表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/73

「あたしは、女神から世界を救うために選ばれた『再編者(リジェネーター)』だ!」

※ 次回更新予定日の入れ忘れに気付いたので修正しました。

“晶子、貴女を選んだ理由は先ほども言ったはずです。貴女は、この世界を愛してくれています。貴女の世界の誰よりも、この世界を、ここに生きる人々を”


「……それだけ?」

「それだけってなぁ……十分な理由じゃねぇか」

 思わず呟いた晶子に、アルベートがやれやれと首を振る。至極呆れたような仕草にどういう意味かと問いかければ、わざとらしく溜息を吐かれた。

「この世界を救うのに必要なのは、勇者でも賢者でも無く、俺様達の事を愛して、俺達の為に涙を流してくれる存在だってこった」


“再編の力は、あらゆる物を思い通りに作り替える事が可能です。悪しき者の手に渡ってしまえば、世界は滅茶苦茶になってしまう……。そんな時に、晶子を見つけました。貴女は誰よりもこの世界を、そして人々を愛し、率先して結末を変えようと行動をしていました。そんな貴女だからこそ、私はこの力を託すに足る人物だと確信したのです”


 そうハッキリと言い切った女神に、晶子は果たして、自分はそんな風に言ってもらえる存在だろうかと俯いた。

(あたしは、ゲームが好きなただの会社員だよ……そんな、世界を救うとか……って、ん? ちょっと待った今この女神今なんて言った『率先して結末を変えようと』……?)

 先程のアルベートのように、何だか嫌な予感がして口の端が引くつく。

「そ、その、結末を変えようとしたってのは……」


“はい! 晶子が現実世界で書いていた『同人誌』なる書物ですね!!”


「おぎゃあああああああああああ!?」

(おまっ、なんで同人誌なんて知ってんだよぉおおおおおおおお!!)

 赤子が泣き叫ぶような悲鳴を上げ、嫌な予感が当たってしまった晶子は頭を抱えた。

「な、ちょ、なん、なななな、なんで同人誌なんか知ってんすか!! てかえ!? まさか、あたしの……!?」


“封印されてはいるものの、様子を見に貴女の世界へ使いを飛ばすくらいは可能でした。ですので条件にあう人物を探しながら、実はこっそり観光もしてまして……”


「この女神正気か? 危機感零か?? 世界の危機だっつってんのに良くもまあ観光なんて出来たなおいそもそも自分の管理不足が原因なんだろそこ自覚してんのかポンコツ駄目神」

「晶子、晶子、全部口に出ちまってるぜ」

「おっと失礼」

 思わず本音が出てしまい、アルベートにツッコまれて口を押える。


“う、うぐぐ……正論なので何も言い返せません……と、兎に角ですね!! その際に、とっても賑やかなお祭りをやっているのに出くわしまして”


「まってそれってまさか、コミケじゃねーだろね」


“そうなんです!! とっても沢山の人々がいて、賑やかで、凄く楽しかったです! でですね、そこで晶子が作った書物を見つけまして”


「うっそだろそんなピンポイントな事ある?? ちょっと待て、あたしあん時なんの本出してた?? 物によってはまじで恥ずか死するぞ??」


“その時はたしか……『その(かがり)()に愛は宿る』と『ダイヤの羽は千切れない』、後は”


「言わんでいいから!! しかもなんで寄りによって最推しカプと最推しの鑪さんのやつ真っ先に挙げるん!? わざとか!? わざとだろチックショー!!」

 嬉々として作品名を上げる女神に、晶子は発狂しそうな頭を掻き(むし)った。


“貴女の作品を読んだのですが……もう、言葉に出来ないくらい感動してですね!! 正しく、私が思い描くハッピーエンドそのものだと思いまして!! あ、当然それだけじゃありませんよ! 先程も言ったように、色んな部分を(かんが)みても、晶子が適任だと思ったからこの世界に召喚したのであってですね!! 決して、手に入れた同人誌にサインを貰おうとかは考えてませんでしたよ!!”


「ませんでしたって事は、今は考えてるんすね……」

 疲れ切った声色で、晶子が呟く。残念ながら、女神には聞こえていないようだったが。


“晶子、改めてお願いします。どうか、どうかこの世界を救ってくれませんか”


 穏やかに問いかける女神だが、その言葉は既に決定事項だと存外に告げていた。どうやっても拒否させてくれる気が無いのだと、晶子は何度目かも分からない溜息を吐き出す。

「……まあ、拒否するつもりは無いけどね」

 虚空を見上げる晶子の瞳には、強い決意が輝いていた。

「まあ、色々言いたい事もあるけど、とりあえずは良いや。あたしにしか世界を救えないなら、やってやろうじゃん。なにより……ぜぇ~ったいに、みんなまとめてハッピーエンドにしてやるんだから!!」

「その意気だ!! 安心しな、この凄腕トレジャーハンターのアルベート様も協力してやるからな!」

 そう言って拳を突き上げる晶子に倣い、アルベートも短い腕を伸ばす。


“……やはり、貴女を選んで良かった”


