花火 (テーマ・悲しみ)
蒸し暑さから解放され、渇いた風が吹き抜ける夜。蝉が夏を繋ぎ止めようと盛大に鳴いていた。
祭り囃子に明るい声が虚しく響く中、私は星空を見上げていた。
私は雪深い山奥で生まれた。顔にシワを刻んだ職人堅気のお父さんに見守られ、ゴツゴツした手で優しく育てられた。
そうして順調に成長した私は、今日初めて町に来た。
町は大きかった。高い建物があり、大勢の人がいる。山とは違って動物たちの声はない。代わりに自動車や人の声がする。
正直、五月蝿すぎた。ここで生活しろと言われたら無理と答える。それぐらい私には合わない。
夕方になり、町の外れにある神社に連れてこられた。緑が多くて虫の声がする。
私が安堵していると、お父さんがねじり鉢巻をした人と話し始めた。途中で私の頭を撫でながら、自慢の子だと紹介する。
私はちょっとくすぐったい気持ちになった。
それからお父さんは祭りの準備をする、とどこかへ行った。することがない私はボーとしたまま待っていた。
太陽が沈み、ちらほらと星が顔を出してきた頃、お父さんが帰って来た。その顔は笑顔なのだが、どこか影を落としている。
その表情で私は悟った。ついにこの時がきたのだと。
お父さんは私を愛おしそうに抱き上げると、舞台へと連れていった。
私はここから飛び立つために生まれた。さあ、覚悟は出来ている。私の勇姿を目に焼き付けるがいい。
爆音とともに空高く舞い上が……らない。ダメ、このままだと……
阿鼻叫喚と火の粉が舞った。