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「こ ろ し て や る ! !」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 弦の死を受け入れる事が出来きない……否、したくない晶子は尚も慟哭し続ける。

(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓うそうそうそうそそんないやだどうしてなんでつるちゃしんでいやだなんでなんでなんで)

 頭を振り乱し、目の前の惨状を受け入れたくないと拒絶する心。そんな晶子の姿を見て、新と満が急ぎ駆け寄って来た。

「——、———!? ———!! ——————————、———!!」

「———!! —————————————!! —————————————————————!?」

「……———。————————、————————……!」

 必死に何かを言っている満達だが、今の晶子にはその言葉の一つ一つを冷静に理解する力が無かった。

 己の腹に回された鑪の腕に爪を立て、引き剥がそうとひっかく。が、当然そんなものでダイアモンド製の甲殻に傷がつく筈も無く、逆に晶子の爪が幾つか割れてしまった。

「っ、———!」

 何事かを呟いた鑪によって、晶子は藻掻いていた腕を完全に縫い留められてしまった。僅かにヒリヒリと痛む指先に一瞬だけ気が逸れた事で、ほんの僅かにだが冷静さを取り戻したが。

「Gyahahahahahahahahahahahahahahahahahaha!!」

 そんな晶子を挑発するように、血の海から這い出て来た《紛う者》が高らかに笑う。全身を赤黒く染め、所々に抜け落ちた羽がこびりつく姿は、正しく醜悪以外の何物でもない。

 下品に、卑しく、醜く笑う怪物の姿に、気持ちの落ち着きは瞬く間に消え失せた。今晶子にあるのは、目の前にいる悪辣な存在への憤怒と憎悪のみ。

「許さない……許さない許さない許さない許さない許さないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない……!!」

 何度も何度も同じ言葉を繰り返し、《紛う者》を睨みつける晶子は気が付いていなかった。怒りによって力の制御が利かなくなっており、今にも爆発しそうだという事に。

「!? ———、————————!!」

 様子が可笑しい事に真っ先に気付いた鑪が焦ったように満と新へ何かを叫び、晶子を拘束していた腕を離した。

 その瞬間、晶子の内にある力が暴発した。

 鑪や満、新を吹き飛ばす程の風圧を伴って解放されたマナは、『根の間』にいる全てを圧し潰さんとし、晶子以外に立っている者は誰もいない。

 有翼の姉弟はあまりの威圧に強い恐怖を抱きながら床に這いつくばり、鑪も伏せないよう片膝を立てて刀を杖代わりにするので精一杯。

 怪物に至っては全身に女神の力を直に浴びているようなものだからか、体のあちこちから煙を上げながら無理矢理に立ち上がろうと藻掻いており、室内に腐肉の焼ける不快な臭いをまき散らしている。

 マナを全解放している当人である晶子はと言えば、これまでとは比べ物にならない力で床を蹴ると瞬く間に《紛う者》の目と鼻の先に迫り、手にしたバトルアックスを大きく振りかぶる。

「こ ろ し て や る ! !」

 感情のままに《紛う者》への憎しみを吐き出した晶子の一撃は、寸分の狂いも無く肥えた胴体の右脇腹に叩きつけられ、秘技を発動させていないのにも関わらず怪物の肉体を三割程消滅させた。

「Guuuuuuuuuuuuuuuuooooooooooooooooooooo!?」

 強烈な攻撃により壁に叩きつけられた《紛う者》が、痛みに苦しみ絶叫する。だがたった一振り、しかもただの武器による攻撃で肉体が粉砕され、あまつさえ吹っ飛ばされたという事を少なからず不愉快だと思っているらしい。

「Gururururu……Gugyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 不満気に、忌々し気に晶子を無数の目で睨みつける《紛う者》が咆哮を上げた。すると、消し飛ばされたはずの場所がボコボコと音を立てて沸き立ち、完全に再生してしまったのだ。

(再生能力か……)

「チッ……めんどいな」

 鑪に斬り落とされた腕すらも元通りにしてしまった《紛う者》の再生力に、無意識に舌打ちが出てしまう。

 至極面倒くさそうに頭の後ろを掻きながら、晶子はバトルアックスの刃を下向きにした状態で構え直し、再び怪物に向かって踏み込んでいった。

月晶裂(げっしょうれっ)(そう)!!」

 僅かに床を削りながら弧を描くようにバトルアックスを振り上げれば、軌跡に沿うように三日月型の青い水晶が突出し、半開きになっていた《紛う者》の口内を目掛けて伸びていく。

