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——某日、神樹・天翼族の集落の神座(かむくら)。

——某日、神樹・天翼族の集落の神座(かむくら)


 天高く聳える巨大な樹木の内部を、くり抜くようにして作られた集落の一室。最上部に近しい場所に作られた円形状の広間には、二十人程の翼を持った人々が集まり、膝をついて頭を下げている。

「今年も、神樹に沢山の実りがありました。収穫が終わりましたので、お納めください」

 最前列で頭を下げる灰色の翼の翁がそう言うと、隣に並んでいた同色の翼を持つ少女が進み出て、手にしていた四角い盆に乗せられた果物類を恭しく掲げた。

 供物を捧げられた先には鳥籠を模した椅子が吊り下げられており、純白の翼と長い白髪を持つ男が、微笑みを浮かべて座っていた。

 白と金で彩られた着物のような装束は気品に溢れ、それを身に纏うやや色白な男は、この場にいる誰よりも身分が高い事が見て取れる。

 男は供物の内一つを手に取って、天井に取り付けられた巨大な光石に翳した。色艶を確認して齧りつき、ゆっくり味わいながら咀嚼して飲み込む。口の端から垂れてしまった果汁を舐めとると、男は満足そうに頷いた。

「うん。実に美味だ。今年の物は例年に比べても特に良い出来だね」

「これも全て、貴方様のおかげでございます。まこと、有難い事です」

 声色から伝わって来る男の嬉しそうな声に、翁はやや大袈裟に同意を示す。

「それにしても、本当によろしいのですか? 神にも等しい貴方様への奉納分が、この程度の量なのはあまりにも……」

 不安とも不満とも取れるような事を言いだす翁を、男は一瞬だけ目を細めてジッと見下ろした。

 しかし、次の瞬間には何事も無かったかのように少女へ供物を置いて下がるよう指示し、翁に穏やかな口調で告げた。

「僕が良いと言っているんだ、お前達が気にする必要は無いよ。それに、僕は一族の皆が飢えたり、悲しい思いをするのは嫌なんだ。誰もが幸せに、家族と、恋人と、友人と共に過ごせる場。僕はこの神樹を、そう言う場にしていきたいんだ」

 男の高説に、人々は感動したと言わんばかりの歓声を上げる。一人ひとりに手を振ってみせる男の姿は、慈悲深さに溢れていた。

「さ、残りの恵は皆で分け合うと良い。誰一人、分配抜けが無いように。任せるよ族長」

「ははぁ!」

 族長と呼ばれた灰色の男は平伏せん勢いで頭を下げると、後ろにいた人々を先導して部屋を出て行った。

 最後の一人が退出するのを見送ると、男は柔らかな笑みから一転、恨みを込めた目で扉を睨みつける。

 すると突然、部屋の中にあった清純なマナが、暗く淀んだものへと塗り替えられていく。幾つかの供物は腐り落ち、光石の光は弱々しく点滅。薄暗くなった室内で、男は驚く様子も無く背後へと視線を移した。


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 色濃くなった影が蠢いたかと思うと、耳障りな声が揶揄うように木霊した。

「彼等が慕ってくれているからね、それに応えるのは上に立つ者として当然さ」

 落ち着いた口調で答える男だが、表情は無のままで感情は読み取れない。相反した様子が可笑しいのか影はノイズ音のような笑い声を上げ、男の周りをゆらゆらと漂う。


《濶ッ縺丞屓繧句哨だ縺薙→縲螂エ遲峨r髀悶↓縺励◆縺上※閻ク縺煮縺医¥繧願ソ斐▲縺ヲいるk縺上○縺ォ》


 影の言葉に反応して、男の眉がぴくりと跳ねた。

「……うるさいよ。それより、何しに来たの?」

 そう言って静かに、だが先程と違って嫌悪感を隠しもせず問い返してくる男に、影が愉快だと曖昧な輪郭を震わせる。


《螂ウ逾槭↓逾晉ヲさ繧後◆螂ウ縺後%縺薙∈蜷代°縺」縺ヲき阪※縺翫k縲ょョソ鬘を譫懊◆縺咏ぜ縺ォ縺ッ縲√◎縺ョ螂ウ縺ッ驍ェ鬲斐↓縺ェ繧九◇》


「へぇ、あの女神に使者なんていたんだ。それにしても、わざわざ教えてくれるだなんて一体何を企んでいるんだい?」

 訝し気な男の言葉に、影は無言で返した。しかし、それが答えとでも言うように、男はわざとらしく溜息を吐き出すと、大きく肩を竦めて見せる。

「まあいいや。でもまあ、〆には調度良い得物だし、有難く利用させてもらうとするよ。で、アンタは何が欲しいんだ?」

 男がそう言うと、今まで真っ黒だった影の中に赤い三日月が浮かんだ。


《謌が谺イ縺励>縺ョ縺ッ縲∝・ウ縺ョ豁サ縲ゅ◎縺励※縲の譖エ縺ェ繧句、ア蠅懊h》


 不愉快で不気味な高笑いを上げると、影は音も無く溶けるように姿を消した。淀んだマナが去った事で元の明るさを取り戻した光石が部屋を照らす中、男は忌々しいと舌打ちをする。

「何考えてるのか知らないけど、僕の邪魔は誰にもさせない。この樹に住む奴ら皆、誰一人も逃がさない」

 誰に言うでも無く呟いた男は、綺麗に姿形を保っている果実を一つ持ち上げると、ぐしゃっと握りつぶした。

 指の間から流れ落ちる橙色の果汁が床に落ちた瞬間、毒々しい紫へと変貌するのを眺めながら、男は口元に笑みを浮かべる。

「もうすぐ、もうすぐだよ、姉さん」

 白い頬をほんのり薄紅色に染めながら、男は恍惚とした表情で歌を口遊(くちずさ)むように呟いたのだった。

新章更新開始となります。

次回更新は、11/8(金)予定です。

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