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32話 忍び寄る貴族

やった、やった、カイト兄の快勝だ!!


あれって、スキル[魔技活殺]という名称なんだね。そこに[連牙突]を組み合わせることで、接近戦での脅威度が飛躍的に向上したんだ。


カイト兄は訓練生たちとティアナ様に囲まれ、質問攻めに合っているから、誰がこっちの勝負の結果を判断してくれるのかな?


「アイリス、ユミル、勝負の結果を聞きたいか?」


私たちの懸念事項を察してくれたのか、マーカス様がこっちへ来てくれた。


「お父様、意地が悪いです。攻撃スキルの有用性を目的としているのですから、私の負けです」


「ほう、自ら負けを認めるか」


ティアナ様同様、アイリス様も敗北を宣言してくれた。でも、彼女の顔からは、何故か敗北感を漂わせるどころか、どこかスッキリした晴れ渡る爽快感のある表情になってる。


なんで?


「今回の件で、私の視野の狭さを理解しました。昨日の時点で、カイトさんに直接質問したことで、ユミルの狙いもわかりましたわ。人体の壺の多くが、急所と一致している。身体内にある魔力回路にも、壺と似たような箇所がある。そこを突けば、強者であろうとも、防御を貫通できる。私だって人の急所については、すぐに思い浮かびました。でも、ベテラン冒険者ならともかく、初心者が実戦中に急所なんて早々見極められるものじゃないと思い込み、その考えをすぐに捨てました」


「アイリスの敗因は、その思い込みかな。そこから一歩でも踏み込み、カイトから情報を収集していれば、あるいは……」


マーカス様のフォローに、アイリス様は首を横に振る。


「お父様、カイトさんのアルバイトの件であれば、既に知っていましたよ。でも、[壺]と[急所]の関係性に辿り着けなかった。今回は、私の完全敗北です」


こういった時、勝者が敗者を慰めたりしない方がいい。

とりあえず、お菓子GETかな。


「あながち、アイリスの完全敗北とは言えませんよ。スキルだけを考慮すれば、ユミルの勝ちですが、模擬戦レベルで考慮すると、勝負は引き分けです」


「「え?」」


マーカス様に言われた言葉に、疑問符が浮かぶ。


「連牙突だけでは、ティアナに勝てない。かといって魔技活殺だけでも、おそらく勝てません。二つ揃っていたからこその勝利なんですよ」


マーカス様が、ニコッと微笑む。


「「あ」」


そっか、それはそうだよね。


私の教えたスキルだと、攻撃速度が遅いから到達する前に回避されてしまう。そこに連牙突が入ることで、最速で壺や澱みに到達できたんだ。アイリス様も理解したのか、さっきよりもすっきりした表情になってる。


そして、私に握手を求めてきた。


「ユミル、あなたに出会えて良かったわ。これで私も、一つの壁を突破できた気がする。あなたは、私の生涯のライバルで友達よ。これからも宜しくね」


私は、アイリス様の握手に応じる。


「はい、よろしくお願いします!!」


ライバルは些か大袈裟だけど、友達宣言が嬉しいよ。

この街に来て、2人目の友達ができちゃった。


「さて、アイリスの蟠りも消失したことですし、2人は今から私と共に、執務室へ来なさい」


「お姉様には言わなくていいのですか?」

「今は放っておきましょう。皆、カイトの習得したスキルを知りたがっているようです」


確かに、カイト兄を囲い、あちこちからスキルの正体を知りたがる声が聞こえてくる。カイト兄が、一気に人気者になってしまったよ。とりあえず、私たちだけで執務室へ行こう。わざわざ移動するくらいだから、何か特別な用事でもあるのかな?



○○○



私とアイリス様が執務室の入ると、マーカス様は自分の机へと向かい、椅子に座ると、引き出しから1通の紙を取り出し、アイリス様に差し出す。


「これは?」

「小切手ですよ」

「小切手…え!?」


アイリス様が額を見て驚いている。

私も見ていいのかな?

この位置なら、私も確認できるから覗いちゃえ。


「はわわわわわ…0が6つもある~~~100万ゴルド~~~!!」

「お父様、説明してください!!」


なんで、こんな大金を私たちに?

意味がわからないよ!?


