12話 緊急事態、ユミル初めての対人戦
う~ん、私はとんでもない状況に陥っている場所へ着地したのかな?
粗雑な服装、顔の荒さ、喋り方、どう見ても盗賊っぽい。
荷馬車側の方には、人の気配がしないけど、あっちの貴族用馬車には、メイドさんがいるのだから、多分貴族が乗っているんだ。とりあえず、幌から降りて話し合ってみよう。
「あの~、おじさんたちって盗賊ですか?」
少し怖かったけど、なんとか地面に着地できた。
顔のいかつさのせいで、倒れている人たちを含めた全員の年齢がわかりにくい。
多分、30~40代だと思う。
私の質問に対し、全員がガハハハと豪快に笑う。
「頭、この幼児、結構度胸ありますぜ」
「そのようだな。おチビちゃん、大人しく俺たちに捕まってくれれば、痛い思いをしなくてすむぞ」
うわ~、いかにも小悪党が言うようなセリフを、恥ずかしげもなく言う人っているんだ。
「捕まっても、どうせ奴隷として私を売却するんでしょ?」
「ほう、わかってるじゃねえか」
うん、こういうのは定番だもんね。
というか、これってピンチだけど、不思議とこの人たちから脅威を感じない。こういう危機的事態で感じる直感ってかなり正確だから、自分に自信を持って行動しろと長に言われたわ。
多分、私の持つスキル[反射]で対応可能なんだ。
防御面に関しては安心だけど、どうやって倒そう?
『ユミル、そこに着地してはダメだと言っただろ?』
あ、トーイからの使役通信だ。
トーイは、気配だけでなく姿を誰にも察知されないよう、精霊の不可視の特性だけでなく、反射を応用したスキル[光学迷彩]も使用して、精霊術師やスキル[精霊視]を持つ人にも視認できないよう工夫を施している。私だけは加護を持っているので、何処にいるのか感覚でわかる。こういう時、人前で会話する場合は、日本で言うところのテレパシーを使わないといけないんだ。私はカーバンクルを使役しているから、何処でもこういった話し合いが可能だから便利だ。
『ごめんね、制御に夢中で話を聞いてなかった』
『そういう突発的なことが起きた場合は、反射をオフにすればいいんだ』
『そうでした』
長からも注意されていたけど、実際に経験したら混乱しちゃって、正常な判断ができなかったよ。
『どうする? 僕がこいつらを始末しようか?』
始末……それって殺すってことだ。私も反射を使って人を殺めることも可能だけど、その行為に慣れたくない。でも、ここは異世界なんだから、そんな甘ったれたことを言っていられないんだけど、突然すぎて覚悟を決められない。
【最後の転生特典です。次の項目から、自分の望むものを5分以内で一つ選びなさい】
え!?
①危機的状況から脱するための伝統魔法1個とスキル1個
→日本の天気に関わる伝統の1つを魔法化したもの
②空間魔法[テレポート]
→視認できる範囲内であれば、あらゆるものを一瞬で転移できる
この緊急事態の中で、選ばなきゃいけないの!?
これ……どっちが正解なの?
多分、どちらを選んでも、盗賊達を撃退できると思う。
それなら、私の好みで①を選ぶよ!!
【伝統魔法[雷乃発生]、スキル[プログラム]を入手しました】
伝統魔法[雷乃発生]
効果:
日本などに伝わる七十二候の一つ。
魔力で周囲の大気を動かし入道雲を発生発達させることで、周囲に雨・雪・雹・霰などを降らせ、周囲に恵みをもたらす伝統魔法。ただし、使い方次第で、それらを自分に敵意を向ける相手に浴びせることが可能。入道雲の規模が大きければ大きいほど、威力・持続時間も上昇するが、魔力が大量に必要とされるので注意すること。なお、規模に関係なく、魔力を込めることで発生物を大きくしたり、落下速度を上昇させ、威力を向上させることも可能となる。大きさは、ビー玉サイズからとなっている。
詠唱:発動、雷乃発生
消費魔力:200~
スキル[プログラム] 消費魔力:0
己の望む効果をステータス上で作成し、伝統魔法に組み込むことで、魔法の制御を向上させることができる。また、新規の伝統魔法を自ら作成することも可能だが、日本伝統に関与しないものは作成不可である。
これは、天気の七十二候に関わるものだ。確か、季節の変わり目となる春分付近になると、この候に入るんだよ。海外から入ってきたものを日本用に改良されて、古くから使われているけど、これも伝統に入るんだ。この真上に入道雲を発生させて、相手に雷や雹をぶつければいいんだね。
スキル[プログラム]、今後転生特典が働かないから、これで今取得した伝統魔法の制御方法や新規の伝統魔法を作りなさいって、神様が言ってくれているんだ。
これなら、この人たちを殺めずに殲滅できるかもしれない。
ただ、これって季節限定なのかな?
