「ら、ラニアさん……脅かさないでよ」
かくして始まった『魔道具常識育成計画』であったが、開始して間もなく、晶子は頭を抱えるしか無かった。
(奉仕型のミスオラージュには給仕系の仕事も良いけど、いざという時の怪我の対処とか覚えさせとくか)
「じゃあまず、怪我人への対応。今回想定してる患者は屋外での作業中に高所から転落、落下先にあった鋭利な物によって腹部に重傷を負ってる。内外マナ乖離症候群の関係で下手に魔法薬等を使うと危険だから、別の方法で応急処置をしてみてね」
手始めに指導を行う事にしたミスオラージュには患者の症状と状況、そして注意事項を説明の上でどうするかと問いかける。彼女は数秒黙り込むと脳内で情報を精査しているようで、頭部に装着されているメイド服のヘッドドレスのような器具が点滅していた。
そして彼女なりに答えを出したらしいミスオラージュは、すぐに満面の笑みを浮かべると自信満々にこう告げた。
「はい。まずは患部に高濃度ポーションを一瓶丸々。それはもうたっぷりとぶっかけます」
「ちっげーよ!! ポーションは良いけど何で高濃度なんだ普通のもってこいよ!! てか魔法薬にアレルギーがあるっつってんだろ!? なんでポーション使うんだよ!!」
あまりにも堂々と間違った事を答えるので、晶子は力一杯、思いっきりツッコんでしまった。
「はて、あれるぎぃ……とは?」
(そこからかそっかそうだよね! ここにアレルギーって言葉は無かったっけね! 知ってたわちくせぅ!!)
そして口をついて出た単語に首を傾げるミスオラージュを見て、血が出るのではというくらい唇を噛みしめた。
(ぽ、ポクプンは経理特化だし、計算も得なはずだからそうそう可笑しな事にはならないはず……!!)
「じゃ、じゃあ……今、君はとある道具屋で働いていると仮定しよう。勤め先は良くも悪くも古い店で、最近では近くに出来た新しい雑貨店にお客を取られ始めている。どう解決する?」
二番手となったまいどポクプンには、彼の得意分野である経理関係の問題を提示。流石にミスオラージュ程の常識知らずでは無いだろうと高を括っていたが、齎された答えに愕然とするほか無かった。
「Sonnna Mon Aiteno Mise Sarathi Ni Kaetemaeba Banji Kaiketsu Ya!!」
「物騒!! 確かにそもそもライバル店無かったらええんかもしれんけど、ちゃうやろ!! なんでそんな物理特化の思考しとんねん可笑しいやろが!! お前経理特化型の魔道具なんやから、もっと経理的な方法で解決策ださんかい!!」
こちらもミスオラージュ同様、さも最適解を出したと言わんばかりに胸を張るポクプンを見て、晶子は頭を掻き毟りながら怒鳴ってしまう。
「Sonai Okotte Bakkayato Kaoni Shiwa Dekimasshe?」
「原因はお前じゃいアホンダラ!!」
「Aita!?」
なぜかこちらを諭すように背中を擦って来るポクプンに、晶子の拳が出てしまったのは仕方が無い事だろう。
(シュトゥルム卿は護衛型で体力もあるし、高齢者の介助を覚えてもらえると今後助かる、け、ど……)
「……えぇと、シュトゥルム卿は高齢の御婦人の護衛中だと思って、あたしの質問に答えてね。若い頃の事故で足を悪くしてて、杖なしだと歩くのに難がある感じの人。で、想定としては、買い物帰りに足を挫いてしまって動けない。でも買った物には足の早い物もあるし、なにより今日は炎天下で日陰も無い場所にいる。このままだとせっかく買った物は駄目になるし、護衛対象の体にも良くない。どうする?」
晶子の問いかけに、シュトゥルム卿は普段の喧しさが嘘のように静かに考え始める。時折瞳の奥がチカチカと瞬いているのは、演算機械がフル稼働しているからだろう。
(荷物も大事だけど、まず先に護衛対象の安全を考えて行動するってのがミソ。なんだ、けど……これはどう答えてくる……? 前の二体がちょっとあんまりな感じだったから、だいぶ不安なんやが……)
「わぁ~↑っかりましたぞぉ~↑!!」
先行き不安な気持ちを抱えたまま、得意げに声を上げるシュトゥルム卿の答えを聞く。
