13話 ユミルVS盗賊達
雨雲やそれ以外の雲が近場にあったこと、大気がやや不安定だったこともあり、もう真上に入道雲が形成され、どんどん発達していき、雷が迸る。小規模設定だから、すぐにでも雹が降ってくるはずだ。
「言うに事欠いて戦うだ~? あはははは頭~~こいつ、痛!?」
あ、話しかけてきた男の頭に、ビー玉サイズの雹が直撃した。
「なんだよ、これ……雹か?」
男は小さな雹を摘み上げ、それを凝視する。
小さいせいで、ダメージが殆ど通っていない。
今のままじゃダメだ。
魔力残量を考慮すると、これ以上の消費は不味い。
悪者は狭い範囲にいるから、効果範囲をもっと狭めて、浮いた魔力分を全部威力に加算させよう。
プログラムで自動調整されるから、全然身体に負担がない。
これなら、魔法発動中に調整しても問題ないね。
「おいガキ、お前は何を…どほ~~。今度は、何だよ!!」
ビー玉からゴルフボールサイズになって脇腹に直撃したけど、それでも少し痛そうにしているだけだ。脇腹をさするだけで、すぐに体勢を立て直した。地球なら、あのサイズの雹に当たったら、激痛で動けなくなるのに!!
「どうした!? こいつは…雹か!? 妙だな、さっきまで快晴だったはずだが?」
盗賊の頭が転がる雹を拾い上げ、空を見て驚嘆している。
「頭、やばいぜ!! でかい雹が、俺ら目掛けて降ってくる!!」
「あ? そんな馬鹿なことが…」
ゴルフボールサイズの雹が、9人目掛けて降り始める。
「うお!? おいおい、どうなってる? この雹、俺らだけに降っているのか!? お前ら、周囲に障壁を展開しろ!!」
ダメだ。
盗賊達の中に魔法の使い手がいるようで、その人たちが周囲に風の障壁を展開して全部防がれてる。あれを無力化させたいのなら、もっと集中的に大量の雹をぶつけて、壁を破壊しないといけない。数を向上させるのなら、この規模での全降雨量を短時間で降らせるよう微調整すればいい。効果時間を、15分から5分に変更して、浮いた分を降雨量にまわす。
「頭、降り注ぐ量がどんどん増えてきてる。しかも、何故か俺たちだけを狙ってやがる!!」
雹が通常ではありえない軌道で、あいつらだけに飛んでいくけど、威力不足のせいで障壁を突破できない。
「なんだこのおかしな雹は!? 何処にいようとも、必ず俺ら9人目掛けて飛んできやがるし、自然じゃありえない軌道だぞ!! 風の障壁があるとはいえ、大きさと数が尋常じゃねえ」
プログラムって超便利~~~。
雹が、敵を自動追尾してくれてるよ~~~。
私の指定した相手だけに降り注いでいるから、見ていて面白いけど、あれだけの雹に襲撃されているのに、障壁のせいで奴らに届いていない。
「まさか、全部お前の仕業か?」
「知らな~い」
私がとぼけた表情をすると、盗賊の頭は怒ったのか、私に向けて剣を振ってきた。
「ガキ~~~、盗賊を舐めるな~~~」
普通の幼児ならここで死ぬんだろうけど、カーバンクルたちに色々と鍛えられた私はスキル[反射]で対応します。
「なんだと!?」
男の剣は、私に当たる20センチ手前でニュルンと滑ってしまい、そのまま地面に突き刺さる。
「弱っちい剣ですね」
「こいつ!?」
この人が一番偉いから、私と戦っている間に、残りを雹で潰そう。
問題は、あの障壁だ。
アレを破壊するには、威力をもっと増大させないといけない。
時間も残り少ないから、ここで一気に決めたい………そうだ!!
ゴルフボール並の雹に銃弾のような高速回転を加えれば、威力も跳ね上がる!! 『魔法はイメージ次第で強化される』とカーバンクルたちに教わったから、入道雲の中に銃のライフリングのようなものをいくつも製作して、雷の力を利用して雹を連続射出させてみよう。ただ、銃のライフリングをイメージこそできるけど、雲と結びつかない。
どうする?
あ、今のイメージの時点で、既に現実離れしているから、もう雲の構造自体を変えちゃっていいのでは?