 晶子の答えを聞いて、女神は安心した様子だった。すると、急に真っ白な霧が立ち込め始め、晶子達を包み込んでいく。

「えっ、えっ!? ナニコレ!?」


“目覚めの時間のようです。……晶子”


 おもむろに、女神が晶子の名を呼んだ。

「なに?」


“今、貴女の傍に土の英雄が居りますね? 恐らくですが、彼は女神の使いである貴女を警戒しています。場合によっては、武器を交える事も”


「それは無い」

 暗に敵対の可能性を示唆した女神に対し、晶子はきっぱりと否定をする。

「あの人は……鑪さんは、怪しいからってだけで排除しようとか、そんな短絡的な人じゃない。それが本当に危険なのか、悪いモノなのかどうかを判断してから戦う事を選択できる人だもん。だから、何も心配いらないよ」

 そう言って、白くなっていく視界の中で笑って見せる。そんな晶子に驚いたのか、女神はしばし沈黙した。

「何より、最推しだからね!! あたしは、推しを全面的に信じてますから!!」

「おーおー熱の入れようが半端ねぇなぁ」

 微笑ましそうに晶子を見上げて、アルベートがちゃちゃを入れる。そのやり取りに、女神が小さく笑みを零したのが聞こえた。


“……そうですね。きっと、かの英雄なら大丈夫でしょう”


「そうそう。ちゃんと鑪さんとは話をするから、安心してよ」


“えぇ、晶子を信じましょう。さぁ、再編の使徒よ。目を覚ますのです”


 女神の言葉に釣られるように、晶子の瞼が閉じられる。微睡みに身を任せ、意識が完全に落ちる。


“……あっ”


 ——ゴンっ


「ぇぶっ!?」

 と思った瞬間、気の抜けた女神の声が聞こえたとほぼ同時に、晶子は後頭部への衝撃で目を覚ます事になった。

「晶子!? 大丈夫か!?」

「あ、あんのポンコツ駄目神……何で目覚めさせるだけなのに、なんでこう毎回やらかす訳? 可笑しくない……??」

 女神への恨み言を呟きながら頭の後ろを抑えて起き上がると、どことなく見覚えのある部屋で寝かされていた事に気が付く。

 全体的に中世ヨーロッパ風のインテリアで纏められた室内は、晶子の背丈ほどの大きさをした窓から差し込む日の光により、照明がなくとも明るい。

「ここって……」

「ここはお前んちだ! 覚えてるだろ?」

 ベッド脇に置かれた少し背の高い丸椅子の上で、こちらを見下ろしながら言ったアルベートの言葉に、ようやくここがWtRsで主人公が暮らすマイハウスだと気付いた。

(うっそ、マジでマイハウス? マイハウスだぁ!! ゲーム内でも屈指のオサレ空間かつあたし的人生で一度は住んでみたい場所ランキング堂々の一位になってるマイハウスの自室だぁ!!)

「お前ずっとここで暮らしてみたいって言ってたもんな! 夢が叶って良かったな!」

 目を輝かせて喜んでいた晶子だったが、不意にかけられたアルベートの言葉に自身でも分かる位には渋い顔をしながら、ぎこちない動きでアルベートを振り向く。

「いやまあそうなんやけどもね、急に現実世界での呟きをぶっこまないでくださいます!?」

「なんでだよ。夢だって言ってたのは事実だろ?」

「そうだけど……そうだけども!! ただでさえ駄目神の所で色々バラされて恥ずかしいったらありゃしないのに内容がどうであれ独り言を全部聞かれてたって事実がもう察して!!」

 画面の中の存在だったとは言え、オタクとして色々と際どい発言もしていた為、それが知られている事が恥ずかしすぎる晶子。

 何ならアルベートに対しても自身の理想の父親だとか言っていた記憶もあって、それを掘り返されないかとドキドキしていた。

「そんな恥ずかしがんなって。俺様はお前の理想の父親だって言ってくれてた事、すっごく嬉しかったんだぜ!」

「フラグ回収乙!! やめろやめろマジで恥ずかしいわ!!」

 そうやってやいのやいのと騒いでいると、部屋の外からどたどたと慌てたような物音がしてくる。何事かと思って部屋の扉を見たのとほとんど同じく、バンッと音を立ててそれは開かれた。

「あれ、ダリル君? どしたの、そんなに慌てて」

 姿を見せたのは、頭を覆っていたバンダナを外した状態のダリルだった。駆け込んで来たダリルは、キョトンとした晶子を見て安堵の色を浮かべるも、すぐに顔を歪ませる。

「慌てもしますよ! 貴女、あれから三日も寝てたんですからね!!」

「み、みっかぁ!?」

 血相を変えたダリルから告げられた言葉に、晶子は驚愕した。

(駄目神と会話している間に、まさかそんなに時間が経過しているとは……)