この世界の一年は12ヶ月で360日、1ヶ月は30日、各月の名称は年始めから日本の干支の順になってて、今は寅の月(3月)だから季節的に春に該当する。一応、候に合っているんだけど、ステータスには季節限定と記載されていないから、多分入道雲を発生させれば、行使可能ってことでいいのかな。魔力で発生発達させる分、消費量も大きいわけか。
『トーイ、最後の転生特典で選んだ伝統魔法で、盗賊達と戦ってみる』
『この状況で入手したの!?』
上空を見たら、この近辺に小さな入道雲や雨雲がある。
一から作るより、あれらを基にして作り上げればいい。
よ~し、急いでスキル[プログラム]で、制御方法を作成だ!!
もし、作成中に盗賊たちが襲ってきたら、反射で対応しよう。
ふむふむ、幾つかの選択項目があるけど、消費魔力量を先に設定しないといけないようだ。
最低の200でいい。
そこから、どんな選択が可能なのかを見ていこう。
[魔力を利用した大気中の入道雲発生速度]
→5段階の設定があって、最小の200のせいか、速度自体が最低の1しか選択できない。
プログラム補正:
周囲の雲を誘引して、この世界の常識を介して入道雲を発生発達させる。
近辺に入道雲の数が多いほど、大気も不安定だから、発生速度も速くなるはずだ。実際、私の見える範囲に、そういった雲がちらほらあるから、この補正があれば発動も速くなる。
[効果範囲]
→私の指定した箇所を中心に、範囲設定できるようだけど、最小の直径100メートル圏内しか選べない。
プログラム補正:効果範囲の最小を10メートルからに変更して、その10メートルを選択。
範囲が狭くなる分、魔法発動までの時間も短くなる。
[持続時間]→最低の15分しか選択できない
プログラム補正:持続時間の最小を1分からに変更して、とりあえずは15分を選択。
ここを弄れば、浮いた魔力分を威力に回せるよね。
[降雨量] →5段階の設定あり。2を選択。
[発生物の選択] →雨・霰・雹・雷から選択なので、ここは雹だ。
[降下速度] →自然落下:速度も選べるけど、自然のままでいい。
[殲滅対象の指定] →私自身が指定する
プログラム補正:雹全てを殲滅対象へ追尾させるかの選択項目を作成
[追尾機能の有無]→有
[威力]→ビー玉・ゴルフボール・硬式野球ボール・バスケットボール
最小のビー玉サイズを選択
これでいいかな。
雲の発生に大半の魔力を注げば、その分発動時間も短くなる。
威力が足りない場合は、自分でプログラム制御すればいい。
労力の殆どをプログラム制御に回せば、私自身の負担も少ないから、その分を微調整に回せる。
よし、あとは詠唱するだけだ!!
「ははは、ぼ~っとして空を見上げるわ、ニヤニヤ笑うわ、何をやってるんだ、このガキは? まあ、そのおかげで邪魔なメイドを無力化できたからいいけどな。まずは、中にいる奴らの捕縛といこうか」
盗賊一人が、私を指差して笑ってる。私が制御プログラムを作成している間に、メイドさんが縄で拘束されちゃった!!
私が、馬車の中にいる人たちを守る!!
悪人共なんてやっつけてやる!!
「私はあなたたちと戦うよ!! 発動、[#雷乃発生__ かみなりすなわちこえをはっす__#]」
ターゲットは、ここにいる9人だけでいい。
メイドさんたちや馬車には絶対に当てない。
さあ雹よ、こいつらに裁きの鉄鎚を下したまえ‼︎




