「さくっと退場してもらおか、クソったれ」
※ 誤字脱字の修正と一部文章の見直しを行いました。
本編内容に変更はありません。
「じゃあ、最終確認!」
そう言って晶子が告げた作戦はこうだ。
まず、《紛う者》を誘導する囮役と、『根の間』での待機組に分かれる。囮役は影に隠れた《紛う者》をおびき出して、適度に相手の攻撃を往ながら『根の間』へと誘導。
『根の間』では晶子と鑪がいつでも戦闘に入れるように待機し、《紛う者》が部屋に入って来た瞬間、魔法陣起動係の黒羽達が逃げ道を塞ぐ。
「みんな、流れは大丈夫?」
晶子の言葉に、作戦を聞いた一同が頷く。皆、緊張を滲ませながらも決意に満ちた表情をしており、晶子は頼もしい限りだと笑った。
「そんじゃあ、作戦開始だ!!」
♢ ♢ ♢
「とは言ったものの……本当に大丈夫かな……」
鑪と共に『根の間』で迎撃準備をしていた晶子は、はるか上空を見上げたまま漠然と呟く。
「新と満の事が心配か?」
「鑪さん」
そんな晶子に声をかけたのは、黒羽達と魔法陣について話し込んでいた鑪だった。
「えぇ、まぁ……新くんも満ちゃんも弱く無いって分かってるんですけど、如何せんあたしは二人の実力を直接確認してるわけじゃないから……」
作戦を決行するにあたって誰が囮役をするかという話になった際、真っ先に手を挙げたのは新と満の姉弟であった。
危険だと言って止めようとする晶子に対して、新と満は一同の中でも最も餌として最適なのは自分達だからと一歩も引かず、結局押し切られる形になってしまったのだ。
(確かにね? 新くんは《紛う者》を呼び出した張本人だし、怨霊吸収してる魔物だからこそ、常世の気配をたっぷり持ってる満ちゃんは好条件なのかもしれないけどさぁ……だからって、危ない事を進んで引き受けて欲しいとは思っとらんのよなぁ……)
「それだけではないであろう?」
本音を隠して誤魔化すよう理由を告げたが、鑪には筒抜けだったらしい。腕を組んでジッとこちらを見つめる男に、晶子は参ったと両手を軽く上げて降参した。
「はぁ……鑪さんにはバレバレって訳ね」
「くくっ、我を欺くには、晶子は大分顔に出過ぎておるからな」
「うっそそんなに顔に出てる??」
思わずペタペタと顔を触れば、鑪がまた声を噛み殺して笑う。
「ちょっと! もしかして揶揄いました!?」
「くくく、んんっ。いや、すまぬすまぬ。それで……晶子は何を心配しておるのだ」
微妙に抑えきれていない笑い声を咳払いで誤魔化した後、膨れっ面で睨む晶子に鑪が問いかけた。
「あー……うん、まあ、その……新くん、無理しないかなって」
晶子はそう言って、再び天の穴を見上げる。
新が何を思って囮役に立候補したのか、晶子には分かっていた。彼は怪物をこの世に解き放ってしまった責任を取る為、いざとなれば自らの命を投げ打って役目を果たすつもりなのだろう。
恐らくそれに気付いていたからこそ、満は常世の管理者という特質を利用して弟の側にいようとしたのだと思われる。
それらを鑪にぽつりぽつりと話せば、彼は納得したように唸った。
「……あの小童なら、やらかしても可笑しくは無いな」
「ね。まあ、その真面目な所があの子の良い所であり、個人的に好きな所でもあるんだけど」
「……」
神樹編のシナリオを経験しているせいか、晶子はどうしても新の事を親戚の子供のように見てしまう。
そのため、晶子の言う好きとは甥っ子を可愛がる叔母の心境そのものなのだが、どうにも鑪には伝わらなかったようだ。
「んぇ?」
急に服の裾を引かれたのを感じ取り、何だと視線を落とす。するとそこには、腕組もせず手持ち無沙汰になっていた鑪の腕の一本が、控えめに晶子の服を摘まんでいた。
「鑪さん?」
「晶子、お主のさいおし? とやらは、我ではないのか……?」
一瞬何を言われたのか理解するのに時間がかかったが、こてんと可愛らしく首を傾げる仕草や今の言葉、そして服を摘まむ手を見て。
「鑪さん……やきもち、焼いてます??」
そう思ったのは致し方ないだろう。
「な、なぁ~んて!! まさかそんな、天下の大英雄の鑪さんがヤキモチなんて……」
しない、と続く筈だった言葉を口にする事は出来なかった。
「ふむ、そうかもしれぬな」
なんて明日の天気を聞くような軽いノリで、鑪が爆弾発言をしたからだ。当然、鑪の発言を聞いた晶子はあまりの衝撃に思考を宇宙の彼方まで飛ばしてしまった。
(た、たったたたたたた、たったらさんが、ヤキモチ?? やき、焼き餅?? いやそれだとただただ美味しいだけのお餅、ってちっがああああああう!! 何それなにそれナニソレ!? あの! 鑪さんが!! やきもちぃ!? あたしが他の推しにばっか構ってんの見て、やきもち焼いちゃったのぉ?? なっんやそれ!? かわいぃやっちゃなぁ!?)
