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11話 脱出ミッションの開始です

「はい、ここで止まって」

「ほえ? 聖域を出て、まだ10分くらいしか経過していないよ?」


ここは、森の隙間だ。

上空を見たら青空が綺麗に見えるもの。

早く、平原に出たいけど、幼児の体力だと何日かかるのかな?


「ユミル、人の子供というのは、微細だけど甘い匂いを放つ。当然、魔物はそれを感じ取る嗅覚を持っているから、子供は狙われやすい」


「それは、長からも聞いているよ」


突然、何を言い出すのだろう? その匂いを察知されないよう、私も薄い反射のシールドを身体に張っている。これは、魔力や匂いを周囲に漂わせないようにする役割で、制御も簡単だ。


「そうさ。でもね、この聖域って山間に位置する森の最深部にあるから、大人でも方向感覚が狂ってしまい、抜け出すのに丸4日かかる時もあるんだ」


「4日!? それじゃあ、幼児の私は脱出にどれくらいかかるの?」


流石に、それは厳し過ぎるよ!!

魔物と遭遇しにくいだけで、遭遇率は決してゼロじゃない。

一応、短剣を持っているけど、扱い方を全く教えてもらってない。


「脱出は不可能だね。だから、行方不明であっても、死亡扱いとなったんだよ」


う、そうだった。


というか、聖域にいる間、森からの脱出方法を全く教えてもらってないから、てっきり精霊専用の抜け道でもあるのかなと思い楽観視していたけど、この様子だと、そんなのは無さそうだ。


「そんな君には、今からミッションを与える。聖域にいる間、君はエレメンタルスキル[反射]をいっぱい練習したから、もう原理も理解しているはずだ。反射を使い、この森を2時間で脱出してほしい。あることに気付けば、今の君なら可能だよ。」


「え~~~2時間!?」

「今から開始だ!!」

「問答無用なの~~横暴~~~」


丸4日かかる距離を、どうやって反射を使って2時間で脱出できるのよ~~~。う~トーイは本気のようだし、真剣に考えないといけない。え~と、魔力のシールドを張るだけが反射の能力じゃないというのは、私もわかる。私自身が相手に触れるだけで、反射を適用できる。体内には、血管が縦横無尽に張り巡らされていて、その中には血が流れている。その流れを逆転させることで、相手の死に至らしめることも可能で、魔力を込めることで反射の力を倍増させることだって可能だ。例えば、私が木にパンチすると、ほんの少しだけ波が内部に発生する。その波を反射で乱し魔力で倍増すれば、多分折ることだって可能だ。


でも、それが出来たとしても、脱出とは何の関係もない。

考え方を脱出だけに絞ろう。


2時間で脱出するには、森を抜けるよりも空を飛んでいった方が……あ、もしかして!! ここは森の隙間、ここで止めたのもそれが理由だとしたら、私も納得できる。


「ふふふ、トーイ、答えがわかったよ。早速、実践してみる」

「早いね、やっぱり君は賢いよ」


よ~し、トーイを驚かせてやるよ~~~。



○○○



「ほわ~~~~、凄い眺めだ~~~」

「こらこら、集中を乱さない。今の君は重力と風の制御に全神経を集中させるんだ」


そうでした。


私は反射の力を利用して、トーイと一緒に空を飛んでいる。風魔法の場合、風を制御するだけで楽に飛べるらしいけど、反射の場合は、[重力]の力の向きを反転させてから身体を浮遊させ、そこから[風]の力を反射させて飛翔しないといけないのだけど、ベクトルの制御が想定以上に困難のせいか、上空20メートルくらいまで浮遊できたけど、そこからゆっくりと前進させるので精一杯だった。


「私もトーイのように、ビュンビュンと飛び回りたい」


私は必死に制御してフヨフヨと前進しているのに、トーイは私のそんな様子を見ながら、ビュンビュン飛翔しているから、ちょっとムカついている。


「10歳になる頃には、僕のように自在に飛び回れるようになっているさ」


あと6年か。練習あるのみだね。


「それに、風魔法と違って、反射による飛翔を完璧に制御できるようになれば、思わぬ副産物を入手できるんだ」


「何を入手できるの?」


「それは、自分で確かめることだね」


う、肝心なことを教えてくれないのね。

まあ、いいけどね。


30分練習に費やし、1時間くらいフヨフヨ浮いてトーイの指示した方向を進んでいく。上空20メートルほどでも、景色は最高だ。下を向くと、森が広範囲に鬱蒼と生い茂っており、木々の隙間から魔物が所々に徘徊しているのも見える。大人たちは、常に気を配りながら木々の間を移動していくから、短距離であっても時間がかかるんだね。こうやって全体を見渡し、遠目から魔物を確認したことで、何の力もない幼児一人での脱出は不可能だとわかるよ。


上空にいることで、ここからでも森の出入口を確認できるし、少し先には街道も見える。あの道に沿って歩いて行けば、目的地[タウセント]という街があるんだね。その街に到着したら、私の冒険者としての活動が始まる。私の魔法属性って[水][風][空間]の3つで、空間に属する伝統魔法は特殊な状況でないと発動しないから、今は水と風の攻撃魔法をメインにして魔物たちと……


「わ!?」


何、これ!? いきなり後方から物凄い風が吹いてきたよ!!


「これは、突風だ!! いけない、ユミル!!」

「ふにゃああ~~~、こんなの制御できないよ~~~ほわああ~~~」


風の力が強いせいで、反射の力が乱れる~~~。私自身があちこちに揺さぶられるよ~~~。これって、膨らんだ風船が急速に萎んでいく時のような動きだ~~。う~~~~~なんとか着地だけは成功させないと~~~。


あ、今街道に2台の馬車が見えた!!

1台は、貴賓のある形状で貴族用だと思うけど、もう1台は幌があるから庶民用だ。

しかも、何故か止まってる!!

あの荷馬車の幌になら着地できそうだ。


「あ、ユミル!! あそこはだめだ!!」


トーイが何か言ったような気がするけど、今は声に傾ける余裕がないよ。

着地、着地、着地~~~~。

幌に着地した衝撃音が[ボン]と鳴ったけど、なんとか成功したようだ。

はあ~~~助かった~~~。


「どういうこった!? 金髪の幼女が空から降ってきたぞ!!」

「お頭、こいつは成長したら、かなり化けますぜ」

「かははは、ああ化けるな。中にいる子供共々、捕縛だ」


「ほえ?」


化けるって、なんのこと?


私が体勢を整えて周囲を見渡すと、地面に倒れ伏している男達が3人、6人のむさ苦しい男たちが上品な馬車を包囲し、1人のメイド服を着た20歳くらいの女性が、ロングソードを構えたまま馬車の出入口を背に盗賊と対峙しており、驚愕な瞳を浮かべて私を見ている。


私のいる荷馬車には、誰もいない。馭者さんの姿もないから、逃げたのか、もしくは何処かで殺されたのかもしれない。


あれ?

これって、今まさに襲撃されている状況では?


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