 鋭利に尖った先端が口内から《紛う者》を刺し貫こうとするも、それに気付いた化物が伸び続ける水晶に歯を立て、噛み砕こうとした。

 が、晶子はそれに焦る事も無く、にやりと笑って見せる。

「爆」

 囁くような声量でそう呟いた瞬間、水晶は強烈な光を放ち、瞬時に大爆発を起こした。

「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」

 爆発によって口部分が大きく弾け飛んだ《紛う者》。その口内には水晶の欠片が大量に飛び散っており、女神の力によって更に傷を負っているようだった。

(アトラスインパクトよりかは弱い爆発だけど、結構いい感じにダメージが入ったみたいね。淀みの精霊自身が女神の力を嫌ってるってのが要因かも)

 苦しむ怪物を前に、相手を分析する晶子。心は怒りと憎しみで燃え滾っている筈なのに、頭はいやに冷静さを保っている。

「ロックバインド」

 攻撃をしようとする《紛う者》に気付いていた晶子が呪文を唱えれば、床から伸びて来た土の鎖が怪物を拘束した。

「クリスタルランサー」

 抜け出そうとする《紛う者》に、晶子は間髪入れず魔法を発動させる。晶子の頭上に無色透明な水晶で出来た槍が五本生成され、容赦なく肉塊の体に突き刺さった。

「Guoooooooooooooooooooooooooooooooo!?」

「五月蠅いねん。ええ加減くたばれ」

 至近距離で再度聞く事になった怪物の叫びに、晶子は顔を歪めて嫌悪感を露わにする。

 さっきまでの激昂が嘘のように落ち着いた雰囲気を醸し出している晶子だが、反面、堰を無くしたマナは未だに垂れ流し状態になっており、『根の間』の空間を重く支配していた。

(兎に角、今ならまだ消化もされてないはず。さっさとコイツ片して、弦ちゃんを)

 確実に仕留めるという心積もりでバトルアックスを振るおうとしたその時、突如として、《紛う者》の体に異変が起きた。

 醜い体がぶくぶくと膨れ上がり、より一層醜悪な肉の塊へと変貌する。皮膚に浮き出た晶子の腕程もある血管がドクッドクッと一定のリズムで脈打ち、それに合わせて《紛う者》の体は更に肥大化していく。

(……!? まずい!!)

 怪物の体の中から不吉なマナの動きを察知して、晶子はすぐにでも息の根を止めなければとバトルアックスを振るった。

 だが、事態の急変に動揺し、僅かに行動を起こすのが遅くなったのが悪手となった。

「mkj、nebrag rjy 8o8、poru6w4fgbzfdkkウxGSv!!」

 《紛う者》が意味の分からない言葉を叫んだと思えば、晶子の腹部に衝撃が走る。事態を把握する間もなく、何かによって吹っ飛ばされ、真反対の壁に叩きつけられていた。

「っかは、う……げほ、げっほ、げほっげほっ」

 上手く受け身を取る事が出来ず、晶子は背中から諸に壁へ激突。当たり所が悪かったのか、痛む腹を抑えながら蹲った。

「!! ——こ、だい——か? むりせ—、ゆっく——きを吸う——」

「晶—様、あち——見て、合わせ—息——ってください」

 そんな晶子に駆け寄る者達がいた。上手く呼吸が出来ず半ば過呼吸も同然な状態の晶子の背を、固く大きな手が擦る。

 不意に誰かの手が頬に添えられて、晶子が顔を上げる。視線の先にいたのは満で、彼女は何か言いながらゆっくりと深呼吸をし始めた。

 酸欠でまともに動かない頭ながらどうすれば良いのかを理解した晶子の体が、満に合わせて深呼吸を繰り返せば、幾分か思考がクリアになる。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 荒い息を何とか整えようと、何度も吸っては吐いてを繰り返す晶子。そんな晶子を、新と満が不安げな様相で見守っている。

「……はぁ……ごめん、ありがと」

 ようやく落ち着いた呼吸で一度大きく息を吐くと、晶子は満と鑪に礼を言った。元の晶子に戻ったと安心したのか、満の目は潤んでいて少し涙を流しているようだった。

「回復します! セイクリッドリカバリー!!」

 姉と同じく涙目になっていた新はそう言うと、光属性の回復魔法を唱える。温かな癒しの光が体を包み込み、間もなくして晶子の体力は全快した。

「ありがとう新くん」

「いえ! 僕達の為に命を懸けて下さってるのですから」

「でも、大した怪我じゃなかったから、わざわざ回復量の多いセイクリッドリカバリーを使わなくても……」

 そこまで言って、何気なく彼の右手が目に付いた。何かを堪えるように胸元を握り締めてられている手は震えており、良く見れば新の表情も若干強張っているように感じる。

(……あぁ、マナを強引に解放したせいで怖がらせちゃったのか)

