「君を逃がさないためだ!!」
黒い手から族長の魂を、新から弦の魂を受け取った晶子は、淀みと怨霊の残滓が消えた《紛う者》の亡骸に改めて向き直る。
「まずは……」
晶子が亡骸の上に二つの魂を乗せると、それらは溶けていくようにして《紛う者》へと吸収されていった。
「魂が!」
「大丈夫よ新。〈紛う者〉の原動力たる淀みも、燃料代わりの怨霊の残滓も消え失せている。それに骸に魂を戻しただけで、死者が復活する事はないでありんす。《紛う者》が動き出す事は二度とござりんせんから、安心しなんし」
焦ったような新に、大丈夫だと満が肩を叩く。彼女の言うように、二人分の魂が体に取り込まれたのにも関わらず、《紛う者》が動き出す事は無かった。
「晶子様はそれを分かっていて、再編の為に魂を御戻しになったのでありんすよ。主がそんなに慌てる必要は何もありんせんわ」
「そ、そうだよね! ごめんなさい、邪魔をしてしまって」
「え、あ、うん。大丈夫だよ!」
さも当然だと言い切った満に同意して頭を下げる新に、晶子はぎょっとする。何といっても、正直そこまで深く考えて魂を戻していた訳では無いからだ。
(め、めちゃめちゃに深読みされてるぅ~!! き、気まずすぎるのでは!?)
(なーんていうか……満の嬢ちゃん、スーフェの嬢ちゃんとは違う意味で晶子に心酔してる感じがすんのは気のせいか?)
(心酔は言い過ぎじゃ……)
若干目が泳ぎがちになる晶子の脳内へ語り掛けるアルベートの言葉に、それは過剰じゃないかと訂正をしてみる。
(いやいや、黒羽と白雲の事があったにせよ、満からお前への好感度は最初っから高かっただろ? ややこしい話にも割とすんなり順応してたっぽいし、どう考えてもお前に馬鹿程懐いてるじゃねーか)
(……そう、言われたら、否定できないような……?)
(なんだかんだ疑問気な新を丸め込んでるみてぇだし、相当だと思うんだが??)
常世で黒羽達と邂逅した際も、満は傍らで静かに成り行きを見守っていた。それを当初、重要な話を邪魔しないように気を遣っているのだと解釈していたが、ここに来て違う解釈が出てきてしまったと内心頭を抱えるハメに。
(えマジで言ってる? なんであたし、満ちゃんにそんな懐かれてんの??)
(いやしらねぇよ。本人に聞きゃあいいだろ?)
アルベートに素気無く返されてがっくりと肩を落とした晶子は、恐る恐る満の方へと視線を向ける。
「ん? どうかされんしたか?」
「イヤ! ナンデモナイヨ!!」
が、黒々とした瞳に見つめられて、ばっと視線を逸らすしかなかった。
(無理!! なんか分からんけど覗いてはいけない深淵と目が合った気がして超こぇー!!)
(だぁーもうわーったから! どうでも良いから早く再編を始めろ!! こっちはチビ共が今にも突撃しそうなのを押し留めてんだよ!!)
