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(おぁあああああ!? 当たって欲しくない予想が当たっちゃった!!)

 上昇を続けていた浮遊魔法が停止したのは、根の間よりも一回り程狭い空間だった。窓も無いその部屋には唯一、木製の巨大な両開き扉が備え付けられており、その大きさは有翼族が翼を広げた状態でも余裕で出入りが出来そうな程だった。

(ここの中、ゲームだと既に扉の外に出た状態になってたからなぁ。こんな感じになってたんだ)

 WtRsでは見れなかった裏側を知れて晶子が密かに感動していると、足元の魔法陣が数度明滅し、瞬きの間に木製の床へと変化した。

「は!? これ浮遊魔法の魔法陣だったろ!?」

「一つの魔法陣の中に、複数の魔法を書き込んでおったのか……」

 魔法陣とは、魔法を行使する為に使われる媒体の事である。その為、通常は一つの魔法陣につき一つの魔法と相場が決まっていた。

(うわ、しかもそれぞれの魔法が競合しないよう計算されてる……こぉれマジで凄くない??)

「複雑且つ緻密な魔法陣を造り上げるとは、術者は相当魔法の腕が立つ御仁と見える。是非とも一度、御教授願いたいものだ」

「そ、そんな腕が立つなんて……」

 感心し続けている鑪の呟きに、弦が照れたように呟く。その言葉を聞いた晶子達は一瞬の間を空けて、驚きの声を上げてしまった。

「これこの魔法陣、弦ちゃんが作ったの!?」

「え!? えぇと……そ、そうです……」

 思わずちゃん付のまま詰め寄って問いかければ、勢いに圧倒されながらも、弦は質問に対して恐る恐る首を縦に振った。

「マジかよすっげぇ!! 魔法に関しちゃ素人だけど、そんな俺様でもこの凄さは分かるぜ!!」

「しかり。我等英雄でも、これほどの魔法陣を作成する事は出来ぬ。誇るべき事だ」

 アルベート達からも褒められて、弦は頬をほんのりと染めながら嬉しそうにはにかんだ。

(あああああああああああああああああああああああああかわいぃいいいいいいいいい!! このちょっと釣り目でつんとした見た目の弦ちゃんが照れてるのが最っ高に可愛いんだよなぁでへへ……じゃなくって!!)

 もじもじしている弦を見て緩んだ表情をしそうになった晶子だったが、そんな場合じゃないと自身を一喝する。

(英雄でも作れないって鑪さん言ったけど……可笑しいよね? だってWtRsじゃ、弦ちゃんの性能は魔法特化型の風の英雄、ハーミズの下位互換だった筈……それなのに、そんな弦ちゃんが、英雄にも作れないって言わしめる程の魔法陣を作るなんて)

 WtRsを長年プレイしていた身として、好きなキャラが強くなっているのは喜ばしい話ではあるが、事ここが現実であると言う意味では悪い予感しかしない。

 何故ならば、鑪の言葉が正しいのであれば、この世界の弦はハーミズよりも強い力を持っているという事になるからだ。

(そしてそれは、それなりのマナと技能しか持っていなかった弦ちゃんを、英雄並み……ううん、それ以上の力を扱えるようにした誰かがいるって事になるよね)

 つまるところ、新に協力する何者かの存在を示唆していた。

(弦ちゃんを強化したのは、淀みの精霊? 未來さんは多分無理だろうから、考えられるとしたらそうなるんだろうけども……)

「……こんな立派な魔法陣を作れるようになるのに、きっと物凄く苦労と努力を重ねたんでしょ?」

 考えても分からないと思った晶子は、怪しまれない程度に探りを入れる事にした。弦に大変だったのだろうと暗に尋ねるも、返ってきたのはあっさりとした否定だった。

「いいえ! マナの扱いと魔法陣の作り方を指南してくださった方がいらして、そのおかげで簡単に作る事が出来ましたの!」

「指南? ゆ……天翼族の中にそんな人が?」

 思わず有翼族と言いそうになったのを何とか誤魔化し、そんなモブいたかと首を傾げる。まさか族長がと一瞬そんな考えが過るものの、子を子とも思わないような男がそのような事をするとは思えない。

「いえ、部族の者でなく旅の方でして。凄くマナの扱いに長けていて、私が苦手としているコントロールや、知らない魔法の事を教えて下さって……密かに先生とお呼びしていましたの!」

(旅の人……? この閉鎖的な一族の集落に?? 歓迎された訳無いだろうし、てかどうやってここまで??)

