5.俺の日常とソフィ
「いらっしゃいませー!」
「おう!今日も兄ちゃん元気いいなぁ」
「大将の賄いを食べてれば元気も出ますよ。今日も?」
俺はお猪口を傾ける仕草をした。
「一回言ってみたいんだよ。『とりあえず生!』」
「それでいいんですか?」
「いんや言ってみただけだ。日本酒のお冷と今日の大将のオススメ」
「たまには奥様も一緒に来てくださいね」
「いやぁ、あいつがいたら自由に飲めないだろう?がっはっは」
「お兄様!」
俺は厨房の奥に妹を引っ張って行った。
「『お兄ちゃん』だ。なんだよ?」
妹はなにやらご機嫌斜めだ。昼飯の賄いは旨かったろうに。いったい何が不満なんだ?
「何を平民と普通に会話しているんですか!あんな下賤の者と会話をするなど高貴なる王族としてどうかと……」
俺は我慢した。妹でなければ、顔面に拳骨ストレートを繰り出していたところだ。
「はぁ。だからお前はこっちに向いていないんだ。平民として暮らすって言っただろ?できないなら、今すぐ向こうの世界に帰るんだな。それがお前の幸せだ。平民と会話と言うがな?この世界に王侯貴族は存在しない!」
「何ですってー!!」
「声がデカい」
「女将さん、こいつをなんとかしてくんない?俺、ホールなんとかするから」
「わかったよ。初めて会った時のあんたみたいだね」
「そんな穴があったら入りたくなるような話はやめて下さい」
俺はやや赤面してしまった。
賄い……旨かったなぁ……。おっと新しいお客様だ。新顔と常連さんだ。
「いらっしゃいませ」
「おう、お邪魔する。うちの新人だ。よろしくな。兄ちゃんと同じくらいの年齢じゃないのか?」
「田口です。初めまして」
「瀬名って言います。趣味は安売りで買い物です」
「兄ちゃん、若ーのに主婦みてーな趣味だな?」
あっちのテーブルのお客さんだ。もうけっこう出来上がってるな?
「注文が決まったら気軽に声かけて下さいね」
ふぅ、一休みできるかな?
「平民風情が私に指導なんて、頭が高いのよ!」
「貴女のお兄様を指導したのは私ですよ」
なんてことだ。ソフィと女将さんが言い争っている。
「貴女が……お兄様の指導……」
見つかった。
「お兄様!この平民に指導を受けたのですか?」
「そうだ。あのなぁ、お前は頭が堅い!身分に囚われ過ぎだ。視野も世界も狭い」
「お兄様……。ヒドイーー!!」
ソフィは俺と暮らしている部屋に閉じこもった。これからは平穏に仕事ができる。一安心だ。いっその事もう元の世界に戻ればいいのに。と思ってしまう。