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——某日、とある放棄された研究所の中心部。

——某日、とある放棄された研究所の中心部。


 窓の無い部屋の中は壁の至る所からは無数のコードが伸び、中央にある玉座のような形状をした巨大装置へと繋がっている。

「~~~~~~♪」

 そしてその上には、上機嫌に鼻歌を歌う一人の少女がいた。

 桜色の艶やかな長髪の毛先は装置の端子部分へと接続され、下半身は装置と一体化してまるで機械から生えているように見える。

上半身の節々に見られる球体関節とその隙間から漏れ出る光の明滅は、彼女が生き物では無い事を証明していた。

「~~~♪ ~~~~~~~……♪」

 そんな少女は時折音が外れるのを気にする事無く大昔に流行っていた童謡を口遊みながら、ただ黙々と手元にある本のページを捲る。

 色褪せた皮表紙の本は一昔前に流行った児童書であり、少女が何度も読み込んでいるのかやや草臥れて見えた。

「~~~~……♪ はぁ、やっぱり何度見ても素敵だわ」

 最後の一ページまで読み終えた少女が本を胸に抱きしめながら、感嘆の溜息を零す。

「どこまでも続く青い海に、空まで伸びる大きな木、それに風に吹かれて踊る花畑……一度でいいから見てみたいなぁ」

 本の中に書かれているものしか知らない少女は、まだ見ぬ世界に胸を躍らせるも、己を束縛する機械の点滅が目に入って落胆する。

 この装置がある限り少女はここから動く事は出来ない。しかし、だからと言って装置を壊そうとも思った事は無かった。

 少女を捕らえている装置は、少女や他の仲間達が暮らすこの施設を動かす動力源。尚且つ、そんな装置と一体化している少女こそ、これらを永続的に動かす為の鍵兼重要部位であった。

 それを少女自身も理解しており、何より日々を共にする仲間達の事もあって、そもそも破壊する事も離れる事も出来ないのである。

「……ママが居なくなって、もうどれくらい経ったのかな……? ここじゃ、お空も見えないから、お外がどうなってるのかも分からないよ……」

 誰に言うでも無くそう独り言ちた少女は、遠い昔に頭を撫でてくれた母親(創造主)を思い出す。

いつも白い服を着ていたその人は、他の大人と会話をする時は厳しい口調で相手を詰る事も多かったが、少女と話すときだけは常に穏やかに微笑んでいた。

そして、優しく髪を撫でてくれたのだ。

「……ママに、会いたい」

 母親から貰った最初で最後の贈り物をより強く抱き締めながら、少女は目を閉じる。そうしてどれくらいの時間が経ったのか、不意に何かの気配を感じて下ろされていた瞼を上げた。

「んぅ……? あなた、は……」

 目の前でぷかぷかと浮かんでいる黒い靄のようなそれが誰なのか、寝ぼけたようにぼやける思考を働かせている間、なんとも形容しがたい声がクツクツと笑う。


《縺贋シみ縺ョ謇?繧帝が魔縺励※縺励∪縺」縺か縺ェ?》


「! ううん! それに、アナタは色んなお話を聞かせてくれるから、来てくれて嬉しい!!」

 どこからともなく現れた存在をはっきりと認識した少女は、警戒を抱く事も無く笑いかける。目を輝かせる少女の言葉に気を良くしたのか、靄は一段と嬉しそうに喉を鳴らしながら肩口にまですり寄っていく。

「今日はどんなお話を聞かせてくれるの? あっ、前に話してくれた白い鳥さんと黒い鳥さんのお話は!?」


《谿句ソオ縺?縺ど縲∽サ頑律縺ッ縺願ゥア繧し縺ォ譚・縺溘s縺倥c縺ェ縺?s縺?》


 うきうきしながら問いかけたのに、返ってきたのは呆れたような否定の返事。少女はそれに少し残念そうにしながらも、靄がお話以外でここに来る事の意味は分かっていたので真剣な面持ちになる。

