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——晶子達が脱出した直後、地下広間。

——晶子達が脱出した直後、地下広間。



 《潜む者》によって無理矢理に広げられ、ガラガラと崩れ落ちる入口を抜けた未來は、晶子達が逃げ込んだ広間に足を踏み入れる。

 しかし、中央に群がる《潜む者》達の中に晶子達の存在を感じる事は出来ず、僅かに残っていたマナの残滓も、瞬きの間に消え失せてしまった。

「チッ、逃がした……使えない魔物」

 未來は苛立たしく舌打ちをすると、何もない空間から淀みに塗れた一本の剣を取り出し、塊になっている《潜む者》を一閃する。漆黒の蛇達は音も無く悶え苦しみながら、次の瞬間には跡形も無く消え去った。

「……これは」

 視界の端に留まった光に目を向ければ、そこには幾つかの水晶の欠片のような物が転がっている。膝を着いてうち一つを手にとってみたが、それは未來が触れた途端、ボロボロと崩れて砂になってしまった。

「女神のマナ……《潜む者》に向けて放った攻撃の名残か? それにしては脆すぎる。なら、これは何をした後? アイツ等は何処へ行った?」

 ブツブツと暗い目で呟き続ける未來の背後に、《潜む者》とは違う闇が蠢いた。


 《縺オ縺オ縺オ縲???£繧峨l縺ヲ縺励∪縺」縺溘?縺》


「……うるさい」

 頬を撫でる人の手のように象られた闇を振り払い、耳障りな声に未來は顔を顰める。そんな彼女の様子が面白いのか、闇は相も変わらず嘲笑し続けながらも、大人しく手を引っ込めた。

「それより、奴等がどこへ行ったのか、お前は分からないの?」


 《縺輔≠縺ュ?》


 問いかけに闇が肩を竦めるような動きを見せた次の瞬間、未來は無言で剣を振るう。

「うざいんだよ」

 乱れた髪を後ろへ払い、闇を睨みつける未來。しんと静まり返った空間に、自身の呼吸音だけが響く中、もう一度結晶の欠片を観察しようと視線を動かした、次の瞬間。

「ぐっ!?」

 背後の暗闇から巨大な《潜む者》が現れ、未來の腹部に突き刺さる。勢いに負けて地面に転がった未來は蛇を斬ろうとするも、別の方向から飛び出して来た小型の《潜む者》に腕を貫かれ、剣を落としてしまう。

「っ、こ、の……ゴボッ、どけッ!」

 薄い腹を貫通した蛇の頭を抜こうと藻掻く未來だったが、利き腕を使え無くされてはどうする事も出来なかった。残った左手で蛇を掴むが、痛みと傷口から直接侵入してくる淀みの気配にまともに力が入らない。


 《縺ゅ∪繧願ェソ蟄舌↓縺ョ繧九↑繧亥ー丞ィ》


 口から絶えず血を吐き出し意識が朦朧としてくる未來の頭に、ノイズのような声が木霊する。

「ちょう、しになど、のってな、い……」


 《縺雁燕縺後%縺ョ荳悶↓蟄伜惠蜃コ譚・縺ヲ縺?k縺ョ縺ッ縲∬ェー縺ョ縺翫°縺偵□?》


「そ、れは……」


 《謌醍ュ峨?縺翫°縺偵□繧阪≧?》


「…………そう、だ……お前の、おかげ……わかっ、て、いる……」

 口籠る未來の体の下から湧き出す様に、闇が再び姿を見せた。十歳程度の子供くらいの人型を模した闇は、地面に転がる未來の顔を上から覗き込み、気味の悪い声で言葉を紡ぐ。


 《謌醍ュ峨′謇句キョ縺嶺シク縺ケ縺ェ縺代l縺ー縲√♀蜑阪?縺薙%縺ォ蟄伜惠縺吶k莠九b蜃コ譚・縺壹?∬ェー縺ォ繧りェ崎ュ倥&繧後★豸医∴縺ヲ縺?¥縺?縺代□縺」縺溽ュ医□》


「ワ、タシを、存在、させてく、れている、事に、は、感謝し、てい、る……ギィッ!?」

 力なく怯えるように答えた未來は、抉るような腹部の痛みに悲鳴を上げる。ぐちゅぐちゅと内臓をかき混ぜる蛇の頭を慌てて押さえるが、片手ではその動きを制限する事は出来なかった。

「ひっぎ、や、やめっ、ぐぁ、悪かった……アッ、ぐぅ……ワタシが、グギッ、悪かった……から……!!」


 《縺オ縺オ縲∝セ馴??〒邏?逶エ縺ェ蟄舌?螂ス縺阪□繧》


 痛みに呻きながら謝罪を口にすれば、闇は満足したような笑い声を上げて、未來の体から《潜む者》を抜き取った。

「……っ、う、ぅう……おげ、ぇ……」

 淀みを直接体内に注がれ続けていた未來は、全身を虫が這いまわるような感覚に苛まれ、気持ち悪さに血と胃液が混ざった物を吐き出す。

 何とか立ち上がろうと手をついたが、風穴を開けられた腹部と右腕の激痛も相まり、吐瀉物の中に倒れ伏すしかなかった。


 《縺ゅ=縲∝庄諢帙◎縺?↓窶ヲ窶ヲ》


 憐憫を込めた声色で語りかけながら、闇は未來の瞳から流れ落ちた涙を優しく拭き取る。

「ぇぁ……ぐ、ッ……ち、が……ワタ、シは……カワイソ、なんかじゃ……」


 《諤悶′繧峨○縺ヲ縺斐a繧薙?窶ヲ窶ヲ縺願?繧ら李縺九▲縺溘〒縺励g? 縲?螟ァ荳亥、ォ縲∵?遲峨′逶エ縺励※縺ゅ£繧九°繧》


 声の主は先ほどの剣呑な雰囲気が嘘のように優しく未來の顔を撫でると、彼女のぽっかりと開いた腹部の傷に、濁った闇を埋めていく。

 時折、そこだけが個別の生き物として蠢く様子は、さながら内部から侵食する未知の物質によって肉体を改造しているようだった。

「ア、ァ……いたく、ない……なお、る……なお……る」

 虚ろな目から絶えず雫を流し、未來はしきりに治ると譫言を繰り返す。そんな未來の体が闇によって包み込まれると、然程の時間をかける事も無く暗がりの中へと溶けていった。


 《雋エ螂ウ縺ォ縺ッ縲√∪縺?縺セ縺?蜒阪>縺ヲ繧ゅi繧上↑縺?→縺?¢縺ェ縺?s縺?縺九i》


 誰かへ向けた嘲笑を残しながら、声の主もその場から姿を消すのだった。

次回更新は、9/20(金)予定です。

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