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始まりの婚約破棄

良く分からん作品です。かけそば感覚でお楽しみ下さい。

追記※短期連載です。

「イザベラ、君との婚約は破棄する事にした。僕はもちろんのこと、エイミーにも近づくのは許さない」

「な······なんですって」



 大ホールに浮かぶシャンデリア銀河団、所狭しと並ぶスペシャルディナーの大名行列、イルミネーションのごとき輝きを放つワイングラス歌劇団。


 煌びやかなパーティー会場の中心で、その雰囲気に似つかわしくない氷の宣言が響いた。


 ブライアン公爵の誕生日を祝うはずのこの場で、その主役たるブライアンが放つ、空気読めてない感100パーセント濃縮還元ジュースの一幕こそ最大の見せ場なのだ。


 そう、この()()()饗宴(きょうえん)のネメシス』における公爵ルート突入の合図なのだ。



「わ、私との婚約を破棄して、その小者の女と添い遂げるとでも仰るの?」


 愕然として、青ざめた顔に怒りを滲ませた侯爵令嬢イザベラは震える声を絞り出していた。

 それに対して、若き公爵ブライアンは胸の中に一人の少女をしっかりと抱き、再度冷たく言い放った。


「エイミーの侮辱は許さない。控えたまえイザベラ」


 まさに公開処刑。


 冬場のシャワーの出だし並みに冷えきった空気の真ん中でイザベラは屈辱と羞恥に晒されている。観衆は同情や好奇の瞳を当事者たちに向けている。



「こ、こんな······」


 それだけ言うとイザベラはブライアンに背を向けてツカツカと歩いて行ってしまった。



 さて。




 ここでこの物語は一つの区切りをつける。悪役令嬢イザベラの出番はまた何ヵ月か経ってあるものの、この後はブライアン公爵と平民出身の娘エイミーとのひたすら甘ったるいラブイベントが続くのだ。



 まあ、もっとも。



「それは私が居なかった世界での話だ!」


 つい声に出して宣言してしまい、周りの人間がギョッとしてドン引きした。










 私はジミーナ・モブキヤーラというふざけた名前の伯爵令嬢。


 ツッコミたいところはあるだろうが少し待って欲しい。現状を簡単に説明しよう。


 私は元々、現代日本の派遣OLをやっていた。しかしある日過労と不摂生な生活が祟りポックリ逝ってしまったのだ。


 そして目覚めたらこの世界に伯爵令嬢として転生していた。いや、正しくは意識乗っ取り系の転移かもしれないけど。これが一ヶ月前の事。


 そしてこの世界。


 この世界は私が生前にやっていたノベルゲーム『饗宴のネメシス』の世界その物だったのだ。






 饗宴のネメシスはネットのコアな界隈を賑わせたゲテモノである。


 とにかくシナリオが稚拙で酷く、登場人物達の思考回路や行動理由が小学校低学年男子くらいしかない。

 勢いとかノリでゴリ押しする馬鹿ザル百鬼夜行と称すべき地獄の世界だ。


 特に主人公のエイミーは酷いということで有名だ。数々の愚行を挙げればキリがないので一部抜粋。


 可哀想だからとかいう理由で逃走中の罪人を匿ったが為に大騒ぎとなり、そのせいで怪我人が出ても『貧しさが人を傷つける』とかいう刑事ドラマの渋オジが吐きそうな言葉をほざいたり。


 税が納められず、代わりに重労働している人間を見るや『この領地のやり方は間違っている!』とか騒ぎ出して領主のイケメン伯爵に直談判した挙げ句、勝手に金銀財宝を持ち出して庶民にばらまいたり。お前はネズミ小僧か!!


 他にも、政略結婚は非人道的だとか言って縁談をオジャンにしたり、敵対国のイケメンスパイにペラペラ内部事情を喋って後で揉め事になったり、複雑な家庭事情に口出して綺麗事言ったり。



 とにかくやりたい放題。しかも主人公補正なのか『ふ、面白い女だ』とか『君みたいな女性は珍しいね』とか『エイミー、不思議な人だ』とか!みたいな事しか周りからは言われない。

 いや、そうはならんやろがい。


 エイミーのせいで起こったトラブルイベントの被害者イケメンの大半が『君は悪くないよ』みたいな事を言うのだ。

 甘やかしすぎるとダメ人間が育つって知ってるー?



 まあ、それはまだ良いとしよう。ゲームだ。作り話だ。多少は主人公に甘くても良いとしよう。一応、プレイヤーである私だし。


 それに、エイミーはおバカではあるものの性格は悪くない。素直で優しいし、基本的には他人にも友好的だ。バカなだけなんだ。




 だが、本当に許せんのはメイン攻略キャラであるブライアン公爵だ。


 明るいブロンドの髪をサラサラとなびかせ、青い瞳をピンっと張った睫毛が従え、スッと伸びた鼻筋などの典型的な美男子タイプ。

 それは良い。別にコテコテが嫌いな訳ではない。

 だが、ブライアンは性格が純粋に良くないのだ。



 この男、とにかくナルシストというかお高くとまっているというか、なんだろう?『ふっ、俺は面白い女にしか興味ない』みたいなのを全行動、全発言に染み込ませているような奴なのだ。



 シナリオの関係上仕方ないのかもしれないが、この男は身分の下の者に対して冷たく、自分に好意を寄せてくれるメイドの女の子とかに対しても『何を勘違いしている?』みたいな氷結サイダーみたいなキンキンの言葉で突き放すのだ。


