第1話 最初のカウンセリングは先生
新連載です。
よろしくお願いいたします。
「…というわけで、今は精神的に不安定な時期だから恋愛とかやめて、しばらく部活に専念した方が今後いい恋愛ができるよ」
「わかりました!先生、ありがとうございます!」
微笑んで俺の前から去っていくのは学園屈指の美少女一之瀬梨華。
「はい、次の人」
「さっきの梨華さんで最後よ」
そう言ってくれるのは助手でクラスメイトの赤坂文乃さん。
彼女も美少女なのだが、何より特徴的なのがその『美しい声』。
「ふああ、もう下校しないとな」
「圭祐くん、今日もお疲れ様」
その言葉だけで疲れが吹き飛びそうになる。
片付けをして音楽準備室から出ると、音楽教諭の萩原奈美先生に鍵を返しに行く。
「終わりました」
「ありがとうね。圭祐くんのおかげでこの学校の女の子たちみんなが救われているし、私もおかしなアドバイスをしなくて良くなったから本当に助かるわ」
俺はこの学園の高等部2年生、持尾圭祐。
ある日までは目立たないモブ生活をしていたが、奈美先生の『人生相談』に乗ってから学園内での立ち位置が変わってしまった。
この学園の『スクールカウンセラー』に抜擢されてしまったのだ。
この学園に定期的に来ていたスクールカウンセラーが病気でお休みなのに、人手不足とかで代わりのスクールカウンセラーが派遣されず、学園内の生徒たちの相談を先生たちが受けることになっていた。
勉学の相談ならまだしも、多くが友達や恋愛の相談で、先生たちはきちんとした答えを出せなかった。
そんな時に、たまたま俺は奈美先生の人生相談をして、先生の悩みを解決に導いた。
『圭祐くん。あなた、スクールカウンセラーやってくれない?』
『え?でも』
『お昼ご飯奢るわよ』
『やります!』
これも貧乏がいけないんだ。
両親が失踪してて親戚もいない一人暮らし。
自炊できるけどお弁当の材料買うお金も足りないから、こっそり屋上でおにぎりを食べる日々。
そのおかげで飛び降り自殺しかかった奈美先生を助けられたんだけど。
その話は2か月前、今年の4月に遡る。
いつものように立ち入り禁止の屋上に行こうと思ったら、4桁の錠前が誰かに開けられていた。
くっ!俺の聖地に誰か侵入したな?
せっかく苦労して外した鍵を易々とはずしやがって!
まさかカップルとかじゃないよな?
イチャイチャしていたら文句も言えないな。
いや、むしろ俺みたいな一人寂しい奴かも。
それなら友達になれるかもな。
そう思って扉を開けると、奈美先生が居た。
そっか、先生なら鍵の番号知ってるよね。
でも、奈美先生の挙動がおかしい。
フェンスに近づいたり離れたりしている。
まさか?
奈美先生が意を決してフェンスを跨いだ瞬間、俺は駆け寄ってその体を抑えた。
「離して!死なせて!」
やっぱり自殺する気だったのか!
「先生、飛び降り自殺すると地面に叩きつけられるまでの時間が何十倍にも感じて物凄い恐怖を感じるだけじゃなくて、地面に激突してからも脳は生きていて地獄の苦しみを味わうんですよ」
引っ張り戻しながらそう言ってやる。
「うそっ?!いやああっ!」
急に体制を変えてこちらに体重を預けてきた先生に、俺は押し倒される形になった。
「うぐう」
「あなた圭祐くん?ごめんなさいね!」
いえ、その大きな胸がクッションになってくれたので…屋上のコンクリには激突したけど。
「ちょっと背中をぶつけただけですから。ほら、もう大丈夫です」
「それなら良かったわ。ところで、圭祐くん。あなた、自殺とかに詳しいの?」
「どうして?」
「さっき、ほら。飛び降り自殺すると何とかって」
「ああ、そういうことくらいなら知ってますよ」
「教えて!どうすると一番楽に死ねるの?!」
「老衰ですね」
「へ?」
「自殺で苦しくない方法なんてありませんよ。楽とか言われている煉炭自殺も表面に出ないだけで、完全に意識が消えるまで痛みと苦しみの無間地獄ですから」
へなへなと座り込む奈美先生。
「楽に死にたいのに…」
その言葉を聞いて俺は制服の内ポケットからカードケースを取り出す。
「先生、この中からカードを選んで」
「え?はい」
先生が選んだのは『白うさぎ』のカード。
「どうしてこれにしたんです?」
「何だかうさぎが楽しそうで」
「そうですか。ねえ、先生。まだやり直せますから俺に事情話してくれません?」
「やり直せるって…どうして私が彼氏に捨てられたって知ってるの?!」
「そんなこと知りませんよ。でも、このカードを選んで『可愛さ』や『楽しさ』を感じた人は、まだ生きる力が残っているんです」
「そうなの?」
「だから俺に相談してみてください」
「わかったわ」
それが俺にとって初めての『心理カウンセラー』のお仕事だった。
お読みいただきありがとうございます。
少しだけ連続投稿します。




