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私の目的

 

 饗宴のネメシスにおける悪役令嬢はイザベラであるが、このゲームには悪役貴族とも言える人物が存在する。


 それが、反公爵派の伯爵であるダルク・ドゥンケルハイト様なのだ。



 さあ!ダルク様の話をしよーじゃないか!


 ああっ、麗しきダルク様!もう、どこから紹介すれば良いのか!初雪のように透き通った肌から述べればいいのか、ルビーのような目とトパーズのような目のオッドアイから話せばいいのか、艶やかな睫毛から語ればいいのか、冬の夜空のごとき紺碧のサラサラロングから語ればいいのか、繊細な陶磁器のような指先から弾き出されるピアノの旋律から話せばいいのかっ──




 すまない。真面目に説明しよう。


 ダルクは饗宴のネメシスの前半部分における障害であり、主人公エイミー並びに公爵ブライアンに敵対する人物──キャラである。

 そしてこれが何よりも重要なのだが、私の推しである。


 ブライアンは公爵という立場でありながら、幼少の頃に家族を失って天涯孤独であった。

 その所為(せい)というか、他人との関係が上手くいかず敵対する人間が多い上に領地経営もあまり思わしくないため、ブライアンの爵位に疑問を持つ者や反対する人間も多いのだ。


 その反対勢力の筆頭とも言うべき人物こそダルクなのだ。


 まあ、ブライアンの境遇に関してはまだ同情の余地があるものの、協調性皆無で、おまけに若くて領地経営の手腕もイマイチな人間が公爵の立場に居て内政に影響を及ぼしていれば周囲は良く思わないだろう。


 事実、ブライアンの発言や行動により迷惑した貴族も多いし。


 そんな背景があり、ブライアンを陥れようと画策するのがダルクなのだ。


 ダルクは無理難題を公爵家に持ちかけたりして、ブライアンの失敗を狙った。

 ブライアンが大きな失敗をすればそのまま失脚に追い込めるという算段だ。


 ところが、この策を主人公エイミーがことごとくゴリ押しによって回避したためダルクの策略は中々実らず、逆にエイミーの犯罪紛いの行為(勝手にダルクの執務室に入ってブライアンへの嫌がらせ行為の証拠となる手紙等を入手)によって、ダルクは裁判にかけられてしまう。



『ダルク・ドゥンケルハイト。貴様には極刑を言い渡す』


 情の欠片もないブライアンの言葉により、哀れダルクは流刑地の古城に幽閉。そしてそのまま断頭台にかけられる。


 これが、悪役ダルク伯爵の末路である。




 でも!私にとってはダルク様こそ真の貴族であり、主人公だったのだ。



 美しい顔立ちの中には憂いを帯びた紅と橙のオッドアイの瞳。

 顔の半分を覆うタトゥーのような黒いアザ。そのせいで気味悪がられて孤独な性格になった。

 病弱故に外へ出ることもあまり出来ないため異常に白い肌。

 真夜中の川面のように揺らめく紺碧の髪。

 薄暗い部屋で静かにピアノを弾くだけの孤独な趣味。


 どれをとっても最高。影のある疲れた男性の理想像そのものであり、理知的で孤独なお方なのだ。決して私情に流されたり、その場の雰囲気での裁量を取る人間ではない!聞いてるかブライアン!


 そして、ブライアンに対する敵対だって国を思えばこその行動なのだ。

 敵対国に付け入られない為に、ブライアンという不穏分子を排除しようと苦心しただけなのだ。



 だが、悲しいかな。悪役貴族という役柄(運命)には抗えず、公爵家に楯突いた反逆者として断罪されてしまうのだ。




 こうして、私は最愛の推しを失った。一回じゃない。何度もだ。


 どのルートに行こうともダルクは悪役故に必ず裁かれる。経緯が違うだけで、結果はブライアンの独断によって処刑だ。


 ダルクが処刑される度に私は涙に顔を腫らし、ココアにスティック砂糖三本を投入するいう暴挙に出ている。


 そして、何度やってもダルクルートに入れず、攻略サイトを見てみたらダルクルートは無いということを知り、むせび泣いて深夜のコンビニで肉まんとエクレアを買って食べるという禁忌にすら手を染めた。


