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28話 勝負開始

勝負を持ちかけられた後、私とカイト兄は一度スラム地区へと戻り、カイト兄は孤児たちの住む家へ、私はラピスたちのいる教会へと戻った。教会内で、冒険者ギルドでの出来事をトーイ(カーバンクル形態)をモフリながら、リアテイル様、ラピスに話すと、リアテイル様1人だけが納得してくれた。


「ふふ、あの子は負けず嫌いだから、あなたと直に勝負したいようね」


リアテイル様は、マーカス様のご家族とここで何度かお話をしており、アイリス様の性格を把握しているようで、[負けず嫌い]と言われた時、私もすぐに納得した。


「僕も、その家に行きたい!!」

「ラピスは、お母さんやトーイと一緒にお留守番だよ」


ラピスは健康になりつつあるせいか、どんどん好奇心旺盛になってる。外に出たい気持ちもわかるけど、何の訓練もしていない状態だから、地区から離れたら危険だ。せめて、精霊だけが持つエレメンタルスキル[不可視]を制御できるようにならないとね。


「う~~わかった」


ラピスは納得してくれたけど、カーバンクル形態のトーイの方は何か考え込んでいる。


「勝負自体は別に構わないけど、日数的に考えると、そろそろ奴らも動き出す頃合いだ。リアテイル様、僕はガルト様との仲介もあって、今はあなたの側を離れられない。だから、ユミルに終始護衛してくれる仲間が欲しいです。はっきり言って、今のカイトでは実力的に不適格です」


元々、トーイが護衛の役目を担っていたけど、リアテイル様のこともあり、その役目を昨日から果たしていない。この街の治安は良いけど、トーイの言う奴ら、カーバンクルを閉じ込めた貴族がこの街に訪れる可能性がある。契約が破棄された以上、奴らはその理由を求めて、聖域にも行くはずだ。トーイと長のガルト様は、そこを気にしている。


「ユミルはモフモフ好きのようですから、この勝負中もしくは終わり次第、テイマーギルドに行かせてみては?」


テイマーギルド?


「良い案ですね!! あそこなら、ユミルの好みに合う魔物がいるかもしれない」


テイマーの意味はわかるけど、どんなところなの?


「ユミル、テイマーギルドでは魔物を沢山飼っていて、人に従順になるよう教育が施こされている。その中でも、国の定める安全基準をクリアした魔物だけが、レンタルまたは販売用の商品になっているんだ」


「そこに行けば、新たなモフモフに出会えるんだね!!」


「そういうこと。勝負中か勝負後に、カイトたちと行けばいい」


テイマーギルドか~、早く行ってみたいけど、購入費用が……そうだ!! この際だから、勝負に勝ったら、購入費用を一部工面してくれるか話し合ってみよう。お菓子も欲しいけど、モフモフの方が大事だよ。費用的に全然違うけど、言うだけ言ってみよう。


ふふふ、楽しみになってきた~~~~。

絶対、勝つぞ~~~~~!!



○○○



私とカイト兄はスラム地区内で昼食をとってから、街長マーカス様の本邸へと行き、アイリス様と合流した。その際、マーカス様の奥様レベッカ様と、その長女ティアナ様を紹介してもらった。アイリス様の髪色はマーカス様に似て水色、ティアナ様の髪色はレベッカ様に似て茶色、2人の容姿はどちらかというと母親似のようだ。


アイリス様は職業が研究者ということもあって、運動が苦手なようだけど、ティアナ様は運動神経抜群の快活女子のようで、髪を短くしており、騎士団の訓練にも時折参加しているけど、今回は所用により不参加のため、私はカイト兄、アイリス様の3人で隣接する訓練場へと足を運ばせた。カイト兄は来て早々訓練に参加させられ、今は持久力と体力を確認するため、広い訓練場を外壁に沿って、9人の訓練生の方々と走っているところだ。皆の年齢は13~16歳、皆が騎士になるべく毎日訓練を重ねている。


今の時点で、カイト兄は8週走っていて、年齢の高い人たちは10周くらい走っており、全員が息切れを起こし、かなり辛そうだ。それもそのはず、訓練生全員がある腕輪型魔道具を装備しており、定めたペースを少しでも下回ったら電撃が全身に走る仕組みとなっている。個人の体力に合わせたペース設定になっているため、9人全員がバラバラのペースで走っていて、そんな中、カイト兄は訓練生の最年少となる13歳の少年と同じペースで走らされており、その少年にくらいつこうと死に物狂いで走っている。


「カイトさん、結構やるわね。訓練生の人たちは学院に行ってない分、毎日基礎訓練を実施しているわ。最年少とはいえ、13歳の男の子の走りについていけてる」


私たちの勝負は、もう始まっている。アイリス様もカイト兄に見合うスキルを見つけ出すため、注意深く彼を観察している。私も、負けていられない。


「魔力がない分を少しでもカバーするため、スラム街で毎日走り込みをやってます。こういった基礎的な力を上昇させないと、知り合いの冒険者たちに追いつけないと日頃から言ってますね」


「その話は私も聞いているけど、こうやって見るのは初めてよ。基礎的な力が身についているからこそ、剣術や体術だって習得済みだから、それらを活かせる戦闘系スキルを習得させないといけないわ」


もう、何かを考え込んでいる。かくいう私も、出会ってから色々と話し合っているので、カイト兄に見合うスキルに関しては、いくつか候補はある。でも、私の望むスキルがこの世界にあるのかがわからない。まあなくても、伝統魔法のように新規に築けるかもしれないけど。


「やめ~~~い。15分休憩後、模擬戦に移る。各自、息を整えておけ!!」


訓練生の監督を務める30歳くらいの男性騎士が告げると、カイト兄を含める10人の訓練生たちが地面に崩れ落ちる。


「日課の走り込みが終わったようね」

「日課…訓練生全員が、あの電撃を毎日浴びているんですか?」


「そうよ。人は電撃を浴びると、一時的に行動不能となる。だから、訓練生の間に弱い電撃を浴びせ、身体に慣れさせていくのよ。慣れてきたら出力を増加させていくから、終わりがないわ。騎士になる頃には、[ショック耐性]や[忍耐]といった耐性スキルを身につけているって寸法よ。1年前、私が考案して魔道具を開発したの。実際にこの1年で、多くの騎士たちが耐性スキルを習得できて、皆から感謝されたわ」


凄い発想、一歩間違えば拷問になるのに。

10歳とは思えない頭脳だ。

アイリス様がカイト兄のもとへ向かったので、私もついていく。


「カイトさん、これが朝と昼に毎日行われている訓練生たちの日課よ」


「日課……毎日やるのか……きつい。でも……充実感があります…走り込みの意味も聞きました……アイリス…様は凄いですね……耐性スキル…絶対習得……してやる」


息も絶え絶えだ。


普段、カイト兄は大人のいないところでは、アイリス様に対してタメ口で話している。アイリス様自身から、そう強要されたみたい。今は大人たちが大勢いるから敬語だけど、相手は子爵令嬢なのに、臆する事なく話しているから、周囲の人たちもカイト兄に注目している。


う~ん、今回の議題は攻撃力の上昇だけど、既に負けているような敗北感を感じちゃうのは何故だろう?


「模擬戦……ふふ、チャンスね。カイトさん…」


アイリス様が何やら思いついたのか、カイト兄の耳元で何かを囁いている。

今度は、何を仕掛けるつもりなのかな?


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