「まずは、主人の安全第一であ~↑ります! とにかくすぅ~↑ずしぃ場所へ!!」
「お、おぉ! それで?」
初めて出たまともな返答に期待が高まっていく。思わず身を乗り出して彼の言葉を待ったのだが——。
「という訳で、近場にある建物を土地ごと持って主人の元へ戻るのであ~↑ります!! 吾輩の力があれば、この程度、あっさめっしま~↑えなのであ~↑ります!!」
「ちっがーうそうじゃねー!! なんだよ土地ごとって!! なんで建物の方を持ってくんだよ!! 普通は御主人の方を日陰のある所に連れて行って安静にさせるんだよ!!」
ある意味期待を裏切らない答え方をしたシュトゥルム卿に、晶子はその場に崩れ落ちながら悪態をついた。
「おや? 何か可笑しな所でもありましたかな~↑??」
「可笑しなとこばっかだわ大馬鹿野郎が!!」
「えぇ!?」
蹲ってしまう晶子に声をかけたシュトゥルム卿だが、それが癪に触ってつい罵声を浴びせてしまう。
彼等以外も、晶子が提示した場面とは全く見当違いな答えを出したり、明らかに過剰な対応をすると言い出す魔道具ばかりで、これでは人間達がうんざりしても仕方が無いと一人納得してしまうほどだった。
(ゲームでもそうだったよ? でもね、いくらなんでもここまで酷いと、本当にこれ解決出来んのかって不安になるよね?? がんばれあたし、負けるなあたし……いや無理では??)
あまりにも前途多難過ぎる出だしに、まだ一日も経っていないと言うのにも関わらず、すでに晶子は疲労困憊状態だった。
(怒らないように、怒らないようにって思えば思う程、魔道具達の出した答えにイラっとして怒鳴ってまうわ……)
「はぁああ……もうちょっと何とかなるって思ってたけど、そうそう上手くいかないようになってんのな」
現在の時刻は、おそらく現代でいう所の午後三時過ぎ。一気に詰め込んでも色々とガタのきはじめている魔道具達が処理できるかどうか分からない、というわけで小休止することになった晶子達。
気分転換と視察も兼ねて一人研究所内を歩いていた晶子は、提示された役目に対して過剰な応酬で答えようとする魔道具達を思い出して、盛大な溜息を吐き出した。
(てかこれ、彼等だけじゃなくて、最終的にはゼファーちゃんにもやらないといけんのよなぁ……果たして、そこまで辿り着くのにどれくらいの時間がかかるんだか……)
ミスオラージュ達だけでも手一杯だと言うのに、施設の中核を担うゼファーには一体どれだけの労力がかかるのか。
何せ、ゼファーはその特性上中枢にある部屋から動く事が出来ない。それはつまり、他の魔道具達以上に世間知らずで常識に疎く、人間達との関りが無いという事であるのだ。
(あそこはマジの心臓部だから人間達は入れないし、そもそも入れたとしてどうすんだって話だからね……誰か一人でも話し相手がいれば違うか? そうだな……居住区にいる子供達を何人か来させて、対話の中で常識を学ばせるとか……いやいや、仮に子供達と対話できたとして、きっとゼファーちゃんは途中から女神様マンセーになってるような気がする……。たぶん、きっと、おそらく……)
初対面時の印象からして、ゼファーは人間達の事をあくまでも『女神から託された保護対象』としてしか見ていなさそうだ。
下手をすれば純真な子供達を意図せず洗脳してしまいかねないと、一端この考えを頭の隅に追いやる。
(ってなったら、現状一番話し相手に良いのはあたしか? 女神繋がりで話題もあるし、結局は彼女にも色々と人間との関り方とか、人間の世界の常識とかを説明しないといけないし……)
近い内にゼファーの元へ顔を見せに行こうとしていたので、話し相手の件は自らが足を運ぶ事で決定した。
(ついでに言うなら、何時までも接触のせの字も出てこない黒幕が消息不明なのも不安な要素ではある)
ゲームシナリオでは、人間達に接触するのと同タイミングでシナリオボスとなる存在が現れた。
ヴィクターと名称のついた研究者風の見た目をした魔道具なのだが、彼は十三代目所長の右腕であり、盲目的に崇拝する信徒だったという設定がある。