 おかげで体重のメーター数値がやや上昇するという大厄災に見舞われた。これも全てブライアンのせいだ。



 私に出来る事と言えば、饗宴のネメシス愛好家のコアなコミュニティに自身の考えたダルクルートを文章にして書くことだけ。







 だが!今は違う!私はこの世界にいる!あのにっくきブライアンに恨みを晴らすのだ。


 そして──










「あ、あの。何を言って······」


 私の復讐そそのかし発言に戸惑うイザベラの両肩をガシリと掴む。


「イザベラさん。ブライアンの事憎いでしょ?」

「えっ?な、何をいきなり······」

「いえ、みなまで言わなくていいわ。貴女がどれ程ブライアンに尽くして、いかに国家を考えて尽力したか。私がよーく知ってるわ」

「ど、どうも?」

「そんな貴女の事を蔑ろにしてどこの馬の骨とも分からない馬鹿っ······小娘を妻にしようだなんて酷いわよねえ」

「······ええ、そうね」


 イザベラは悔しそうにキュッと唇を噛んだ。


「あの人のために私は下げたくもない頭を下げてトラブルを解決したり、領地経営が上手く行くように助けたりしたわ」

「そうよね。ブライアンがすっぽかしたお茶会の席でも貴女が代わりに謝っていたものね」

「そうよ。そうなのよ。それだけじゃないわ。あの人が見捨てた地方の村への援助だって私が上手くやったし、隣国の要人を怒らせてしまった時だって謝罪の席を設けて彼の代わりにお詫びしたわ」


 おいおい、それらは私も知らんイベントだぞ。ブライアンの奴、ロクでもない男だとは思っていたけど実物はもっと酷かったのか。


 つくづく救えん男だ。支えてくれている女性の手柄や功績をさも自分の物のような顔して振る舞い、他の女に愛情を注いでるのだからな。


「それは非道いわ。イザベラさんの苦労も知らずにやりたい放題やって自分は責務を果たしていないなんて」

「いつかは······いつかは認めて下さると思っていたの。私、可愛くないでしょう?愛嬌の無い女だから、せめて仕事とかそういうので彼に尽くそうとしたの。それなのに······あら。ごめんなさい。初対面の人間にいきなりこんなこと言われても困るわよね」

「いえ、そんな事はありませんわ。私、イザベラさんの手腕にすごく感銘を受けていましたから。それに、イザベラさんはとても美人よ。その魅力に気付かないブライアンが間違ってるわ」

「ありがとう、ジミーナさん。そんな風に言ってくれるのは貴女だけよ。周りは私の事を性悪令嬢だって言うから······当然よね。エイミーに嫌がらせしたんだから」

「過ぎてしまった事は仕方ないわ。行きすぎた行いはあったかもしれないけど、それ以上に貴女は頑張ってきたんだもの。イザベラさんが悪者扱いされるのは変よ」

「ジミーナさん······ありがとう。ふふ、なんだか少しだけ元気出てきたわ。私に同情してくれる人もまだ居たのね」


 和かな笑みを浮かべるイザベラはとても可愛らしかった。悪役令嬢などという役柄を与えられただけで、この子も普通の心を持った女の子なんだと改めて思う。


 うむ。ますますブライアンが許せんな。



 さあ、私の士気ももりもりだ。そして健気なイザベラと実際に話をしてみて義憤が燃え上がってきた。


 利用するようでちょっぴり罪悪感もあるが、私の計画を進めるにはイザベラの協力が必要不可欠だ。


 それに、このまま行くとイザベラにも厳しい運命が待っている。ルートによって異なるが、最悪の場合は磔刑だし、ブライアンのトゥルーエンドルートでも島流しだ。

 この子の運命を救うためにも、私と一緒に復讐の鬼になってもらわなければ。



「イザベラさん。私と一緒にブライアンにギャフンと言わせてあげましょう」

「え?ええ、さっき言ってたわね。でも、復讐だなんて、そんな······」


 私がそそのかさなくても数ヶ月後にはブライアンとエイミーに毒を盛るんだから、私がそんな物騒なやり方ではない復讐を授けてあげるの。


「大丈夫よ。復讐なんて言っても物騒なことや暴力的な事は何もしないわ。むしろ復讐という言い方すら語弊があるの。私はただ、物事をあるべき姿に戻したいだけなの」

「あるべき姿?」

「ええ。ブライアンの化けの皮を剥がすだけのまともで健全な復讐よ」


 私のプランをイザベラに話すと、彼女は目を丸くした。


「そ、そんな事で本当にブライアンを見返せるの?」

「ええ、もちろん。あの男なら必ず罠に嵌まるわ」




 第一の手は打った。

 後は前準備の最終確認と、第二の手だ。










お疲れ様でした。次話に続きます。

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