「もうほんと……目を覚まさないんじゃないかって思ったんですよ……」

 未だ床の上で座り込んでいた晶子に近づくと、目線を合わせるためにダリルはしゃがみ込む。そのまま、彼は晶子の左手を取ると、祈るように握りしめた。

 その手が小さく震えている事に気付いた晶子は、自身が意図せずダリルにトラウマを植え付けてしまったのだと理解する

(そ、そりゃそうだぁ……目の前で父親に死なれて、知り合ったばかりとは言え知人が目覚めないんだもん……あたしだってきっと発狂する)

「えっと……心配かけてごめんね?」

 流石に酷い事をしてしまったと、晶子は目の前にあるダリルの頭を空いている右手で撫でた。

(おぉ、結構柔らかい髪質してる……少しゴワついてるけど、これはこれで中々の手触り)

「目覚めたか」

 されるがままになっているダリルを撫で続けていると、鑪の声が聞こえてくる。入り口に顔を向けた晶子は、そこにいた鑪の姿を見て笑いそうになり、咄嗟に口元を抑えた。

(ぐっ……鑪さん、身長が高いから屈まないと扉の枠に頭ぶつけちゃうのね……中腰になって部屋の中を覗き込むの可愛い)

 心の声が表情にも出てしまっているのか、晶子を見た鑪は至極不本意であると言いたげに頭部の触覚を揺らす。

「……お主が何を考えているのかが手に取るように理解出来て、少々複雑な心持ちである」

「晶子はこういう奴だと思って諦めろ」

「おいこらアルベートどういう意味だこら」

 やれやれと首を振って言うアルベートに、晶子は即座にツッコんだ。

 そんな晶子達を見ていた鑪だったが、彼は「失礼する」と断りを入れると大きな体を器用に動かして部屋へと入室し、晶子の前まで歩いてくる。

「鑪さん?」

「我は回りくどい事は好かぬ。晶子よ、お主は一体何者だ」

 鑪の一言に、部屋の中が緊張に包まれる。

「……あたしが寝てる間に、アルベートが説明したりはしなかったの? あ、待って。そもそもアルベートはいつ起きてたの?」

「ん? おぉ、実はあの洞窟にいる間に先に起きてよ。この家に案内したのも俺様だし、ここに来るまでに一通りの話はしてんだぜ」

 晶子が疑問を口に出せば、アルベートが簡潔にそう返した。どうやら女神の所で会話をする前に、アルベートは先に覚醒していたらしい。

(時間の流れが可笑しい? いや、そもそもあたしが力を暴発させて気絶した分、相当深く眠ってたって事? だから夢で会話するのにも、三日って時差が出てるのかな。まあでも、父親がすぐに起きたのに、当のあたしがいつまでも眠ったままってなったらそりゃダリル君も不安になるか……)

 今後は気を付けようと、晶子は改めて反省した。

「確かに、ここへと至る道中にアルベート殿から事の仔細は拝聴した。しかし、我は晶子の口から答えを聞きたいと、お主が目覚めるのを待っていたのだ」

 鑪の言葉に、晶子は思わず目を丸くする。同時に、物事を慎重に見極め、何が正しいのかを知ろうと行動する姿勢にこれだから最推しはやめられないとニヤつくのが止められなかった。

「アルベート殿を、姿形が異なるとはいえ復活させた力……あれは正しく、かつて我等が対峙し、厳重な封印を施した創世の女神の物。なぜ、お主がそれを持ち、その上扱う事が出来うるのか」

「俺も……知りたいです」

 黙ったままだったダリルが顔を上げる。晶子を見つめる瞳は、疑問と困惑を宿していた。

「おや……父さんが生き返ったのは、素直に嬉しいと思ってる。でも、なんでこの姿になったのかとか、どうして復活出来たのかとか、色々と分からない事も多いし……」

「ダリル君……」

「俺、ちゃんと知りたいんだ」

 真っ直ぐな視線に射抜かれて、晶子は息を呑む。

「説明、願えるか」

 逃がすつもりは無いと言いたげな鑪に、小さく息を吐いた。元より、晶子には逃げるつもりは無い。

 しかし、全てをありのまま話すには、あまりにも荒唐無稽な話である事も事実。どこまで話せばいいかと考える。

(……ゲームについては黙っておこう。きっと、話しても分からないだろうし。それに、彼らにとって重要な事でも無い、はず)

 女神の言葉通りであるなら、WtRsという存在はあくまでもこの異世界を認知させる為のツールでしかなく、この世界を滅亡させようとする存在によりシナリオは歪められてしまっている。

 余計な混乱を招くくらいならば、黙っている方が賢明だろうと判断した。

(何より、あの悲しい結末、あたしは絶対に認めない!!)

 推し達には笑顔で幸せに暮らして欲しい。それが晶子の、WtRsの全てを愛するオタクの本心であり、一番重要な事なのである。

 晶子は一度深呼吸をすると、高い位置にある鑪の瞳を真っ直ぐに見つめて答えた。

「あたしは、女神から世界を救うために選ばれた『再編者(リジェネーター)』だ!」

言い回し等、幾つかしっくり来ていない部分があるので、そのうち加筆・修正するかもしれません……。


次回更新は、2/16(金)予定です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