第6話『調査開始』
放課後。早速、調査が開始された。まず新聞部へと赴くことにした。この部は前回の葉月失踪事件について生徒に取材をしていた。ただ事件の内容があまりにも非科学的すぎてろくな情報を得られず、ただの憶測だけの記事とはなっていたけれど、一度目撃者に取材しているのだから、そこに行けば目撃者たちの情報を集められるそう2人は考えていた。そしてそこからその目撃者に直接会って、話を聞いて情報を精査する。直接会うのは、新聞部の人づての情報より直接訊いた方が確実で詳しい情報を得られるだろうから。そんなわけで2人は新聞部から目撃者のリストアップをしてもらい、その人たちのもとへと行くこととなった。その目撃者たちは多く、やはり放課後は部活している生徒もいたり、まだ放課してからすぐというということもあって単に残っていた生徒も多かったようだ。ただそこから得られた情報は『走っていく姿を見た』や『生徒玄関で見た』などなど、どれもこれもごく普通の目撃情報でこれといった何か失踪に繋がるような情報ではなかった。おそらくこれは以前に警察が調査した時もこんな感じだったことだろう。決して有力とは言えない情報ばかりで、言ってしまえばそれは事件に関する情報がまるでないのと同じで、だからこそ捜索は難航してしまった。それと同じように、風花たちもそんな情報ばかりで行き詰まったかのように思える状況であった。でも決して2人は諦めることなく『葉月と再会するため』と自身を鼓舞させて、新聞部からもらったリストを元に情報集めを頑張っていた。そしてそんな中、ある1人の少女が――
「急いだ様子で階段を上がっていくのを見たんだけど……そこで彼女足を思いっきり滑らせてそのまま宙に浮かんでそのまま踊り場に背中から落ちると思ってたら――」
「葉月が消えた……?」
その風花の言葉にその少女は深く頷く。だがその表情は未だにその事実を信じられと言わんばかりのそれであった。実際にその場を目撃しているというのにも関わらず、その現象があまりにも非現実的過ぎてとても信じられるものではなかったようだ。何かの見間違いかもしれないし、何より本人自身が自信なく警察に報告することはしなかったのだという。その現象は間違いなく風花や和彩たちが今日見たそれと同じものであろう。またその証言に確実性をもたせるように、その少女の友達やそれからのリストの目撃者たちも同じようにその現象を見たという人がいた。その証言はまごうことなき事実であり、やはり実際に葉月は1回目の失踪でも魔法のように消えていなくなっていた。今回の失踪と合わせて考えると、どうやら『葉月に何かしらの危機があった時』にこの世界から消えてしまうという結論が風花と和彩の間に導き出されていた。ただ、だからといってこの現象の解決方法が見つかったわけではない。そして新聞部が取材した目撃者のリストも終わりを迎え、もう特にこれ以上得られそうな情報がなくなってしまった。さて、これからどうするか2人が途方に暮れていると、
「あのぉー……樫野さんの失踪事件について調べてるって聞いたんですけどぉ……」
2人の前に暗そうな雰囲気の少女が現れた。彼女はオカルト研究部の部長であり、噂で葉月の失踪にオカルト的要素を含んでいることを知り、興味が湧き風花たちに話を聞きに来たのであった。とりあえずその彼女の案内でオカルト部の部室でその失踪事件についての話をすることとなった。風花としてはたとえどんな僅かでも、希望が見えるならば何が何でもすがりたい状態であった。もしかしたらオカルトに詳しい彼女なら、何か少しでもいいから情報が得られるかもしれない。そんな期待を胸に抱き、風花は部室へと赴くのであった。
「――ふむふむ……状況はわかりましたぁ……それに思い当たる節があります……」
風花が葉月の失踪事件について簡潔に説明すると、納得したように何度か頷いてそんな風花にとってはとても嬉しい言葉を口にする。
「ホント!?」
まるで水を得た魚のように元気を取り戻し、前のめりになって部長に迫る風花。今までに全くなかったそんな言葉に、期待が風船のようにどんどんと膨らんでいく。
「えぇ……もちろんそれは科学のように完全に証明されたものではなく、確実性に欠けますが……1つの説としては十分かとぉ……」
「どんな非科学的なものでもいいから、聞かせて!」
風花は藁にもすがる思いであった。たとえどんなにオカルトめいた話だろうとも、それがこの謎の現象の解決に少しでも近づけるならそれを信じたい。風花はそう考え、その話を聞くことにした。
「え、えぇ……おそらくそれは――」
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使われなくなったある教会。篠崎風花はその奥のちょうど外の月明かりがステンドグラスを通して差し込んでいる場所に跪く。そして手を合わせて目をつぶり、それを額に押し当てる。
「神さま。もし私をお許しになってくださるのなら、樫野葉月を……私の大切な人を返してください! 私は……あの人なしでは生きてはいけません。彼女がいたからこそ、私は今ここにこうして存在できるのですだから――」
困った時の神頼み。まさにその言葉通り、風花はそうやって神に祈りを捧げていた。作法なんて全く知らないので、これがはたして正しいのかもわからない。そもそもここはもう廃墟で、神さまにこの声が届くのかもわからない。だけれど、もう風花にはそうやって祈る以外の方法はなかったのだ。ただひたすらに葉月の帰りを願い、待つしかなかったのだ。きっと、きっと葉月と再会できると信じて――