8-3 〈天土自在〉
ちょっと信じられないような気持ちで、クラハは。
自分の手が掴んだそれが、一見継ぎ目のなかった床のワンブロックであることを確かめて。
開いちゃったんですけど、という気持ちで、ジルとデューイのことを見た。
「…………すご」
「先史大遺跡、おもしれ~~~~!!」
足の長いふたり組は、それぞれの言葉で感動を口にしながら、長い足を活かしてスパスパとこっちまで歩いてくる。
しゃがみこんで、
「うわ、これだ」
「うわっ! これじゃん!」
「これですよね」
三者の意見が、一致した。
おそらく他に誰かが居ても、間違いなく同じことを言ったはずだと思う。だって、おあつらえむきすぎる。
床を外せば、べこっと小さな収納スペースがあって。
そこに押せと言わんばかりに、扉の『開』と『閉』を表すような記号が描かれた、水槽の部屋にあったのと似た操作盤が設置されているのだから。
これはもう、とクラハは思う。
これはもう、ウィラエが望んだとおりのものを見つけてしまったのではないか、と。
みんなを呼んでくる、とジルが外に出る。
するとクラハは、デューイとふたりきりになるわけだけど、
「……あのさ、それ」
「……気になりますよね」
そのボタンは、それとして。
ふたりの視線は、同じところに吸い込まれていた。
そのボタンの横にあるもの。
謎の銀色の、てろりとした物体に。
「なんでしょうか、これ」
「魔合金じゃねえかな」
魔合金。
それをクラハは、知っている。
通常の金属とは異なる、ダンジョンなどの魔力の濃い場所において採取される特殊な金属の総称だ。性質も加工方法も各々様々ではあるが、総じて魔力の影響を強く受けるために強く変質し、貴重品としてはもちろん、強靭さから武具や防具、魔道具の材料として活用されることも多い。
これまでにクラハの最もよく知るところでは、〈次の頂点〉にいた頃、リーダーであるゴダッハが着込んでいた鎧も、その一種を利用したものである。
が。
「でもこれ、液体のように見えますね」
「だな。水銀ベースか?」
ちょい待ち、とデューイが一度部屋の外に出る。
その後、手に器具を持って戻ってきた。
「それは?」
「毒性チェック。あぶねーから。……いやでも違えな。なんだこりゃ」
「持って帰って分析しますか?」
「してえ~。これ動かせっかな。できれば、手とかで触んないで」
やってみます、とクラハは言った。
デューイが保存用の容器を用意してくれたのに、視線を合わせて。
「〈動け〉」
「おっ、」
予想していたより、ずっとするすると魔合金は容器の中に収まっていく。
「…………?」
それはクラハには、何か奇妙な感触に思えた。
「すげえな、クラハさん。下手な魔導師より全然手際いーぜ」
「いえ。なんだか今のは……魔法の効きが、良すぎたような」
ふうん?とデューイは容器の蓋を閉めながら、不思議そうな顔で、
「魔力反応率がたけーのか? だったら扱いが――」
「呼んできたぞ」
彼の言葉の途中で、いつもの声がクラハの耳に届いた。
入り口を見れば残りの五人も、全員が来ていた。
「どうやら、見当違いの推理にはならなかったようで安心だ」
ウィラエがまずは先陣を切って、部屋の中に入ってくる。
一緒になってそれを見て、ふむ、と頷くと、
「誰か、スイッチを押したい人はいるかな」
三秒、彼女は待った。
が、誰も名乗り出ないのを確認してすぐに、
「え、」「うお、」
ぽちっと。
思わずクラハが、デューイと一緒になって仰け反ってしまうような潔さで、彼女はそれを押した。
遅れて響いてきたのは、がちゃん、という鍵の開いたような音。
それから、ごごご、と鳴った、地響きの音。
「さて、答え合わせに行くとしようか」
言うや颯爽と、すでに当たりをつけていたらしい場所へとウィラエは向かっていく。
†
いい加減に、感覚が麻痺してきた気がする、と。
ジルは今日何度目だろう、その壮観を見て、心の中で呟いた。
