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とあるトレジャーハンターの希望

※ 傍点・ルビが正しく表示されていないのを発見したので修正しました。

 アルベートにとって、晶子と言う女の第一印象は『やけにテンションの高い奴だな』程度だった。

 羊毛のように柔らかそうな髪は肩よりも上のあたりで切り揃えられ、蒼い瞳はまるで快晴の空をそのままは嵌め込んだみたいに澄んでいる。

 恐らく美少女と言っても過言ではないであろう容姿をした晶子は、一見すれば深窓の令嬢だと言われても可笑しくなかった。

  だが、彼女はその見た目に反して好奇心に溢れ、アルベート達の旅の話にも嫌な顔一つせず耳を傾けてくれる。自身の経歴に誇りと自信を持っていたアルベートは、喜んでこれまでの旅を語り聞かせた。

  宝石のような瞳を輝かせ、時折茶々を入れつつも続きを催促する晶子。彼女のそんな姿に、テンションが高いのは自分と言う名のあるトレジャーハンターに出会えた為だろうと思っていた。

 しかし、辿り着いた洞窟を潜っていくにつれ、その顔色は目に見えて悪くなっていく。そわそわと何かをしきりに気にするような晶子に、何か予期せぬ事が起きるのではとトレジャーハンターとしての勘が告げていた。

(いやいや、考え過ぎか。どう見たって冒険ド素人の新米冒険者の女の子だし、きっと今頃になって超絶有名人かつ凄腕の俺様達と一緒に冒険してるって事実に気付いてビビっちまったんだろう)

 だが、アルベートは一人勝手にそう納得して、深く考える事はしなかった。この時の事を、後に深く後悔する。

(……あ~、ひっでぇ顔しやがって)

 自身の胸を貫く謎のモンスターに掴みかかりながら、後ろ目に見えた晶子の顔に場違いな感想を抱いた。

 荒く呼吸を繰り返しながら、それでも絶対にアルベートから視線を外さない彼女に、我ながらかっこつけが過ぎるなとも思う。それでも、不思議と晶子を庇った事に後悔は無い。

(でも、流石に悪い事しちまったな。初めての冒険でこんな……)

 遠くで、鑪と共闘していたダリルが何かを叫んでいる。アルベートの耳にはその声がちゃんと聞こえていたが、何と言っているのかは理解できなくなっていた。

(きっと俺の心配をしてんだろうな。息子を泣かせちまうとは、父親失格だな)

 そんな事を考え自嘲していた時だった。突如、今まで腰を抜かしていた筈の晶子がアルベートに駆け寄ると、腰に佩かれた剣を抜く。

 彼女はのた打ち回るモンスターの体にトドメを刺すと、話しかけようとしたアルベートの口を塞いで、鑪達の方へと走りだしてしまった。

 入れ替わりで戻って来たダリルに支えられる形で戦いの行く末を見ていたアルベートは、その圧倒的な戦闘力に思わず見惚れてしまう。

 まるで舞台の上で舞い踊るような晶子と鑪の剣戟は、彼らに群がる漆黒のモンスターを次々と斬り捨てていく。結果として二人の機転と光石のおかげでモンスターを退ける事は出来たが、傷の深かったアルベートは、息子に最後の言葉を残して息絶えた……筈であった。

(まっさかこんな形で復活するなんてな~。人生何があるかわっかんねぇな)

 存在を再編され、赤銅で出来上がった掌を握ったり開いたりしながらアルベートはそんな事を思う。

(再編、なぁ……何とも不思議な縁だよな。俺様達が登場するゲームだとか、異世界だとか、(にわ)かには信じられないが……()()()()()()()()()()、間違いなさそうだしよ)

 晶子による再編の際、アルベートは不思議なものを目にした。見た事も無いくらいに天高く聳える灰色の塔のような建物や、人が乗り込み高速で動く鋼鉄の箱、奇抜な衣服を身に纏った人々。

 脳に直接流れ込んでくる光景の数々を見て、アルベートは直感的にこれが『晶子の記憶』であると察した。

 そうして彼女の記憶を眺めている中で、WtRsと言う名の遊戯(ゲーム)の存在を知る事になる。四角い箱の中で展開される物語では、アルベート達は一定の言葉を話す事しか出来ないただの登場人物でしかなかった。