(ご、ごめん……)
晶子からの謝罪を聞いて、アルベートはすぐに回線を切る。彼の話を聞く限りでは、どうやら戦闘音が止んだのを皮切りに、子供達がここまで来ようとしているのだろう。
(弦ちゃんがいないってのもだけど、この一面淀み塗れの中に子供等入れるのは流石に不味い……先にここ何とかすっか)
自身だけでなく、この場にいる全員の体に付着している淀みの粘液に眉を顰め、晶子は少し悩んだ後に両手を床についた。
手の平を通してマナを部屋全体へ送り、部屋全体へ浸透させていく。晶子のマナによって淀みはさらさらと砂のように壁や床、晶子達の体から剥がれ落ちていき、浄化された『根の間』はあっという間に元近い状態へと戻っていった。
(あー……流石に腐食は駄目だったか……。これは、弦ちゃん達のついでに再編した方が良いかもしれない)
変色し今にも抜け落ちそうになっている一部の床板を見てそんな事を考えていると、『根の間』を照らしていた光がだんだんと弱まり始め、遂には完全に消え失せてしまう。
(……ほんと、ギリギリの所で持たせてくれてたんだね。ありがとう、弦ちゃん)
「少々お待ち下さい。今、明かりを出します」
物言わぬ亡骸に無言で目礼する晶子に気付かなかった新が、掌に光源を灯す。それは光石カンテラと同じか少し強い程度の光でしかなかったが、手元を照らすには純分な明るさだった。
「やや心許ないかもしれませんが、これなら僕の手から離れても暫くの間灯ってくれているので……」
「十分だよ。ありがとう」
謙遜する新に礼を言えば、傍らにいた黒い手が優しく新の真白い髪を撫でる。そんな事をされると思わなかった彼は一瞬目を丸くすると、きゅっと口元を引き結んで照れたようにはにかんだ。
「再編、なされるんですよね?」
だが、次の瞬間には表情が硬くなり、改めて晶子へ再編の有無を問いかけてくる。新の顔に浮かぶ感情は女神へ対するものだろう疑惑と、それを上回る不安と懸念だった。
(……うーん、いくらあたしを信頼してくれてるって言ったって、やっぱ女神の力である以上心配で仕方ないんだろうなぁ……)
「新くんはやっぱ、女神の力に抵抗がある感じ?」
仮にそうだと答えられても仕方が無いとは思ったものの、晶子は今一度彼の意思を確認しようと、新の問いかけに問いで返す。
が、それに対する新の答えは随分とあっさりとしたものだった。
「え? いえ、女神の事に関しては晶子様を信じておりますので、そこまで抵抗はありませんよ? むしろ、実際の女神の力はどんなものなのかとちょっと興味がありまして」
「ぇあ、そうなの?」
逆に女神の力に興味があると言われてしまい、否定的な言葉が返って来ると思っていた晶子は肩透かしを食らったような気分になる。
「じゃあ何でそんなに不安そうな顔してるの?」
「え!? そ、そんな顔してました、か……?」
新本人には全く自覚が無かったのだろう。晶子に指摘された事で初めて自身の表情に気付いた新は、両手で赤くした頬を包みながら恥ずかしそうに俯いた。
「うぅぅ……その……晶子様の再編をお手伝いするのに、やはり僕ではお役に立てないのではと、思って……」
段々と尻すぼみになっていく新に、晶子は目を丸くする。
「僕は、神子として一族に祀り上げられ、知らず知らずのうちに驕り高ぶっていました。一族の誰よりも強い光の力を持っている僕に出来ない事は無いと、本気でそう思っていたんです。……でも、今回の事でそれは間違っていたんだと思い知らされました。自分で呼び出した怪物すらまともに従えられず、挙句に弦を失って……」
復讐に囚われていた新には、その考えを諫めてくれる相手も、誰かに心を開ける相手も居なかった。もし、誰か一人でも新の心の傷を理解し、傍で支え、間違いを正してくれる人がいたのならば、神樹編の物語はもっと別の道を辿っていたに違いない。
(復讐からは何も生まれない、なんて言うのはよく聞く言葉だけど……実際にそれに納得して、心機一転出来る人なんてほぼいないだろうし。所詮は、赤の他人からの綺麗事でしかないよね)
ハッピーエンド厨の晶子ですらそう思う程に、新達の過去は凄惨で、あまりにも救いがないのだ。
(けど……やっぱり、新くん達には幸せになって欲しい。一族とか復讐とか関係無く、ただの『新』と『満』、そして『弦』として)
そう思った晶子は新の懸念に応える事無く、おもむろに弦達の魂が入った怪物の亡骸に両手を翳してマナを注ぎ込む。
「晶子様……?」
「一体、何をしようとしているんでありんすか?」
「……新、満。ようく見ておくのだ」
急に行動を起こした晶子に首を傾げる双子に対し、鑪が静かにそう告げた。やろうとしている事を理解してくれたらしい彼に内心で感謝しつつ、晶子はこれまでの時のように一人で再編を試みる。
(っ……くっそ、やっぱりマナコントロールが上手くいかない……あたしが異世界出身だからなのかなぁ……)
体の中から強制的にマナを引き出されるような感覚に苦戦しつつ、今のところは何とか一人で再編に臨めている。
だが、それもかなりギリギリであり、そう長くは持ちそうに無かった。
(ぐぅ、とにかく、慎重に……力み過ぎないよう……)
必要以上にマナを注がない事を意識していた晶子だったが、ある一定量を越えた辺りで突如制御が利かなくなる。
(!! こ、れは無理!!)