「広いな。ウィラエ先生、ここが制御室ですか?」
「制御室?」
ロイレンの呟きに反応すれば、親切にも彼はそのまま説明してくれる。
「ええ。そうですね。どこから話せばいいのか――」
大きな部屋だった。
水槽のあったあの部屋と比べても大して遜色がない。この遺跡を見て回って、今のところこれが最大級。そんな部屋。
長い机と椅子が、幾つも並べられている。
その気になれば、百人でも二百人でも入れてしまうような部屋。
先導してきたウィラエが、早速その机のひとつと向き合って何事かの作業を始めてしまったので、ジルはロイレンと、少しばかりの答え合わせを始めることになる。
「ジルさんは水槽の部屋で押したスイッチを見て、何か違和感を覚えませんでしたか?」
「ああ。それは一応」
ええと、とそのときのことを思い出しながら、
「絵が単純すぎるとか、俺が操作できていいのかとか、そういうことを」
「良い着眼点だと思います。私も同じところに違和感を覚えました。そして、そのことには理由があるわけです」
「理由、っていうと」
さらに少しだけ、クラハとデューイと交わした会話も思い出して、
「そもそも開けられるように作られてた、とか」
「……驚きましたね。ジルさん、本当に遺跡調査の護衛冒険者になる気はありませんか? すごく向いていると思うんですが」
本気で褒められるから、本気でジルはそれを謙遜しにかかる。いや今のは自分だけで辿り着いた発想じゃなくてさっき、
「お。何やらジルくんの就職先が決まった音がする」
なんて話していると、すすす、とリリリアが近くに寄ってきた。
「ええ。今決まりました。ジルさんはうちでもらいます」
「じゃあ右半分は教会でもらいます」
「分裂できる前提で話さないでくれるか?」
就職、と途方もない単語を出されたことに若干の動揺を覚えつつ、ジルは先を促す。するとロイレンは、
「有体に言ってしまえば、ジルさんの言うとおり誰でも開けられるように設計されていたんでしょうね。この制御室も含めて」
さらり、とその先を続けた。
「でも、開けやすいってことは大した場所じゃないってことなんじゃないか? さっき、そんな感じの話をしてたんだが」
「そうとも限らないんですよ。世の中には『開けられないと困る』という場所もないではなくて――」
たとえば、と続こうとしたそのとき。
ウオン、と。
奇妙な、巨大な鳥が耳元で羽ばたいたような音が、ロイレンの声を遮った。
「うわ、」「おー」
「百聞は、というやつですね」
目の前。
大きな、白一面の壁。
そこに得体の知れない模様が、くっきりと浮かび上がっていた。
ウィラエが何かの操作に成功したらしい。光の魔法で映し出しているのだろうか。そう思った直後にジルは気付く。その意味が見て取れるわけではないけれど、こういう模様の並び方には、何となく察するものがあった。
「これ、文字か?」
「そうだね」
呟けば、ひょい、と後ろからユニスが答えてくれた。
「ただ、僕がさっき使ったのとは違う言語みたいだな。設計者か使用者の母語が統一古語じゃなかったのかな? 先史時代には現代と違って異なる複数の言語が使われていたって言われてるから、そのひとつかもしれないけど……」
「私は文字自体はまあまあ読めるけど、用語がよくわかんないや。ロイレンさんは?」
「私もさっぱりです。ですが、」
そうだね、とユニスが頷く。
ふたりは、その言語に向き合うひとりの背中を揃って見つめて、
「ウィラエ先生ならできるでしょうね。何と言っても、大図書館の副館長ですから」
ついていけていないのはジルだった。
全く知らない情報を一気に注ぎ込まれた。先史時代には複数の言語があった。へえ。現代と古代では何となく使っている言葉が違いそうだと思ったけれど、その時代だけ見てもそんなことがあったのか。不便じゃなかったのだろうか。それにユニスやリリリア、ロイレンにも読めないのか。ほう。