 こちらに向けられた瞳の中に怯えの色が混じっているのに気付き、晶子は感情に呑まれて我を失っていた事を恥じた。

「ごめんね、新くん。怖かったでしょ?」

「っ、こ、これくらいどうって事ありません! それより、晶子様は大丈夫なんですか?」

 精一杯の強がりを返す新に、晶子は思わずくすりと笑った。その反応が不服だったのか、新が頬を目一杯膨らませて抗議するも、晶子からすればただただ可愛いだけだった。

(あぁ~……腹の底のムカムカが全部なくなった訳じゃ無いけど、ちょっと、ほんのちょーっとだけ落ち着いたかも……かわよ……)

「だいじょぶだいじょぶ。セイクリッドリカバリーかけて貰ったから元気いっぱいだし! それに、新くんの顔見たらちょっと冷静になれたしね」

「そ、うですか……良かった」

 へらりと笑って言えば、新はぽっと頬を赤らめて俯いた。その様子にまた少しほっこりしていれば、そんな晶子の肩に触れる手があった。

「ん? 鑪さん?」

「……マナの強制解放……噂では、体にかなりの負担を強いられると聞くが……本当に、何も無いのだな?」

 肉体を巡るマナは、生命体を支える生体エネルギーの一種と言える。本来は無意識化にされている堰によって塞がれている為、意識して魔法や秘技を使用するなどしなければ外に漏れだす事はまずない。

 その堰を、怒り任せだったとはいえ晶子は無理矢理に開いてしまった。どれだけマナの保有量が多かったとしても、無尽蔵に際限なく垂れ流していればいずれ涸れ果ててしまうもの。

 マナを強制開放してしまった事によって晶子の身に異変や異常が出てしまうのではないかと、鑪は不安で仕方ないようだった。

(おぉう、めっちゃ心配してくれてる……申し訳ねぇ)

「うん、大丈夫。ちょっと怠いけど、死にそうって感じは無いから」

「……ならば、良い」

 安心させるように鑪の手に自身の手を重ねて微笑めば、訝し気にしながらも一旦は納得してくれたらしい。

 頭をぽんぽんと撫でてくれる硬い手に、晶子は嬉しいやら恥ずかしいやらどんな顔をすれば良いか分からなかった。


 ——メリメリ、ブチブチッ


 不意に、『根の間』の空間内に異様な音が響き渡る。物が裂けるような、引き千切られるような不快音が聞こえてくるのは、更に醜く異様な肉塊へと変貌した《紛う者》からだった。

 水膨れのように膨れ上がった頭部の中から、何かが出て来ようとしている。蝶が蛹から抜け出すように、宿主に寄生した虫が体を食い破るように、頭部の肉をかき分けながらやがてその姿を現した。

「————Shururururuuru……」

 血と淀みの体液に塗れた存在は、見目の美しい少女の形をしていた。

 頭頂部から毛先にかけ、白から黒のグラデーションになっている地に着く程に長い髪。色白を通り越して最速真っ青ともとれる不健康な肌、やせ細り肋骨の浮いた体は局部だけは羽のような体毛で隠されている。

 四本だった腕は六本になり、背中には白と黒の斑が散る灰色の翼が広げられていた。

 ここだけなら、禍々しいながらも麗しい見目をした異形に思わず見とれてしまっていただろう。

 だが、上半身に続いて出て来た下半身を目にして、晶子は顔を顰めて思わず嫌悪感を声に出してしまった。

「うっっっっっっっっっわ、きっしょ」

 異形の下半身は、複数の内臓を継ぎ接ぎに縫い合わせ、強引にくっつけたようなものになっていた。ドクン、ドクンと時折脈打ちながら、芋虫の腹脚のように人の手のような器官が蠢いている。

 上は人型、下は虫。ただでさえ嫌悪感は半端では無いのに、異形がこちらを向いた事で、晶子を更に不愉快にさせていた。

 異形の顔は、ついさっき《紛う者》に食い殺された弦と瓜二つだったのだから。

(食って取り込んだ相手の姿の一部を自身に反映する、って所かな。はぁ、クソッ。くそが!!)