最推しから向けられるまさかの感情に、晶子は勢いよく膝をつく。
「む!? ど、どうした晶子!? 一体何が……」
「ほんっとそう言う所ですよ鑪さん!! 貴方ねぇ!? 普段は真面目で堅物で紳士的で義理人情に厚いThe・武人って感じなのに、どうしてこういう所でそんな可愛らしい所出しちゃうんですか!? もう本当にそう言うとこがギャップがあって最高ですよえぇえぇ!! ていうかやきもち焼いた末の行動が服の裾ちょこんと摘まむって、どう考えても可愛いんですが?? そんな可愛い事しちゃって鑪さん貴方あたしをどうしたいんですか? そんな事されても鑪さんを更に推すしか出来ないですよあ、もしかしてハグして欲しい!? するする滅茶苦茶しますぅ~!!」
「お・ち・つ・け!!」
今すぐにでも鑪に飛びついて抱き締めようとした晶子の後頭部に、硬い物がぶつかった。あまりの痛みに悶絶し蹲る晶子の横に、呆れたと言いたげに溜息を吐きながらアルベートが並ぶ。
「お前、ほんと……ほんっとうにブレねぇな……」
「絶対良い意味で言って無いでしょそれ……てかハチャメチャに痛いんですが……」
「そら、俺様の拳が火を噴いたからな!」
恨みがましいとアルベートを睨み上げるも、彼はどこ吹く風でむしろ得意げに拳を見せつけてくる。
(は、はらたつぅ~!!)
その態度に内心腹を立てていた晶子だが、一連の流れを静かに見ていた鑪が放った言葉に盛大に吹き出す事になった。
「火……? アルベート、お主の拳から火は出ておらなんだが?」
「ブフォッ!!」
「だぁ!! 物の例えだわこの天然!!」
小首をかしげて問う鑪に、アルベートは頭部を真っ赤に沸騰させて答える。そんな漫才のようなやりとりを必然と聞いてしまった晶子は、頭と腹の痛みに苦しむ羽目になった。
その時——。
「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「!!」
神樹そのものを揺らす程の咆哮が響き渡り、上層が一気に騒がしくなった。反射的に立ち上がって音のする方へ顔を向けた晶子は、とうとう始まったと気を引き締める。
「ついにか……黒羽、白雲。陣の準備は終わりそうか?」
そう言って振り返った鑪は、背後で床に座り込んでいる黒羽達に呼び掛けた。
内容の書き換えを行う為に『根の間』に設置してあった魔法陣を呼び出して作業をしていた彼女達は、鑪の言葉に顔を上げて満足げに笑う。
「「ばっちりです!! 子供達の手伝いもあってすぐに終わりましたし、ついでに元々設置されていた床の方だけでなく、追加で部屋の四方にも小、中規模の魔法陣を仕込んでおきました!!」」
(ちょっと過剰な気がしなくもないけど……ま、淀みの怪物相手に手加減する必要もないか)
弦の顔で輝かんばかりに笑顔を見せて近寄って来た黒羽達を撫でまわしながら、晶子は深く考える事を止めた。
「さて、あとは……みんな、集合!!」
晶子の呼びかけに応じ、部屋の各所に散っていた子供達が戻って来る。きちんと全員が揃っている事を確認した晶子は、そのままアルベートへと向き直った。
「んじゃ、子供達の事は任せたからね」
「おうよ! お前等! 今から下に避難すんぞ!」
この作戦を決行するにあたって、子供達をどうするかが最大の問題であった。先程までいた部屋に残そうかという案もあったのだが、囮作戦を行っている最中に《紛う者》の意識がそちらに逸れては意味が無いと却下になった。
最終的に、『根の間』から続く階段で外へと避難し、怪物が追えないよう改変した魔法陣を発動させて蓋をする方向で意見が一致したのだ。
