__晶子が目覚める三日前、某洞窟内
__晶子が目覚める三日前、某洞窟内
明かりも無い暗闇に包まれた洞窟内で、一人の女が佇んでいる。女は洞窟の中心まで歩みを進めると、その場にしゃがみ込んで地面に触れた。
「これは……女神の……」
微かに感じる力の残滓に、忌々しいと顔を顰める女。そのままくるりと空間を見回すと、迷いなく一番奥へと歩いていく。
角になる場所まで辿り着いた女は、先程のようにしゃがみ込むと、足元に手を翳した。すると、女の掌が赤紫色に光り、地面にも同様の光を発する魔法陣が現れる。
しかし、その魔法陣は中途半端に消えていたり、円の中に書かれた記号が欠けたり、どこか不完全なものだった。
「魔法は発動してる。けど壊れてる……これは、外部からの魔力でかき消されたのね。でも、女神の力が原因じゃない?」
魔法陣の欠陥が外的要因によるものだとすぐ理解した女だが、女神の力による破壊では無い事に首を傾げる。
そうして口を噤んで考え込む女がもう一度洞窟の中央に戻った時、ふと足に何かが触れたのに気が付いた。
女はそれを拾い上げると、表面に付着した土埃を指で軽く拭う。つるりとした手触りと少しひんやりとした感触に、それが何かすぐ合点がいった女は徐に魔力を流し込む。
「……光石」
淡く光り輝く石を見つめる女の脳裏に、かつての戦友の姿が浮かんだ。生真面目で冗談の通じない武人の彼は、己と同じく女神を憎んでいる筈。それなのに、場に残されたこの鉱石からは、彼のものと思われる土の魔力に交じって僅かながら女神の力が感じられてた。
「どう、して……なぜ、なぜなぜなぜ!?」
——バリンッ
溢れ出す激情に任せて、手にしていた光石を地面に叩きつける。粉々に砕け散った欠片を更に踏みつぶし、頭を掻き毟りながら女は慟哭した。
「なぜだ鑪……お前もあの女神の所業は知っている筈だろう!! お前はワタシと同じく、アイツを憎んでいただろう!! なのになぜ、なぜ奴の力の痕跡がお前と共にある!? なぜだ!! なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ!?」
何度も何度も欠片を踏み砕き、残っていた輝きも石の跡形もなくなった頃、洞窟内に充満している闇が突如、『自我を持っているよう』に蠢いた。
光が無いせいで姿かたちが判別出来ないそれは、音もなく女の頬に触れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ねぇ、どう言う事。まさか、アイツが復活したの?」
洞窟内は一寸先も見えない程に暗い為、本来であれば得体の知れない物に恐れを抱いても可笑しくないはずだが、女は平然とその存在を受け入れ言葉をかける。
《縺?>繧??√∪縺?蟆∝魂縺ッ隗」縺九l縺ヲ縺?↑縺》
女の言葉に同調するように、闇に満たされた空間に耳障りな声が響き渡る。老若男女様々な声を混ぜ合わせたようなそれは、到底人間に認知できるような言葉をしていない。
《縺?縺後?∵凾髢薙?蝠城。後□繧阪≧》
「どういう意味?」
しかし、女は何の違和感もなく会話を続け、声にそう問いかけた。
《蜍輔¢縺ャ蟾ア縺ョ莉」繧上j縺ィ縺ェ繧倶スソ縺?r驕ク蛻・縺励◆繧医≧縺?》
声の答えに女は益々顔を歪め、至極不快だと今し方踏み砕いた結晶を睨みつける。
「使い……つまりソイツが、鑪に何かしたって訳?」
《縺輔≠縺ェ縲ゅ□縺後?∽ク区焔縺ォ莉悶?闍ア髮?→縺ョ謗・隗ヲ繧定ィア縺帙?縲√←縺?↑繧倶コ九d繧》
くつくつと隠す気の無い笑い声に、女はヒュッと息を止める。思い浮かぶのは、かつて共に戦い、戦場を駆け抜けた仲間達の姿。
人も異種族も入り乱れた異色のチームではあったが、誰よりも信頼出来て、女にとっては他の何よりも大事な存在。
そして、その中でも女の心を占めるのは、赤い焔の揺らめきを持った男だった。
「……あ、あぁああ……いやだ、いやだいやだいやだ! もう奪われたくない、誰にも奪わせない!!」
闇との対話を経るごとに、女は段々と情緒が不安定になっていく。それを愉快だと言わんばかりに眺め続ける闇が、またくつくつと笑った。
《縺ェ繧峨?縲√☆縺舌↓縺ァ繧ょ・エ繧貞ァ区忰縺励↑縺代l縺ー縲ょ・ウ逾槭↓蜈ィ縺ヲ繧貞・ェ繧上l繧句燕縺ォ》
「えぇ……えぇ、そうね。そうしなければ。そうよ、早く、行かなければ……させない、させないわ。壊させたりしない、そう……絶対に」
嘲笑うような闇の言葉に、女はそんな譫言を繰り返しふらふらとした足取りで洞窟を出て行く。
《縺昴≧窶ヲ窶ヲ蠢後∪繧上@縺?・ウ逾槭↓縲?が鬲斐&縺帙k繧ゅ?縺》
呪詛のような囁きを残し、女の後を追うように闇の存在も姿を消すのだった。
次回更新は、2/23(金)予定です。