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3話 家族の願いとユミルの葛藤

雷鳴轟く豪雨の中をシールドに守られ、私は30分ほどで体内での魔力循環とその制御に成功した。


「へえ、前世15歳というだけあって、飲み込みが早いね。普通の4歳の幼児じゃあ、一日かけても成功しないよ」


この30分の間に自分の前世のことを色々と話したこともあって、トーイとは距離を縮め、仲良くなることもできたし、教え方が上手なこともあり、すぐに自分の中にある魔力を認識できるようにもなった。自分のステータスをもっと深く知りたいとも思ったけど、雨が上がったら、護衛たちが私たちの死を確認しにここまで来るだろうから、それは後回しでいい。


「全部、家族のためだよ。絶対に、成仏させたいもの!」


トーイの話によると、人間の悪意に翻弄され亡くなった場合、悔恨がその亡骸の魂にこびり付き、周囲を彷徨う浮遊霊もしくは地縛霊と化す場合がある。日本と同じで、通常幽霊は人の目に見えないけど、魔物化すると具現化してしまい、冒険者に討伐されると、その魂は消滅する。そんな悲惨な未来を回避するため、私は何としてでも儀式を成功させたい。


「それじゃあ、魔力をシールド内に放つね」


言われた通り、体内で魔力を循環させ、しっかりと認識してから手に集約させ大気中に放つ。今の私だと、魔力を外に放出させるだけで一苦労だよ。シールドのおかげで、私の魔力が少しずつこの地に充満していく。


「ユミル、これくらいでいいよ」


結局、必要量を充填させるのに、10分くらいかかってしまった。

ここから、儀式の開始だ。


「只今より、【御霊送りの儀】を執り行います」


私は手順通りに両手を合わせ、天上を見上げ神に祈ると、薄暗かった周囲が、シールドの範囲内限定で、仄かに青く輝き出す。その環境の中、トーイの力で、3人分の玉串と御霊前、3人の亡骸に清浄な光を天から照射させると、玉串と御霊前が優し気な金色の淡い光を放ち、す~っと大地に溶け出すと、次は家族の亡骸が金色に輝き出し、周囲が一気に幻想的な光景に切り替わる。


「綺麗」


あ、3人の亡骸から何かが出てきた!


「お父様、お母様、お兄様!!」


現世との家族との思い出は、しっかりと頭に刻まれている。今になって、それが走馬灯のように次々とフラッシュバックする。


「ここは…私は暗闇の中を彷徨っていたはずだが?」

「私も同じでした…ユミルちゃん?」

「僕もです。…え、ユミル、なんで泣いているの?」


家族と喋れる時間は10分だけ、無駄な時間を過ごしたくないのに、涙が止まらないよ。


「うわああ~~~みんながいる~~~」


私はお父さんに抱きつく。感激のせいで、言葉が出てこないよ。


「この惨状は一体……下には、私たちが寝ているぞ?」

「ユミルだけがいないわ。まさか、馬の暴走事故で私たちだけ…」

「そうだよ!! 父さん、母さん、僕たち3人は、ユミルを残して死んでしまったんだ」


3人が自分の死に顔を見て戸惑っているところに、トーイが前に出てきてくれた。


「その通りさ。君たち3人は、転落事故で死んだんだ」


私が号泣するばかりで何も言わないから、トーイが助け舟を出してくれた。


「僕は精霊カーバンクルのトーイ、時間がないから手短に言うよ。森を探索中、大きな衝撃音が聞こえてきたから、ここを訪れると、ユミルだけが軽傷で生き残っていた。彼女は事故のショックで前世の記憶を思い出し、僕と一時的な契約を結んだことで、オリジナル魔法を使用できるようになった。今、まさにその魔法を行使している最中なんだ。君たちとユミルのお話しできる時間は、あと8分だけ。その後、4人は神様のいる黄泉の国へ行くことになる。これが最後だから、きちんとお別れの挨拶をするんだ」


トーイ、ありがとう。

私も自分の口で、今の状況を伝えないといけないよね。


「なるほど、状況を理解できました。トーイ様、娘に協力して頂き、誠にありがとうございます。あなたに色々とお尋ねしたいこともありますが、我々は死んでいる身である以上、娘との話を優先させて頂きます」


「うん、それが最善だね。ユミルには、僕の方から後で説明するから、君たちは気にしなくてもいいよ」


どういう意味?

カーバンクルのことで、何か知っているのかな?


「ユミル……君を置いて先に死んでしまった私たちを許しておくれ」


お父様は、足に抱きつく私の頭を優しく撫でてくれた。まだ30歳前半くらいで、新規事業を立ち上げて、やっと軌道に乗ってきたのに、私の心配をしてくれている。


「ユミルちゃん、不甲斐ない私たちでごめんね。でも、あなただけでも助かってくれてよかった。自分の家へ帰ってはだめよ。この事故は、多分あの人が仕掛けたものだわ」


お母さんも自分のことよりも、私の心配をしてくれている。

親って、みんながこうなのかな? 

前世の両親も、私のことを心配しながら海中で亡くなったのかな?


「父さん、これって絶対伯父さんの仕業だよ。あの人は、父さんを逆恨みしている!! 多分、メイドか執事の誰かが、僕たちの旅行計画をあいつに密告したんだ!! 元々、馬車で駅に向かい蒸気機関車に乗る予定だったのに、街道の途中で盗賊と遭遇して、護衛と分断され、山の方へ追い立てられた。周囲には馭者の遺体もないから、多分護衛全員が僕たちを裏切ったんだ」


少し歳の離れたお兄ちゃんは14歳、学園の二年生で成績優秀、将来は騎士になると豪語していたけど、志半ばで死んじゃった。そんなお兄ちゃんも、自分の未練よりも、私を心配してくれている。


本来、この子爵家の次期当主は長男の伯父様だったけど、素行の悪さが原因で平民へと身分を堕とし、弟のお父様が跡を継いだ。その仕打ちに、伯父は自分の両親と弟を憎んでいる。去年、父方の祖父母が相次いで病気で亡くなった時、伯父も自分の家族と引き連れ葬儀に参列したけど、一人だけ人に見えないようほくそ笑んでいたのを、私は偶然目撃している。


伯父様が、お父様たちを殺したんだ……憎い相手だけど、今戻っても殺されるだけで終わってしまう。

今は、一人で生活して力を付けなきゃ!!

成人したら、みんなの仇を討ってやる!!


「私は執事のセブロスとメイド長のサマンサに、旅行計画を詳しく話している。どちらかが内通者で間違いない。おそらく、護衛全員もグルだろう。ユミル、我が子爵家は、私の兄が跡を継ぐ。決して、家に戻るな!! 戻れば必ず虐げられ、いずれは殺される。厳しいことを言うが、誰も恨むな。復讐は、必ず連鎖する。我々は、いつでもユミルの心の中にいる。前を向き、笑って今世を生きていくんだ」


お父様の言葉が、私の心に響く。


【誰も、恨むな】

【復讐は連鎖する】


私の目の前には、凄惨な遺体が放置されている。

これを仕掛けたのは、私の伯父なのに恨んじゃいけないの? 

復讐してはダメなの? 

伯父は自分の欲望のために、3人を殺したんだよ?


私の心は憎しみでいっぱいだけど、両親やお兄様に、余計な心配をかけたくない。安心して天国に行ってもらうためにも、皆がそれを望むのなら、私はそれを叶えたい。


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