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「……眠れん」

通信障害の関係で投稿が上手くいってませんでした。

予定時刻より大幅に遅れてしまい申し訳ありません。

「中へ()れられないとは、一体どう言う事です!?」

 門番を問い質すスーフェの怒鳴り声が、城門前に木霊した。

 あれから無事に入場を済ませた晶子達は、休息をするよりも先にとスーフェの案内によって、帝都の中心にあるディグスター城へ。

 深い堀と鑪よりも背の高い鉄柵に囲われた城は、常に二人の門番によって守られている。現在はその門番達により、足止めを食らっている真っ最中だった。

(こんなイベント知らないな……どうするのが正解なのか対応に困る。下手な事して変に警戒されてもだし……とりあえず、よっぽどな事が無い限りは様子見しておこう……)

 女神から力を託されているとはいえ、晶子自身はあくまで現代で見聞き・体験したゲームの情報を元に行動をしているに過ぎない。

 不用意にちゃちゃを入れてしまう事で、最悪な状況を引き起こしかねないと、流れに身を任せることに。

「これは皇帝陛下からの御命令です。例え身内であろうと、何者も通すなと」

「その理由は何なのですか! 何の説明も無いままでは、僕達も納得出来ません!!」

(少なくともお姫ちゃんとアイオラ君にとって、門番から入城を拒否されるのは予想外だったみたいね)

 命令だからと一行の入城を許さない門番に、スーフェ達はまだ抗議を続けている。

「我々も、スーフェ様とアイオラ様が御帰還されたのは嬉しい事であります。しかし、皇帝陛下からの命です。どうぞお引き取りを」

「……っ、どうして……! せめて、お父様と話をさせてください!!」

 嘘偽りなく告げる門番にスーフェがそう縋りつくも、彼らは首を縦に振る事は無かった。

「『例え城下でモンモル―肉の串焼きを買って来たとしても、城には入れるな』と」

「モ、ンモル―……?」

 門番の口から出て来た言葉に引っ掛かりを覚えたのか、急にスーフェが静かになる。何かを考え始めた彼女を見て、晶子はここに長居しても仕方が無いと、来た道を引き返す事になった。

「とりあえず……どうする?」

「まずは、帝都一番の宿屋へ向かいましょう。一先ずはそこで、今後の話し合いをするべきです」

 歩きながら問いかけた晶子に、アイオラは城下の中でも一等目立つ建物を指し示す。

 王城の真ん前に建設された十階建ての豪邸は、暗くなり始めた町を照らす光石の街灯により、白煉瓦で出来た外壁を神秘的に輝かせていた。

(て、帝国最高峰ホテルじゃないですか~~~~~!! え、あそこマジで泊まれるの!? うれし~~~~!!)

 現代で言う最高級ホテルに泊まれるとなって、晶子のテンションは一気に高くなる。余程嬉しそうなのが顔に出ていたのか、アイオラもこちらを見て微笑ましそうにしていた。

「……あそこ、かなりの値段するとこじゃねぇか?」

「帝国で最も高貴な宿場であるからな」

「お金はだいじょ~ぶ!! あたし、これでもお金持ちだから!!」

 そう言って、得意げに胸を張る。実は晶子、ハウスを出てくる前に諸々チェックをしていたのだ。そこで判明したのが、ゲームをしていた頃の所持金等がそのまま引き継がれているという事だった。

(かなりやり込んでたからね~。お金はカンスト間近、消耗品類もほとんど上限近くあったし、貴重な素材系なんかもタンマリ。うん、流石あたし!!)

 長年遊びつくしただけはあり、一生遊んで暮らしていけるだけの財を築いていた今の晶子には、高級ホテルの宿泊代を出すくらい余裕なのである。

「でもよぉ……こういうホテルってのは、大抵は王侯貴族様方御用達なんだろ? だったら所持金云々よりも、まずは身元の保証がされてねぇとダメなんじゃねぇのか??」

(あああああああそらそうだわあそこ高級ホテル!!)

