いているのかいないのか、ハーミーズは尚も「うぐぐ……」と呻き、反論しようと隙を伺っている。

「自由を愛する吟遊詩人に、噂に聞く個性豊かな英雄達をまとめ上げる手腕があるとは到底思えないけど。仮に手腕はあったとしても、ハーミーズ絶対面倒くさがるでしょ? 肝心な所全部仲間に投げて、一人で高みの見物してそう」

「そっこまで酷くはないよ!? 精々押し付けるくらいで……」

「やっぱり押し付けてるんじゃない」

「あっ」

 だが一を言えば百となって返って来るゼファーの言葉に、早くも心が折れかけてきているように見えた。

「こ、これはその、ほら! 物語はちょっと大げさな方が盛り上がるだろ# だから、僕のこれは嘘とかでは無くて、あくまで語り部をする上での必要なスパイスなのであって♪」

「でもそれ、結局は嘘ついてるって事にならないの? そのスパイスと嘘の違いって何?」

「…………」

 純粋な疑問だと言いたげなゼファーに、とうとうハーミーズは答えることが出来ず黙り込んでしまった。

 それでも必死に言い訳を並べようとして顔を右往左往させているものの、これと言った案は浮かばない様子。次第に焦りを滲ませるハーミーズに、ゼファーはただただじっと答えを待っている。

(うーんこの、ちょっと気になる子に良いとこ見せたくて背伸びするけど空回る男の子と、そんな男の子に律義に付き合ってくれる同じクラスの女の子って感じのやりとりラブコメ漫画かな?? とっても良いと思います!! ただし時と場所を考えてくれ)

 あたふたするハーミーズの様子が面白くて生暖かい笑みを浮かべていた晶子だが、いい加減見ているだけにも飽きて来ていた。

「あの~……あたしは何でここに引きずり込まれたんですか~。用がないなら帰りますけど~」

「あちょ、待って待って! ごめんゼファーお説教なら後で聞くから!」

 軽く声をかけてそっと退出しようとする晶子の事を、ハーミーズが慌てて引き留めてくる。まだ何か言いたげなゼファーを尻目にふわりと浮かび上がると、立ち止まった晶子の元へと近づいてきて、開口一番こう言った。

「君、何が目的なんだい♭」

「目的?」

「とぼけなくてもいいんだよ」

 質問の意図が分かりかねると首を傾げる晶子に、ハーミーズは飄々とした態度から一変し、閉じられていた瞳を開眼して問いかけてくる。

「女神の事さ、きっとまた何か企んでいるんだろう? 封印を施されたっていうのに、わざわざ君みたいな使者を寄こすなんて♭」

 陽だまりのような温かな光を宿す黄金色の瞳が、鋭い輝きで晶子を睨んでいた。

(あ~、女神の使者たるあたしがここにいるって事は、何かしようと画策してるって思われたって事か……)

 女神を目の敵にしているハーミーズからしてみれば、晶子の存在は良からぬ事の前触れのようなもの。このように警戒を露わにするのもしかたないのだろう。

 晶子自身、彼からの反応には薄々察しがついていたので思わずフッと乾いた笑みを零してしまった。

 それを見たハーミーズが余計に警戒心を強めた視線を送ってくるものの、晶子からすれば正直ごめん、という他に無かった。

「さぁ、何を企んでいるのか吐いてもらうよ♪」

「ごめん、ここに来た事自体はマジで女神関係無いんだわ。あたし普通に魔道具達に誘拐されて来たから」

「ちょっと待って」

 かっこつけて問い質そうとしたようだが、申し訳なさそうな表情をした晶子の返答にハーミーズも真顔になる。

「……え、ほんとのホントに自分の意思で来たわけではないのかい??」

「っすね。なんなら、催眠技のようなものかけられて、連れ去られる間意識無くしてましたし」

「えぇ……」

 肩を竦めて見せれば、予想外の答えにハーミーズは困惑した様子だった。

「てかぶっちゃけて言っちゃうと、今のあたしって女神と連絡も取れないからさ。あいつが何か考えてても、あたし一切知らないからね」

「今すっごい事ぶちまけたよね?? え、連絡とるってなに??」

 潔白の証明になるかはわからなかったが、自身の現状を隠す事無く伝えればなぜか更に困惑を強めてしまったらしい。

「一体どうやって……」

「晶子様は女神様と直接お話が出来るのですね!? 凄いです! 素晴らしいです!!」

 疑問の尽きないハーミーズの問いを、感涙したようなゼファーの声が掻き消した。

「……え、ゼファーちゃんは女神と直接話せないの??」

「はい! 私達にそのような力はありません」

(嘘だろゼファーちゃん達は女神と念話出来ないの!?)

 あっけらかんと答えるゼファーに、晶子は驚愕する。女神から御役目を賜っていると言っていたので、てっきり何かしらの方法で情報のやり取りをしているとばかり考えていたからだ。

(いやでも、それならこの子達が色々と知らないのは説明がつくか? 魔道具達ってあまりにも世界情勢に疎すぎるし、前に帝国の事知ってるか聞いたら「どこそれ?」って返って来て衝撃だったわ……)

 地上であれば余程の世間知らずではない限り知らない者などいないであろう帝国。その存在すら知らないと発覚し、元歴史研究家をしていたと言う男性と、家庭教師の経験のある女性と共に死に物狂いで教え込んだのがつい数日前の事である。

「あ~……詳細は割愛するけど、あたし女神と念話で会話出来るんよ。けどさ、どういう訳かこの施設に来た頃から通じないんだよねぇ」

「……割愛された所が気になる所だけど、今は置いとこうか♭ 女神とは一切通じないのかい?」

「まーったく。この二週間、合間みてずっと試してはいるんだけど応答なし。折り返しが来る事も、向こうから強制的に切られてる訳でも無いから、誰かに邪魔されてるとかでは無いと思うんだけどねぇ」

 少なくとも、女神と連絡が取れない事に淀みの精霊は関与していないと晶子は考えていた。

(念話する時に妨害されてる感じも無し。かと言って駄目神のポンコツが発動したって訳でも無いんだよなぁ。マジ謎……女神、どうしたんだろ)

 彼女のポンコツ具合に頭を抱える事は多くとも、晶子はなんだかんだ女神を嫌いになれずにいた。

 なにより晶子にとって、女神も推しの一人に違いないのだから。

「まあ女神と連絡は取れないけど、あたしのやる事に代わりは無いからね! 今後もしつこく連絡はいれるし、何れは通じるでしょ」

「ふーん……君のやる事って何だい♯」

 にかっと笑って言えば、ハーミーズは再び警戒したように問いかけてくる。

「そんなもん決まってる」

 ハーミーズの己より低い頭を、晶子は断りなく無遠慮に撫でつけた。

「!?!?!? ちょ、ちょっと!?」

「あたしはのやるべき事、それはみんなをハッピーエンドに導く事よ!!」

 ぱちんとウィンクして見せた晶子に、ハーミーズは訝し気な表情を浮かべ、ゼファーは満面の笑みで拍手をしていた。

次回更新は、1/9(金)予定です。

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