「いいか、あのバケモンはお前達を狙ってる。だから下手に動き回ったり、晶子達を手伝おうとか考えるんじゃねぇぞ?」
「うん……あの、晶子お姉ちゃん」
一つ一つ、注意事項を確認するアルベートの脇を抜けて、少女が晶子の前に立つ。子供達の巣の中で晶子に色々と教えてくれた年少の子、ひいなだ。
「どうしたの?」
「あの、えっと……だから、……」
色々と言いたい事はあったのかもしれない。しかし、幼い少女にはそんな小難しいあれこれを言語化するのは些か困難だったのだろう。徐々に俯いていく少女に声をかけようとした時。言い淀んでいたひいなが顔を上げ、何かを決心した様子で言った。
「ま、負けないで!!」
その一言に、晶子はハッと息を呑んだ。それは、震える手をぎゅっと握りしめて、不安気な表情を隠せない少女の精一杯の言葉。小難しい話を子供なりに咀嚼して、ようやく吐き出された声援だった。
「そうだよ! 負けないで!!」
「あんな怪物、晶子姉ちゃんと新兄ちゃん(・・・・・)が居ればあっという間だよね!」
「あったり前だよ! 新お兄ちゃん(・・・・・・)はすっごく強いんだから!!」
「晶子さん、新兄様の事、どうかよろしくお願いします」
ひいなを皮切りにして、子供達は晶子を囲みながら口々に懇願する。そんな彼らが新の事を兄と呼んでいる事に気付き、晶子はちらりとアルベートに視線を向けた。
(こいつらも巻き込まれた被害者なんだし、色々と知る権利はあるだろ? ま、ガキンチョはガキンチョなりに考えてたって訳だ)
(なぁるほどぉ??)
アルベートからの返事に納得したようなしてないような曖昧な答えをする晶子だったが、向けられる眼差しの一つ一つを見つめ返し、ふっと笑った。
「まっかせなさーい! この晶子お姉さんがいれば、どんな敵もあっちゅう間に細切れのぎったんぎったんにしてやるからさ! 当然、新くんと満ちゃんもきっちりかっちり守って見せますとも!!」
と、自信満々に胸を張れば、とたんに子供達から歓声が上がる。純粋な子供達に大満足な晶子は、上から聞こえてくる騒音がだんだんと近くなっている事に気付いて階下へ移動するようにと促した。
「晶子、鑪! しくじんじゃねーぞ!」
子供達が全員階段を下ったのを確認したアルベートは、晶子達に向かって発破をかけるとさっと『根の間』を出て行った。
言い捨てるような台詞に、顔を見合わせた晶子と鑪が噴き出したのとほぼ同時。
「「敵、来ます!!」」
黒羽達の声と共に新達が舞い降りて来たかと思えば、間を空けずに醜い肉の塊が落ちて来た。
「黒羽! 白雲! 魔法陣を展開せよ!!」
「「はい!!」」
瞬時に鑪が下した判断に従って黒羽達が魔法陣を発動させれば、『根の間』は眩い光に照らされ、ほぼ全ての場所から影を無くすことに成功する。
(ちょっっっっと眩しいけど、我慢できない程じゃない、かな。下への階段は……うん、ちゃんと魔法陣で蓋されてるし、魔法陣が壊されない限りは大丈夫そう)
アルベートと子供達が降りて行った階段のある方をちらっと確認して密かに安堵する晶子だが、すぐに《紛う者》に目線を戻した。
先程、鑪達が立てこもっていた部屋の前にへばりついていた時よりもぶくぶくに太ったように見える《紛う者》は、忙しなく動かしていた無数の目を一斉に晶子達の側で浮かぶ新達に向ける。
「っ」
「新! 気をしっかり持ちなんし!」
獲物を見る《紛う者》の目にたじろいだ新の背を、満が力いっぱい叩いた。
「いった!? ちょっと姉さん!!」