 だが、そんな作り物の存在であるアルベート達に向かって、女の声が話しかける。その言葉のどれもが、アルベート達を称賛し、励まし、愛を告げるなど肯定的なものだった。

 女は繰り広げられる物語の結末に涙を流し、その度にもっと幸せになるべきだと口にする。その言葉からは、心からアルベート達の幸福を願っているのが感じられ、有難いと思いつつあまりの熱の入れように若干引きもした。

(まあでも、嬉しい事には変わりないよな。だって、本来なら口にするだけで馬鹿にされちまうような夢や願いも、アイツは絶対に否定しない。どれだけ無謀でも、どんなに無茶苦茶な望みでも、俺様達が向かいたい場所へ歩くのを、晶子だけは応援してくれる)

 それだけで、アルベートは心が弾むような気がした。実際、口では自身を凄腕と称していても、周囲からの目は冷たい物であるのが事実だ。

 アルベートも本当は分かっている、己は決して勇敢では無いし、どちらかと言えばビビりでいつも息子の背中に隠れて情けない姿を晒している事くらい。

 けれども、彼には夢があった。いつか世界的なトレジャーハンターとして名を馳せた先祖のようになりたいと。

(あれだけ画面の向こう側から熱心に声をかけてくれてたんだ、晶子なら迷いなく背中を押してくれるだろうな)

 なんなら偉大な発見をする為の調査に協力すると言い出しそうだと容易に想像が出来て、笑いが込み上げてくる。

 そんなアルベートを未だ困惑した目で見つめるダリルに何でもないと言うと、更に高くなってしまった鑪を見上げて提案を持ちかけた。

「とりあえず、場所を移動しようぜ。ここからそう遠くない所に、良い拠点があんだ」

 少し思案したあとで、鑪が是を返して来たため、アルベートは案内役として先を歩きはじめる。

 目指したのは、かつて晶子がWtRsで遊んでいる際に利用していたマイハウスだ。なぜ場所が分かるのかと言えば、再編される際に一時的に女神とも意識が繋がったからである。

 その為、アルベートは世界の現状をある程度正確に理解する事になり、マイハウスへの道中に鑪達へと説明もしていた。

「ふむ……アルベート殿の話は分かった。しかし、我は晶子に説明を願いたい。お主の事を信用していない訳では無いが、それでも彼女から直接聞きたいのだ」

(はぁ~、随分と難儀な性格をしてやがるなぁ。まあでも、こういう所が晶子的最推しポイントなんだろうな。)

 愚直で頑固な反面、決して理不尽な理由で誰かを傷つけたりしない。高潔な精神で物事を見極める鑪だからこそ、晶子は彼を好きになったのだろうと考える。

 マイハウスに辿り着いてからは、晶子が目覚めるまで各々自由に過ごしていた。そして彼女が気絶して二日目の夜、アルベートは脳内に直接語りかけて来た女神に導かれるまま、晶子の夢の中へと入り込む。

(てか、なんでアンタ俺様に話しかけてこれてんだよ?)


“再編の力によって存在が編み直された関係で、私との繋がりが強固になったからですね”


 呆気らかんと結構重要な部分をさらっと話す女神に、アルベートは密かに頭を抱えた。

 夢の中で改めて会話した晶子は、人間では無くなったアルベートに申し訳なさそうにしていたが、それは割とどうでも良かった。

 なぜなら、彼女が己を再編してくれたおかげで、アルベートはまだ生きる事が出来るのだから。まだ自分の道を見つけられずにいる息子を見守る事が出来るのだから。

 自信なさげな晶子に、画面越しの彼女がしていたような励ましの言葉をかける。不安そうにしていた彼女を最終的に吹っ切れさせたのは女神の爆弾発言だったが、それでも晶子に笑顔が戻ったのは良い事だ。

 夢から醒めて、駆け込んで来たダリルと鑪に己の役割を説明する晶子。やる気と決意に満ちたその表情に、アルベートはどんな事があっても彼女の味方であり続けようと決意する。

「あたしは、女神から世界を救うために選ばれた『再編者(リジェネーター)』だ!」

 アルベートにとって、晶子はこの世界を照らす『希望の星』なのだ。

今回、少々短いので連続投稿になります。

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