 《紛う者》に完全な知能があるのかどうかは不明だ。しかし、的確に晶子達の神経を逆なでしてくる所を見るに、少なくとも敵対している存在に挑発を行う頭はあるようだった。

「つ、る……そんな……ぼ、ぼくは、こんな、こんなことになるなんて」

 弦によく似た異形の顔を見て、新が絶望した表情を浮かべる。力なく座り込み、ぶつぶつと言い訳を並べる姿からは、神子と呼ばれ、新たな神に成るのだと言われていた頃の神々しさは感じられない。

(むしろ、生きる事に悩む青年って感じだよね。まあ、あたしはこっちの方が、本来の新くんらしいんだろうなって思うから好きだけど)

 なんて事を思いながら、そろそろ宥めようかと手を伸ばしかけた晶子。しかし、それよりも早く、満が新の頬を力いっぱい打った。

「え!?」

「む!?」

 まさかの出来事に、思わず声を上げて驚く晶子と鑪。同様に突然頬を打たれて呆然とする新の胸倉を掴み、満が冷たく言い放った。

「ねぇ、さん?」

「そうやって、いつまで自分を悲劇のヒロインにしているつもりなのでありんすか?」

 膝立ちになった新を見下ろす漆黒の瞳は、見たくない現実に蓋をしようとする弟を否定する。

「弦が《紛う者》に食い殺されたのは、間違いのうお前さんのせいでありんす。お前さんが常世の門を開いたりしなければ、そもそも闇から語り掛けてくる甘言に耳を傾けたりさえしなければ、弦が死ぬ事は無うござりんしたかもしれねえ」

 新生した《紛う者》が、さっきまで自身が収まっていた筈の肉の殻を喰い始めた。貪るように粗雑に下品に齧り付く様子は、まごう事無く怪物そのもの。

 この悍ましい光景には鑪も嫌悪感を露わにし、晶子も心底気持ち悪いという感想を抱いていた。

「で、でも、ぼくは……僕はただ、姉さんとまた、一緒に暮らしたかっただけだったんだ」

「お前の言いたい事はわかりんす。一族の大人達は皆性根が腐りきってたからいつか相応の罰を降してやろうと思ってたんでありんすけれど、だからと言ってその為に手段を選ばねえようでは、お前も一族の大人と何一つ変わらねえじゃありんせんか」

 満の言い分に、ついに新は言葉を返せなくなる。

(まあ、こればっかりは反論できないか。満ちゃんの言う通り、大事な片割れを取り戻すためとはいえ、新くんはあまりにも多くの命を弄び過ぎた)

 常世の門を開く為の贄となった戦士達、そのトリガーとなった族長、《紛う者》の出現によって食い散らされた一族の大人達。

 もしかしたら、把握していないだけでもっと犠牲者がいるかもしれない。

「新、お前さんは己の罪と向き合い、清算しなければならねえ。逃げ続ける事は許されねえ、目を背ける事もしてはいけねえ。どれだけ苦しゅう辛うても、胸が張り裂けそうなものであっても、お前さんは受け入れなくてはいけねえ」

 冷淡に告げて胸倉から手を離した満に、新はまた俯いてしまう。

「……わかって、る。でも、怖いんだ。一人で、こんなにも重い罪に向き合えるのか」

 ついには耳を塞ぎ、きつく目を瞑って本音を吐き出した。親と逸れてしまった迷子のような新の姿に居てもたってもいられなくなった晶子は、ゆっくりと彼の側に近づいていく。

「大丈夫、あたしがいるよ」

 両手で優しく新の頬を包み込み、こつんと額を合わせてそう言えば、新はハッと息を呑んだ。

「君のやった事は、褒められたものでは無かったかもしれない。自分本位な願いの為に沢山の命を踏み台にした結果、今この状況が起きているのかもしれない。……でもね、大事な人を取り戻そうと足掻き藻掻いた新くんの人生を、あたしは否定なんてしたくないよ」

 WtRsのゲームにおける新の一生は、ただ只管に復讐に身を窶したものだった。どれだけ崇め祀られようと、どれほどの賛美と称賛を浴びようと、真実を知った彼にとって一族の者達から投げかけられるそれらは不快極まりないものだっただろう。

「あたしは、お姉さんの為に、家族の為に怒れる新くんを優しい子だって思ってる。そんな子が、こんなに重い罪を一人で背負うなんていくら何でも酷過ぎるよ」

「晶子様……」

 すでに、晶子の知る原作とは乖離している。ならば、思う存分暴れたって良いじゃないか。

「という訳で。新くんの罪と向き合う為にも、まずは一緒にあのバケモン倒して大事なものを返してもらお!」

「大事なもの……?」

 何のことか分からず首を傾げる新に笑いかけ、晶子は立ち上がる。怪物は脱ぎ捨てた殻を殆ど食い尽くしているようだったが、まだまだ喰い足りないらしい。

 最後の一欠片を口に放り込んだ〈紛う者〉はゆっくりとこちらを振り返ると、血塗れになった弦似の顔で笑った。

「こいつを倒して、弦ちゃんの魂を取り戻す。そして、弦ちゃんを再編するの!」

 六本の腕と下半身にある腹脚でじりじりとにじり寄って来る《紛う者》を見据え、晶子は高らかに宣言した。

次回更新は、4/8(金)予定です。

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