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「アイオラ君だけ行かせちゃったけど、良いの?」

※ 一部誤字などを修正しました。ストーリーに変更はありません。

 鑪を村の外に残し、村内に足を踏み入れた晶子一行。活気とはまた違った意味でざわついている村内の様子に首を傾げているスーフェとアイオラの隣で。

(もぉおおおおおおおおおお!! なぁ~にが夫婦だふざけんな!! いやね、鑪さんと夫婦が嫌な訳じゃないよ!? 嫌な訳じゃないけどもねそもそも鑪さんは推しな訳ですよ!? 推しと夫婦とか烏滸がまし過ぎん!? だって鑪さんやで!? いやいや鑪さんは最っ高にカッコよくて紳士でイケメンでカッコよくて……あれ今二回カッコいいって言ったなあたし??)

 アルベートの発言にオタク心を引っ掻き回されていた晶子は、それどころでは無いと頭を掻きまわしていた。嬉しいやら恥ずかしいやら、色んな感情がごちゃ混ぜになったその顔は赤くなったり青くなったりを繰り返す。

 当のアルベートはと言えば、殴られた頭部を押さえながら、晶子のそんな姿を見て至極楽しそうに笑い転げていた。

(人の気も知らないでコイツ……!)

悶々とする中で聞こえてくる男の低い笑い声にイラっとしつつ、もう一発殴ってやろうかと晶子が拳を握り締めたタイミングで背後から声がかけられる。

「そこの方、もしや宝石族かの!? あぁようやっと来てくれたのかい……!」

 村人らしき老婆は心底ほっとした様子で、真っ直ぐにアイオラの元に向かって行った。

「え、あの……」

「先日の鉱山崩落で怪我人が多く出ての。何度も帝国に、宝石族を誰か寄こしてほしいと連絡をしていたんじゃが……全く音沙汰がなくての」

(……あぁ、なるほど。村がざわざわしてたのって、それが原因だったのか)

 どこか落ち着きのない村人達を横目に、晶子は合点がいったと腕を組む。そんな晶子には目もくれず、老婆はアイオラの手を取り村の奥へ連れて行こうとした。

「ささっ、こちらに。怪我人の応急処置は済んでは居りますが、如何せん日にちが過ぎておりまして」

「っ、でも」

「アイオラ」

 何かを言いかけたアイオラだが、スーフェに名を呼ばれて口を噤む。スーフェは一言も発さなかったが、彼女の言いたい事が分かったらしく無言で頷いた。

「あ、貴女様は……」

「御婦人、どうか今は私の事はお気になさらず。それよりも優先すべき事がありますわ」

「えぇ。僕が診ますので、怪我人の所へ」

 スーフェ達の言葉に涙を滲ませながら、老婆はアイオラを村奥の建物へと連れて行く。

「アイオラ君だけ行かせちゃったけど、良いの?」

「はい。彼も宝石族、癒し手としての力は十分に持っています。なので心配はしていません」

彼らの後姿を見送って、その場に残ったスーフェに問いかけた晶子に彼女は笑いながら大丈夫だと頷く。

(まぁ、元の世界でも宝石ってパワーストーンとか天然石とかで癒しの効果があるって言うし、治癒魔導士(ヒーラー)として優秀なのは当然と言えば当然だよね~。アイオラ君の元になっているアイオライトは、ネガティブな感情や不安を沈めて、本当に必要な未来を選び取る為の羅針盤になる導きの石だし)

 ゲーム内でも、帝国編で活躍してくれるアイオラは、回復魔法も使えて且つ剣術も扱える非常に強力な仲間キャラであった。

 そして、元になった宝石の効果通り、ゲーム本編では主人であるスーフェを導く者として覚醒を迎える存在でもある。

(ちょっと未知数過ぎるけど、これってアイオラ君、後々覚醒するのかな? でもなぁ……お姫ちゃん達の話を聞いてる感じでも、シナリオ的にかなり進行しちゃってるし、これは覚醒イベント自体無くなってる可能性も……)