「腑抜けた顔をしているからいけねえんでありんすよ。ここにはあちきも、晶子様も鑪様もいらっしゃいんす。何も心配する必要はありんせん」
驚き固まる新をそのままに、満が意味ありげに晶子を見下ろす。何を言いたいのか分かっていた晶子は一つ頷きを返すと、意気揚々と前に歩み出た。
「あったりまえよ~!! こいつの攻撃は絶対に通さない、あたしと鑪さんで全部たたっきるからさ。新くんは、安心してあたし達の後ろにいてくれたらいいからね!」
「しかり。斯様な相手、お主等を守りながらでも大した苦労では無いわ」
同意の言葉を紡ぎながら、鑪も晶子に並んで《紛う者》へと近づいていく。
「さっすが鑪さん! あたし達、以心伝心で相性バッチリなのかも」
「くくっ、光栄の極みであるな」
「うんうん。そう言う事で……はい」
おもむろに手を差し出すも、鑪からは何のリアクションも無い。どうしたのかと思って彼を見るも、向こうも向こうで何を求めているのか分からないと言いたげな表情をしていた。
「どうした? その手は……?」
「え? いや、あたしの武器。てっきり鑪さん達が預かってくれてるんだと……?」
実の所、常世に落ちた時から晶子の武器は行方知れずになっていた。黒羽達に聞いても知らないと言うので、てっきり鑪達が預かってくれていたのかと思っていた晶子だったが、反応からして違うらしい。
しばし、互いに見つめ合って固まっていた晶子と鑪だったが、痺れを切らした《紛う者》が真っ直ぐ突進してくるのを察知して慌てふためく事になる。
「あ、あたしの武器どこぉ~!? え、まじで鑪さん知らないの?? ホントに!?」
「すまぬが全くもって記憶にない! どころか、常世にお主が引き込まれる際に一緒に持っていかれたと記憶しているが!?」
「冗談でしょあたし武器だけ常世に置いて来てるの!? そんな事ある!?」
「お二人共、喧嘩してる場合じゃありんせんよ!! 早う戦闘態勢に……!! 危ない!!」
満の叫びにハッとして顔を上げれば、《紛う者》はすぐ目の前にまで迫っていた。
「やばっ」
「晶子!!」
武器を持たない晶子を庇う為、刀を抜いた鑪が《紛う者》との間に入り武器を構えた。晶子も咄嗟に魔法を発動させて鑪を守ろうとした、が。
「Guoooooooooooooooooooooooooooooooo!?」
魔物の爪牙が晶子達に届く前に何かが全速力で《紛う者》の右側頭部辺りに衝突し、巨体が物凄い勢いで吹っ飛んだ。
「な、何事!?」
「……ほう、良い拳をしている」
「え? こぶ……なんて??」
唐突にそう呟いた鑪になんのこっちゃと頭にハテナを浮かべていると、《紛う者》を転倒させた何かがぴょんぴょん飛び跳ねながら晶子の前に着地した。
「うわっ!? って、黒い手?」
驚いて後退った晶子だが、それが何かに気付いてまた驚愕する。なんと、《紛う者》を攻撃したのは黒い手だったのだ。
「なんでここに……あれ? もしかして君、常世を出るまでずっと案内してくれてた子?」
何となく知っているマナの気配を感じ取ってそう言えば、黒い手は喜びを表すようにサムズアップして見せる。
かと思えば、黒い手は足元に出来た自身の影の中にとぷんと身を沈め、瞬きをしている間に何かを握って戻って来た。
「あ! あたしの武器!!」
差し出されたそれを受け取って、晶子はぱぁっと顔を綻ばせる。丁度今し方、ないないと騒ぎ立てていたバトルアックスが傷一つ無い状態で戻って来たからだ。
「探してたのよ~!! どこにあったの!? ……あ~、ごめん、分かんないやぁ」
疑問に答えようとしてくれたのか、激しく身振り手振りするものの、残念ながらそれを解読する術を晶子は持っていない。