 鼻高々に宣言した晶子だったが、アルベートの一言によって膝から崩れ落ちた。

 アルベートが言っていたように、この帝国一高級なホテルは、ゲーム内だと他国の貴族や名のある商人が良く利用するという設定がされている。

 これを知った当初は世界観を保つ裏設定程度にしか認識していなかったが、まさかここで回収してしまうとはと、膝から崩れ落ちてしまった。

(鑪さんならワンチャンあるかもだけど、あたしもアルベートも一介の冒険者でしかないんだからそらこんなとこ泊まれないよね~~~~~~!! うっそだろこんな事ってあるぅ!?)

 当然ながら、晶子は異世界人なのでこの世界における戸籍のようなものは無く、アルベートに至ってはそもそも人で無くなっている。

 憧れのホテルに泊まれないと気分が地の底まで落ちた晶子だったが、その肩をアイオラが優しく叩いた。

「安心してください。あそこの御主人とは昔からの知り合いでして、皆様の身元は僕とスーフェ様が保証しますから」

「神様仏様アイオラ様!! ほんっとにありがとうございます!!」

 がばっと勢い良く顔を上げた晶子は、目の前にいたアイオラを拝む。彼は一瞬驚いて目を丸くしていたが、すぐに困ったようにはにかんだ。

「アイオラ……お前、晶子の奇行に慣れ始めて無いか?」

「そ、んな事は……無いと……」

「ちょっとそれどういう意味??」

 遺憾だとアルベートを睨みつければ、すっと顔を背けられてしまう。それにムカついて今にも手が出そうだった晶子だが、鑪に諫められてそっと握り拳を下ろした。

「スーフェ様、ホテルに向かいましょう」

「……」

 アイオラがそう声をかけるも、未だ思考の海を漂っている様子のスーフェから答えは返ってこない。

 仕方が無いとアイオラに先導を頼んだ晶子が、スーフェの背中を押しながらホテルへと向かった。

 然程の距離も無かったので、それほどの時間もかからずホテルに辿り着いた一行。アイオラからの口利きもあって、無事に部屋を借りる事が出来た。

「部屋もそれぞれに個室を用意してくれて、おまけにご飯もスーフェちゃん達と同じ物を食べれるとか……いや、至れり尽くせりでは?」

「これくらいは当然ですよ。さ、冷めない内に食べてください。このホテルの料理は、どれも絶品ですので」

 あまりに丁重なもてなしを受けて、興奮よりも困惑が勝ってしまう晶子。珍しく動揺している姿が面白いらしく、アイオラがくすくすと笑いながら料理を勧めてきた。

 何とも言えない気持ちになりつつも、目の前に並べられた数々の異世界料理に、落ち着いて来ていた晶子のテンションが再び上がっていく。

(うひょ~~~!! 画面越しに見た事のある料理ばっかり!! これも、あれも……どれも美味しそう~!!)

 きらきらと黄金色に輝くタレが塗られた肉料理や、彩り鮮やかな野菜のサラダ、現実世界でいう所の鯛のような魚を使った煮付け料理に、ハムや香味野菜を何層にも重ねたバケットサンド等、そのどれからも良い香りが漂ってくる。

 晶子はさっそくとばかりに両手を合わせ、いただきますと手近な料理に手を付け始めた。

「んん~~~~~~うんまぁ~~~!!」

 口に入れた瞬間から蕩けてしまう肉の柔らかさと、ほんのり甘じょっぱいゴールデンソースに、落っこちそうな頬を押さえて舌鼓を打った。

「っかぁ~!! 羨ましい限りだなオイ!!」

 幸せそうに食べ進める晶子を見て、ゴーレムの体となって食事を必要としなくなったアルベートが不満気な声を出す。

「羨ましかろ? アルベートも食べれば良いのに~」

「ムキィ~~~~~!! お前、だんだん嫌な奴になって来てんぞ!!」

 悔しそうなアルベートに見せつけるように食事をする晶子は、ふと、アイオラと鑪がじっとこちらを見ているのに気が付いた。

「どしたの、二人共?」

「あ、いえ。先程、晶子様が言った言葉が気になって」

「あたしの?」

「いただきます、とはなんだ?」

 首をちょこんと傾げる鑪にキュンとしながら、晶子はこの世界には無いのかと軽いカルチャーショックのようなものを受ける。

「いただきますって言うのは、あたしの故郷での食事前とかに言う挨拶かな。あたし達の前に運ばれてくる料理って、沢山の人のおかげで作られてるでしょ? そう言った人達と、後は食材になった動植物の命に対する感謝の言葉なんだ」

(……簡単に言ったつもりだけど、伝わったかな?)

