「戦場は決まった! さ、忙しくなるよ~!!」
※ 一部文章を加筆・修正しました。
「いやまじ、お二人の再会の邪魔して、本当に申し訳ありませんでした」
感動的な再会を邪魔してしまった事に対し、晶子は額を床にこすりつけて土下座した。
「い、いえあの! そこまでしていただかなくても……!!」
「そうでありんすよ。どうか顔を上げておくんなし」
あまりに仰々しく謝る晶子に、怒りなどの感情よりも戸惑いが先に来たらしい満と新。あわあわとしながら何とか顔を上げさせようとするも、推しの名シーンを妨げてしまった晶子にはあまり効果が無かった。
そんな晶子を起き上がらせたのは、呆れたように溜息を吐いた鑪だった。
「……晶子、お主のおし? 二人が困っておるぞ」
「今すぐ止めます!!」
鶴の一声ならぬ、鑪の一声に晶子はピョンッと飛び上がるようにして立ち上がる。その勢いにすぐ傍にいた新達は一瞬肩をビクつかせて距離をとるものの、しおしおと落ち込んだ表情を隠しもしない晶子にすぐ駆け寄ってきた。
「あの、ほんと、ごめんねぇ……満ちゃんがすっごく綺麗なお召し物に着替えてるから……」
満の現在の服は、常世で着用していた漆黒色のローブでは無く、同じ色の生地で作られた着物に変わっていた。
裾には真っ赤に咲き乱れた彼岸花の群れと、その上を飛び回る赤と金の蝶。前側で結われた金の帯には、朱に色付けされた一匹の蛇がゆったりとした動きで這いまわっている。
絵柄は晶子達と同じく動いていたが、二人と違う部分と言えば満の物は赤がほのかに光を放っているという事だろうか。
「ふふふ、ありがとうござりんす」
着ている物を褒められて、満は頬を少し赤く染めながら嫋やかに微笑んだ。
「どうかお気になさらないでください! それに……謝らなければならないのは、僕の方ですから」
顔を俯かせ、新が力なく呟く。ハッキリと表情が見えてはいなかったが、晶子にはその声色に、深い後悔と自責の念が込められているように感じられた。
「憎しみに囚われて、僕は数えきれないくらいの罪を犯してきました。族長の憎悪や一族の憤怒を利用して、姉さんを取り戻す為だけに行動して来ました。姉さんに会えるなら、一族の命や未来なんてどうでもよかった。そのはず、だったんです……でも……」
振り返った新の視線の先、そこには未だ怯えた目でこちらを見る子供達の姿が。
(……いや、この警戒はどちらかというと新くんに、かな)
自分達を導き率いる人物が起こした、一族を壊滅させるような今回の騒動。新を慕っていた子供達からすれば、突然の暴挙に恐れ警戒するのも致し方が無いだろう。
「時を止めたあの日から今日まで、一族の者達との接触は苦痛でしかたなかった。でも、子供達と、弦と一緒に過ごしている間だけは、僕はただの『僕』でいれた」
「……幸せだった?」
遠い何処かを見つめる眼差しに晶子が問いかければ、新はほんのわずかに息を吞む。が、すぐに表情を崩すと、困ったように笑って言った。
「姉さんの事を、短時間だけど忘れてしまう程に」
「そう思えたなら、どうして止まれなかったの?」
「……幸福だと思う気持ちと同時に、ずっとある考えが頭をぐるぐると回っていたんです。なぜ、彼等には血の繋がりは無くとも家族がいるのに、僕にはいないのかって」
どれだけ純真に慕っていたとしても、弦と子供達の存在は新を止める一手には成れなかったらしい。
「なぜ僕達がこんな目に合わなければいけないんだって、崇めるだけ崇めて僕に全てを擦り付ける大人を恨んだりも、無垢に笑う子供達を妬んだりもした」
「新……」
拳を握り締める新の手をとり、満が心配そうに弟の名を呼ぶ。それに新は驚いたのかびくりと肩を震わせたが、疲れたような笑顔を浮かべて大丈夫だと言う。
「けれど結局、僕の事を無条件に、無邪気に慕って懐いてくれる子供達を犠牲になんて出来なかった」
(!! なるほど、それであたしに白羽の矢が立ったって訳か)
つまるところ、何だかんだ子供達に絆された新は彼らを犠牲にしない為に、生贄を晶子に変更したという事らしかった。
「門を開ける為の糧に戦士達を使ったのは、最初から決めてた事? それに族長も」
「そう、ですね……常世から怨霊を解き放って一族を襲わせるつもりでしたので、彼らの武力は邪魔になりますから。族長に関しても、彼自身一族に対して強い恨みを抱えている事を知っていたので、上手く使えば滞りなく目的を果たせると……」
新は戦士達を使って門を開き、常世から強力な怨霊を呼び出して一族を襲撃させる気でいたようだ。