怪物の体が金色に強く輝き始めたのを見た晶子が慌てて手を離した事で、溢れていた光は間もなく霧散した。
(やっぱり、いまいちマナをコントロールするって感覚が分からないから、精密な操作が難しい……戦ってる時はあんまり深く考えずにバカスカ注ぎ込んでても何とかなってるけど、再編では一瞬の油断も出来ないのがしんどいな……)
己の両掌を見つめて、晶子は小さく溜息を吐いた。が、すぐに意識を切り替えて、傍らで見守ってくれていた双子の姉弟に目を向ける。
「さっきもちょろっと言ったと思うんだけど……見てもらった通り、あたしはマナの扱いが下手くそでさ。今の所、一人じゃまともに再編する事も出来ないの」
情けないと頬を掻く晶子に、満達は何と言って良いか迷うように顔を見合わた。
「女神の使者のあたしでも、こうして出来ない事があるんだよ? だから、新くんがそんなに気を張る必要は無いんよ」
「え?」
言われた事の意味を理解出来ず、新が素っ頓狂な声を上げる。
「あたし達はね、なんでもかんでも一人で出来るようになってないの。誰にだって得意不得意があって、出来る出来ないがある。あたしは……女神の使者の癖にマナのコントロールがド下手くそで、再編するって豪語してるくせに一人じゃまともに成し遂げる事も出来ない。でも、あたしには君達がいる」
「あちき達、でありんすか?」
「そう。光と闇の魔法をあんなに不自由なく扱えるんだから、二人はあたしより遥かにマナコントロールが上手な筈。だからあたしを、あたしのマナを導いて欲しい」
「導く……僕達が、晶子様のマナを?」
呆然としたように呟く新と満に、晶子は頷いて答えた。
「い、いやでも、僕達にそんな大それた事が出来るとは……」
「何も全部が全部君達に任せたい訳じゃ無いよ? 新くん達には、あたしのマナが逸れたり溢れたりしないように手助けして欲しいの」
壊滅的にコントロールが下手な晶子でも、誰かの手を借りれば一定以上の成果を出せる。前回の帝国での事も、鑪がいたからこそアメジア達の再編が出来たのだ。
(女神から貰ったチート級の力で無双できても、肝心なところで失敗してちゃ意味が無い。でも、あたしは決して一人じゃない。あたしを支えてくれる人が、手を貸してくれる頼もしいみんながいる。怖くないって言うのは嘘になるけど、あたしは皆を信じてる)
晶子にとって最も恐ろしいのは、愛する者達を死なせてしまう事。伸ばした手が届かず、不幸のどん底で、失意の中で命を失わせてしまう事。
そうならないために、そうさせないために、晶子は少しでも可能性があるのならばなんだってしようと決めていた。
例えその結果、自身に命の危機が訪れたとしても。
「女神の使者だ再編者だって口では言ってても、あたしは結局、ただ力を持った元一般人でしかないんだ。だからね、戦う力はあるくせに、まともにマナをコントロール出来ないあたしを助けて欲しい。どうか、お願いします」
「え、ちょ、晶子様!? 頭を上げて!」
「そうでありんす! そこまでしていただく事はありんせん!!」
助力を願い土下座する晶子に、慌てた双子達がやめさせようと必死に言葉をかける。だが晶子は、決して頭を上げなかった。
こんな事をしては満達を困らせると分かってはいたが、晶子なりに思う所があったからだ。
(……スーフェちゃんの時といい、どういう訳かゲームで主人公の仲間になる子達って無意識にあたしに対して好意的になるっぽい? だから無条件で、あたしの言う事になんでも同意しちゃってる気がする)
アルベートと念話をしている中で、降って沸いた疑問だった。
