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33話 テイマーギルド

カーバンクルと貴族の騒ぎが終息するまで、私は一時的にアイリス様付きのメイド見習いとなったので、すぐにカルバイン家用の子供用メイド服へと着替えた。鏡で自分の姿を確認すると、そこには今の私の姿にピッタリな可愛いデザインの服を着た私が映る。


私は王都にいる貴族の契約を無にした張本人だけど、ヘマをしない限り、まずバレることはない。でも、目立つ行動をとると、侵入者が私の存在に気づいてしまう。だからこそ、マーカス様はアイリス様を隠れ蓑にして、私を彼女のメイド見習いにした。自由に行動できなくなるけど、護衛をレンタルする場合、私名義なんかでやったら、受付係に怪しまれることは確実だ。アイリス様名義なら、学会の件もあるから、全然怪しまれない。そう、[メイド見習い]は私を守るための行為、私も守られるだけだと嫌だから、何かカーバンクルと無関係の事件が起きた場合は、私もスキルと魔法を駆使して、アイリス様たちを守ろう。



○○○



私とアイリス様、彼女の専属メイドのメイリンさんの3人は護衛をレンタルするため、お昼になってから馬車を使い、テイマーギルドへと向かっている。


メイリンさんは21歳と若く平民だけど、小さい頃から戦闘メイドとして教育されており、盗賊襲撃の際も護衛と分断されてしまい、必死に1人で応戦しているところを、私が空から降ってきて、あっという間に殲滅しちゃった。戦闘が長引いていれば、マーカス様たちを人質にとられ、命の危険もあったので、私は彼女に改めて御礼を言われた。


あの日、アイリス様たちは学会発表に関わる研究調査で出掛けていた。その帰り道での襲撃ということもあり、騎士たちが取調室にて、盗賊達一人一人に襲撃理由を追求していくと、アイリス様の外出情報が何処からか漏れていたようで、誰かが盗賊たちに密告したらしい。


その情報源に関しては、盗賊達の誰もが知らないと答えた。


「アイリス様、やはり原因は外での買い物ですよ」


買い物?


「そうとしか考えられないわね。3週間前、今度発表する研究の追試を急にやる事になったの。そのせいで、材料集めや場所の選定で大忙しだったのよ。もしかしたら、外でスケジュールをうっかり話して、誰かがそれを盗み聞きし、その情報を盗賊に売ったのかもしれないわ。ただ…」


それなら辻褄も合うけど、もう一つの可能性を考えないのかな? 屋敷の中にスパイが潜んでいた可能性、これを言っちゃうと疑心暗鬼になってしまうから、何の根拠もない以上、軽はずみな発言を控えた方がいいよね。


アイリス様も私と同じことを考えていたのか、浮かない表情をしている。


「アイリス様、せっかく護衛をレンタルするのですから、この際学会にユミル様を連れて行き、一緒に護衛されてはどうでしょう?」


王都か、カーバンクル族に隷属契約を無理矢理結んだ貴族が住むところだ。私が目立たなければ、偶然遭遇しても興味を持たれることもないし、私の伯父家族だっていないから、行っても大丈夫と思う。


「そうね……お父様に相談してみましょう。あ、そろそろテイマーギルドの敷地が見えてくるわよ」


私は慌てて、窓の外を見る。


「おお~~~ひろ~~~い」


昨日、テイマーギルドのことをアイリス様から少し聞いた。魔物を約50匹ほど飼っており、ギルドの中でも最大の敷地面積を保有していてかなり広いと言ってたわ。ここから見た限り、敷地内全体が黄色で透明な魔法障壁で囲まれていて、色んな魔物たちが敷地内を自由に闊歩している。[放し飼い]と聞いてはいたけど、本当に自由に歩いているよ。大きな建物が所々に立っており、その作りから見て、人ではなく、魔物たちの寝床だと思う。そういえば、魔法障壁の色に注意するよう言われたな。


[黄]が、現在敷地内で魔物購入による使役合否試験が進行中。

[青]が、平穏。

[赤]が緊急事態。外敵が侵入し、テイマーとその従魔たちが外敵と戦闘中。


今は黄色だから、試験が執り行われているんだ。試験内容は、[話し合い]か[戦闘]のどちらかになるけど、この表示は戦闘が敷地内で実施されていることを外部に教えてくれている。


「ユミル様、ほらあそこ、マンティコアと1人の剣士が戦っているようですよ」

「え!?」


メイリンさんに言われて、慌ててそっちを見る。

マンティコアって、ライオンのような胴体と人の顔をした伝説上の怪物だけど、本当にいるのかな……あ、あそこだ!!

ちょっと遠いけど、何とか見える。


すご…男性剣士が自分よりも大きな巨体を持つマンティコアと互角に渡り合ってる。剣と爪がぶつかり合っているけど、流石にここまで音が伝わってこないや。


「あの人、凄いわね。テイマーギルドの中でも、かなり高位に位置する頑強魔物と互角…いえ、接近戦だけで見るとせり勝っているわ」


私も、アイリス様と同じ見解だ。

テイマーギルドの人は、どうやってあんな凶悪な魔物をテイムできたの? 

やっぱり、戦って勝利したことで従魔に出来たのかな?


街中には、ああいった大型で目立つ魔物はいない。使役契約を結べた魔物だけが入手できるスキル[縮小]とスキル[棲家]、[縮小]を使用することで、原寸サイズを最大に、自分の身体を縮小できる。だから、皆を怖がらせることもないのだけど、冒険者の中には威厳を示すため、原寸サイスで街中を闊歩させる者もいるという。まあ、そんな行為をすれば目立つことこの上ないので、今のところそういった人はこの街にいない。もう一つの[棲家]は、使役した魔物だけを自分の影の中に住まわせる効果がある。大半の人は、後者のスキルを多用するらしい。


精霊の場合は、精霊自身がスキル[人化]や[不可視]を使用するので、使役してもそういったスキルを得られないけど、その代わりに召喚を行使するための魔力を入手できる。私自身、トーイと出会う前と今で、10倍以上の魔力差があるから、莫大な魔力というのも理解できる。


「あ、終わったようですね。男性がマンティコアの額に手をかざしたということは、使役契約を見事成功させたようです」


ほえ~~~、あんな強そうな魔物と互角以上に渡り合える冒険者が、この街にいるんだ。ただ、あのマンティコアって魔物、ここから見た限り、モフモフがない。


「メイリンさん、もし敗北したらどうなるのでしょう?」


「購入時の戦闘による試験で重要なのは、勝負内容です。これからお世話する魔物を恐慌状態に陥れて勝利した場合は、強制的に不合格となります。敗北しても、魔物が相手を気に入った場合は、契約が成立する場合もあります」


なるほど、これから絆を深めていきたいのだから、魔物を力で強制的に支配し、恐怖を身体に染み込ませたら、それって虐待行為になるから、契約不成立と見做されるんだ。


私の求めているモフモフ魔物は、このギルドにいるかな? 話を聞く限り、レンタルの場合、使役合否試験はないけど、話し合いで好かれないといけない。


できれば、犬や猫のようなモフモフがいてほしいな。


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