晶子は呼び出した怨霊に更なる力を与える為の食料になる予定だったと言われ、えげつない事を考えていたなと口元を引き攣らせた。
「あの得鳥擬きが族長を食い殺したのを見た時、良い感じに強い怨霊が現れたんだと思ったんです。けれど、あの魔物は晶子様が常世に引き込まれてすぐ、暴走し始めました。止めようとしたのですが、僕の命にも一切言う事を聞かなくて……」
「そらもう凄かったぜ? 八本の腕をみょーんっと伸ばしてガキンチョ共を喰おうとしやがったから慌てて逃げたんだがよ、部屋から出た途端、外で様子見してた有翼族共を次から次に捕食していきやがって」
「……あぁ、だからこんなに静かなのか」
アルベートの言葉を聞いて、晶子はようやく神樹が静寂に包まれている理由を知った。普通に考えて、あのような魔物が出現し徘徊を始めたなら、住人達の悲鳴や絶叫が木霊していても可笑しくないはず。
それが一切ないという事はつまり、《紛う者》によってここにいる者達以外の全ての命、少なくとも抗おうとした者や逃げ惑った者は貪り尽くされてしまったという事だろうか。
「隠れてる人とかは? どこかの巣に引きこもってるって事は」
「……晶子、オメェのマナ探知能力なら、分かってるんじゃねぇのか?」
そう告げたアルベートに、晶子は何も言えなくなる。彼の言う通り、《紛う者》を発見するまでの間に神樹全体にマナ探知をかけていた晶子は、既にこの樹に生存者がいないと理解していた。
(ゲームじゃ弦ちゃん達以外が死んでもザマアってしか思わなかったのに……実際に沢山の人が死んだってのを目の当たりにすると、すっごく嫌な気分……)
嫌いな人々が居なくなった事を素直に喜べず、もやもやとした気持ちを抱えるしかなかった。
「我の力が及ばぬばかりに、多大な犠牲が出てしまった……面目もござらぬ」
「そんな! 鑪様は子供達を守ってくれただけでなく、首謀者の僕まで助けてくださって! 本当に、感謝してもしきれません」
何度も頭を下げる新だが、その手はずっと薄汚れてしまったローブを握り締めている。微かに震えているのに気付いた晶子は、彼が己の行いを悔いているのだと見抜いた。
(きっと、とんでもないモン呼び出しちゃったって後悔してんだろうな。新くん自身、まさかあんなバケモンが現れるとは思っても無かったみたいだし、そもそも淀みの魔物が関わってるせいで余計ややこしいモンが生まれてんだよなぁ……)
淀みの魔物が怨霊を吸収しなければ、恐らくここまで凶悪な怪物にはならなかっただろう。
(何が最悪って、推定出来ないくらいの量の怨霊を《紛う者》が取り込んでるってとこなのよね……)
これが一匹、二匹程度ならばそう苦戦する相手でも無かったであろうが、実際は満でも正確な数を割り出せない程の怨霊を取り込んでいる様子。
扉の前で対峙した時も臭いこそそこまでしなかったものの、見た目からしてトンデモない事になっているとみてまず間違いない。
「……あれに喰われるのは嫌だなぁ……」
もしそうなったら自分もあの一部になるのかと想像して、全身に鳥肌が立つ。
「えぇ……あんなものに子供達を差し出そうとしていたのかと思うと、ぞっとしました」
「その割に、上で黄泉の門を開く時には容赦無かったよね。子供達もあの場にいて、一歩間違えれば犠牲になってたかもしれないのに」
「おい!!」
晶子の一言を聞いて、アルベートが少し怒りを滲ませながら止めに入る。恐らく子供達のいる前で言う事では無いだろうと言いたいのだろうが、ここで誤魔化してしまっては新の為にも子供達の為にもならないと晶子は判断したのだ。
現に、子供達は晶子の言葉を聞いて更に怯え、年長者達は下の子達を庇うように抱え込んでいる。
「いくら何でも直球過ぎるだろ! もうちょいオブラートに包んでだな」
「いえ、晶子様の言う通りです」
しかし、アルベートを止めたのは他でもない新だった。
「上層の広間に到着した時、確かに子供達の存在には気付いていました。状況からして、族長が勝手な行動を起こしたであろう事も」
「じゃあどうして」
「貴女が、子供達を守ってくれていたからです」
まさか新からそんな発言が出るとは思ってもおらず、晶子は目を丸くする。
「覆い被さるようにして子供達を守るマナの土壁に、漠然とした安心感を覚えました。あの壁がある限り、子供達に危険は及ばない。貴女がいる限り、子供達は絶対に安全だって」
そう言って晶子を見る新の眼差しには、出会った当初からは考えられない絶対的な信頼が籠っていた。
「お、おぉう」
(予想外に強く信頼してもろて……何がどうなってそうなった??)