「大図書館の副館長って」
そこまで整理してから、ようやく疑問が口をつく。
「そういうことができる役職なのか」
「うん。大図書館は最初の大魔導師である〈書の大魔導師〉が作り上げたものなんだけど、元来の目的は先史時代の高度な魔法文明を保存することだったんだ。今の大図書館の役割は大魔導師の認定とか魔法連盟のグループ組織とかそういうのが目立ってしまっているけど、本来の役割から考えると、こういう先史文字の解読も本業の一つなんだよ。先史の文献はほとんど残ってないから、ひとつひとつが非常に貴重で解読価値が高いし。僕もウィラエ先生の生徒だからちょっとは齧ってるけど、読解速度とか解読力とかそういうのは、」
先生には及ばないな、と。
ユニスの視線の向かう先では、ウィラエが机の上に浮かぶ光と向き合いながら、操作を続けている。
「……ちなみに俺は、一個も読めない」
「読めたらすごいよ。大図書館の席を君のために開けなくちゃ」
ユニスが笑う。
「でも、さっきちょっと聞こえちゃったんだけどさ。そういう君が来ることを想定したのが、この場所の施錠だったのかもね」
そうして、別の方向から話は戻ってきた。
どういうことだろう、とジルがさらにそのヒントに頭を悩ませると、
「つまり『時を超えたデザイン』ってことだろ?」
と、デューイが右肩にのしかかってくる。
む、とユニスが対抗するように左肩にもたれてくる。なんだよこれ、と思うジルにも構いはしないで、ふたりの間で会話が始まって、
「正直オレも、そこまで考えて物を作ったことなんかなかったから『へえ~』って感じだけどさ。ジルでも開けられたってことは、そういうことなんじゃねーの」
「そうだね。ジルが『たまたま』開けられたわけじゃなくて、『この場所を知らない全くの異文化者でも操作できる』ように作られていたゾーンがあると見るのが妥当だと思う」
それはわかる、とジルは思った。
理屈としてはそうなる。自分がたまたま天才的な直感で道を切り開いたなんてことは、夢にも思わない。どちらかと言えば、『自分でも乗れる程度の適切な誘導』がここにあったのだろうと、自然な結論としてはそちらが採用されるはずだ。
けれど、
「私もよくわかんないや」
リリリアがさらりと言ったので、自分だけじゃないらしいとちょっとほっとした。
「だよな」
「やっぱ全部わかったや。ジルくんだけです、わかってないのは」
「じゃあ教えてくれ」
「私が自ら手を下すまでもないな。ユニスくん、代わりに言ってやんなさい」
絶対わかってないだろ、とちょっと問い詰めたくなる気持ちもあったが、いい加減そろそろ話を進めたくなって、ジルはユニスに、
「わざわざその『時を超えるデザイン』にした理由って、なんなんだ」
流石にこの場所が『誰に開けられても構わない』ような大したことのない部屋だとは、もう思わなかった。
この会話をしている間もウィラエは膨大な文章を読んで何やら自分では理解の及びつかない魔法操作をしている。だとするなら、ここはきっとロイレンが言っていたところの『開けられないと困る』場所なのだと思う。
では、それは、
「どんな場所なんだ。そんなデザインが必要になる場所って」
「僕の予想は結構シンプルだよ。というか、そのまま。『遥か未来で、君みたいな人が訪ねてきたときにちゃんと開けられないと困っちゃうような場所』だよ」
言われたことを理解するのに、少しの時間が必要だった。
だってそれは、つまり、
「『未来人』の来訪を前提に作られた空間、ということですか?」
クラハが、その先を引き継いでくれた。
お、とジルが目をやれば、さっきまで目を輝かせながらウィラエの操作を後ろから覗き込んでいた彼女が、いつの間にかこっちの輪に加わっている。
つい、という調子だった。つい気になって口を挟んでしまった、という様子。ユニスが頷けば、今度はロイレンがクラハに、それから彼女の隣に立つネイに向かって、