 弦から齎される断片的な情報を頭で整理するも、どうにもうまく纏まらない。それどころか、何故そのような旅人がこの神樹に侵入できたのかと更なる疑問が沸き上がった。

「その旅人って、この神樹で会ってたの?」

「えぇ、そうですよ? あら……そう言えば、どうしてあの方はこの樹にいたのかしら?」

 確認の為にそう質問を投げかければ、今度は弦が首を傾げてしまった。どうやらその相手を不審に思う事も無く、今の今まで神樹で密会していたのも当たり前に受け入れていたらしい。

(んんん?? ますます人物像が謎になって来たんだが?? これあたしが可笑しい感じ??)

(いや……これに関してはお前の感性というか、感覚は間違ってねぇと思うぜ……)

 凄い凄いとはしゃいでいたアルベートも、流石に違和感に気付いたようだ。

「あー……その旅人ってよ、どんな奴だったんだ?」

 おずおずとアルベートが旅人について聞いてみると、弦は自分が慕っている人の話が出来るのが嬉しいらしく、意気揚々と語り始めた。

「先生はですね、とても美しい女性の方なんです! 腰まで伸ばされた艶やかな黒髪に、黒檀のような黒い瞳、滑らかな素肌は白く透き通っていて」

(……んん??)

「ちょ、ちょっと待って……」

 次々に飛び出す旅人の情報に、アルベートは晶子の足にしがみ付き、鑪は触覚を警戒状態にして弦を見る。

「どうされました?」

「その、旅人の名前、何ていう人なの?」

 引き攣る口元をどうにか動かして名前を問えば、弦は不思議そうな顔をしつつもはにかんでこう答えた。

「未來様というお名前なんです!」

(おぁあああああ!? 当たって欲しくない予想が当たっちゃった!!)

 出来れば聞きたくなかった名前に、晶子は唇を噛みしめて渋い顔をする。

(確かにね! ここに来てから淀みの気配が感じられないとか色々思ってはいたけども!! こぉんな所で出てこなくても良くない!? てか何で!? 未來さん弦ちゃんにマナコントロールの方法とか教えるって何してんの!? というか何で弦ちゃんに姿見えてんの!?)

 地下通路での未來との遭遇時の事を振り返り、晶子達は彼女が『この世界の他の人達には感知出来ない存在である』と結論付けていた。

 しかし、弦は未來を感知しただけでなく彼女と交流し、(あまつさ)えマナの扱いについて教えを受けていたと言う。予想だにしなかった事態の発生に、晶子は頭を抱えるしかない。

「そ、その人、ホントにただの旅人? 閉鎖的な神樹に忍び込ん……だのかは分からないけど、誰にも気づかれずに入るなんて……」

「確かに、少し変わったマナをお持ちの方でした。こう、少しドロドロとした粘度のある感じがして、とても重たいマナで、あとはそう、少々独特な香りを纏ってらっしゃいました!」

(少し!? 少々!? それ絶対淀みのマナ!! 弦ちゃん世間知らずもいいところだよ!?)

 明らかに異常性のありそうなマナだったというのに、弦は旅人という存在だからか、そこまで深く疑ってはいないようだった。

 それどころか、異様なマナの様相や異臭に対しても『そんな人もいるんだな』程度の感覚で済ませてしまっているらしい。

(ぐううう……弦ちゃんは神樹から出た事無いからある意味仕方ないのかも知れない、けども……けども!! もうちょっと危機感は持った方が良いと思うなぁおばちゃん!!)

 こうも純粋だといつかころっと騙されてしまうのではないかと、老婆心を覗かせてしまう晶子。

(でも未來さん、何のために弦ちゃんに接触したんだろ? 話を聞く感じ、危害も加えて無いみたいだし)

(それな。高々、浮遊の魔法陣を作らせる為だけにって訳でもねぇだろうし、マジで何がしたいんだ??)

