第2話 元占い師の心理カウンセラー
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1話からご覧下さい。
俺は実はネット上ではちょっとは名の知れた占い師だった。
中学2年生の時、たまたま友人の占いの本を見た時にその『数学的原理』に気づいて研究し、その成果を確かめるために『ネット占い師(無料)』をしていた。
無料なのに良く当たるということで評判になり、受験勉強できないくらいだった。
おかげで第一志望の地元公立進学校には行けず、推薦で私立に入ることになった。
でも成績優秀者は学費免除とかで結果的に公立より安い学費で済んでいるのだが。
高校でしっかり勉強しないと学費免除が、無くなるのでネット占い師は廃業した。
それでも息抜きで占いの研究を続けていたが、占い師の仕事から離れてみて世間での占い師の扱いが『オカルト扱い』であることに気づく。
でも俺が研究している占いは統計と心理学に基づいて…って、これ心理カウンセラーじゃないの?と今更ながらに気づいた。
そこでタロットを絵柄を見て選ばせる心理テストカードに改良。
生年月日や血液型とかの性格分析は占い本からでなく、実際に占った人の情報を利用。
そうして『俺流心理カウンセリング』を構築したんだけど試せる相手がいなかった。
そこであの屋上での事件だ。
俺は音楽準備室で奈美先生と向かい合わせに座っている。
間にある机の上には『心理テストカード』が並び、先生の情報をスマホに入れてあるデータを見ながら分析する。
「…というわけで、私は彼にフラれたの。結婚の約束までしてたのに…」
「その彼の印象のカードはどれですか?」
「これかしら?」
「どういう所が?」
「この黒い生き物が悪魔っぽくて、あっ、でもこっちの騎士のカードのほうかも」
もう心の底では好意が無いのに、まだ関係を続けたいってことか。
「先生、彼以外の男性から付き合ってと言われたらどうします?見た目も性格も全て彼と同じレベルで」
「それは…再スタートできるからそっちの方がいいかも」
「じゃあ、彼のことは諦めてください。彼以外では生きていけないならともかく、そうでないなら新しい出会いを待ちましょう」
「だって、そんなの寂しいわよ!もう1人っきりは嫌なの」
説得に困った時にはカードを使う。
「ここからまたカードを選んでもらえます?先生の持つ寂しさについて調べたいので」
「…これかしら?」
「どうしてこれを?」
「ミツバチが集まっていて、楽しそうだなって。私はこの離れたところにいる1匹のミツバチね」
「同じミツバチなんですよ。だから先生もこっちに入れます」
「でも…」
「心理テストではそう出ているんです」
「それなら…」
テストの結果と言えばそう信じやすくなる。
実はこの心理テストのカードの『指し示すもの』はほとんどアドリブだ。
相手を上手く導くために利用しているに過ぎない。
「先生は彼氏が唯一の友人でもあったんですか?」
「ええ。どうしてわかるの?」
話の流れとか言い回しで察しただけなんだけどな。
「話を聞いて選んだカードを見たらそうかと思いましたので」
「すごいわね!占い師みたい」
「これは心理学と統計に基づくカウンセリングで、占いではないですよ」
占いを研究して突き詰めた結果の心理学だけどね。
「そうなの?でも言ってることは当たっているし…本当にやり直せるかも」
「そうですよ。入りたい仲間はどのカードの印象です?」
「これかしら?理由はここが…」
「それなら…」
そうしているうちに昼休みはあっという間に終わってしまった。
「ごめんなさい、お昼ご飯まだよね?」
「大丈夫です。空腹には慣れてます」
「学生がそんなことに慣れたら駄目!次の休み時間、ここでお昼ご飯食べていいわよ」
「助かります!」
そして次の休み時間に音楽準備室でおにぎりを食べることになった。
「それがお昼ご飯なの?」
「美味しいですよ」
「空腹には慣れてるって…苦労してるのね?」
「まあ、ね」
「圭祐くん。あなた、スクールカウンセラーやってくれない?」
「え?でも」
「お昼ご飯奢るわよ。とりあえず、これをあげるわ」
目の前に出されたのは学食で最高級品とされる激厚カツサンド!
俺にお礼をしようと学食の売れ残りを買ってきてくれたらしい。
「やります!」
そして音楽準備室を借りたスクールカウンセラーの仕事が始まった。
俺がカウンセリングするのは奈美先生に相談を持ちかけてきてうまくアドバイスできなかった生徒だけでほとんど女子生徒らしい。
いきなり男子生徒に相談するのは辛いだろうと思い、まず最初に先生が部活の顧問をやっている声楽部の子のカウンセリングをすることにした。
彼女、赤坂文乃さんは最近スランプで思った声が出せないらしい。
「…ということがあなたの中に引っかかっていませんか?」
「そうかも」
「だったら…」
最初は訝しんでいた彼女がどんどん俺の話に引き込まれていく。
「わかった!やってみるね!ありがとう!」
最終的に笑顔で去っていった彼女。
その彼女がわずか3日後に俺の目の前にやって来た。
「圭祐くん、ありがとう!私ね、声が出せるようになったの!圭祐くんのおかげよ!」
教室に不意にやって来た学園屈指の美少女が俺の手を取ってそう言う。
それだけで『宣伝効果』いや『信頼度』はバッチリだった。
その日のうちに多くの女子生徒が奈美先生を通じてカウンセリングを受けに来るようになったのだ。
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