第8話 メイド長降臨!
会社役員の肩書きとは。
例の外国人との恋愛ばかりしてしまう女性とは明日の木曜日の晩に事務所である綾子さんの家で会うことになった。
で、今は昼休み。
目の前に二つのお弁当が並んでいる。
一つ目を開けると、サンドイッチがきれいに並んだお弁当だった。
ハム、卵、レタスのサンドイッチにプチトマトを添えて彩りも良く、食欲をそそる。
ぱく
程よい大きさに潰されたゆで卵に適度なマヨネーズとカラシと…おお、いいバランスだな。
「うん、美味しいよ!」
「やった!」
喜ぶ文乃さん。
「私ももらっていいかしら?…本当に美味しいわね!」
「次は先生のだね」
先生の作った弁当箱を開けると…。
え?
「普通だ」
「普通ね」
卵焼きとかウインナーとか普通にきれいに出来ているお弁当だった。
ぱく
「…」
「圭祐くん、どうしたの?」
ぱく
「…」
食べた文乃さんも無言になった。
「ど、どうかしら?」
「うん、普通」
「普通ね。コンビニのお弁当みたい」
「やっぱりいいいっ!」
なんて言うか、一味足りない感じだ。
「そうなのよ!普通に作ると普通の味になって、誰からも『美味しいね』って言われないの!『普通に美味しいね』とか言われるけど、それも普通ってことよね?」
「普通に作らないとどうなるの?」
「これ」
目の前に出されたのは密封型の食品保管ケース。
ジップ○ックとかタッ○ーみたいなものだ。
それを開けると何だかドロっとしたものが詰まっている。
しかも仕切りがないのに『赤、黒、白』の3色に分かれている。
「こ、これがウワサのダークマター…」
そう言いながら文乃さんは箸の先でそれを掬って舌に載せる。
「はうっ!」
「文乃さん?!」
「美味しいっ!」
「へ?」
食べてみると確かに美味しい。
3色それぞれ美味しいが、何味かと言われると表現出来ない。
「美味しくしようとするとどんどん溶けていって、こうなるの!」
また困ったもんだな。
不味くないだけマシだけど。
「ねえ、これをソースみたいに卵焼きにかけたら?」
とろん
ぱく
ぱく
「「うんまーい!!」」
「ただソースがうまいんじゃなくて、卵焼きの良さも引き出している!」
「黒いソースをかけるとただのウインナーなのにまるで高級なソーセージのようね!」
大絶賛である。
「そんなやり方があったのね…」
「先生、これからは事務所の管理をお願いしますね。清掃とか整頓、食事とかの管理も」
「えっ?いいの?」
「肩書きは…えっと…」
「『メイド長』ね!それで先生とその部下はみんなメイド服なの!」
何それ、会社なのに斬新な。
「じゃあ、残りをみんなで食べましょう」
「あっ、私自分の弁当作らなかったわ!」
「先生!」
そそっかしいんだな。
「俺が作ってきたおにぎり食べるか?本当は放課後用なんだけど」
「うん!」
「ありがとう!」
ぱく
ぱく
「…」
「…」
あれ?どうしたの?
「どうしてただの白いおにぎりがこんなに美味しいのっ!」
「おかしいわ!ただの塩おにぎりなのにっ!」
「塩がいいのね?きっとそうだわ!」
「いや、塩も使ってないけど」
「え?」
「直に握ったから手汗…かな?」
二人の顔がひきつる。
「女の子に直握りのおにぎり食べさせるとか、セクハラだからね!」
「圭祐くん!そういうことは先に言いなさい!」
「ごめん」
「代わりのおにぎり、今すぐ買ってきて!」
「早く!」
「は、はいっ!」
俺は慌てて食堂に走った。
売れ残ってるかな?
○奈美視点○
教え子の汗が染み込んだおにぎり食べさせられたなんて…。
でも、なんでこんなにドキドキするの?
「先生、私が捨ててきますから、それください」
「いえ、私が捨てておくわ」
「先生にそんなことさせられません!」
「生徒にそんなことさせられないわ!」
ころん
ころん
「あっ!」
「ああっ!」
私は慌てて転がったおにぎりを拾ってホコリを払う。
…文乃さんも同じことしてる?
○文乃視点○
ああっ、落ちた!
三秒ルール!
よしよし大丈夫、汚れてないから。
…なんで先生も同じことしてるの?
捨てるつもりのおにぎりに…。
「先生、まさか教え子の汗が染み込んだおにぎりを食べるつもりじゃあ?」
「文乃さんこそ、同級生の男の子の汗が染みたおにぎりがそんなにいいの?」
「「……」」
まさか先生も…。
「圭祐くんが戻って来るまでに『処分』しましょう」
「そ、そうよね。この部屋にゴミ箱ないから、食べて処分しても」
「仕方ないわよね」
「「ははははっ」」
その後、圭祐くんの買ってきてくれたおにぎりは放課後用になりました。
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