 あまり説明したりしない事なので不安になるも、アイオラ達は納得したように感心を見せていた。

「なるほど……素晴らしい文化ですね!」

「我々も見習わせて貰おう。作法はどうするのだ?」

「あ、はい。両手をこう合わせて、いただきますって言うだけよ」

 作法などと堅苦しい言い方をされて少しぎこちなくなってしまったが、晶子の見せた手本に合わせ、二人も同じ文言を唱える。

 そうしてようやく食事を始めたアイオラ達を見つつ、晶子はさっそくとばかりに本題を切り出した。

「これからどうしようか」

「僕は明日、スーフェ様と共にもう一度城へ向かうつもりです。このまま引き下がる訳にはいきません」

 手にしたカトラリーをぐっと握り締めて、アイオラが答える。

「うーん……あの門番達の様子だと、答えは分かり切ってるような気もするけど……」

「姫君も、あれからずっと物思いに耽って心ここに在らず状態になっておる。不用意に連れ回すのは、いくら皇帝のお膝元である帝都であろうと危険では無いか?」

 忠実に職務を全うせんとする門番達の態度を思い出していた晶子の言葉に次いで、鑪がスーフェに目を向けた。

 食事の手は動かしているようだが、鑪が言っていたようにどこかぼんやりとしていて、必死に何かを思い出そうとしてるようだった。

「……それでも、皇帝陛下にお会いするには、門番達を説得して正面から入る以外にありませんから」

 ディグスター帝国の王城には、正門以外で出入り口は存在しない。そのため、内部に入り込むには、必ずあの門番達がいる場所を通り抜けねばならないのだ。

「この状態のスーフェ様を連れて行くのは、確かに不安な所もありますが……一人には出来ませんので。僕達が門番を説得している間、皆様はこの国を観光されては如何でしょう?」

(ゲーム画面で見て来た街並みを生で体験できる貴重なチャンス!!)

 そんな場合では無いと分かっていても、かなり魅力的な提案に晶子の心が揺らぐ。正直に言ってしまえば、手詰まり感もあってする事が無いのが現状だった。

 その後も話し合いを続けるも、結局アイオラ達が再び門番達に会いに行くと言う事だけが決まり、後はその結果待ちという事になる。

 今日は旅の疲れを癒そうと、各々に宛がわれた部屋に戻ったのだが。

「……眠れん」

 先行き不安な気持ちがあるせいか、最上級のベッドに横になっても一向に眠気が来ない。何度か寝返りを打ってみるも、頭の中にはモヤモヤが募っていくばかりだった。

(焦ってもしょうがない。けど、こうしてる間に、事態がどんどん悪い方に転がっていったらどうしよう……)

 瞼を閉じると浮かんでくるのは、何度も見て来た帝国の未来。一人ぼっちの姫君と、辛うじてそれを支える唯一の存在になった宝石の彼。

(……いや、待てよ……。このゲームに良く似た現実において、あれが最悪の結末だなんて決め付けて良いの?)

 不意に、晶子の心にそんな疑問が沸き上がる。ここに来るまで、あのシナリオの結末こそがこの帝国編におけるもっとも最悪なものだと思っていた。だが、果たしてそうなのか?

 ここは現実だ。決して晶子の知るゲームの世界では無い。似た部分、同じ人物はいれど、完全に一致するものなどほんの一握りしかないのだ。

 もし、『あの結末以上に最悪な事』があるのだとしたら……?

「——ッ!!」

 脳裏をかすめた想像に、叫び声を上げそうになった口を震える両手で押さえつける。激しく脈打つ心臓を落ち着かせようと、深呼吸を繰り返した。

(っ、ありえない、なんて、言えない。言える訳無い……だって、ここは現実だから。全部が全部、ゲームの中で起きた事が再現される訳じゃない。アルベートが死んだのだって……)

 ダリルの腕の中で死に絶えた姿が、フラッシュバックする。

(そうよ、この世界じゃ絶対なんてありえない。いつまで観光気分でいるつもりなんだあたし……!)