 さらには部下の気遣いとかに対しても『余計な事をするな。僕は誰も信じていない』みたいな事をドヤ顔で決めた挙げ句、その気遣いを全部ぶち壊しにするようなムーヴをするのだ。擬人化した無能上司概念。


 もう目眩がするような馬鹿ムーヴが多いので割愛するが、とにかくこの男はクールぶって影のある男を演出したいがために、他人の言葉を遮ったり無視したりするような悪手しか打たないのだ。小学校からオセロやり直せ。




 そんな馬鹿と、歩く非常識エイミーがタッグを組めばもう大変。饗宴のネメシスは狂乱のストレスになってしまう。



 エイミーは庶民出の少女で公爵家に奉公しているという設定なので、どのルートを目指そうとも、いくつかのブライアンイベントは必ず通らなきゃいけない。


 おまけに、制限のかかっている攻略対象キャラルートを解放するには全てのブライアンイベントを見る必要があるのだ。公式の謎のゴリ押し。多分、声優さんが売れっ子の声優さんだったんでそのせいだろう。


 ともかく、好きじゃないブライアンとのラブイベントをやるその度に私はウンザリした。



 好きでもない男なのにいきなり壁ドンしてきて


『お前、俺が恐くないのか?』


  いや、怖いわ!お前のその唐突な距離感が!



 盗み食いしてる所を見られただけで何故かアゴクイされ


『面白い奴だな、お前』


 きっとアリが砂糖に群がる光景にも面白がってアリにアゴクイするんだろうなって思った。


 他にも、色々あるが思い出すとイラつくのでこれまた割愛。



 とにかく、私はこの公爵ブライアンを好きになれなかったのだ。性格にこれっぽっちも惹かれず、共感や同情も出来なかった。




 まあ、それだけならいいだろう。人には好みがある。ブライアンの事を好きになったという人も居たろう。私は好きになれなかっただけ。ただただそういう話だ。



 だが。



 この男(ブライアン)はとんでもないことをしでかすのだ。

 許しがたき大罪。この罪の前では奴のウザさなど霞む。この行いによって私のブライアンへの評価は『好きじゃない』から『くたばれ』になったのだ。








 さて、では早速(かね)てよりの計画に移るとしよう。まずは······イザベラを追おう。









「·········ぐすっ······」


 いたいた。


 パーティー会場から抜け出し、イザベラが去っていった方を探してみると、当の本人がしずしずと泣いている現場にめぐり合わせた。



 ここでイザベラの事についても軽く触れておこう。



 イザベラ・コンウォール。侯爵令嬢。

 容姿端麗、美しく整った顔立ちの中に思慮深い紫色の瞳を漂わせ、しっとりと濡れるようなロングシルバーの髪をなびかせる美人令嬢だ。


 どれかと言うとキツめの印象を与える冷血美人風の容貌なので、悪役令嬢にふさわしい容姿ではある。

 私は正直好きなキャラデザだと思うし、可愛いと思うんだけどね。

 だけどイザベラはそんなに性格が悪い訳じゃない。そりゃ、一応悪役令嬢なので主人公ことエイミーに対する仕打ちは過剰だったし、悪質ではあった。そこは認めよう。


 でも、そんな彼女の行動も元はと言えばあの男(ブライアン)のせいなのだ。


 元々はイザベラと婚約していたはずのブライアンが前触れもなく『イザベラ。婚約の件なんだが改めて考えさせてくれ』などと言い出したのだ。理由はエイミーに惚れたから。チャンチャン。


 そりゃ怒るよイザベラも。最初はエイミーに嫉妬こそしたものの嫌がらせとかはせずに苦言を呈するだけだったのだ。


  だけどブライアンがあまりにもエイミーとイチャイチャするので我慢出来なくなり妨害行為を始めたのだ。当たり前だろう。


 それなのにブライアンは自分にも非があるとは全く思わず『イザベラ、止めたまえ』とか『そんな女性だとは思わなかった』とか『どうして君は他人の幸せを邪魔するのだ』みたいな事を涼しい顔して言うのだ。サイコパスめ。


 結果として、イザベラは観衆の目前でブライアンに婚約破棄を申し渡され、敗北する。そう、5分前のあのイベントだ。




 そんな事情があるので、私はイザベラに大いに同情している。同時に、ブライアンが嫌いなので、むしろ悪役令嬢たる彼女に寄り添いたいくらいだ。


 そう思ってプレイしていた。


 あの時は画面の向こうのブライアンに中指を立てて、エイミーにブーイングし、イザベラにそっとエールを送る事しか出来なかった私だ。




 だが!今は違う!


 そう、本当にイザベラを励ましてやることが出来るのだ。この、ジミーナ伯爵令嬢がね!



「ぅ······うぅ······ぐすっ······」

「あのー、イザベラさん」

「!」


 私が背中から声をかけるとイザベラはバッと振り向いて目元を擦った。


「な、なんです?誰ですの?」

「突然声をおかけしてごめんなさいね。私、ジミーナと言います。何度かパーティーでご一緒になった事もあるんですが、ご存知ない?」

「え?え、ええ。ごめんなさい。知らないわ」

「ええ、そりゃごもっとも。モブですので」

「も、もぶ?」

「いえ、お気になさらず。それよりイザベラさん」

「なにかしら」

「このままでよろしいので?」

「え?」


 キョトンとするイザベラ。そんな彼女に私は悪魔の囁きを実行した。


「復讐。する気はない?」

「え?!」




 さあ、始めようか。饗宴を。我がネメシス(義憤)の復讐を。おあつらえのタイトルじゃないか。



 ブライアン。お前だけは許さない。

 私の愛しい(推し)を処刑したお前だけはな。






お疲れ様でした。次話に続きます。

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