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ヒムカザキハ  作者: 瑠璃ヶ崎由芽
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END2『想う思いは世界を超え、再会する』

 葉月は風花のいた世界が自身の作り上げた物語の中の世界であり、それを夢で見てそれこそが現実世界だと思いこんでいたことを知った。葉月は風花に最後のお別れの言葉を告げるために夢の世界へと旅立ち、これを最後にしようと決意した。そしてそこで風花に辛いお別れをして、再び現実世界書き途中であった物語を、葉月と風花が幸せに結ばれるエンディングで締めくくり、完全に夢の世界との決別を誓った。それから葉月は現実世界とちゃんと向き合い、生きていくことを決意したのであった。

 ――そしてそれから1週間の時が流れた頃。やはり私の心の中には『風花ふうか』という存在が未だに残ってつっかえていた。私の記憶は相変わらず『夢の世界』となっていた世界の方が優勢で、この『現実の世界』であるはずの世界の方は取り戻せてはおらず、まるで実感がない。私自身まだ夢の世界の方が現実なんじゃないかと錯覚してしまうほど、別世界に取り残された感じだった。そのせいで『風花』のことを思い出してしまい、辛くなって自身を苦しめてしまうという悪循環に陥っていた。ホント、バカげた話だ。『風花』という存在は自分で作り上げたまやかしの存在なのに――


「あれ……?」


 そんなことを考えながら1人寂しく家へと帰ると、家の前に見覚えのある少女が立ち止まっていた。彼女は私を見つけると、目を見開いてこちらへと向かってくる。その目には涙が溜まっているようにも思えた。対する私も彼女同様の、いやそれ以上の衝撃を受けていた。だってそこに存在している彼女の風貌ふうぼうは、私が夢で描いていた『篠崎しのざき風花』そのものなのだもの。長く美しい黒髪に、ちょっと低めの身長、キレイな肌、細い足……服装などはわずかに違っていたものの、彼女はどこからどう見ても風花そのものだった。


「ふーか……? 風花!?」


「ふ、ふー……か? あれ? 樫野かしの葉月はづきちゃん……だよね? 私、深﨑(ふかざき)紫音しおんだよ?」


 私の知っている名前に顔をかしげて不安そうな表情を見せる彼女。だけれど、ちゃんと彼女は私の名前を覚えているようで、フルネームで確認してくれる。


「深﨑……ふかざき……」


 ふーかざき……?


「そっか!」


 その名前を繰り返して発音することで、私は全てを理解した。深﨑紫音――名前の紫音はローマ字で『SION』でそのOとNを入れ替えると『SINO』となってこれを深、つまり『Huka』と入れ替えれば……



Hukazaki Sino→Sinozaki Huka



 となるわけだ。つまり私が夢の世界で作り上げたと思っていた『篠崎風花』はこの彼女『深﨑紫音』のことだったんだ。


「あっ、そっか! 『しーちゃん』だ!」


 その瞬間、私はまるで配線が繋がったかのように全ての記憶が一気に溢れ出してきた。彼女は昔小さい頃に仲の良かった親友。でも、お父さんの仕事の都合で引っ越してしまったんだ。たぶん、しーちゃんと離れ離れになってしまったのが心残りで、私はほとんど無意識の状態で夢の中で『風花』にしーちゃんの役割を与えて、その心の穴を埋めていたんだ。その証拠に、この間に『篠崎家』と思っていった家の表札も、思い出して見れば『深﨑』だったし。


「そうそう! よかったぁー……はーちゃん覚えててくれたんだぁ……」


 安心した様子でホット一息つくしーちゃん。それから私たちは離れ離れだった時を埋めるように、私の家へ招き入れてその間の話で盛り上がっていた。


「――私ね、夢を見てたんだ」


 そんな最中、しーちゃんがそんな何かデジャヴのようなものを感じる事を言ってくる。


「夢?」


「そう、はーちゃんと同じ学校で普通の生活を送っている夢」


「えっ、嘘!?」


 そんな既視感だらけの夢に、私は驚きを隠せなかった。まさかそんなことがあるなんて、思いもしなかった。たぶんきっと、しーちゃんも私と同じような現象が起こっていたんだ。それはおそらく、私のそれとは別の世界だろうけど、その2つの世界で私たちはある意味繋がっていたんだ。


「あっ、やっぱり。その反応ははーちゃんも見てたんだね!」


「う、うん」


「そうだと思ったんだぁー! 「風花」って呼ばれたから、一瞬覚えてないのかなって焦ったんだけど、たぶん夢の世界では私は『風花』って名前だったんだよね?」


「え? まさか、しーちゃんも?」


 その考えにたどり着くということは、もしかすると――と思った。私たちの世界でそんなふうに、名前や人がわずかに変わっているなら、あちらの世界でもありえるのかもしれない。


「うん、私の夢でははーちゃんは『志築しづき夏菜穂かなほ』って名前だったんだー」


「へぇー……じゃあ、もしかして――」


 そこからしーちゃんにさらに詳しい話を聞くと、今回の事件の全貌が見えてきた。やはり私の予想通り、しーちゃんもまた私と同じように夢の世界へと飛び、そしてこの現実世界へ戻ったり、夢の世界でまるでそこが現実世界かのような感覚に陥っていたようなのだ。根本的な原因は不明だけれど、私たちは別々の世界とはいえ、同じような夢を互いに見ていた。遠く離れた土地で、互いを想いながら――



 もしかしたら2人の『会いたい』という気持ちがあまりにも強よすぎて、神様がちょっとしたイタズラをしたのかもしれない。それともあの世界は本当に存在していて、私たちはパラレルワールドのような世界に飛ばされたのかもしれない。でもそんな理屈なんて今はどうでもよくて、しーちゃんとこうして再会できたことが純粋に嬉しかった。もちろん、風花のことを完全に忘れたわけじゃない。風花は本の世界で本の世界の私ときっと幸せに暮らしていると思う。だからさ、現実世界の私も幸せになっていい――?



 その答えはもう残念ながら聞こえないけれど、きっと風花なら『いいよ』って言ってくれると思う。だからさ、私は現実世界の『風花』と幸せになるよ。ありがとう、ふーか。ふーかのおかげで、大切な存在を忘れられないでいられたよ。そして、改めて……




さようなら、ふーか。

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