晶子が新と直接的な接触をしたのは極々短い時間しかない。にもかかわらず、なぜこんなにも新から信頼されているのか。全くもって心当たりが無く、顔には出さなかったが戸惑うばかりだった。
「えっと、まあ、うん。あたしも何が何でも絶対に子供達を守る気ではあったけどさ……それだったら、あたしを生贄にしたら意味無くない?」
「そこはほら、僕はこれでも優秀な神子ですから。貴女の守りが消えたと同時に即子供達を保護する手筈は整えてましたよ」
さっきまでの儚げな笑顔はどこへやら、ドヤ顔で胸を張る新に少々イラっときた晶子は、思わず彼の両頬を摘まむと思いっきり横に伸ばした。
「いひゃい!?」
「人の事生贄にしようとしといて、調子良い事言ってんじゃないよ。ったく……」
(にしても、やらけぇ~……!! なんっだこのもちもちほっぺは!! けしからん!! しこたまもちもちしてやる!!)
痛みを訴えていたので以降の力加減に注意しながら、ひたすら新の頬を揉みしだいていれば、何時までも話が進まないのに業を煮やしたらしい鑪が大きな咳払いをした。
「んん゛、それで晶子。お主、体の具合はどうなのだ?」
「んえ? あっ! うんもうすっごい元気っすよ!!」
一瞬なんの事かと首を捻った晶子だが、すぐに常世に落ちる前のあれそれを思い出す。現世に出てきて早々色々な事が重なった結果、碌に説明も出来て無かったのにも気付き、鑪とアルベート、そして新に向けて常世での事を共有した。
「まじで、光の英雄様々じゃねぇか。お前、ちゃんとお礼は言ったのか?」
「素で子供扱いすんのやめろこのちみっこ親父」
「だぁれがちみっこだ!! 偉大なる冒険家アルベート様って言いやがれ!!」
「突っ込むとこそこ?? あと親父は良いのね」
子を叱りつけるようなアルベートの言い方に晶子が雑に返事をするも、返ってきた答えはなんともズレたもので呆れてしまった。
そんな晶子の態度が気に喰わなかったのか、益々ヒートアップして文句を言うアルベートをどう諫めようか頭を抱えていると、おもむろに鑪が黒羽達に近づいて行く。
「久しいな、黒羽、白雲よ」
「「えぇ、お久しぶりです鑪。相変わらず、武の道を究めているようですね」」
「我にはそれしかない故、な……それはさておき、晶子の事、感謝してもしきれぬ。満と言ったな? お主にも礼を言う」
簡単に交わされた挨拶の後、鑪はそう言って満と黒羽達に深く腰を折った。
「え、英雄様に頭を下げていただくなど、恐れ多うござりんす!! あちきは自分の思うままに行動しただけでありんすから、どうぞ頭を上げておくんなんし!!」
「「満の言う通り、我々も己の役目を全うしたにすぎませんから。それに、彼女はこの世界に無くてはならない人材。こんな志半ばなところで死なれては困りますもの」」
慌てふためく満とは対照的に、鑪と旧知の仲である黒羽達は穏やかに笑う。彼女達の返答を聞いた鑪は一言「そうか」と呟くと、ゆっくりと姿勢を正した。
「晶子」
「なに?」
名を呼ばれて近寄った晶子の左頬に、鑪の右手が触れた。
「顔色は、悪く無いな。本に不調な所は無いのだな?」
「うん。むしろやる気に満ち溢れてて、いくらでも戦えそうな感じ!!」
頬に手を当てられたまま右腕をぐるぐると回して見せれば、鑪は何か言いたげにしつつも納得はしてくれたようだ。
「ならば良い。だが、あまり無理をしてくれるな。我等を大事に思うてくれるのは嬉しい事であるが、それで晶子が死んでしまっては元も子もないのだぞ?」
「!!」
晶子には鑪の表情変化が分からない。
彼の触角こそ割としっかりと感情を反映して動いているものの、それ以外の部分で鑪の感情が明確に現れる部分は少ない。
そもそも虫の顔に、表情の変化が出るのかも微妙なところだ。
しかし、そんな彼が今、触覚を抜きにしても分かる程に悲哀を露わにしている。
(そ、っか……鑪さん、心配してくれたんだ)
「……うん、ごめんなさい。ありがとう、鑪さん」
鑪にとっては監視対象が勝手にいなくなることが許せないから、こんな事を言ったのかもしれない。純粋な心配では無く、打算的な考えからそんな事を言っているのかもしれない。
仮にそうだったとして、最推しに心配をかけてしまった事には違いないと、申し訳なさから素直に謝罪を口にした。
