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「いい加減にせぇや!!」

※ 誤字と一部文章を修正しました。展開に変更はありません。

※ 改行ミス部分を修正しました。

 俯きながら座り込んでいるスーフェの側に駆け寄り、晶子はその肩に触れる。それに若干顔を歪めているトパシオンを疑問に思うも、気にせず彼女の顔を覗き込めば、嗚咽を零さないように唇を噛みしめていた。

「お姫ちゃん」

「……っ、何が、いけなかったのでしょう……私はただ、またみんなで……家族で一緒に、暮らしたかっただけなのに……お父様と、アメジア兄様と、アラゴ兄様とトパシオン兄様と……私と、アイオラとダイアナ。みんなで、いっしょにっ……!!」

 堪えきれなかった涙が、スーフェの瞳から流れ落ちる。煌めく宝石のような雫を、晶子は何も言わず、静かに拭ってやった。

「家族を想う事が悪い訳ないじゃん」

「でも!! 私達がアメジア兄様の為に出来た事なんて、一つも無かった!! 昏睡状態の兄様を放置して、方法を探すと言っておきながら……結局は、見たくないものから目を背けようとしてただけだったんです!!」

 顔を覆い懺悔するように蹲るスーフェの慟哭の痛ましさに、晶子は一瞬言葉を飲み込んだ。

(……確かに、お姫ちゃんがした事は、現実逃避でしかなかったのかもしれない。それでも、ただ一生懸命に自分の出来る事をしようと走り続けたこの子を、あたしは否定したく無い)

「顔を見せて、お姫ちゃん」

 優しい声に誘導されて顔を上げたスーフェの頬に、そっと手を当てる。

「……さっきね、お兄さんのアメジアさんと話したよ」

「…………アメジア、兄様と?」

 背後で繰り広げられている戦いの騒音にかき消されてしまうかとも思ったが、囁きに近い声量のそれは、たしかにスーフェへ届いたようだ。

「本当に、息子の声が聞こえたのか?」

 酷く驚いた表情で晶子を見るヘリオとアイオラの様子からして、どうやら彼等にも聞えたらしい。晶子は無言で頷き返すと、後ろを振り返りながら続けた。

「ダイアナさんを暴走させたのは自分のせいだって、凄く悔やんでた。自分のせいで沢山の無辜の命が犠牲になって、家族まで危険に晒してって」

「そんな……兄様は、兄様は悪くありません!! 悪いの、は……」

 再び顔を俯け、兄は悪くないと繰り返すスーフェ。あまりにも強く否定するので、これは過去の事と何か関係があるのだなとあたりを付ける。

「あれは……アメジアがスーフェの誕生祝に剣を贈った日の事だ」

 スーフェの肩を撫でながらヘリオの事を見れば、彼は一度悲し気に目を伏せて遠い日の事を語りだした。

「その日、興奮が冷めず中々寝付けなかったスーフェは自室で、剣を愛でていた。日も跨いで少しした頃、部屋に当時のメイド長が訪ねて来たのだ。何事かとスーフェが扉を開けた途端、隠し持っていた剣で襲い掛かったのだ」

 そのメイド長は昔から皇帝一族に仕えている人物だったらしく、スーフェが幼い頃は家庭教師として礼儀作法などを教えてくれたのだとか。

「彼の者は母を亡くして悲しむ兄妹達を良く支えてくれた、とても素晴らしいマダムであった」

「じゃあなんで、そんな人がお姫ちゃんを?」

「……分からぬのだ」

 そんな人物がなぜスーフェを襲ったのか、ヘリオ達一家だけでなく、その頃に城に勤めていた全ての人々が皆目見当もつかなかったという。

「分からないって……その時に聞かなかったの?」

「騒ぎを聞きつけて我が家臣達と共に駆けつけた時には、全てが手遅れであった」

 ヘリオが目にしたのは、血塗れになった部屋と、その中央でアメジアの剣が突き刺さった原形を留めていない肉塊だった。

「あまりの惨状に余は言葉も出なかった。だが、部屋の奥にスーフェを抱えて倒れているアメジアを見つけ、止めに入る家臣も押しのけて駆け寄っていた。幸いな事に、二人に怪我をした様子は無かったが……」