 一切の害も無く、魔法の扱いがそこまで得意ではない弦を、高度な魔法陣を作り上げるまでに成長させた未來。彼女の真意は何なのか、現状それを解明する手立ては何も無い。

(……神樹に来てから様子見ばっかりだな。さっき気付いちゃった英雄との関係の事もあるし、この後何か進展があれば良いんだけど……)

「あ、いけません! 未來様のお話はまた後程にでも。今は新様の元へ皆様を御連れしなくては」

 二進も三進もいかない現状に歯噛みしている晶子の事など知る由も無く、弦はそう言って正面に見える扉に手をかけた。

「それ、重いんじゃ」

「え? あぁ、大丈夫ですよ。この扉はマナを流し込むと自動で開きますので」

 華奢な弦の腕では無理があるだろうと晶子が止めに入るも、振り返った弦は笑って答える。と同時に弦が宣言通りマナを扉へ流し込むと、白い光が木目を流れていき、やがて鈍い音を立てながらその扉は開いた。

「私達の集落へようこそ!」

 真っ先に部屋から飛び出した弦に続いて有翼族達の棲み家に足を踏み入れた晶子達は、眼前に広がる光景に思わず感嘆の声を漏らす。

「わぁああ!!」

「うぉおお!!」

「ほぉ、これはまた……」

 太い幹から縦横無尽に伸びる枝々に、鳥の巣箱のような家がいくつもぶら下がり、それぞれの門戸や屋根、壁に至るまで模様も色も様々なタペストリーで飾り付けられている。

 照明のようなものは見当たらず、有翼族達が飛び交うこの集落を照らしているのは、天から差し込む日の光のみ。

 丁度真上にあるおかげで集落全体が満遍なく照らされていて、鮮やかな有翼族達の暮らしが猶の事、映えているようにも見えた。

「すっげぇな! どこもかしこも色に溢れてて、滅茶苦茶カラフルだ!」

「タペストリーは、貴殿等の翼から抜け落ちる羽毛で編まれていると聞いていたが、これ程の鮮やかな色が維持できるとは……何か特別な手入れ法でもあるのか?」

 文字通り目元のライトを輝かせて見入るアルベートに対し、鑪はタペストリーを形成する素材や諸々が気になるもよう。

「私達は、この翼が自慢ですから。日々の手入れは当然欠かせません。一番良く使われているのは、『神樹の実』を擂り潰して作られる香油ですね」

 弦はそう言うと、晶子達の頭上にある枝の先を指さした。そこには、大玉の林檎のような果実が実っており、艶やかな表皮が差し込む日差しに照らされて輝いている。

(あれが『神樹の実』……ゲームのグラフィックもまん丸な木の実で表示されてたけど、それの何倍も丸なんやが?)

 『神樹の実』はWtRsの資料にも林檎に似た果実と表記されているが、実際は完全な球体型をした木の実なのだ。

 新の光の力と、天翼を自称する部分から恐らくは太陽をモチーフにしているのではないかとファンの間で噂されているが、残念ながら公式から正式な答えは出ていない。

「あの実は、神樹の枝の中でも高い場所にしか実らないんです。大昔に私達の御先祖様が見つけてからというもの、ずっと翼の手入れ油として加工されているんです。タペストリーの美しさを維持するのも、この手入れ油のおかげなんです」

「何だか美味そうにも見えるけどよ、食用にしようとかは思わなかったのか?」

 アルベートがそう疑問を口にした途端、周囲からクスクスと小さな笑い声が聞こえて来た。晶子が目だけで周りを観察すれば、今の会話を聞いていた様子の有翼族達が数人、アルベートの方を見下ろして何事かを囁き合っている。

「……なんでい、知らないから質問しただけじゃねぇか」

 不躾に向けられるそれにアルベート自身も気付いたらしく、彼は拗ねたように腕を頭の後ろで組んだ。

「え、えっと、御先祖様も最初はそのつもりだったらしいんですが……一口齧って、あまりの不味さに悶絶したらしいです。でも、その代わりに別の用途を見つけたのですから、凄いですよね!」

「一口で悶絶するとは、相当の不味さという事であるな……」

「うげぇ……俺様はグルメだから、絶対に食いたくねぇな」

 すかさずフォローに入った弦と鑪により、アルベートの機嫌は少し回復したようだった。しかし、何時までも止まらない嘲笑の声に、いい加減イライラした晶子が口を開く。

「ホンマに弦ちゃんは優しいなぁ。どっかの誰かさんらみたいに、純粋な気持ちで異文化知ろうとしとる客人を馬鹿にしたりせんと、すんなり教えてくれるからありがたいわぁ」

 あくまでにこやかな表情を崩す事無く、わざと声量を大きくして発言すれば、聞き耳を立てていた有翼族達の表情が一変した。

 眉間に皺を寄せ、まなじりを釣り上げて怒りを露わにする有翼族達に向き直り、晶子は更に重ねて言い募る。

「それにしても、神子さん直々に招待した客に向かって、その態度はどないなんやろなぁ? この後、また神子さんに会う予定もあるし、お宅の教育どないなっとんのかって聞いとかなあかんなぁ」