(WtRsでのヴィクターは、事あるごとに主人公の行動を邪魔してきて、人間と魔道具の関係を引っ掻き回してくる。で、人間と魔道具が和解するルートだと最終的に追い立てられて、自分からこの研究所を飛び降りて死亡。逆に対立ルートだと、散々に双方を煽った結果、流れ弾で死ぬっていう……なんて言うか、良くも悪くも中途半端なキャラだったよなぁ)
そもそも彼の目的は、『愛しい所長の事業を自身が引き継ぐ』というもの。
物語の中で正体を現し自己語りをするヴィクターの話を要約すれば、所長の行っていた事業は素晴らしい、魔道具は所詮ただの道具、もう一度武器として売り込めれば所長の名前は世界に広まり、偉大な人物として永遠に歴史に名前が刻まれる、所長亡き今、間近で所長の手腕を見て来た自分がこれを受け継ぐべきだ、というもの。
(教祖が狂ってる分、ヴィクターの狂信者感が半端なかったよねあれ……どっちの終わり方にしても、高笑いしながら死んでいったし……個人的には、高笑いしたまま飛び降りて、笑い声が段々小さくなっていくところがトラウマっす)
そんな理由もあって、晶子は正直ヴィクターとは会いたくなかった。だがシナリオの導入と同じように研究所に来たからには、必ず出会わなければいけないだろうと密かに意を決していた訳なのだが——。
(影も形もないどころか、音沙汰も無いってどう言う事なの?)
集まっていた魔道具達の群衆の中にも、ヴィクターの姿は無かった。それどころか、魔道具達や人間達に彼の存在をそれとなく尋ねても、返って来るのは全て『そんな魔道具は知らない』と言う返答ばかり。
(意味が分からない……これって、ラニアと何か関係があるのかな?)
脳裏に浮かぶのは、正体不明の魔道具の事。初対面時以降、どういう訳かラニアからは淀みの悪臭が薄れており、すれ違った際に辛うじて分かる程度になっていた。
更に、ラニアは何かと魔道具達の指導に苦戦する晶子にさり気ない気配りを見せ、終始助けてくれているのだ。
(ううん……こう親切にしてくれる相手を疑いたくは無いんだけど、やっぱゲーム内に登場したキャラの中に彼女の同位体はいなかったから、どうしても警戒しちゃうんだよね)
感謝を述べようとすれば、たちまち姿を消してしまう掴みどころのないラニアと存在しないと言われる黒幕ヴィクター。今後の展開・進展の為にも、早急に情報が欲しい所であるが、それよりももっと重要で慎重に進めなければならない事がある。
(目下の問題で今一番急を要しているのは、ハーミーズをどうやって説得するかって事なんよね……)
風の英雄にして、自由の吟じ手・ハーミーズ。WtRsの今シナリオにおいて最も重要な人物であり、結末の善し悪し、仲間への加入など様々な部分で関りを持つ事になる存在だ。
帝国や神樹での一連の流れからして、ゲームのシナリオをなぞるのは間違いない。それを踏まえると、晶子がハーミーズと戦わなければならないのは避けられない事だろう。
(まともに話は聞いてくれ無さそうだし、戦闘はしなくちゃいけないよね……ハーミーズの攻撃、本人の自由奔放な性質が反映されてて搦め手が多いから苦手なんだよなぁ。攻撃回数や対象もランダムだから回避しずらいし、基本的に宙に浮いてるからハーミーズ自身に攻撃を当てるのも難しい……会いたいけど、会うの嫌だなぁ……)
恐らく七英雄一説得が困難なハーミーズとの邂逅が今から憂鬱で仕方なく、晶子は何度目かも分からない溜息を吐き出した。
「そんなに溜息を吐いては、幸せが逃げていってしまいますよ?」
「ぅおわあああああああ!?」
完全に気を抜いていた晶子は、背後から耳元に囁きかけてくる声に驚愕し、そのまま足が縺れて前のめりに転んでしまう。
慌てて振り返れば、そこには怪しげな笑みを浮かべたタニアが、笑みを深めて晶子を見下ろしていた。
(びっ、くりした……全然気配無かった……)
「ら、ラニアさん……脅かさないでよ」
「申し訳ありません。あまりに深く思い悩んでいるようでしたので、話しかけるべきか悩んでしまって」
そう言って僅かに眉根を下げて笑うラニアに、こんな顔も出来るのかと晶子は内心驚いていた。
「それで? あたしに何か用事でもあった?」
「えぇ。考え事に没頭出来る良い場所があるので、神子様をご案内させていただこうと思いまして」
(……神子様??)