ここは異世界、魔法があるのだから、入道雲だって形状変化できるはずだ。銃、ライフリング、全方位からの攻撃に符合するもの……蜂の巣だ!! あれならイメージしやすいし、穴をライフリングに見立てて、そこから雹を射出させればいい。
今ある入道雲だけを利用し、そこに魔力を100消費させて、それを蜂の巣攻撃のイメージとプログラム制御に全振りさせよう。空高くからの射出で地上に到達する頃には、魔力で強化されたとはいえ、物理的な意味合いで威力もある程度減衰されるから、正直何処まで強化されるか不明だけど、念の為首から下に集中攻撃させよう。
蜂の巣攻撃…開始だ。いっちゃえ!!
うわ~私のイメージに比例して、雲がどんどん形状変化していき、蜂の巣になっていく。地球では、絶対にありえない光景だよ。ここが異世界だと思い知らされるよね。私の真上に、巨大蜂の巣が完成すると、そこから雹の大嵐が巻き起こる。
「ゲホ~~~ぎゃあ!?」
「ぎゃあ~~」「ぐわ!?」
うわ~障壁を破壊して、目にも止まらぬ速さで、次々と盗賊達に襲いかかっていき、次々と悲鳴をあげては倒れていく。あれが死んだふりの可能性もあるから、徹底的に全身を叩きのめす。
「くそ、どうなってる? なんで、滑るんだよ。ぐ…ぐ…雹が…クソが~~~」
盗賊の頭は余程私に攻撃を浴びせたいのか、雹の直撃を受けても怯むことなく、怒りに身を任せたまま、私に斬りかかってくる。
このシールドには反射だけでなく、[弾力性]と[軟化性]を持たせているから、剣の斬撃力が周囲に分散されちゃうのだ。おまけに、シールド自体が不可視だから、頭も混乱してる。
私に行使できる反射の力はまだ弱いから、強い相手が複数で一気に襲いかかってくると、すぐに壊されてしまう。だから、どうやって相手の攻撃力を削ぐか、聖域で必死に考えた。その結果が、この弾力性と軟化性なんだよね。オサの話によると、この発想は私が初めてのようで、この性質を利用した方が、人に反射だと察知されにくいと言ってたから、私も安心して使えるよ。
ふふふ、イラついて、指揮するのを忘れて、私に何回も何回も斬撃を与えてくる。
「ねえ、残りはあなただけだよ」
「何!? な、雹が気絶している連中だけに……容赦のないガキめ」
こういった手合いはしぶといから、徹底的に叩きのめさないとね。残り1分程度だから、ここからは雹全部をあの頭にだけ集中攻撃だ。
「あなたは、頭と呼ばれるだけあって強いね。でもさ、8人分の雹が180度あらゆる方位からありえない軌道で襲ってきたらどうなるかな?」
「おい…まさか、冗談だろ?」
頭の顔が真っ青になっていく。いいね、いいね、そういう顔が見たかった!!
「いけ~~~~~~~~」
「やめろ~~~~~~~アバババババババババババババ」
雹をプログラム制御して、あらゆる角度から時間切れとなるまでマシンガンのごとく攻め続けた。15秒後、蜂の巣となった入道雲が消失し、盗賊の頭は顔だけ無傷のまま、そのままゆっくりと崩れ落ちる。全員が手足の何処かを骨折しているようで、変な方向に曲がっている。
悪い奴らには、天罰が降るのだ!!
「やった~~大勝利~~~」
盗賊たちを撃退し、危機が去ったところで、トーイから通信が入った。
『また、とんでもない伝統魔法を覚えたよね。まさか、空の天候を利用した魔法とは……この分だと、[伝統]という言葉に関係する魔法をどんどん覚えていきそうだ。今のうちに、君に知り合って良かった。今回の失敗と成功を基に、これからみっちり教育していこう』
へ? 失敗と成功? あれ? 目眩がする? なんで?
『ほうら、僕の意味がわかったろう? 今の君は、初めての空中遊泳と危機的事態で精神や肉体も摩耗している。そんな状態のまま新規魔法と反射を同時に使うほど身体を酷使させたら、ガス欠になって当然だよ。聖域での訓練で、似たような経験をしたはずだろ? 君がここで倒れたら、盗賊達を気絶させた意味がない』
う、緊迫した状況だったせいで、自分の身体の限界まで考えていなかったよ。
どんどん、意識が薄れていく。
『まあ、この緊急事態を自分の力だけで突破したことだけは凄い。今後は、その後のことも考えようね。馬車の中にいる貴族とそこで呆然と君を見つめているメイドに関しては、善人か不明だし、とりあえず様子見かな。僕が君の身の安全を保証するから、今はゆっくりお休み』
う、ごめんね、トーイ。
そう…させてもらう…ね。