 神子という単語に一斉に青褪めた有翼族達は、大急ぎでその場から去って行く。そんな住人達の後姿を、晶子は鼻で笑いながら見送った。

 実は晶子、根の間でのやり取りから彼らが想像以上に神子へ依存している事を把握し、樹にいる間は『客人』という立場を思う存分利用させてもらおうと決めていたのだ。

(ただでさえ、ここからはストレスマッハな事間違いなしなんだから、これ位の悪態は許されるでしょ)

 神樹編の要となる有翼族の集落では、常にNPC達から監視された状態で過ごす事になる。ゲーム内では同じエリアにいるNPC達が、ずっと主人公の方に視線を向けてくるといった風に表現されており、居心地の悪さはWtRs一番と言われる程だった。

 そもそも、神樹編は全ストーリーの中でも特にプレイヤー間で不評だったシナリオであり、かつてネットの攻略サイトで開催された『出来れば二度とやりたくないシナリオ』ランキングにて、ワースト1に輝いた実績を持っている。

(ストーリーの行き先見失って近くのNPCに話しかけたら、嫌味嫌味嫌味のオンパレード。ちょいちょい馬鹿にしてくるモーションも混ぜてくるし、マジで可能ならこの辺の会話すっ飛ばしたいと何度思ったか……)

 なんて昔の事を思い出しながら、晶子は周囲から向けられる敵意の籠った視線を無視して弦の方へ歩み寄った。

「全く……晶子よ、些か相性が良くない故の行動なのだろうが、軽率に事を荒立てるでない」

「……うん。ごめん、鑪さん」

 鑪から投げかけられたお咎めの言葉に、神樹に来てからずっとピリピリしているのを改めて自覚した晶子。

 良くは無いと思ってはいても、ずっとこちらを見下してくる相手に我慢できず、つい口調がきつくなってしまう。

「弦ちゃんも、勝手に色々言っちゃってごめんね」

「あ、い、ぃえ……私も、皆さんがお客様だとハッキリ言えれば……」

 蚊の鳴くようなか細さで呟いた弦は、ただただ困ったように笑うだけだ。眉が下がっている表情からして申し訳なさを感じてはいるようだが、それよりも諦めに近しい感情を抱いているようだ。

(……もしかして、アイツ等の嘲笑の対象に弦ちゃんも入ってるの?)

 よくよく考えてみれば、翼が色鮮やかな程良いとされる有翼族の中において、弦の翼は最下層に近い濃い灰色。

 村長の娘と言う出自と、新によって選出された陣番という地位が無ければ、彼女は今頃酷い扱いを受けていただろう。

(それどころか、第二の満ちゃんになっていたかも知れない。ほんっと、この一族って罪深過ぎない?)

 彼らにとって、翼とは誇りと種の象徴である。それを考慮したとしても、翼の色で優劣を決め差別する有翼族の在り方には賛同できる筈も無い。

「あ! 弦ねぇちゃん!」

 落ち込み黙り込んでしまった弦を慰めようと手を彷徨わせていると、不意に空から声がかかる。幼さを含んだ声色に顔を上げれば、そこには様々な色の翼を持った十人程の子供達がいた。

 だがよく見れば、その翼は他の大人達と比べても煤けて見え、所々に黒い斑点も浮かんでいる。全体的に見て褪せたような彼らの翼は、お世辞にも鮮やかとは言い難い。

(なぁ晶子。あれって……)

(うん、さっき話してた『黒黴病』の特徴だと思う)

 こっそり話しかけて来たアルベートに肯定を返せば、彼はしゅんと目元のライトを悲し気なものに変化させた。

「おかえり~! 神子様からの御用事は終わったの~?」

「ねぇちゃん! オイラ昨日、一人でタペストリー作れたんだ! 後で見せてあげんね!」

「お姉ちゃん、お腹空いたぁ。ご飯食べに帰ろうよぉ」

「わ、わぁ! ちょっと待って! おねぇちゃん今、お客さんを新様の所に案内しないといけないから……!」

 一方、上空から降りて来た子供達は、我先にと弦へ言葉をかける。手を引いて連れて行こうとされたのに慌てた弦がまだ役目があると答えると、子供達は一斉に晶子達の方を振り向いた。