「それきり、アメジアさんは目覚めなかったんだね」

「アメジア兄様は、私を庇って……!! あの時、ああなるのは、本当は私の筈だったのに!!」

 床に敷かれたベルベットの絨毯を握り締めて、吐き出すようにスーフェは号哭する。

「あの時、メイド長に命を狙われて、兄様から頂いた剣で必死に抵抗しました。けれど、メイド長は武器を持った事は無いと言っていたのに、押し負けてしまって……。出入口を塞がれてしまったせいで、部屋の中を逃げ惑うしかなかったんです」

 恐怖と困惑で声も上げられない中、いの一番に異変を察知して来てくれたのがアメジアだった。

「アメジア兄様が私を庇いながらメイド長に斬りかかって間もなく、急にメイド長の体がぶくぶくと膨れ上がって……」

「バンッて訳か……年頃の娘にゃあ、ちっとキツイ場面だな」

 アルベートが苦々しい声でスーフェの背中を優しく擦る。晶子もその場面を思わず想像してしまって、あまりの悍ましさに鳥肌がたった。

「それで、それでっ……兄様はっ、メイドちょ、の体液を、全身に浴びてしまって、その時に何か……真っ黒な、靄のようなも、のも、一緒に吸い込んでしまってっ」

「お姫ちゃん、もう良いよ。深呼吸して、落ち着こう」

 過呼吸気味になり始めたスーフェを落ち着かせる為、一緒に深呼吸を繰り返す。何とか落ち着きを取り戻したスーフェだが、その目は何処か虚ろで、今にも折れてしまいそうな程に弱々しい。

(にしても、黒い靄……まさか、淀み? ってなると、アメジアさんが昏睡状態になった事も、ダイアナが凶行に走るに至ったのも全部、淀みの精霊が裏で糸を引いてたって事になるな……)

 嫌な推測が立ってしまい、頭を抱えたくなった。もしその考えが正解だとすれば、淀みの精霊が伸ばす魔の手は、思っている以上に世界に根深く浸食しているという事だろう。

「当時は国中で疫病が流行っていて、僕とダイアナは帝都から離れた村へ治療に向かっていたんです。知らせを聞いて飛んで帰ったのですが、すでに全て終わった後でした……」

 ヘリオの治療を続けていたアイオラが、悔しそうにそう言った。

(アイオラ君はお姫ちゃんの御付きとして、今でも責任を感じているのかもしれない。自分が守らなければいけなかったのにって。もしかしたら、ダイアナさんも……いや、悠長に考えてる場合じゃない。とにかく今は、現状を乗り切らないと)

「お姫ちゃん、あのね」

「ぐあっ!?」

「アラゴ!」

「アラゴ兄さん!」

「アラゴ様!」

 スーフェに声をかけようとしたその時、怪物と戦っていたアラゴが晶子の真横に飛んできた。

「すまぬ! 思いの外手強い故、援護にまでは手が回らず已む無くそちらに放り投げた!」

「分かった! こっちで保護しとくから、もう少しだけそいつの相手してて! それと、アラゴさんは特に大きな負傷は無さそう!!」

「承知した! 無事であるなら何よりである!」

 ダイアモンドの剣と鍔迫り合いをする鑪に晶子が叫ぶと、彼はアラゴを追撃しようとする怪物を押し返す。

 だが、相手の装甲が硬いせいもあってか、剣豪と名高い鑪も苦戦を強いられているようだった。

(あんまり時間はかけられない。早くお姫ちゃんに武器を渡さないと)

「ぐっ、俺は平気です。トパシオンも、攻撃の手を緩めるな!」

「はい!」

 そんな事を考えていた晶子の隣で、傷だらけのアラゴが呻きながら弟に呼びかける。兄からの指示に従いすぐに詠唱に戻ったトパシオンを見て、アラゴはまた怪物へと向かって行こうとした。

 それを引き留めたヘリオがアイオラに、アラゴを癒すように言うのだが、当の本人がそれを拒否する。

「しかし、アラゴ様もかなり傷ついておられます。せめて、少しだけでも治療を」

「ふんっ、この程度、どうという事は無い!」 

「えぇ……満身創痍なんだから、ちゃんと治してもらいなよ」

「五月蠅い!!」

 立ち上がろうとするのを留めようと手を伸ばした晶子だったが、アラゴはそれを力いっぱい叩き落とす。

「貴様! 先程、女神の使者を名乗っていただろう!!」

「……それが?」

 こちらを睨みつけてくるアラゴに面倒くさい事態になりそうだと思いながら、簡潔に答える。

「ふんっ、悪名高い創世の女神の使者からの言葉など、聞くに(あたい)せん! 一体何を考えている!?」

「とっても心外なのですが? あたしは君達と敵対するつもりは無いし、目的に関してはさっきも言ったけど?」

「幸せにする、だと? 貴様のような正体の分からぬ女に、何故そんな事を言われなければならん!! 貴様なんぞに手を借りずとも、俺達の幸せは俺達が決める! 女神の使者の手を借りるなど誰がするものか!!」

