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——某日、ディグスター帝国・城内の一室

※一部表記ブレなどを発見したので修正しました。

 ——某日、ディグスター帝国・城内の一室


 大きな窓から差し込む西日の光だけが室内を照らす中、音の殆ど聞こえない部屋にノックの音が木霊する。

 シックな作りの扉を開けて現れたのは白いシルクとレースで作られたドレスを身に纏う一人の女。しかしその姿はただの人とはあまりにも違っていた。

 大胆に晒された背中と腹部からは透き通るダイヤモンドが『生えて』おり、彼女が体を動かすと時折ぶつかり合ってカチャカチャと音を鳴らしている。

「アメジア様、失礼いたします」

 部屋の主であろう人物の名を呼び、女は室内の奥に設置されたベッドへと歩み寄った。ベッドには青白い顔色のやつれた男が横たわっており、聞こえてくる呼吸音も酷く弱弱しい。

「……御身体、清めさせていただきますね」

 手にしていたタオルや水の入った小桶が乗るトレイをサイドテーブルに置き、女は男の寝巻を緩めて体を拭き始める。

 どれだけ体を触られても、男が目覚める気配は無い。そうかからない内に身を清め終えると、女は寝巻を着せ直し、悲しみを(たた)えた瞳で今にも消えてしまいそうな男の顔を見つめた。

「……貴方様が眠り続けて、もう何年になるでしょう。未だ貴方様を目覚めさせる方法は見つからず、それなのに日々だけが過ぎ去っていく……」

 徐に伸ばされた女の右手が、男の頬をそっと撫でる。少しかさつく頬は、顔色の悪さもあって冷たくすら感じる程だった。

「貴方様の御家族は、誰一人として貴方様の御顔を見に来る事すらなさりません。……やはり、あの方の言う通り……アメジア様を排除されようとしているのでしょう」

 触れる手付きは優しいが、男の家族の話題を出した声は酷く冷たく、その眼差しには憎悪が浮かぶ。

「あれだけ貴方様を慕っていたくせに、貴方様に期待していたくせに……貴方様に愛されていたくせに。なんて酷い仕打ち、なんて恥知らずな者達なのでしょう」

 男に触れていない左手がベッドに爪を立て、シーツに皺を作る。ギチギチと音が鳴っているのを気にもせず、女は憎々し気に恨み言を紡いでいく。

「貴方様の家族があんな者達だなんて、憎ましい。私は……私だけは、アメジア様の味方です。先の見えない暗闇しかなかった私の命を、アメジア様が救ってくれた。その時から、私はアメジア様に全てを捧げる事を誓ったのです」

 女は特殊な宝石を生産する事の出来る種族であった。故に、その美しさと最上級の宝石を生み出す個体として強欲な人間に何度も傷つけられ……奈落の底すら生ぬるい地獄の中で、絶望していた。

 そんな女を救い上げ、生きる事への意味を、自由の素晴らしさを、世界の美しさを教えてくれたのが目の前で眠り続ける男だったのである。

「今でも鮮明に思い出す事が出来ます。あの日、暗い牢獄から解放された空の青を、私に微笑みかける、アメジア様の美しい紫水晶の(アメジスト)の輝きを」

 そうして男に仕える事になった女が、男に好意を抱いたのは必然な事だった。

「私なら、アメジア様を目覚めさせる事が出来ますわ。愚鈍で浅ましい家臣達に唆されて家督争いをしている醜い兄弟達でも、それを諫める訳でも無く傍観する無能な皇帝でも、家族を放置して国外へ出奔している妹でも無い。私が、私だけが、愛しい貴方様のその瞳を開かせるの事が出来る……もう少し、もう少しなんです。あと少し力が集まれば、貴方様を」

 両手で男の顔を包み込むと、女は頬を赤らめて蠱惑的な笑みを浮かべた。

 ……ふいに、日が暮れ始めて薄暗くなり始めた室内で、闇が蠢く。


《縺セ縺薙→縲∝ョ溘↓蛛・豌励↑螂ウ縺?》


 背後から聞こえてきた耳障りな声に女は一瞬だけ顔を顰めたが、すぐに薄い笑みを浮かべて振り返った。

「当然ですわ、賢者様。アメジア様は私の全て、世界の何よりも大切で愛おしい方ですもの」

 張り付けたような笑顔でそう返した女に、賢者と呼ばれた声は至極愉快だと言わんばかりに不気味な笑いを響かせる。


《縺昴s縺ェ縺贋クサ縺ォ縲∬憶縺堺コ九r謨吶∴縺ヲ繧?m縺》


「良き事……ですか」

 一体何を言いたいのか眉を顰めながら、女は話の続きを待つ。


《繧「繧、繧ェ繝ゥ繧、繝医′謌サ縺」縺ヲ譚・縺溘?る摩逡ェ縺ォ霑ス縺?ソ斐&繧後◆繧医≧縺?縺後?√←縺?d繧牙沁縺ョ蝨ー荳矩?夊キッ縺ォ蜷代°縺」縺溘h縺?□》


 声の言葉に、女の顔から表情が消えた。

「そうですか……ようやく、戻って来たのですね」

 男が昏睡状態になってから暫くして、突如現れた賢者から男を目覚めさせる方法を教えられた。

 女は一縷(いちる)の望みをかけ、賢者の言葉に従い……男を目覚めさせるまでもう少しという所まで来ていた。

 最後に必要な力が外部へ出てしまったのは計算外だったが、追っ手をけしかける前に戻って来たと聞き、こうしてはいられないと立ち上がる。

「すぐに準備をして、一刻も早く手に入れなければ。アメジア様に残された時間は、もうそれ程長くありませんから」

 そう言って、女は最後にもう一度男の頬を撫でる。

「アメジア様、行ってまいります」

 返事のない男の手を取って短いキスを落とすと、振り返らずに部屋を後にした。


《諢帙@縺?塙縺ョ縺溘a縲∵サ醍ィス縺ェ驕灘喧繧呈シ斐§縺ヲ縺翫¥繧後?よ?縺九↑繝?繧、繧「繝「繝ウ繝》


 足早に去っていた女に、賢者の歪な言葉は聞こえなかった。


次回更新は、4/12(金)予定です。

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