「そういうことになるでしょうね。推測の材料は、いくつかあるんです。たとえば――ネイくん」
「げ、」
「『げ』じゃありませんよ。『げ』じゃ。君は言語非対応者を想定したと思しき設計を、ジルさんの話の中に見つけられましたか?」
「えー……。いきなりテストですか」
嫌そうに、彼女は。
こちらをじっと見つめてきて、その視線に思わずジルがたじろぎそうになったところで。
「赤と黄色の発光とか、わかりやすいですよね」
「そうですね。どんなところが?」
「警告色でしょう。赤も、あと黄色は黒との組み合わせで。二パターンあるのは、人の色覚によっては赤は黒と混同されることもあるので、そのあたりの保険……」
かは知らないですけど、と彼女は。
「数千年前の人類の色覚が今と似通ってるかはわかりませんし。あ、あと変な音とか鳴ってたっていうのもそうじゃないですか。大きな音は雷とかそういうのがある限りは生物が危険を察知するシグナルとして機能しそうですし」
「そうですね。これは私の推測ですが、ジルさんが私たちに伝えてくれた以外にも、様々な非言語性の警告が発されていたのではないかと思います。ただ、そのうちのいくつかは長い時を経て私たちを相手には効力を失っていて、そのうちのいくつか――今ネイくんが挙げてくれたものが、高い普遍性から『警告』としての機能を保持できていたのではないかと」
ほほう、とジルは頷いた。
ほほう、と。
「…………」
「ジル、大丈夫? 破裂しそうになっていない?」
「……いや」
そう言われると、見逃していたもの、聞き逃していたもの、あるいは嗅ぎ残していたものがありやしなかったかと、記憶をじっくり吟味したくなってくる。
けれど今はと気を取り直して、
「続けてくれ」
「では、お言葉に甘えて。だからウィラエ先生は、『魔法鍵のかかっていない扉』に言及したんでしょうね。これだけ遠い未来の訪問者を想定しているなら、当然魔法鍵の系統が変更されて互換性を失った場合のことも考慮しているでしょう。そうなると、物理錠による管理区画が存在するのが望ましい」
「だな。魔法錠もそれこそ数千年残るようなもんだってあるし。その点じゃお前みたいなやつが蹴っ飛ばせばぶっ壊せる物理錠の方が、開錠方法の普遍性や保存性は高い」
「ちなみにユニスくん。先史時代の魔法って、どのくらい現代に遺ってるの?」
「正確な先史魔法の規模自体がわかっていないから、何とも言えないね。でも、大魔導師の称号を持つ人間がそれほどいないということ自体が、一種の答えになっているんじゃないかな」
ジルが「それってどういう」とユニスに質問を重ねるか迷ったところで。
あるいはクラハがロイレンに「単に言語非対応者ではなく、未来に向けたと断定できる理由はあるんですか」と訊ねかけた瞬間に。
「おや。探偵役はすっかり生徒たちに奪われてしまったようだな」
ウィラエが。
こちらへゆっくりと、戻ってきていた。
「すみません、つい興が乗ってしまいまして」
「いや、構わないよ。多人数を相手の講義からは離れて久しいからな。あまり長々話すのも難しいと思っていたところだ。が、」
ぱちん、と彼女は指を鳴らして。
「ここからは、私が引き継ごう」
うぉん、うぉん、と。
制御室の外から、唸るような音が響いてきた。
「ついてきてくれ。皆さんの疑問点を解消しよう」
ウィラエが再び動き出す。制御室の外、螺旋のドームに再び出ていく。
こういうところの押しの強さはユニスに似ているな、なんてことを思いながら、彼女についてジルも七人と動き出す。
変化は、部屋を出てすぐにわかった。
「あそこの大扉、」
「開いていますね。だいたい……ええと、高さで言ったら地上のあたり――」
「入口だ。出口、と今の状況では言い換えてもいいかもしれないな」
クラハの言葉を引き継いで、ウィラエは静かに語る。