 急に思い出したアイオラの覚醒イベントに、段々と不安が募る晶子。だが、現行ではまだはっきりとした事は分からない為、深く考えないようにしようと頭を振った。

「ですが……それよりも、私はこの村の人々の事が気掛かりです」

しかし、スーフェの口から紡がれた言葉には、民を案じる王女としての至らなさを恥じるものが含まれていた。

宝石族は体質的な部分からマナとの親和性が高く、中でも癒しの力の扱いに関しては世界一を誇る。強いマナを帯びた装飾品は魔法使い達の間で往々にして取引されていたが、そこに待ったをかけたのが、現皇帝の先祖に当たる人物だった。

(今の皇帝が確か七十九代目だったから……いや分からん。兎に角ずっと昔の皇帝が、戦いの最中に負った怪我を宝石族に治してもらった事が切欠で、彼らの保護に積極的になったんだよね。当時は色々言われたみたいだけど、宝石族に害を成そうとした奴等は家臣であっても厳しく処罰したとか)

 この行動により、今日(こんにち)まで宝石族達が害される事は無くなり、穏やかな日々を送れるようになったのである。

 宝石族達は皇帝に感謝と敬意を表し、帝国の為に癒しの力を貸す事を約束したのだった。

(帝国内で暮らしながら、時折皇帝から依頼されて各村に行って怪我人の治療なんかをしてる……ってのが今の宝石族の生活なんだよね。でも、お姫ちゃん達の話からして、連続宝石族殺害事件も起きてる。きっと、この村に宝石族が来ないのは……)

 家督争いモドキで国が荒れている事だけが原因では無いと予測し、自分の考えが十中八九当たっているだろうと、晶子は唇を噛みしめる。

「今、帝都内は荒れに荒れています。周辺の村々に気を割く事が出来ない程に。でも、そんな事は言い訳にしかなりません。国を治める立場の私達は、例えどんな事が有ろうと民に苦労を強いるような事があってはいけないのです」

「スーフェちゃん……」

 胸元で両手を握り締めるスーフェを見て、晶子は何が何でもこの家族を幸せにしなくてはと、改めて決心した。

「とりあえずよ、こんなとこで突っ立っててもしゃーねーんだし、他の村人の様子を見つつアイオラんとこ行ってみようぜ」

 すると、今まで空気を読んで黙り込んでいたアルベートがそんな事を言って歩き出す。カチャカチャと音を立てて進み、時々村人に声をかけては驚かれるのを繰り返すアルベートを見て、晶子とスーフェは顔を見合わせて思わず笑った。

「あたし達も行ってみようか」

「はい! お姉様!」

(んん~~~~~~~~~~~~~はいかわいい!! 百点満点花丸あげちゃう!!)

 元気よく返事をしたスーフェの愛らしさに内心悶えながらも、顔に出さずに村の奥を目指す晶子だったが、暫く進んで、すぐにその酷さに気付いて眉間に皺が寄る。

(うーん、命に係わる怪我をしてる人はいないみたいだけど、両腕が使えないとか、歩けないとかばっかね。しかも、炭鉱に潜る男衆が怪我してるから、介助してるのは奥さんとか子供。こりゃ人手が足りないわ)

 周囲を見渡せば、視界に入るのはどこかしらに包帯を巻いた村の男達。彼らの側では、包帯を取り換える女や、口元にスープを運ぶ子供等が甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

「この辺りの村人はみんな、片手が使えないとか、片足引き摺ってるとかばっからしいな」

 いつの間にか足を止めていたアルベートに追いつくと、彼がそう言って周囲を見回す。

「じゃあ、アイオラ君が連れて行かれた建物には……」

「村長の屋敷だとよ。聞いた話だと、かなり重篤な患者が寝かされてるらしい。先週、二人亡くなってるそうだ」

 死者が出ていると言う話に、スーフェが両手で口を覆った。

(……こういった村には、治療の魔法を使える魔導師がいない。帝都から派遣されてくるはずの優秀な治癒魔導士(ヒーラー)は来ず、返事も無い……成るべくして成ってしまった事と言えばそうかもしれないけど)