初めて火山地帯でスーフェと出会った時、彼女は晶子達、とりわけ晶子の事を即決で信用していたように思う。
その時は純粋に嬉しいと感じていたが、神樹で満と新を再開させてからというもの、二人との距離が妙に近いような気がしていた。
《紛う者》の件があったにせよ、目的であった最愛の姉と再会させて貰ったからにせよ、対面当初と比べても真逆な新の反応は少々気味の悪さすら感じる。
そこにアルベートからの指摘と、いやに懐く満への自覚となれば、ある可能性を疑わざるを得ない。
(これも異世界転移特典の一つ? なんだとしたら、余計なお世話だっての)
推しのキャラ達に好かれる事を嫌がるオタクはいないだろう。だが、それはあくまでも互いを尊重し合い、紆余曲折ありながらも信頼関係を築いたという前提条件があった上でである。
理由もなく『何となく晶子だから信用・信頼している』では意味が無いのだ。
(とは言いつつ、その違和感に今更気付くあたしもどうかと思うけど……でもやっぱ、信頼とか親愛を向けられるならそんな特典を抜きにして、ちゃんと関係を構築してからの方が嬉しいよね)
ゲームの推しに好かれるのは晶子にとってもにべもなく嬉しい事であるが、それが『作られた好意』であるのならば話は別だ。
(……いや、ゲームの推しっていう情報ありきで好き好き言いまくってるあたしも同罪か? 同罪なのか??)
不意に思い至った可能性に気付いてハッとしたものの、それ以上深く考える前に意識が逸れる事になる。
「晶子様。私達は、女神の使者だから主さんに力を貸すんではありんせん。晶子様だからこそ、御力添えをしようと思ったのでありんす」
どことなく甘さを含んだような声に顔を上げれば、思わず見惚れてしまいそうなほど美しく笑う満が晶子を見ていた。
「常世で初めてお会いした時、女神の関係者だと聞かされてどんな方なのか不安になったりもしんしたけれど、晶子様が弦を案じ、二人の英雄相手にも物怖じせず宣戦布告する様を見て確信したのでありんす。この方は、決して私達に害を成したりしねえ、と」
「うっ……宣戦布告って言い方はちょっと……」
「少のうとも、あちきにはそう聞こえんしたよ?」
我ながら大それた宣言をしたものだと晶子が恥ずかしがれば、満はくすくすと笑う。出会った当初よりも豊かな表情を出してくれる満が、晶子には嬉しかった。
「……僕は、やっぱり晶子様の御役に立てないのではと、思っています」
一方で姉と晶子のやり取りを見ていた新が、自信なさげに呟いた。先までの罪を背負うと宣言した勇ましい彼はなりを潜め、今の新は怯えや葛藤から視線を彷徨わせて中々晶子の顔を見ようとしない。
いざその時が来ると、どうしても恐怖や保身といった負の感情が心を支配するのだろう。
「安定しないコントロールを正すのならば、姉さんだけいれば十分なはずです。僕なんかが居なくても、きっと結果は変わらない」
「それは違うよ」
頑なに自身の存在を否定する新の手を、晶子はぎゅっと握る。
「必要かどうかじゃないんだ。あたしは満ちゃんと新くん、二人に手を貸して欲しいんだ」
「っだから! 僕なんかいなくても、姉さんが居れば再編は成せるんでしょ!? どうしてそこまでして、僕に関わらせようとするんです!!」
「君を逃がさないためだ!!」
暴れて振りほどかれた手で新の両肩を掴み、晶子は真っ直ぐに彼の瞳を覗き込む。
「新くん、君が自分のやらかしに責任を感じているのは重々承知している。無関係な子供達や弦を巻き込んで、とんでもない魔物を世に解き放ちかけた事を後悔しているのも分かってる。だからって弦ちゃん達の再編に関わろうとしないのは、そんな過去から目を背けて逃げるのと同じだ!!」