 綺麗に揃った動作で注目を集める事になった晶子は、少々その勢いに驚いたものの、それを悟らせないよう、精一杯の笑顔を浮かべて見せた。

「は、初めまして。あたしは晶子、こっちのミニゴーレムがアルベートで、背の高いこの人が鑪さんよ」

「おう! よろしくな!」

「……うむ」

 晶子に紹介されて、アルベートはにこやかに挨拶をする。鑪の方はと言うと、自身の見た目を気にしてか、軽く会釈をするだけに留めたようだ。

(てか、有翼族の子供とか初めて見るな。ゲーム内でも出てたのは大人ばっかだったし)

 思い返せば、WtRsのシナリオ中に有翼族の子供を見かけた事は無い。入室出来る家屋に立ち入っても、居るのはこちらを無視しながらも監視してくる大人だけ。

 神樹のどのエリアに行っても、子供達の姿は影も形も無かった。

(うーん、正直、ここの大人が大人だけに、まともな交流は期待出来ないかも……)

 戦士の男や先程の住民達の前例もあって、威嚇でもされるのではないかと若干警戒していた晶子だったが、それは良い意味で裏切られる事になる。

「すっげー!! 人形が喋ってるー!!」

「ねぇねぇ、これどうやって作ったの!? 僕にも作れるかな!?」

「わ、凄く硬い素材で出来てるのねぇ!」

「だぁー!! 俺様は玩具じゃねぇ!!」

 ミニゴーレム自体の存在を知らないのか、子供達はアルベートに興味津々の様子で体のあちこちを触ったり、引っ張ったりして遊び始めた。

 子供の容赦ないお触りには勝てないようで、アルベートは必死に抵抗しているものの、全くもって効果がないようだ。

「こ、こらみんな!!」

「あぁ、だいじょぶだいじょぶ。口ではああ言ってるけど、実際は怒ってる訳でも何でもないから」

「それ俺様の台詞だろ!? なんで晶子が言うんだよ!!」

 おろおろしっぱなしの弦を落ち着かせようとそう言えば、短い腕を子供の塊から突き出しながらアルベートが抗議した。

 もみくちゃにされて哀れに思ったのか、そんなアルベートを助け出したのはずっと傍観の立場を決め込んでいた鑪だった。

 ゆっくりとした動きで子供達の元へ近づいて行った鑪は、中心に埋まるアルベートを持ち上げる。

「た、助かったぜ鑪……」

 息も絶え絶えにアルベートが感謝すれば、鑪は無言で頷きを返した。ふと、子供達が静かな事に気付いた鑪が、彼らに視線を落とすと。

「でっけぇ!! かっけぇ!!」

「おっきぃむしさん!!」

「あたしも、お人形さんみたいに抱っこして!!」

「む!? こ、これ、よじ登るのは危険であるから、やめぬか……!!」

 アルベートに代わって今度は鑪が群がられる始末。体をよじ登りったり、飛び上がって乗ろうとしたりと、やりたい放題でとてもじゃないが手も付けられない。

「……これ、どうしよう」

「ど、どうしましょう、新様の所に行かなければならないのに……」

「それなら大丈夫だと思うよ?」

 弦と顔を見合わせてどうするか頭を悩ませていると、子供達の中でも年長の少年が言った。

「さっき下層から帰ってきたばかりの神子様と会って、伝言を頼まれたんだ。なんでも急務が出来たって言ってて、申し訳ないけれどお客様は僕達の家に泊めてあげてって」

(急務、ねぇ……ちょっとタイミングが良すぎる気もするけど)

 新から託されたという伝言に内心疑いを隠せなかったが、今ここでわざわざそれを指摘する必要は無いかと口を閉ざす。

 何より、少年が新と顔を合わせたと言った途端、周囲にいる大人達の視線が、より一層冷たく鋭いものになったようにも思えた。

(……このまま、ここに長居するのは良くないかも)

「お仕事なら仕方ないね。弦ちゃん達が良いなら、お邪魔させて欲しいけど……」

 どうだろうかと尋ねれば、弦は晶子を見てはにかんだ。

「もちろんです! ぜひとも、我が家へお越しください」

「お泊り!? やったー!」

「一杯あそぼ~!!」

 無邪気に喜ぶ子供達に苦笑を浮かべた晶子達は、こうして弦達が暮らす家へ招かれる事になったのだった。

次回更新は、12/27(金)予定です。

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