第3話 卒業後の進路は『起業家』です。え?高校生でも起業できるの?
一人目のシングルマザー登場です。
最近ではもう誰からも認められるスクールカウンセラーになっていた。
実際、本職のスクールカウンセラーが復帰しているのに俺の方が相談件数が多いという現象が発生する程だ。
「圭祐くん、あなた進路はどうするの?」
「大学行く余裕が無いので、本職のスクールカウンセラーになろうかと」
「本職のスクールカウンセラーは高卒では無理よ」
え?
奈美先生の言葉に固まる俺。
「そういうことは知らないのね。精神科医とか大学教員とか臨床心理士じゃないと採用されないのよ」
「そうか…じゃあ大学行くしかないのかな」
「ええっ?圭祐くん、卒業してすぐスクールカウンセラーやらないの?私、このまま助手として雇ってもらおうと思ったのに」
「助手って、案内だけじゃないか」
「私の笑顔と声で悩める生徒を癒しているのよ」
「それはそうだけどさ」
「そこは否定しないの?」
「事実だからな。感謝してる」
「ふ、ふうん。感謝してくれてるんだ」
ちょっと嬉しそうな文乃さん。
「ねえ、圭祐くん。お願いがあるんだけど」
「何です?」
「私の知り合いが会社をクビになったのよ」
「こんな時期に?」
6月にクビとか気の毒だな。
「実は彼女、足腰が悪くてなかなか就職出来なくて、やっと見つけた仕事場だったのよ」
「そこをクビになって落ち込んでいるから相談に乗ってほしくて、就職先の相談もしたいと?」
「さすが分かるのね」
そのくらい分かって当然なんだが。
「それで私の家に連れてくるから、お願い!話を聞いてあげて!」
「分かりましたけど、先生の家に男子生徒一人で行くと邪推されるので、文乃さんも来てくれない?」
「私?いいけど。奈美先生の家って久しぶりね!」
早速次の土曜日に文乃さんと先生の家に行った。
「こちらが私の同級生の桐間綾子よ」
「よろしくお願いいたします」
奈美先生の同級生って25歳か。
年下の俺に対して丁寧というより、おどおどしてるな。
メガネ掛けていて真面目な雰囲気。
身長もスタイルもなんとなく控えめな感じだ。
書いてもらった『調査票』を見て、顔には出さないけどちょっと驚く。
『娘 愛美 11歳(小6)』
中学生で子供産んでるのか?
とりあえず色々話を聞き、心理テストカードを利用して深層心理を引き出していこう。
「その会社の経理を一人でやっていたんですか?」
「はい。でも新しい社員の人もできるようになって、急に風当たりが強くなって…業績不振でリストラされたんです」
「でもそれだけの手腕があるなら他の会社に行けるのでは?」
「面接の時に、小学生の娘が居るので土日出勤や残業が出来ないって言うともう駄目で。そんなこと募集要項には書いてなかったのに」
いや、それは多分足腰が悪いせいもあるのだろう。
面接でわざと出来なさそうなことを言って、使い勝手の悪そうな人は雇わないようにしているんだろう。
「それで相談というのは?」
「私、もう会社とかには就職したくないんです。それで、自分で起業出来ないかと思って」
「何の仕事をです?」
「それが思いつかなくて…」
これは難しい相談だな。
でも色々話を聞いているうちに何か浮かぶだろう。
「つまり、誰か起業したい人か、起業したばかりの人の手助けをする方が向いているんですね」
そういう結論になった。
彼女にはすぐに起業の為の才能を見つけられなかったけど、それを補佐する仕事ならうってつけだ。
起業したくても事務や経理が出来なくて困っている人は多いだろうからな。
「でもどうやってそういう人を探せばいいのかしら?」
「ねえ、圭祐くん」
不意に先生が話しかけてきた。
「あなた、カウンセリングの会社起こさない?」
「え?」
「あなたならきっと成功するわ!」
急な話に固まる俺。
「いいわね!それなら私は社員として雇ってね、社長!」
そしてすごく乗り気の文乃さん。
「お願いします!私を雇って下さい!」
まだ会社を起こしてないのに雇ってという綾子さん。
いやいや、急すぎるだろ。
だけど…なんだかできる気がする。
スクールカウンセラーになれなくても、会社を起こして独立したカウンセラーになって、綾子さんみたいな人にアドバイスしていけばいいんだ!
「奈美先生、ありがとうございます!やってみます!」
それから俺は起業の為の準備を始めた。
そしてその過程で気づいた。
高校生でも起業できることに。
「学園内で起業している生徒は他にも居るから、学内の手続きとかは大丈夫よ」
「俺は親権者が居ないから後見人に許可取らないといけないみたいだな」
「難しい人なの?」
「普通の人だよ。ちょっと変わってるけど」
「圭祐くん、それは普通とは言わないわ」
「先生、一緒に説明に行っていただけませんか?」
「もちろんいいわよ」
奈美先生と来たのはとある一軒家。
「立派なおうちね」
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですから」
「あ、でも、ほら、なんだか結婚するって話をしに行くみたいな緊張感が」
「さすがに結婚相手には見られませんって」
「年の差のせい?それはそれで悲しいけど」
「おおっ!もう結婚相手を連れてきたか!」
「さすが圭祐くんね!」
後見人のおじさんとおばさん(血の繋がった親族では無いです)は俺たちを見るなり小躍りして喜んでいた。
『高校生なのに一人で頑張っているからとすごい』とか言って時々缶詰とかお米とかを送ってくれる優しい人達だけど、さすがに高校生で結婚相手を探してくるとかありえないから。
「いえ、違うんです」
事情を話し、先生も説得してくれて、すんなり起業の許可がもらえた。
「今度は起業に成功したら来いよ!」
「先生との結婚報告でもいいわよ!」
そんな声を聞きながらお暇する俺と奈美先生。
先生、お願いだから無言で赤くならないで。
脈があるとか思っちゃうから。
こうして俺は夏休み中に起業することを目指すのだった。
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