 遣る瀬無い思いを抱えながら、辿り着いた建物。アイオラの連れだと言って中に入れて貰った晶子達だったが。

「どうして!! どうしてなのぉ!!」

 奥から聞こえて来た怒り交じりの叫び声に、何事かと晶子達は駆け出す。

屋敷の一番奥にある部屋には大勢の重症患者が寝かされ、部屋の中央で立ち尽くすアイオラに、一人の女が縋りついていた。

「どうして今更来たの!? どれだけ私達が待っていたと思っているの!?」

「……」

 女はまだ年若く見えたが、頬は痩せこけ、身に着けている衣服も汚れが目立つ。何よりその目元には濃い隈が刻まれており、長い事まともな睡眠もとれていないのであろう。

「貴方がもう少し早く来てくれれば、夫は……あの人は死なずに済んだ筈なのに……どうして、どうしてぇ……!!」

 光の消えた瞳から涙を流し、アイオラを激しく揺さぶる彼女は、引き離そうとしてくる女性達を振り払って何度もなぜと問い続けた。

「ねぇ! 何とか言ったらどうなの!? なぜ黙っているの!? どうして今更この村に来たの!?」

「いい加減にしなさいミゼル!! 動ける男の人は居ない!? 早くこの子を連れて出てって!」

 痺れを切らした壮年の女性の指示で比較的軽傷の男が呼ばれ、未だ暴れる女を抱えて部屋を出て行く。

「ごめんなさいね。あの子、半年前に結婚したばかりだったんだけど、この間の事故で旦那が……」

「そうでしたか……」

 遠くから微かに聞こえてくる叫びに、アイオラは悲し気に目を伏せた。

(……アイオラ君、彼女の旦那さんを救えなくて責任を感じてるのかな)

 ひっそりと握りしめられたアイオラの右手に気付いて、優しい彼が全ての責任を負ってしまうのではないかと晶子は心配になる。それはスーフェも同じだったようで、静まり返る室内に入室すると、案じるようにアイオラの名前を呼んだ。

「アイオラ……」

「旅をしていたとはいえ、いくらでもこちらの情報を得る手段はあった筈です。それをしなかったのは、僕の落ち度。あの方が怒るのも無理はありません」

 そう言って曖昧な笑顔で答えるアイオラに、スーフェは何も言えなくなってしまう。

「さ、治療の続きをしましょう。次に状態の酷い方は?」

 空気の悪くなった雰囲気を断ち切って、アイオラはこの場を仕切っている女性に次を促した。女性は一瞬戸惑ったものの、今は患者が優先だとアイオラを村人が横になるベッドの一つに誘導する。

「崩落の際に、崩れた天井に巻き込まれて……幸い命は助かりましたが」

「何が幸いだ!!」

 天井から両足を吊るされた中年の男が、自棄になって言い捨てた。

「骨は粉々、感覚は無ぇ! こんな足じゃ、まともに生活すら出来ねぇ! 仕事も続けらんねぇし、嫁さんはもうすぐ子供も産まれんだぞ!? どうしろってんだ!?」

「こら、暴れるんじゃないよ!」

 行き場の無い気持ちを発散するように、男は腕を振り回す。女性が叱りつけようとしたが、それを止めたのはアイオラだった。

 彼は男の足元に立つと、吊り下げられた患部に手を翳す。すると、柔らかな青い光が溢れ出し、両足を包み込んだ。

(綺麗な光……これが、宝石族の癒しの力)

 直接治療されている訳では無いのにも関わらず、部屋中を照らす輝きに、晶子は体が癒されていくように感じていた。

 やがて、徐々に光が収まっていき、光が消えるとアイオラは男の足に巻かれた包帯を外し始める。全てを取り除いて足をベッドにそっと置いたアイオラは、男に動かしてみるように告げた。

 男が恐る恐る足を持ち上げれば、なんの障害も無くスムーズに動き、まるで怪我をしていたのが嘘のようだった。

「お、おぉ!! 動く、動くぞ!! それに、感覚がある!!」

「無事に治ったようですね。良かった……」

 ホッと胸を撫でおろすアイオラに、男は数回飛び跳ねた後、何度も感謝の言葉を告げる。それに当たり障りなく答えると、次の患者へ向かって行った。

「とりあえずは、何とかなりそうで安心ですわ」

 問題無く癒しの力を使えているアイオラに、スーフェもどこか安心した様子だ。そんな彼女に、治療を終えて動けるようになった患者達が話しかけてくる。

「あんた、スーフェ姫だろ? なんでこんな所にいるんだ?」

「ねえ、どうして宝石族を寄こしてくださらないの? 私達、懇願書も送っているのよ?」

「何か帝都で事件でも起きたのか?」

「お、おいおいお前ら、そんないっぺんに言われても答えられないって!」

 口々に問いかけてくる村人達に何と答えるべきかと言葉に迷うスーフェと、そんな人々を宥めるアルベート。

(確か、皇帝一族の家族構成位は知られてた筈だけど、長男が倒れた事は周知されてなかったよね? 外聞が悪いし、何より国民にとって時期皇帝が意識不明ってのは不安要素だし)

