17話 スラム地区に住む少年と幽霊たち
精霊が魔物に変装していることを知ったおかげで、私の心もかなり楽になる。
あれからトーイも精霊の気配の出所を探ろうと真剣になって、周囲を捜索しているのだけど、今の所そういった場所はない。そして、何故かあれから魔物に化けた精霊も現れないのだけど、私たちを見つめる視線が増えてしまう。ただ、さっきまでとは違い、視線に嫌な感覚を受けない。
「トーイ、この視線って幽霊なのかな?」
「多分ね。もしかしたら、生者も混じっているのかもしれない」
幽霊さんなら、さっきの魔物に化けた精霊さんのように、こっちに来てほしい。ずっといるせいか、私自身もこの環境に慣れちゃったよ。それに精霊がいるのだから、悪い幽霊はいないんじゃないかな?
「生者か……それなら人が住んでいそうな建物を尋ねてみようよ。人がいたら、私たちの事情を話せばいいよ。もしかしたら、受け入れてくれるかも知れないよ」
「誰も出てくる様子もないし、そうしますか」
このまま外を彷徨いていても、埒が明かないもの。
人が住めそうな建物を探索していると、一つの家のドアが不意に開く。
「あ!! 見つけたぞ、盗人め!!」
12歳くらいの茶髪の男子が、特に驚いた様子もなく、申し訳ない表情でこっちに近づいてくる。もしかして、幽霊さんたちから、私たちの存在を教えられたのかな?
「う~ん、拍子抜けだよ。なんで、逃げないのさ?」
トーイはかなり怒っていたけど、相手が既に反省しているせいか、完全に虚を突かれたせいで、調子が狂っている。
「幽霊たちから、散々搾られたんだよ。お前たちは、孤児でこの街へ来たばかりなんだろ?」
「そうだよ。君はそんな私たちを見て、財布を盗んだ最低野郎だね」
言い方がきつい。
でも、ここで主導権を握られたら、お金を返してもらえない。
男の子はトーイを見て、少し驚いている。
「お前、容姿と言葉が合ってないぞ。貴族じゃなく、孤児なのは事実なんだな」
もしかして、トーイを貴族のお嬢様と思って、財布を盗んだの? 彼女の見た目は、貴族のお嬢様っぽく見えるから、あなたの気持ちはわかるけど、それでも盗みは良くない。
「あのね~、もう少し常識的に考えなよ。貴族のお嬢様が幼女をおんぶして、この賑やかな通りを歩くわけないでしょう? 僕もユミルも、孤児だよ。それよりも、僕から盗んだお金を返せ」
「悪い、一部使っちまった」
男の子も観念したのか、すぐに自白する。
「使い道は?」
「食べ物だよ。今は、俺のアルバイトの給料と災害援助金だけで生活しているけど、少し足りないからお前らの金を盗んだ。それを、歳下の孤児たちに昼食用として一部を使っちまった」
凄く真っ当な理由だよ。
盗みは良くないけど、食費のためにやった行為なんだ。
孤児院と違って、ここにいる孤児たちの生活は相当厳しいんだね。
「何故、孤児院に入れないのかな? 宿の主人から定員オーバーと聞いてはいるけど、君くらいの年齢になると、働き先も見つかりやすくなり巣立てるはずだ」
この世界では、12歳くらいで孤児院を巣立つんだ。
日本じゃ考えられない。
男の子は、何故か悲しそうな顔を浮かべる。
「今、孤児院にいるのは10歳未満の子供ばかりで、空きはない。このスラム地区にいる子だって、全員が5~8歳くらいなんだ。その年齢で、働き口を見つけるのは厳しい。だから、俺が食費の面倒を見ている。この1年、災害援助金のおかげで成り立ってきたけど、皆の食欲も増してきたせいもあって、食費の負担が増加して、お金が足りなくなっているんだ。今月、俺のアルバイト料を足しても足りないから、貴族や裕福な連中からお金を盗もうと思ったのさ。手始めに、盗んだのがお前たちだよ」
ということは、彼は初犯か。
私たちが許せば、彼が裁かれることもないんだね。
みんな、今を暮らしていくため、色々と苦労しているんだね。
私も人のこと言えないから、頑張らないといけない。
あれ?
なんか、別の焦げた建物の中から70歳くらいの男性が出てきた。そのまま男の子のもとへ向かっているけど、なんだか怒ってない?
「カイト、この馬鹿野郎が!!」
「痛!?」
うわあ、頭にゲンコツを食らって痛そう~~。もう逃げないと思ったのか、トーイも彼を解放したよ。
「トマス爺、いて~~よ」
「仲間から話を聞いたぞ!! 生活に困っていようとも、人様のものだけは盗むなと言っておいただろ!!」
「裕福な連中ならいいかと…」
「言い訳するな!! 2人とも、うちのカイトが迷惑を掛けてすまない」
おじいさんがカイトを捕まえて、深くお辞儀してきた。
「ごめん」
カイトも反省しているのかな。
「トーイ、許してあげようよ」
「ユミルがそう言うのなら許すよ。僕たちと同じ孤児のためにやったことだしね」
これで和解成立だ。
改めておじいさんに自己紹介しようと顔を向けると、彼の身体は半分透けていた。
え……もしかして幽霊さんなの?




