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浮沈  作者: ラララルルル
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 彼は見舞いの度に原稿を届けた。大した話はしなかった。ただ、頻繁に通った。彼女はやがて、彼がやってくると舌打ちをするようにまでなった。

「要らないよ」と言うが、彼は何を嘯いて、と片付けてしまう。

 ある時、彼女は言う。

「葬式の準備はしているかい、財産はどうなるんだい、姉とは連絡ついたかい」

「母さんは死んだ後の事なんて考えなくて良いんだよ」

 彼は顔色一つ変えずに言う。

「生きている間は、生きていることだけで良いじゃないか」

「死んでから死んだ時の用意ができるかい」

「いいんだよ。葬式も財産も、お母さんが気にかけることじゃないだろう? じゃあ、何、葬式が順風に行われなきゃ生きている母さんは困る? 一軒家と預金を叔母さんや父さんにとられて何か悪い? 全部、母さんが死ぬ後のことさ。関係ないだろう」

「まさか……本当に常識の分からない子だね。それにねえ、家も預金も大したものじゃないよ。争ってまで取る分も無いさ」

「じゃあ、お母さんが全部使ってしまえば良い。何か欲しいものある?」

「……本当はあんたにあげたいけど。だって、路頭に迷う一人息子だから」

「俺は大丈夫だよ。どうにでもなる。順境じゃあ無いけどね」

「あはは! そりゃあ、お前、今考えればどうだって良いことさ。生きて育ってくれさえすりゃあ——」

「へえ、本当にそれだけで良いの?」

 彼はからかうように言う。

 暫くの沈黙がある。

「私がいなくなれば、せいせいするとでも思っているかい?」

 彼は答えられない。

「まあ、少なくとも寂しいとは思わんだろ」

 彼は真剣な表情をする。

「死ぬのって……怖い?」

「別に……そうでもないよ」

 母は、すこぶる冷静沈着である。従容を決め込んで、少しも動揺しない。彼は向きになって、彼女を問い詰める。後で、酷なことをしたと反省するが、彼は夢中になっている。何故か彼女を変節させようとする。彼女はそんな彼の猛攻を、取るに足らないものといなす。

「たくさん感情を持って生まれてきてしまったから。それが憎いと思うことがあった。死は、こういう感情の支配から、ずっと解放されることなのよ。そう思えば、悪くないでしょう?」

 彼は頷く。けれども、心にぽっかり穴ができてしまった。

「さあさあ、私があんたをこの世に産み落とした、罪深い張本人だよ? どうだい、苦しいかい」

 彼女は調子づいて、弄舌になっている。彼は不愉快を覚えながら、

「割と、最近はね」

「ほれ、どうだい。私がいなくなりゃあ、せいせいするだろ」

「どうだか」

 彼女は一転、寂しそうにする。だから、慌てて付け足す。

「お話、読んでくれれば、分かるだろ?」

「……ははは。そうかい。面倒だねえ、本当に面倒なんだ。……『僕らには明日がある』かい」

「……そう、まだ明日はある」

 彼はただそっぽを向く。彼女はそれから終始、窓外の浮雲を眩しそうにして見ている。

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