「はいそこまで。スーフェちゃ……んん、スーフェ様が困ってるから、一気に捲し立てないでくださいな」

晶子はゲーム内での設定を思い出し、助け舟を出そうと話に割って入っていく。

「実は……スーフェ様は皇帝陛下からの密命を受け、長らく帝都を離れておられたのです。わたしは皇帝陛下の命により、スーフェ様を迎えに行った者ですわ」

 密命、という言葉に、村人達が一瞬で黙り込んだ。隣りで目を丸くするスーフェを尻目に、晶子は即席で考えたでっち上げを続ける。

「ですから、ここ最近の帝国内の事に詳しく無いんです。この村の事故も、先程知ったばかりでして……」

「密命って、何なんだよ」

 訝し気に聞いてくる村人に、晶子は一瞬だけ迷った様子を見せながらも、出来るだけ小声で囁くようにこう言った。

「……他国で、宝石族の生き残りがいたと言う情報が届いたのです」

「あ~、そうなんだよ」

「えっ!? お、お二人共!?」

 驚愕で声を上げるスーフェだったが、すぐさま晶子がそれを抑えて、あたかも『口外してはいけない任務の話している』風を装う。

「スーフェ様、ここで黙ってしまっては、逆に皆様を不安にさせてしまいます」

「だな。まあそもそも、その情報も誤報だったんだから、聞かれて困る事も無いしよ」

 アルベートがそう言うと、人々の表情から緊張の色が薄らぐ。どうやら、焦るスーフェと晶子達の演技に上手く騙されてくれたようだ。

「それは……あまり口外出来ませんな」

「えぇ、皆様も知っていると思いますが、宝石族は他種族、特に魔法を扱う人間から狙われやすい。故に彼らの安全を確保する為には、秘密裏に動く事が必須になりますからね」

 困った風に言えば、村人達はほぼ同時に頷く。綺麗に揃った動作を見て、晶子は思わずにっこりと笑った。

帝国に住まう人々なら宝石族の来歴を知らぬ者は居らず、必ず同意してくれると確信していたからである。

「そう言う事なら仕方無いわよね」

「そうだな」

「なら、これから帝都に戻るんだろ? 陛下に今一度、派遣のお願いをしてくれねぇか?」

 一先ず納得してくれた事に安堵しつつ、晶子は村人のお願いを素直に受ける事にした。

「必ず……お父様に伝えますわ」

 スーフェも力強く頷くと、全員の治療を終えたアイオラが戻って来る。回復した村人達から感謝されながら、晶子達は屋敷を後にした。

村の入口へ向かう道すがら、軽傷の人々を癒しながら、晶子は頭の中で目的地までの経路を計算する。

(あたしの身体能力も上がってるし、二人も旅には慣れてるみたいだから……ここから帝都まで、大体二時間もかからないかな?)

「んじゃ鑪と合流して、やる事やってから出発しようぜ!」

 ふとそんな事を言ったアルベートに、晶子は首を傾げた。

「なんかする事あったっけ?」

「お前も忘れてんのか……まあ、俺も今思い出したんだけどよ。晶子お前、花の種植え直してねぇだろ?」

 彼の一言に、思わず口から「あっ」と漏れる。

「忘れてたわ……! めっちゃ重要な事じゃん!!」

「だろ? 村の事と、晶子と鑪を揶揄うのに必死で忘れてたわ」

「おいこら」

 せっかく忘れていた事を掘り返されて、晶子はアルベートを睨んだ。まずいと思ったアルベートは、短い腕で頭部をガードすると、そのまま走り出す。

「待てゴラァ!!」

「ギャアアアアア!? 来るんじゃねー!!」

「え、あっ、待ってください~!」

「……え、あちょ、置いてかないでくださいよ!?」

 怪我人を治すアイオラとスーフェを置き去りにして、晶子は逃げるアルベートを追いかけるのだった。

次回更新は、5/17(金)予定です。

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