「分かってくれたのであれば良い。今後は、もっと我を頼ってくれ。知識を必要とする分野は得意と言えぬが、力仕事であればこの刃、存分に奮おう」
そっと空いている手で刀の柄を撫でた鑪に、晶子は了解の意を込めて頷く。
「気は済んだか?」
「今のところは、であるな」
「そーかい。こっちもお前らが話してる間に、新の坊主とガキンチョ共を和解させてきた」
どんなもんよと胸を張るアルベートに驚いて玉座の転がる方を見れば、そこには、年少の子と同じ目線になるようしゃがみ込んだ新が、沢山の子供達に抱きしめられている後ろ姿があった。
「い、何時の間に……」
「お前らがどんだけかかるか分かんねーし、こいつらいつまでも仲違いさせとくのも後味悪ぃなって思ってよ。いっそ仲直りさせるかって」
「行動力の塊じゃん……てか、いよいよ本当にお父さんになって来てるよ」
「俺様は元から父親だよ!!」
キャンキャンと犬が吠えるように文句をつけるアルベートを無視して、晶子は鑪に向き直った。
「とりあえず、これからどう動こうか」
「「《紛う者》は晶子様に攻撃されてすぐ、影の中に逃げ込んだんですよね?」」
今後の行動指標をどうするかという話し合いの場で、黒羽達が晶子に確認をとる。それに頷く事で肯定を返せば、黒羽達は少々厄介な事になったと眉を顰めた。
「「影に潜られてしまっては、我々でも後を追う事は出来ません。そして、あれが影を移動できるという事は……」」
「影さえあれば、どこからでもこちらを急襲出来るって事でありんすね」
それはつまり、今こうして部屋の中で固まっている状況も良くないという事で、いつ完全な死角から《紛う者》が出現しても可笑しくないのだ。
「下手に密室に隠れてると、どっから攻撃されるか分からない。かと言って、足場の悪い外で戦うのも……」
「我や晶子であれば多少の足場の悪さは気にならぬだろうが、子供達を守りながらでは分が悪いな」
武人として高い身体能力を持つ鑪と、異世界召喚特典で諸々が強化された晶子にとっては樹上の戦闘も大して問題にならないが、それは戦場に二人しかいない場合に限った話だ。
満足に戦う力も持たない子供達がいる今、下手な行動は全員の命を脅かす可能性すらある。
(ゲームでのボス戦だと、戦う場所がルートによって分岐してたんだよね。確か、協力ルートだとこの部屋で新くんが変異した後、一族を滅ぼしてから異空間に転移して。で、非協力ルートだと、さっきの黄泉の門の所なんだけど……)
「新くん、この樹で一番安定して戦えそうなとこって、やっぱ上の門の所かな?」
晶子が新へ尋ねるも、彼は眉間に皺を寄せながらそれは難しいと反対した。
「確かにあの部屋は比較的広い方だと思いますし、天上から光が降り注いでいるので影の心配もほぼ無いでしょうが……門が開いている真っ最中ですし、下手にあそこで《紛う者》と戦って、常世に逃げ込まれてはまずいです」
「だぁよねぇ~……」
WtRsとは違い、相手は意思を持って動く生命体だ。成り立ちや本質が歪だったとして、ゲームのようにプログラミングされて行動している訳では無い。
新が言ったように、万が一常世へと逃げ込まれて見境なく魂を喰らわれ、更なる進化をとげられたりすれば……。
(あかん、今マジで背筋凍ったわ……新くんの返事は分かっとったけども、改めて考えたらホンマにやばい……)
正直なところ反対されるのは分かっていた晶子だが、何も案が思い浮かばない以上、とりあえず何でも口に出す他無い。その場で円になった晶子達は、それぞれ思い思いの策を上げ始める。
「いっそ、あのデカブツをこの部屋に閉じ込めて戦うか? ガキンチョ共は上手い事外に逃がしてだな」
「しかし、この部屋の出入り口はここ一つでありんすよ? 入れ違いになる時や、退室時に気付かれちまえば良い的になっちまいましんす」
「となれば、やはり地上に戻るか?」
「「地上へと戻るには、浮遊の魔法陣を使わなければなりません。弦の体を借りている手前、我々でも何とか動かせるでしょうが……あの速度と浮遊状態では、いざ襲われた時に反撃が難しいかと」」
が、どれもこれもあまり良い案とは言えず、遂には全員ネタも尽きてしまった。
(ああああああああ……どうすりゃいいの!? こうしてる間にも、もしかしたら《紛う者》は神樹の外に行こうとしてるかもしれないし、早いとこ策を考えないといけないのに……!!)