 どうやら晶子の言い方が癪に触ったらしく、立ち上がったアラゴは剣の切っ先を突きつけてそう言い切った。

「あ、アラゴ兄様! 晶子お姉様達は、決してそのような」

「お前は黙っていろスーフェ!」

 何とか声を振り絞って晶子達を庇おうとしてくれたスーフェだったが、そんな彼女の言葉を、アラゴは強い語気で遮る。

 傷心している妹に対するあんまりな言い方に、晶子の蟀谷(こめかみ)がぴくりと動いた。

「圧倒的な力を持って人々を支配し、己の管理下に置こうとした女神の事だ。混乱に包まれた今なら、帝国を落とすのも容易いと考えたのだろう? ゴーレムはその為の装置か? だが残念だったな! そんな事は、このアラゴ・ウィス・ディグスターがさせん!!」

 威嚇するように低く唸るアラゴから、晶子は目を離さない。大切な家族を害され、母国を滅茶苦茶にされている中に現れた怪しい女。しかも悪名高い女神の使いとなれば、何も知らない彼らが危険視し、強い警戒心を抱くのは至極最もな事だとは思う。

(うんまあね、確かに女神は歴史の上では人々を苦しめた悪神って言われてるよ? でもさ、だからと言って、あたしがここまで言われるのって、それこそ筋違いじゃない??)

 が、内心は一方的に決め付けられ、ドヤ顔でカッコつけるアラゴに対し、沸々とした怒りを募らせていた。

(いやいや落ち着け。うん、落ち着けあたし。今ここで言い合いしてても意味ないし、とにかくなんとか協力してもらわないと)

「ぼくも、アラゴ兄さんと同意見です」

 怒りを何とか抑えながら、努めてにこやかに話しかけようとした晶子。しかし、それよりも早くトパシオンがアラゴの言葉に同意を示してしまう。

「かつて人々を苦しめた女神に遣わされた人なんて、怪しさ満点です。スーフェもアイオラも、きっと騙されてるんだよ。いい加減目を覚まして!」

「おいおい、話も聞かないうちからひっでぇ事言いやがる。今はそんな事言ってる場合じゃねぇーだろうに。ここは協力して、怪物倒すのが先だろうよ」

 呆れたように言うアルベートに、トパシオンは強気な態度で言った。

「そんな人と協力するくらいなら、ここで怪物に殺される方がマシです!!」

「いい加減にせぇや!!」

 王の間の空気をビリビリと震わせる怒声に、アラゴとトパシオンのみならず、怪物含めその場にいる全ての者が固まった。

「これ、持っとって」

「アッハイ」

 戦闘中も降ろさなかった鞄をアルベートに差し出すと、彼は若干上擦った声で受け取った。さっと確認した晶子は、スーフェと会話する為に床に寝かせていた薙刀を器用に足で持ち上げて肩に担ぐと、ずっと自分を追いかけてくる剣の切っ先を握った。

「な!?」

「ぎゃーぎゃー言い訳ばっかしよってからに、なっさけないやっちゃのぉ」

「っ、女神の下僕如きが俺達を侮辱するのか!!」

「さっきから鑪さんに援護してもらって(たたこ)うてるわりに、なんのダメージも与えられてへん癖に、プライドだけはいっちょ前かいな」

 尚も吠えるアラゴにギロッと睨みを利かせれば、そのあまりの鋭さとキツイ言葉に怯んで口を噤んだ。

「オメェもよぉ、明らかに土属性魔法が効いとらんって分かっとる筈やろ? なんで馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか使わんのや? まさか、それしか使われへんとか言わんよな?」

「そ、それは……」

(当たっとんのかーい!)