恭しい敬称で呼ばれた事に首を傾げた晶子だが、ラニアはさっさと歩きはじめてしまう。
「あ、ちょ!」
「さ、ついて来てくださいな」
引き留めようとした晶子に首だけ振り返り、ラニアが嫋やかに笑いながら告げる。
(うぐぐ、この何とも言えない自由さは魔道具故なんだろうけどもさぁ……! もうちょっと人の話を聞いてくれませんかね!? 一瞬でもまともな奴なのかと思ったあたしが馬鹿だったわ!!)
謎めいた魔道具に翻弄されているのを感じつつ、有無を言わさない様子のラニアに晶子は再び溜息を吐き出して、渋々後を追いかけるのだった。
♢ ♢ ♢
ラニアの案内の元、辿り着いたのは研究所の奥まったところにある一室だった。
(ここって……)
「ここです」
到着した扉の前で一人驚いている晶子に気付く事無く、ラニアが軋んだ音を立てた戸を開いて室内へと招き入れてくる。
それに従って中へ足を踏み入れれば、壁一面を埋め尽くすようにして収納された本の山が晶子を出迎え、思わず感嘆の声を漏らした。
「歴代の家主が使っていた書斎です。この場所は人の生活範囲とも、魔道具の行動エリアとも被っておりませんから、物事をじっくり熟考するには最適かと」
(『所長の書斎』……確かにここはゲームマップ的にも一番端にあったし、実際上の居住区とも中枢とも離れてるから落ち着いて考えるにはもってこいだろうけど)
その名とラニアの説明通り、案内されたここはWtRsでも重要な情報を得る事が出来る一室、歴代の所長達が所有していた唯一の場所『所長の書斎』であった。
元研究所編のシナリオで得る過去の情報や研究データが置かれており、ゲーム内では各魔道具達の特徴が載っている図鑑などを読む事も出来た。
しかし、ハーミーズによって研究所が一度崩壊した事で、この部屋の存在を知る者は誰もいないはず。ゲーム本編のゼファーですら、書斎がある事を忘れているくらいには魔道具達に関わりのない一室なのだ。
(なのになんで、こいつはこの場所の事を知ってるの?)
晶子の背中を冷や汗が流れ落ちていく。少し怪しいだけの彼女が、途端に得体の知れない悍ましいモノに見え、知らず知らずのうちに拳を握っていた。
「……こんな所、良く見つけたね」
「これでも、私はゼファーからここのあらゆる事を任されておりますから。定期的な見回りは怠っておりませんので」
(これは、はぐらかされたか?)