焦れば焦る程、まともな考えが浮かばなくなってしまい、頭を掻き毟って何か無いかと思考する晶子。
「ねぇ、お姉ちゃん。あのお化けをやっつけるお話をしてるの?」
「え!?」
突然下から聞こえて来た声に驚いて視線を下げると、そこにはいつの間にか輪の中に混ざっていた花朝がいた。よく見れば他の子供達も鑪やアルベート、新、満、黒羽達の隣に並び、うんうんと頭を捻っている。
「ねぇってばぁ」
「え、あ、う、うん……お化けをやっつける為に、どこで戦ったら良いかって話してるの」
「どんな所なら良いの??」
そう言われて、晶子は改めて必要条件を頭の中で整理する。
「まず、そこそこの広さがある空間が必要でしょ。で、アイツは影を移動するっぽいから、暗い所が少ない場所が良いよね。もしくは出てくるところが限られるような……」
(……待てよ、そう言えばどっかに……)
ふと、直近で訪れた所に条件に当てはまりそうな場所があったような気がして、思い出そうと頭を捻る。
晶子と鑪が《紛う者》と激しい戦闘をしても困らない程の広さを持ち、敵の移動手段を制限できる部屋。
「……ああー!! 『根の間』だ!!」
「どうわびっくりした!! いきなり叫ぶんじゃねーよ!!」
急に大声を上げたせいでアルベートだけでなく皆も驚かせてしまったが、それを気にしている暇は無かった。
「で、『根の間』が何だって?」
「あたし達が暴れても問題無くて、《紛う者》が使いそうな影が最低限な場所! あそこなら、上から日の光が差し込んでるし、かなりの広さもあるよ!」
「おいおい、光があるって言っても、大したもんじゃ無かっただろ? あれじゃ袋の鼠も良いとこだろ」
アルベートが言わんとしている事も分からなくは無かったが、そこに関して晶子にはある案があった。
「其処はほら、魔法陣を使うのよ」
「魔法陣……? あっ! もしかして、“浮遊”を書き換えて“照明”にするんですね!?」
思惑が通じたらしく、新がポンっと手を打つ。晶子がしようとしている事、それは魔法陣の書き換えであった。
「あれなら他に道具が無くても、マナを流すだけで明かりを灯せるし、魔法陣さえ維持出来てれば何回だって使えるからね。なんてったってあたし達には、光の英雄と光の神子が揃ってるからさ!」
魔法陣の担い手である弦が目覚めていないのが不安ではあるが、背に腹は代えられない。なにより、光を司る白雲がいれば、新のマナでは足りなくともどうにかなるだろうと言う判断であった。
「「責任重大ですね……」」
「出来そう?」
少し緊張した面持ちで呟く黒羽達に、断られるかも知れないと不安になりつつ問いかける。が、彼女達は首を横に振ると自信ありげに笑った。
「「貴女のお役に立つと決めたのですから、必ず成し遂げて見せましょう。その役目、拝命します」」
「ぼ、僕も! 神子として恥じぬよう、そして……」
新は言葉を区切ると、自身に寄り添う子供達を見下ろして微笑みかける。
「子供達に償う為に、全力を尽くします!」
真っ直ぐと晶子を見つめる瞳には、強い覚悟と決意が輝いていた。
その輝きに晶子は満足気に頷くと、鑪とアルベートに視線を向ける。彼等がいつでも準備は出来ていると言いたげに頷いたのを見て、晶子も強気に笑って頷き返す。
「戦場は決まった! さ、忙しくなるよ~!!」
右掌に左手の拳を打ち付けながら、晶子達は『《紛う者》討伐作戦』の内容を、急ピッチで突き詰めていくのだった。
次回更新は、3/7(金)予定です。




