41話 容赦のない大人の世界…だったらそれ以上でやり返しましょう
10歳の子供に対して、この仕打ちは酷い。
2年間信頼を置いていた仲間に、全ての器材も資料も盗まれてしまったのだから。アイリス様がメイリンさんの胸の中で号泣している時、メイリンさんがティアナ様に一枚の封筒を差し出す。
「メイリン、これは?」
「非常に腹立たしい内容が…書かれています」
普段温厚な彼女が、明らかに怒っている。
何が書かれているの?
ティアナ様が封筒を開き、一枚の便箋を取り出す。
私に見えやすいよう、彼女は屈んでくれた。
【親愛なる操り人形アイリス様へ】
この2年間ご苦労様。
私たちの主人様は、大変に喜んでおります。
ポーションに革命をもたらした神童アイリス、我々の主人様はあなた様を脅威と認め、私たちをあなたのもとへ派遣しました。この2年見事としか言えない輝かしい業績をポーションで残しておられますね。そして、今回の学会発表を最後に、ポーションから手を引き、別の分野へ手を伸ばすようで。主人様はこれを好機と考え、我々に動くよう命じられました。
どうですか?
2年間培ってきた研究を全幅の信頼を置く我々に盗まれた気分は?
この学会で、また革命をもたらそうとしたあなたが悪いのですよ。
憎い? 憎いでしょう、私たちのことが。
どうぞ、指名手配してくださいな。
あなた方にお教えした名前も姿も性格も年齢も、全てが偽りですけど。
それでも構わないのなら、どうぞご自由に。
ふふふ、王都で開かれる学会を楽しみにしておりますわ。
出席できればの話ですが。
ここで一つご忠告。
こういった業界は、盗みが日常茶飯事に起きています。ここで心を砕き、使い捨ての存在になってもいいですし、今後も自由に研究を続けても構いませんが、その時はまた姿を変えて、あなたの業績全てを盗みに参りますわ。今回のように、私たちの操り人形となって下さいませ。
ルミナス、レサリア
膓わたが煮えくり返るとは、この事だ。2年間もアイリス様を利用し、学会発表直前になって、革命をもたらすかもしれない研究結果に関わるもの全てを盗んでいった以上、挽回のしようがない。この内容も、まるでアイリス様の心を砕くかのような内容だ。
「あいつら…許せない。始めから全部仕組んでいたのね。メイリン、アイリスを部屋へと運び介抱してあげて。私とユミルは、お父様のところへ説明に行く。ユミル、行くわよ」
「はい」
10歳の子供の心を踏み躙る行為、絶対に許せない。王都の学会に出席すれば、誰が犯人なのかすぐわかるけど、そいつに結び付ける証拠を見つけ出せるだろうか?
○○○
私は、マーカス様の執務室にいるのだけど、物凄く重苦しい雰囲気のせいもあって、言葉を発せないでいる。私とアイリス様の誘拐された経緯を話し、さっきの手紙を見せると、マーカス様は怒り狂い、奥さまのレベッカ様は犯人2人を余程信頼していたのか、しばらく泣いていたけど、急にすっくと立ち上がり、アイリス様の元へ向かった。ティアナ様はマーカス様と同じく、怒り狂い、盗みの証拠に関わる犯人たちの関わるもの全てを探せとメイドたちに命令してからは、ず~~っとこの部屋にてイライラしながら、足をトントンと音を鳴らせている。
今、一番気掛かりなのはアイリス様の容体だ。病気と違い、精神的に心を壊さないかが心配なんだ。レベッカ様とメイリンさんが心を壊さないよう、必死に看病しているはずだ。私たちの方で、何かできることはないのだろうか? このままだと怒りのせいで、何も進まない。怒られるのを覚悟して、私が進言してみよう。
「マーカス様、学会に関しては欠席の方向で動くのですか?」
マーカスもティアナ様も、私をキツく睨んでくる。
「当たり前です!! 学会に行けば、犯人はすぐにわかるでしょうが、それに繋がる証拠が見つからない以上、私は怒りで奴を殺してしまう」
「お父様、それは私も同じ気持ちです!! そもそも、今回のテーマ[劣化版エリクサーの開発成功]に匹敵する研究成果がないのであれば、欠席の1択しかありません。出ないと、家族総出で会場を破壊しかねませんもの」
劣化版エリクサー!? それが、今回の発表内容なの!!
10歳の話す内容じゃないよ。犯人は、2年前からそんなアイリス様の才能に脅威を抱き、今日まで見張っていたんだ。
でも、このまま泣き寝入りしたら、アイリス様の人生にも大きく影響を与えてしまう。劣化版エリクサーの開発成功を発表する犯人共の度肝を抜かせるほどの何かを発表し、それを大成功させたら、アイリス様もそこまで傷つかないはずだ。
何かないかな?
犯人共を驚愕させるほどの何か……あ、あるかも!?
「マーカス様、発表内容を突然変えることって可能なんですか?」
「突然、どうしたのです? まあ、少数ですが、そういう方々もいますね。ただし、学会側は発表内容を知っていますので、前日までに変更申請を行い、承認をもらわないといけません。また、その承認をもらうには、発表予定だった内容と同レベルかそれ以上が必須となります」
うう、ハードルが高い。
でも、トーイだって驚いていたのだから大丈夫のはずだ。
「その学会って、ポーション限定なんですか?」
「違います。王都の学会は、魔力に関わるものであれば、分野問わず、どんなものでも発表可能です」
それならいける!!
あとは、皆を納得させることができるかどうかだ。
特にアイリス様、研究者である以上、研究に関しては一際高いプライドを持っているはずだ。人の開発した研究内容を発表するとなると、やってる事は犯人と大差ない。差があるとすれば、合意の有無だ。
まずは、マーカス様とティアナ様に話してみよう。