「状況が一変しました。先程、1体の精霊がこの部屋に突如現れました。カーバンクル族のトーイという名前です」


「トーイが、ここに来たんですか!?」

「カーバンクル!!」


今日、ここを出る時、彼女はラピスやリアテイル様と一緒に見送ってくれたけど、いつも通りだったよ。それに、どうして自分からカーバンクルと名乗ったの? ガルト様だって、あれだけ私以外をは信用しないと言っていたのに、どうして?


「カーバンクル族は、リアテイル様から事情を聞き、私の人柄を信じ、ユミルの持つ家庭内事情とカーバンクル族の交流断絶を全て話してくれました。アイリスにわかってもらうため、まずはそこから話していきましょう」


マーカス様は、カーバンクルの抱える事情を話した後、私とその家族に何が起きたのかをアイリス様に話す。その内容は、私の知るものと全く同じで、トーイが真実を話したことを理解出来た。ただ、1点気になるのは、カーバンクルと契約していた貴族の名前を一切言わないことだ。


「100年間も姿を消していた理由に、そんな事情が隠されていただなんて。あの方々は、カーバンクルを隷属化させて、強大な力を得ていたのね。あいつ~、何が『私たちはカーバンクルに愛されし一族だ』よ、とんだ大嘘付きじゃない!!」


この様子だと、マーカス様たちはカーバンクルを隷属化した貴族を知っているようだ。なんだか、私だけ仲間外れのようで面白くない。


「先に言っておきますが、ユミルはその貴族の名を知ってはいけません」

「どうしてですか?」


顔に出ていたのか、マーカス様に先手を打たれちゃった。


「その貴族に関わる者たちが、既にこの街へ侵入しているからです」

「「え!?」」


マーカス様の顔は真剣そのもの、そいつらは契約の切れた原因を探るため、この街に来ている? 


「カーバンクルの長ガルト様はその貴族の状況を知るため、部下に魔導蒸気列車を利用させ、王都へと放ちました。偵察の結果、血縁関係者以外のものをこちらに差し向けたようです。時間的に見て、既にこの街へ入っていてもおかしくありません。我々はその貴族と面識もあるので、言葉に出してもおかしくありませんが、4歳のユミルがその貴族の名を知っていること自体がありえないことなのです」


あ、そういうことか。私がその名を口にし、それを相手に聞かれてしまった場合、絶対に怪しまれること間違いない。いくらステータスを隠蔽で誤魔化しても、口に出したら1発で関係者だとバレてしまうもの。


「奴らがユミルに辿り着くことは万が一にも起こり得ないと思いますが、念には念を入れておきましょう。トーイはリアテイル様たちを守らなければならない以上、ユミルには自分に見合った護衛を見つけてもらいます」


ちょっと怖く感じたけど、私自身が貴族とカーバンクルに関わる情報を言わない限り、狙われることはないんだね。


「わかりました!!」


「落ち着くまではレンタル契約になるでしょうが、脅威が去ってから、そのお金で購入しなさい」


そう言ってくれるのは嬉しいけど、こんな大金を貰っていいのかな? でも、もしここで私に何かあれば、ガルト様が黙っていない。多分、カルバイン家にいる人々に制裁を与えるかもしれない。ここは、善意をありがたく受け取り、有効利用させてもらおう。


「アイリス」

「はい」


「脅威が去るまで、ユミルをあなたのメイド見習いとします。終始、ユミルと行動を共にしなさい。テイマーギルドで護衛を決めて以降、あなたは学会に集中するといいでしょう。あなたが先程の小切手を管理し、護衛もあなた名義でレンタルしておきなさい。そうすれば、ユミル自身も我が家のメイド見習いとして周囲から見られるので、隠れ蓑にもなります。いいですね?」


「わかりました」


「ユミルも、しばらくの間自由に動けませんが構いませんか?」

「はい、大丈夫です!! カイト兄にも、私とトーイの事情を説明しておきます」


カーバンクルにとって因縁の貴族が動き出した以上、身近にいるカイト兄だけには事情を説明しよう。出会ってから間もないけど、あの人なら信頼できるもの。


何だか大変なことになってきた。


カーバンクル族は、自分たちを縛り付けた貴族を恨んでいるから、街の中にいる関係者を絶対に捕まえたいはずだ。もしかしたら、貴族の関係者たちも、聖域の方へ向かうかもしれない。


これから一波乱起きそうだ。


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