「当然ではあるが、当時のこの施設の利用者たちは水路から出入りしていたわけではない。おそらく、我々のような後世の人間たちが侵入してくる経路としても、これを想定してはいなかっただろう」
コツコツと靴音を、螺旋の塔に響かせて。
彼女はゆっくりと、廊下を回りこんでいく。
「地上の入口から入ってきたことを想定した方が、この場所のデザインは理解しやすい。水槽側からは開閉の物理スイッチはなかったが、こちら側から進むにはいくつも設置されているようだからね。人形による警備を前提に、非常時の通行導線を簡便な形に整えていたのだろう」
玄関の鍵を緩めて、中に番犬を配置するようなものか。
合っているのだろうかと不安になりながら、ジルは自分なりにそう解釈する。
「しかし、ここで君たちが先ほど検討していたような疑問が生まれるな」
どうして、と。彼女は、大扉をまるで躊躇いもなく潜り抜ける。
その先もまた、吹き抜けの大きな広間だ。突き当りにはまた、大きな大きな扉。ジルだって力尽くで開けるのはなかなか苦労しそうだと思うくらいの、見上げるような金属扉。
その扉の前。広間の真ん中で、ウィラエはぴたりと足を止めた。
「そんなことをしたのか、だ。どうしてわざわざ、『攻略可能』な形に施設を整えたのか……。クラハさん」
唐突に、彼女は名前を呼ばれて。
「は、はいっ!」
「どうして未来に向けたものだと断言できるか。そう、君は訊いたな」
「……はい。単にこの施設の稼働時に、言語非対応者がここを利用していたという可能性も、排除し切れないのではないかと思いました」
「君の疑問は正しい」
そのとおりだ、と彼女は穏やかな口調で告げた。
「識字率が低い時代だったのかもしれないし、この施設で使用される言語に慣れ親しまない人間が多く働いていたのかもしれない。その可能性を排除できない以上、だからもちろん、ロイレンやユニスが口にしていたのは、単なるロマンに溢れた仮説に過ぎない。が、すまないな。先ほど少しばかり、ずるをさせてもらった」
「ずる?」
「見たんだよ。制御室に残されていた文章を。この施設が何であるかを示す言葉を。だが、口で説明してもなかなかわかりづらいところだろう。だから、ここまで来たんだ」
いいか、と彼女は、
「本来の経路を考えるといい。人形による警備。水槽の部屋の中で鳴り響き、光り輝いた警告。図画の表示による操作方法の解説。大変結構な心配りしてくれる設計者たちが、本来であれば、どこに一番に警告を残したがるか。この施設が何であるかを、どこで、どんな方法で伝えようとするか。
――――それは当然、一番最初に目に入るところではないかな」
言われて、ジルは。
ゆっくりと……他の七人と同じように、ゆっくりと。
先ほどからウィラエが見ている方へと、振り向く。
そこには、大きな。
大きな『竜』の絵が、壁を埋めるように記されていた。
「竜。
それは、本来存在しない生き物。魔の力によってしか存在することのできない……あるいは、私たちの想像力が生み出した、大いなる生き物。力の象徴。
ここまで見れば、大抵の人間はこの施設の危険性を理解する。そして聡い魔導師であれば、本来最初に見るはずの建造物周りの景色と合わせて、その記号の意味するところを察することもできる」
ぱちん、と彼女が指を鳴らす。
もう一度、扉の音が響き始める。
それは、今度はもっと、ずっと強い光を連れてくる。
夏の光だ。大扉の先にもう一枚あった奥の扉。その開きゆく隙間から差し込んで、眩く照らす灯り。全てを明らかにする、その真っ白は。
今、彼らの眼前に、
「この遺跡群は、エネルギー施設だ。
数千年に渡り先史魔法による隠匿を保たれた、巨大施設。地脈と接続することで、安定的な魔力供給を人類に与える、度を超した規模の、しかし忘れ去られた機構。
――――名を、〈天土自在〉」
真っ青な空を貫いてなお、伸びていくような。
あまりにも巨大な樹木の姿を、映し出していた。
(三章前半・了)