 アルベートの死を受けて、世界と向き合った気になっていた。愛する住人達を救う為、女神に選ばれし再編者(リジェネーター)として戦う決意も、あの夢の世界で事情を聞いた時にしている。

 けれどもし、強大なその力を得てしても、何も変える事が出来なかったら。誰も救う事も出来ず、それどころか、もっと悪い事が起きてしまったら。

(……駄目だ、ネガティブな気持ちが消えない)

 一度考え始めると、まるで憑りつかれたかのように悪い想像しか出来なくなる。晶子は気持ちを切り替えようと、ベッドに近い位置にある窓を開いた。

 カルデラ湖の中心にあるからか、部屋に優しく吹き込んでくる夜風は少しばかりひんやりとしている。

 程良い心地よさに身を任せていた晶子は、正面に見える王城を見上げた。

(はぁ~……ゲームのグラフィックも良かったけど、やっぱ生で見るお城は迫力が違う。何より、実物の方が綺麗)

 三階にある部屋からは城の全景が良く見え、スポットライトのように照らす満月の下、純白に輝くディグスター城に目を奪われる。冷たい風と美しい光景に大分気分は良くなったが、心のもやもやは消えてくれない。

 胸の内から悪いモノを出すように深い溜息を吐いた晶子は、何気なく見上げ続けていた城の上部に明かりが点いたままの部屋を見つける。

 そこは城の中でも比較的高い位置に存在し、開け放たれたままのテラス窓からは、真っ赤なカーテンが揺らめいていた。

(こんな夜中にまだ起きてる人がいるんだ……ん? 待てよ?)

 ぼうっと眺めていた晶子の脳裏に、ある図解が浮かぶ。それは、現実世界の有志によって製作され、某掲示板に掲載されたディグスター城の見取り図だった。

 プレイヤーが立ち入れるエリアのみで無く、外観やイベントシーンを元に類推された各階層や部屋も描かれていて、とある雑誌の製作者インタビューにおいて『完璧に描かれていてリークを疑った』と言わしめる程の代物である。

 公式にそこまで言わせるとはどんなものかと見に行った事があったが、あまりにも本格的過ぎて、流石の晶子もちょっと引いたくらいだった。

(いや、それは置いといて。あの見取り図がこの世界にも適応されてるとしたら……あそこ、皇帝の私室じゃね??)

 皇帝の私室は、ゲーム中プレイヤーが干渉しない会話イベントで一度だけ見る事が出来る幻の部屋だ。貴重な情報がある訳では無いが、皇帝が死を迎える重要な場所でもある。

 しばらく呆然としていた晶子だったが、手早く寝巻から着替えると、他の人を起こさないよう窓からこっそりと外へ出た。

「おやおや、こんな真夜中にお散歩ですかなお嬢さん」

「ピョッ!?」

 出来る限り音を立てないよう、慎重に地面へ降り立った晶子は、突然かけられた言葉に驚き変な悲鳴を上げてしまう。

 咄嗟に口を押さえながら声の聞こえて来た方を見上げれば、晶子の隣の部屋、そのテラスの手すりの上で仁王立ちをするアルベートがいた。

「ふっ、お前が何をしようとしてるのか、この俺様には全てお見通しなんだぜお嬢さん」

「キャラ可笑しくない? あとその喋り方やめて、鳥肌が凄い」

「ひどくね?? そんな事より、こんな時間に何してんだ?」

「……ナ、ナンデモナイヨー……」

「誤魔化し方へたくそか?」

 明後日の方向を見ながら小声で返す晶子に、彼が呆れたと言いたげに溜息を吐いた。

「皇帝んとこ行くんだろ? しゃーねーから、俺様もついて行ってやるよ」

 そう言ったアルベートは、こちらが何か言う暇も与えずテラスから飛び出すと、綺麗に晶子の上に着地した。

「うぐっ!? い、きなりはやめて……」

「細かい事は気にすんなって! それより、いざ皇帝の元へ!」

「え待って、これあたしがアルベート運ぶの?」

「あ、運搬よろしくな!!」

 肩車のような形で上に乗るアルベートの言葉に何か腑に落ちないと感じながらも、晶子は言われた通りに皇帝の私室へと向かうのだった。

次回更新は、5/31(金)予定です。

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