問いかけに対して返されたのは、絶妙に要点をずらした答え。それ以上この話題を深堀して欲しくないのか、背を向けたまま室内ランプを幾つもつけて回るラニアから読み取る事は出来なかった。
「神子様の御部屋はこちらに変更しておきましょうか。女神様の御使いとして色々とお忙しいと御身だと思いますし、いつまでも魔道具達に囲まれていては疲弊してしまうでしょう?」
「それは、まあ……有難いっちゃ有難いけども。というか、その神子様って何? なんであたしを神子だなんて」
会話のながれで、ついそう聞いてしまった晶子。その瞬間、全身に怖気が走り、反射的に身構えてしまう。
「あぁ! そんなの決まっています」
至極嬉しそうに言葉を紡ぎながら、ラニアが全身で振り返る。
「貴女様が、我等が唯一神。創世の女神の愛し子であるからにほかなりませんわ」
「……んぇ??」
「この世を作り、ありとあらゆる命を創造した一柱の神。我等を寵愛し、また我等の愛を一身に受ける高貴なる者」
魔道具なのにも関わらず紅潮した頬を両手で包み、恍惚とした表情を隠しもしないで告げるラニアに、晶子は何を言っているのか理解が追い付かなかった。
「そして……私の前にただの一度だけ、御姿を見せてくれた神秘の象徴」
(!! は、え!? 女神こいつに姿見せてんの?? どいうこと!?)
とんでもない爆弾発言に、晶子の混乱はますます増していく。しかし、当のラニアはそんな晶子に気が付いていないようで、うっとりとしたまま話続けている。
「あの日、研究所でいつもの見回りをしていた私は、目の前に降臨する女神様の姿を見たのです。彼の御方はエネルギーを充填する為に眠る魔道具一体一体に優しく触れ、労りの御言葉をかけて下さっていたのです。あまりに美しい光景だったので、私は見惚れるしかありませんでした」
(えぇ……なぜに急な語りが始まったん……? てか女神、アイツマジで現実に降りとったんか? ラニアさんの語る女神とあたしの知る女神が違い過ぎてちょっと違和感が……)
とてつもない熱量で語るラニアに、晶子は自分と同じオタク臭さを感じ取りつつも、事その情熱を向ける相手が女神だという事でちょっと引いていた。
「神々しさに圧倒されてその場に立ち尽くしていた私に、女神様は気付いてくださった。目が合った事に驚きしどろもどろになる私の頬に触れて、彼の御花はいらずらっぽく笑って言ったのです。「今日の事は、私達だけの秘密です」と。甘く蕩けるような笑みを浮かべる女神様に、私の全身に雷に打たれたような衝撃が走りました。以来、御身を見る事は叶っていませんが、あの感動を忘れられなくて……こうしてずっと、彼の御方の御帰還を待っているのです」
「……帰還を、待ってる?」
最後の言葉にどういう意味かと問い返せば、ラニアはまた蕩けたように笑った。
「女神様が封印されて五百年……実に長い時間でしたが、ようやく貴女様という変数が現れた。これもきっと、女神様が我々を導いているに違いありません。私達は必ず出会う運命にあったのです!」
(こ、こいつ……怪しい言動するくせに、中身はただのガチ勢じゃねーか!! オタク仲間ですね分かりますがそれはそれとして仲良くはしたくないかな!!)
困惑する晶子をよそに、ラニアは目を細めて一層笑みを深くする。
「同じ女神を崇める者同士、貴方様には協力して欲しい事があるのです」
(ぜってぇ碌な事じゃないお断りしたいです!!)
じりじりと近づいてくるラニアに、晶子の足が無意識に後退る。しかし、それを見越していたのか、ラニアは立てた人差し指で宙に何かを書くと扉が一人でに閉じ鍵までかかってしまった。
「は!? うっそだろ閉じ込められたのあたし!?」
驚き過ぎて声に出してしまう晶子に、何が面白いのかクスクスと笑うラニア。
「それでお願いなのですが」
(!? なん、は!? なんでまた急に淀みの気配が濃くなってきたの!? てかクッサ!!)
ドアノブを何度も引いたり鍵を開けようと試みる晶子の鼻腔に、気分を害すほどの悪臭が漂って来る。
鼻を抑えたいのを我慢してラニアを振り返れば、彼女は表情を崩す事無く言った。
「どうか、我々が女神様に会う為に力を貸していただきたいのです」
「え」
美しい魔道具の口から発せられた言葉に、晶子は間抜けな顔を晒して動きを止めるしか無かった。
次回更新は、11/28(金)予定です。




