10話 聖域からの旅立ち
精霊カーバンクル族の抱える柵を取り払ってから、3日が経過した。
全ての準備が整ったことで、遂に旅立ちの時がやってきた。
体力に関しては、聖域の湧水を飲んだことで、すぐに全快したけど、肝心のエレメンタルスキル[反射]の扱うにあたっての操作があまりにも拙かったので、長から合格点を貰えるまで、私はずっと体力と魔力を鍛えるためのトレーニングを実施し、3日目の時点でようやく及第点をもらった。
トーイ曰く、『3日もかかったんじゃなくて、3日で認められたこと自体が異常なの。反射は制御がかなり難しく、状況次第で何処に反射させるかも常に変わってくる。君の場合、発想力とイメージ力が、これまでの使役者より遥かに豊かで、扱いが上手い。魔法のない世界で、どうやって養ってきたのか、つくづく疑問に思うよ』と言われてしまった。日本のライトノベルで豊かになりましたと言い返したけど、『ライトノベル? 何それ?』と言われ、説明したけど文章だけの小説で、反射に対する理解力がすごいと褒められてしまった。
先代長の容態は安定しているけど、今はまだ睡眠による回復に専念しているようで、まだ目覚めていない。100年間怨念によって命を削り取られていたから、聖域の水を飲ませても、精神自体がすぐに回復しないようで、皆は焦らずじっくりと見守る方向で、先代長の目覚めを待っている。
そして、私が聖域に滞在している間、私の家族の方にも動きがあった。
契約の(仮)が外れて以降、カーバンクルたちは毎日転落現場やここから一番近い[タウセント]という街へと赴き、私に関わる情報を逐一収集してくれた。
私はその情報を聞いたことで、自分の置かれている状況を理解できた。
家族の遺体は既に引き揚げられていて、私は遺体なしの死亡扱いとなっている。4歳の幼児が転落事故で奇跡的に生きていたとしても、転落現場が森の出入口から遠いため、魔物の棲む森を一人で脱出できるわけがないと判断されたのだ。
案の定、子爵家は私の伯父が引き継ぐことになり、私は家に戻らない方がいいと長からも忠告された。幸い、ここはルナイスカ子爵家の治める領地の隣に位置しているベルーガ伯爵様の治める領だから、私の顔を知る者はいない。まだ、貴族間のお茶会などの催し物に参加したこともないので、仮に貴族と出会ったとしても、私が生き残りのユミル・ルナイスカだと思わないだろう。唯一の懸念事項は、母の両親、私にとって祖父母に当たる人たちだ。その方々は今も健在で、もし遭遇したら気づかれる可能性も高いけど、こればかりは遭遇しないことを祈るしかない。もう、貴族のゴタゴタに巻き込まれるのはごめんだ。
約100年間カーバンクルたちを苦しめた貴族の方も、その後どうなったのか気になったので、長に尋ねてみた。すると、『魔導蒸気列車を通じて、部下達を王都へ放った。現在、奴らの状況を偵察中だ。処罰に関しては、一番の被害者である父が目覚め、健康を取り戻してからだな。その間に、奴らは怨恨で何者かに殺されるかもしれんが、それはそれで面白い。どんな死に様を迎えるのか、ここから眺めるのも一興だろう』と言っていた。言い方からして、その貴族を生かす方向はなく、どんな死に様を迎えるのかを楽しみにしているような感じだった。
この3日間で、外の状況も落ち着いていることがわかったし、私の方も準備が整ったので、いよいよ旅立ちの時がやってきた。皆と相談した結果、当分の間はこの近辺にある大きな街タウセントで暮らすことに決めた。今は冒険者として活動するにしても、体力強化に専念することと長にも言われている。
今の私の服装は、ここへ来た時の服装と違う子供用の質素なワンピースだ。カーバンクルたちは時折森を探索し、使えそうなものを全部拾ってくる習性があるので、私はその中から子供用のワンピースと、一振りの短剣と普通の小さなポシェット、金貨3枚と銀貨12枚を貰っている。当初着ていた上質な貴族用のワンピースに関しては、私のアイテムボックスの中に入っている。事故現場には、お父様たちの財布も落ちているけど、それだけが無くなっていると怪しまれるので、私も拾っていないし、カーバンクたちも現場を荒らしていない。
旅立ちの日の朝、天気は快晴、陽の光のおかげで周囲も明るい。
ぬかるんでいる地面が多少あるけど、概ね良好だ。
私とトーイは聖域の入口にいて、最後のお別れをするため振り返る。そこには、長を始め、モフモフなカーバンクルたちが勢揃いしていた。
「長、カーバンクルのみんな、今日までありがとう!! 私は、トーイと一緒にこの世界を生きていくよ」
「私の力が必要な場合は、いつでも召喚しろ。ただ、現状の魔力量では1日2回が限度だ。緊急時だけにしろよ」
加護を貰い、その後の訓練で、私の魔力量は191から721へと大幅に向上した。カーバンクルを召喚する際の消費魔力は300、1日2回が限度だ。魔力を回復させるポーション類を飲めば、複数回の召喚も可能だけど、子供のうちからポーションに頼るなと言われているから、召喚は無理せず1日1回とだけ覚えておこう。
「はい!! それじゃあ、行ってきます!!」
森の脱出方法を聞いていないけど、トーイが付いてきてくれるなら安心だ。
「ああ、気をつけてな」
カーバンクルの聖域、ここは私の第二の故郷だ。
定期的に戻ってきて、私の活動記録を長たちに報告したい。
私は皆と別れを告げて、トーイと共に聖域を出た。