申し訳ないと苦笑すると、黒い手はしょんぼりしたようにくったりしたが、すぐにはっとして満に向かって同じ行動を繰り返した。
(あ、そっか。満ちゃんとは契約してる間柄だから、黒い手の言いたい事が伝わるのか)
「ふむふむ……。どうやらこの者、晶子様が常世に落ちてすぐに武器を回収していたようでありんす」
曰く、無くしてはいけないからという親切心からの行動だったと言う。しかし、満や黒羽達との会話ですっかり忘れていたらしく、今になって慌てて持って出て来たのだとか。
「返すのが遅うなって申し訳ありんせん、と言っておりんす」
「いやいや! こちらこそ、預かってくれてありがとうございます!」
黒い手と晶子が互いに礼をし合う姿は、傍から見ればかなり可笑しな光景だっただろう。
「晶子、そろそろ奴が起き上がるぞ」
鑪の言葉に《紛う者》を見れば、若干ふら付いている状態ながらも殺気を漲らせてこちらを睨みつけていた。
「黒い手の一撃で、脳震盪でも起こしたんかな?」
「のうしんとう?」
「頭に強い衝撃を受ける事で起きる、意識の消失とか混乱とかの症状の事。頭痛とか眩暈とか、ふら付きの原因にもなるの」
「ほぉ……頭部を強打した際に時折なった状態に、そのような名称があったとは」
「鑪さん?」
感心したように呟く鑪に凄みを効かせて名を呼べば、ぎくりと肩を震わせて目を逸らされる。
これは後で説教だと心の中で予定を立てながら、晶子は肩慣らしがてら黒い手から受け取った武器を軽く振るった。
「さ、君は常世に……ってえぇ、めっちゃ嫌がるじゃん……」
帰った方が良いと言おうとしたが、黒い手が全力で拒否の姿勢を示したので困ってしまう。
「この者も共に戦うと言っておりんす」
「え、いやでも」
「あちきの眷属達の中でも、この者は特に優秀でありんす。きっとお役に立つはずでありんすよ」
危険だからと断ろうとしていた晶子の考えを見通したように、満が艶めかしく笑った。同じ女ながらその仕草にドキッとした晶子は、胸を抑えて蹲りそうになったのをどうにか堪え、唇を噛みしめながら辛うじて頷き返す。
許可が出た事に喜んでいるのか、黒い手は何度もサムズアップやピースサインを作って満に見せる。満もそんな眷属が可愛いのか、「良かったでありんすね」と微笑んでいた。
「Gugyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
耳障りな不協和音が『根の間』に響き渡り、晶子達は一斉に叫び声の主を見やる。
頭部の目はみな充血し、鼻も耳もひくひくと引き攣りを起こしているように動いている様は、まるで怒りを堪えている人間のようだ。
「うっわ……さっきは気付かんかったけど、あそこ口なんや……」
瘤状の頭部と胴体の間、人間で言う首にあたる部分に発見した歪に形成された口に、思いっきり顔を顰めてしまう。
時折覗く並びの悪い歯の間に色とりどりの羽が詰まっているのがチラ見えして、更に気分が悪くなってしまった。
「長い事離ればなれやった姉弟の感動の再会が、お前がおると台無しになるんやわ」
軽々と片手で持ち上げたバトルアックスの刃先を、真っ直ぐ《紛う者》に向ける晶子。
「さくっと退場してもらおか、クソったれ」
「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
怒りの咆哮を上げる〈紛う者〉に晶子が駆け出したのを皮切りに、神樹での戦いが幕を開けた。
次回更新は、3/14(金)予定です。