「また、なのね?」

 悲痛な声色を隠しもしない少女に、靄は低い溜息を零す。


《縺ゅ≠縲ゅ%縺か繧峨°縺ェ繧雁圏縺ォあ繧句、ァ縺阪↑讓ケ縺ッ分縺九k縺九>?》


「えぇ。たしか、しんじゅ、と言うのよね?」


《縺昴≧縺?縲ゅ◎こ縺ォ莉翫?∽ク?莠コ縺ョ人髢薙′蝗壹o繧後※縺?k縲》


「なんですって!?」

 靄からの報告を聞き、少女は驚いて大きな声を上げてしまった。室内に反響する自身の声に一瞬羞恥心が起きるものの、そんな場合では無いと首を振り、視線だけで話の続きを促す。


《縺励°繧ゅ?√%縺ョ莠コ髢薙?君驕斐r菴懊▲縺女逾樊ァ倥?蠕。菴ソ縺?□縺昴≧縺?縲ょー壹?莠九?∵叛縺」て縺翫¥繧上¢縺ォ縺ッ縺?°縺ェ縺?□繧阪≧?》


 靄が続けて言った言葉に、少女は当然だと大きく頷き返した。

「女神様から頼られているって事は、他の人間さん達の為になる事をしているんでしょ? ゼファー達と一緒!! ゼファー達の仲間!  だってゼファー達は、人々の安寧と安定した環境を提供する為に、女神様からお役目を貰ったママ達に作られたんだもん! だからゼファーも、その人が困ってるなら助けなきゃ!」

 自身をゼファーと名乗った少女が言い切ったタイミングで、真正面にあたる壁が自動ドアのように開かれた。

「ぜふあー、よんだぁ?」

「よよyo、呼んだ喚んだよんnnnだ??」

 現れたのは、頭部にプロペラのような物が回転して宙に浮いているブリキの人形と、赤いボタンの目が愛らしい白うさぎのぬいぐるみ。

ブリキ人形の方は精神年齢が少々幼いのか、ゼファーの名が上手く言えないようだ。一方のぬいぐるみは、ブリキ人形が言った言葉の一部を延々と繰り返すのみならず、時折ガクッガクッと明らかに動きが可笑しい。

更に付け加えるならば、二体とも体に錆やら解れやらが多く見受けられる事から、相当長い間活動しているのだと分かる。

「黒さんがね、北のおっきな樹の所に人間さんが掴まってるって教えてくれたの! しかもなんと、その人はゼファー達と同じで女神様からお役目を貰ってる人なんだって!!」

「わぁ! じゃあはやく、たすけにいかないと!!」

「ttt、t、たすける、たすけたたたttttたす、たssすける!!」

 今しがた黒い靄から聞いた話を伝えれば、人形達は口々に色めき立ち、そのまま回れ右して部屋を出て行ってしまう。

 残された少女はあっという間にいなくなってしまった二体に苦笑しながら、靄に向かって感謝を述べた。

「いつもありがとう、黒さん。アナタのおかげで、ゼファー達は数百年ぶりのお役目を全うできるんだもの! 本当に感謝しかないの!」


《蜷幃#の蠖ケ縺ォ遶九※縺よ縺?〒菴輔h繧翫□》


「あら、もう帰ってしまうの?」

 段々と姿が薄くなる靄に、ゼファーが寂しそうに言う。そんな姿に、靄は低く喉を鳴らすと、その一部を腕のように伸ばしてゼファーの頬に触れた。


《縺セ縺滓擂る繧医?ゆサ雁コヲ縺ッ縺?s縺ィ面逋ス縺?セ。隧ア繧呈戟縺」縺ヲこ繧医≧》


「約束よ? 絶対だからね!?」

 そう言って頬を撫でる黒い靄に手を重ねるゼファー。黒い靄はその手を軽く振り払うようにして遠ざけると、笑いながら消えていった。


《邊セ縲????大シオ縺」縺ヲね縲り・ソ鬚ィ縺ョ縺贋ココ形縺輔s》


 そうしてまた、一人になった部屋の中。

「……黒さんって、時々変な言葉遣いをするのよね……精々頑張ってって、精々の意味知らないのかな??」

 靄が言い捨てた発言に、首を傾げて斜め上の感想を漏らしたゼファーなのだった。

新章、始動になります。

次回更新は、9/19(金)予定です。

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