弦も族長も、新が直接手を下した訳では無い。だが、彼のやらかしによって命を落とした事に違いは無いのだ。
正論を突き付けられて絶望する新の体を揺さぶりながら、それでもなお晶子は言い募る。
「君はさっき言ったじゃないか、罪に向き合うって。なら! こんなところで足踏みしてる場合じゃないだろ!! 腹ぁ括れ! 罵倒も蔑みも嘲りも、全部ぜんぶ受け止めろ!! かつてとは違う辛さと苦しみに苛まれようとも、お前はそれ相応の責任を負うしかないんだ新!!」
(……我ながら、支離滅裂な事言ってる気がする……でも、ここで怖気付いた新くんを放置しちゃ駄目だ)
感情のままに吐き捨てた晶子だが、頭は冷静に状況を観察していた。
晶子としても、推しであり苦悩の過去を歩む新にキツイ事を言いたくはない。だが、この場でかけるべきは優しく慈愛に溢れた言葉では無く、前に進む為の叱咤激励だ。
それによって、例え新に嫌われ距離をとられたとしても、彼の歩むべき道を示せるのであれば晶子には些事である。
「罪に向き合う事は、怖い事だ。でも、あたし達はそれでも進まなければいけない。……一人は怖いよ、あたしだって。だから手を借りるんだ。助けてもらうんだ」
強くつよく掴んでいた肩から手を離し、晶子は俯いてしまった新の顔をそっと包み込む。
「新くん。あたしは君に助けて欲しいんだ。君じゃなきゃダメなんだ。君と、君のお姉さんの二人じゃないと、きっと弦も族長も再編出来ない。だからお願い、力を貸して」
無理に顔を上げることはせず、晶子は新の答えを待つ。数秒、数十秒、もしくは数分の時間が流れたような錯覚を覚えながら、それでも決して彼を急かす事はしなかった。
「……きっと、僕が一番許せないのは、僕自身なんです」
何度か口を開いては閉じてを繰り返していた新が、ようやく決心したように口を開く。
「復讐に心を燃やして、思い通りにいかなくなったら掌を返して……自分にとって楽な方に流されている僕が、一番嫌いで許せないんです。……でも」
言葉を濁しながら、新は少し震える手で晶子の両手に触れた。
「こんな僕が良いと、貴女がそう言ってくれるのなら……頑張ってみます。怖いけど」
そう言って、顔を上げた新の表情は硬い。けれども、しっかりと晶子の目を見つめ返す瞳には、紛れもない決意が輝いていた。
「怖いの、お揃いだね。でも、新くんが居るから大丈夫な気がするよ」
「それは……やっぱり、過剰評価過ぎますよ……でも、ありがとうございます」
晶子の言葉に、新が呆れたように笑う。完全にとはいかずとも、多少の靄を晴らす事は出来たのではないかと思いつつ、晶子は改めて怪物の死体と向き直った。
「じゃ、満ちゃんは《紛う者》挟んであたしの向かいにいってくれる?」
「わかりんした」
「新くんは満ちゃんの隣に」
「はい」
早速二人に指示を出せば、満も新も言われた通りの配置につく。肩がぴったりとくっつくほどに距離の近い姉弟に、内心苦笑してしまう。
「次はどうするんでありんすか?」
「あたしの手に、二人の手を重ねて……うん、そう。で、あたしと一緒にマナを注いで」
マナを注入し過ぎた時や在らぬ方向へ行きそうになった時には軌道修正して欲しい旨を伝えると、満達は真剣な表情で頷いた。
それを確認した晶子は、一度大きく深呼吸して心を落ち着かせる。
「……始めるよ」
かくして、弦と族長を呼び戻す再編の儀が開始されたのだった。
次回更新は、5/9(金)予定です。