 図星だったのかと思わずヘリオを見たが、彼はだから言ったのにと言いたげな様子で天を仰いでいた。

(土の魔法だけしか習得せんかったんか、はたまた出来ひんかったんか……まあええわ)

「女神の使者だから協力しないぃ?? 上等じゃい!! 協力せんで結構!! 強大な敵を前にして使えるもん使わんで逃げに徹してるアホは黙って後ろおれ!! 頭フル回転させて必死こいて戦ってる戦士(もん)の邪魔じゃ!!」

 そう言って、晶子は握った剣ごとアラゴを引き寄せると、足払いをかけてスーフェの隣に転ばせた。

「ぐっ! こ、このぉ……!」

「あ”ぁ”ん?」

 顔面を強打したらしい彼から抗議の声が上がるも、低い声で問い返せばスッと目を逸らされる。

 噛みついて来る割に凄めば勢いを無くすアラゴを見て、晶子は力の籠った舌打ちをしながら、アルベートに鞄の中から青い液体の入った小瓶を取り出させる。

 渡された瓶のコルクを口で開けて中身をアラゴの頭から被せれば、彼の体の傷があっという間に消え去った。

「は、はぁ!?」

「えぇ……飲まずに傷が癒えるポーションって、高品質過ぎませんか……?」

「お褒めの言葉として受け取っとくわ」

 一瞬にして負傷が消えた事に顔を引き攣らせるアイオラの言葉からして、この世界のポーションは服薬するのが通常らしい。

 また一つ新たな異世界常識を知れたと内心喜びながらウィンクを返し、呆然とするアラゴとヘリオ、トパシオンを見る。

「アルベート、ポーションまだ何本か入っとるし、弟の方もこっちやるからぶっかけといて。あとお姫ちゃんとヘリオさんにも。数はそんなにないけど、アイオラ君と協力して上手くやって」

「はいよ!」

 了解の意を示して親指を立てたアルベートを確認し、晶子は真っ直ぐに怪物へと向かって行く。

 獲物が自ら歩いてきたと言わんばかりに、怪物は体を捩るとバネのような瞬発力で一気に距離を詰めた。

「晶子!」

 危ないと鑪が足を踏み出したのとほぼ同時。

「鬱陶しいんじゃボケ!!」

 間近に迫った怪物の顔面に、晶子の左ストレートが炸裂した。渾身の力が込められた拳を受けた怪物は、物凄い勢いで吹っ飛んで行き、王の間の入口に近い壁にぶつかると瓦礫の下敷きなって動かなくなる。

「ひぇ~……女の怒りはこえぇ」

「そこ! アルベート! うっさいで!!」

 ぼそぼそと聞こえてくる声に指摘すれば、アルベートは「へいへい黙ります」と言わんばかりに肩を竦めた。

「しょうみ、アンタ等があたしを信じられんとかどーでもええわ!! 出会って大した時間も経っとらん奴等に信頼されたかて、逆に気持ちわるぅてしゃあないわ!!」

「そ、れはそれでどうなんだ……?」

「でもな!!」

 あんまりな言い方をする晶子に困惑するアラゴを無視して、晶子は同じく困惑しておろおろするトパシオンに近寄ると、その胸倉を掴んだ。

「うっ、何するんです!?」

「自分の大切なもん守るために命かける妹の前で、殺される方がマシとかクッソみたいな事は言うな!!」

「っ!!」

 晶子の口から吐き出された言葉に、トパシオンはハッとした表情を浮かべる。何も言わなくなったトパシオンをスーフェ達の方へ放り投げると、晶子は担いでいた薙刀を構えながら部屋の中央で瓦礫の山を注視していた鑪の隣に立つ。

「大丈夫?」

「ふ、この程度で根を上げる我では無い」

「さっすが鑪さん! 頼りになる最推しだね~!!」

 おちゃらけた態度でそんな事を言い合っていれば、ガラガラと瓦礫が崩れ出し、下敷きになっていた怪物が怒りの咆哮を上げながら起き上がった。

「お姫ちゃん! アルベートに渡した鞄の中身、受け取って!」

「え?」

 素早い連続斬りを受け流して叫べば、スーフェは一瞬キョトンとしたものの、アルベートに差し出された鞄を慌てて開く。

「これは……」

「あたしからお姫ちゃんへのプレゼント!」

 時折、鑪と位置を入れ替えながら舞い踊るように怪物と交戦を続けている晶子が、無邪気な笑顔で告げた。

「剣の才能が無いから何さ、お姫ちゃんにはお姫ちゃんにしか出来ない事が必ずある! それは、その為の一歩を踏み出す靴の代わり!」

「一歩を、踏み出す為の靴……」

 晶子の言葉を繰り返しながらスーフェが鞄から取り出したのは、一対の手甲だ。

 乳白色の中に赤い線状紋が散りばめられた手甲は、それぞれの手の甲にスフェーン宝石が飾り付けられている。

「これは、トロベール白金の手甲か?」

「そ! 地下でダイアナさんと交戦した時に、砕けちゃったお姫ちゃんの剣で作ったの!」

 刺閃・麗花を放ちながら晶子がそう言えば、スーフェは驚いたように顔を上げた。

「尊敬してる大好きなお兄ちゃんの役に立ちたい、そう思う事は何も悪くないよ。でもね、だからと言って、無理に形を決める必要は無いと思うの。さっきも言ったけど、お姫ちゃんはお姫ちゃんらしい方法で、お兄ちゃんを支えれば良いのよ」

 スーフェは驚きに固まったまま、じっと手元の手甲を眺める。そんな彼女の手を、ヘリオが優しく握った。

「お父様……私」

「お前の望むままに往けば良い。例え、その手に握るのが剣で無くとも、共に生きる道に違いは無いのだから」

 穏やかに笑むヘリオに、スーフェは一拍遅れて微笑みを返す。そして、アルベートに教わりながら手甲を装備すると、数回拳を握り締めて感覚を確かめた。

「凄い、とても軽くて手に馴染むのに、何だか力が沸いてくる気がします」

「多分だけど、その手甲の元になってるお前の剣には、兄ちゃんの祈りが込められてたからじゃねーか? お前をどんな危機からも守ってくれるようにって。そう考えたら、あそこで砕けたのもあながち悪い事じゃ無かったのかもな」

(確かに。特別な加護があるとかは感じなかったけど、誰かの為の祈りってのは、とっても強い(まじな)いになるからねぇ)

 聞こえてくるアルベートの話に、晶子もうんうんと同意を示す。その間にも、怪物は素早い動きで攻撃を仕掛けてくるが、それを鑪と共に押しとどめ、斬閃・散華をお返しした。

「……私も、共に戦います!」

「スーフェ!? 危険だ! そんな間合いの短い手甲でなど!!」

 涙を拭ったスーフェをアラゴが止めようとする。トパシオンも心配そうな顔で、スーフェの手をとった。

「でも、お姉様が私にこの武器を託してくれた事に、何か意味があるはずなのです。お姉様は、決して意味のない事はしません」

(いやそーでも無いだろ!? 普段から推しが推しが~って暴走気味で、むしろ意味不明な事ばっか言って無いか??)

(おだまり!)

 脳内に直接語り掛けてくるアルベートにツッコんだ晶子は、不安と猜疑を込めた目でこちらを見る二人の兄に、突きつけるように薙刀を向ける。

「オメェ等のその手の剣は飾りか?? 違うだろーが!! アラゴ! テメェが持つその剣は!! あんたが愛してる国を、家族を守るための武器じゃないんか!? トパシオン! アンタが握ってるその細剣はっ、大切な者を護り抜く為にあるんちゃうんか!?」

「だ、だったらなんだと言うのだ!!」

「危険だなんだと宣うんやったら、オメェ等が守ればええやろが!!」

 うだうだうじうじと煮え切らない態度のアラゴ達が苛立たしく、晶子は迫ってきた怪物の腹にマナを纏った蹴りをお見舞いすると、後ろに吹っ飛んだ怪物を無視して一喝した。

 年若い娘が繰り出したとは思えない威力にアラゴ達はドン引きしつつ、彼らは互いに顔を見合わせて、何かを決意した表情で晶子を見る。

「……女神の使者に言われて行動を起こすのは癪だが、貴様が言う事も最もだ」

「僕達はスーフェの兄、妹を、家族を守るのは当然だよね」

「ならば、父たる余が剣を取らぬわけにはいかんな」

 そう言って立ち上がったヘリオが、アイオラから大剣を受け取った。身の丈程のそれを軽々と持ち上げた皇帝は、一人ひとり子供達の顔を見回すと、最後に晶子に視線を合わせる。

「我等ディグスター、輝石の帝国を守護する者なり!」

「上等!! 共同戦線や!!」

 勝気に笑った晶子の言葉を皮切りに、体勢を整える怪物へ向かってスーフェ達兄妹が地を蹴った。

次回更新は、8/9(金)予定です。

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